あらすじ
2055年。わたしたちの町・花井沢町は、あるシェルター技術の開発事故に巻き込まれ、外界から隔離されてしまいました。どこにも行けず、誰もやってこない。遠くない未来、いずれ滅びることが約束された町で、わたしたちは今日も普通に生きています。『BUTTER!!!』『HER』『ドントクライ、ガール』など多彩な作風で知られるヤマシタトモコの最新作!
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Posted by ブクログ
設定は超常的だが、村社会、被災地域へのポジティブな差別、ネガティブな差別などが生々しい。
自警団や裁判機能のうまく機能してない感じもリアル。たまたま有能な指導者が隔離側にいればいい形で組織されるだろうが、そうでなければこういう人間的な、だらけた形になりそう。
面白かった。
まだまだ語られていない物語も多そうで楽しみ。
Posted by ブクログ
生きているものは誰も入れず出られない、見えない壁で囲まれてしまった小さな町が舞台の話。時系列バラバラのオムニバス。
善くも悪くもない普通の人々の優しさと悪意が満ちています。ほとんどの人がモブ顔なのが印象的。
第3号と第6号は特にショック。
田舎の付き合いは陰険で面倒とかいうけれど、ちょっと手癖が悪い人がいたとしてもわざわざ犯人探しなんかしない。犯人も被害者も出ていくわけにはいかないんだから、曖昧にしておいたほうが賢いわけで、村八分なんてされるのは本当に最悪のケースだけです。江戸の長屋だって同じだ。狭い社会で生きていくための知恵がある。しかし、お隣との付き合いが希薄な、都市のど真ん中だった花井沢町の住民にはそれがなかった。第3号のラストで、被害者の少年は初めて、警察も裁判所もないところで人の罪を暴くとどうなるかということに気づく。
そこから学習して小さな民主国家みたいなものができたか、あるいは村社会的な知恵が生まれたかというとそうではなく、吟味されない無秩序な「正義」がまかり通る場所になってしまっていた。数十年後の第6号では、女性が青年にしていたストーカー行為は無視され、親が子を守るための殺人は仕方なかったで済まされる。最後のシーンで青年が泣いているのは、この町への恐怖や違和感そのものと、それを誰とも共感できない寂しさからだと思う。
第2号の女子中学生の話などを見ていると、これは「被災地」のことを言っているのかなと思ったりもしますが、実はピンポイントな世界の話ではなく、花井沢町は日本社会のデフォルメとも受け取れました。
閉鎖的で、物と情報だけは外の世界と行き来できるところ。若者が学ぶこと、働くこと、生きることを大事にできないところ。普段は善人でもない普通の人間が、ひとたび何かあると「悪いことをした人間は攻撃してもいい」と当然のように行動できる残酷さ。そして、この狭い小さな世界には、そこそこ人がいて、そこだけで通じる常識があるということ。自分たちにしかわからない常識だということを、彼らは知らない。
物語では、日本のごく一部分がこうなってしまったということになっているけれど、日本という国そのものがこうなってもおかしくないと思いました。だから恐ろしく感じるんだろう。
それでも本人たちにとってはこれが日常だから、ただただ怖いだけとは思わないし、絶望もしない。1巻だけでもおなかいっぱいだけど、2巻はどんな話が描かれるんだろうか。
隔離された町で
舞台は花井沢という小さな町。 2055年に起きたシェルターや刑務所で使われる事前提で開発されていた生命反応のある有機体を通さないようにする技術を開発している最中の事故によって花井沢は町の外に出ることも中に入ることもできない場所となっていた。 それから15年ほど経ちシェルターの中の人達は外の人たちと連携してなんとか社会生活を送っている。 しかし事故前の世代と後の世代では感覚がだいぶ違う。 前の世代はちゃんと勉強してしっかりした仕事を中でやるべきだというが、後の世代は外の世界に出られるわけではないのでちゃんと勉強しても意味がないし在宅でできるネットのバイトといろんな給付金や慰謝料で暮らしていけると自分の人生に対して冷めている。 そんな中で好きなアイドルが境界線のあたりでライブをすることになりウキウキしながら準備する二人の女の子、警察がいないなか泥棒が頻発し町で捕まえようと発起する町の人たち、在宅のバイトを頑張りそのお金でおしゃれな服を買ってネットの交流を楽しむ青年などが出てくる。 閉塞感あふれるやがて死に絶える町の日常が空恐ろしい話だった。