【感想・ネタバレ】翻訳夜話のレビュー

あらすじ

roll one's eyes は「目をクリクリさせる」か? 意訳か逐語訳か、「僕」と「私」はどうちがう? 翻訳が好きで仕方ないふたりが思いきり語り明かした一冊。「翻訳者にとっていちばんだいじなのは偏見のある愛情」と村上春樹。「召使のようにひたすら主人の声に耳を澄ます」と柴田元幸。村上が翻訳と創作の秘密の関係を明かせば、柴田はその「翻訳的自我」をちらりとのぞかせて、作家と研究者の、言葉をめぐる冒険はつづきます。村上がオースターを訳し、柴田がカーヴァーを訳した「競訳」を併録!

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Posted by ブクログ

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この本のここがオススメ

「とにかく、いくつも、いくつも、いくつも、いくつも翻訳をやるしかないと思うんです。その中で自然に出てきます。それしかないです。頭で自分のスタイルを作らなくちゃと思って考えても、それは無理です。積み重ねの中で出てくるものだから」

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2024年06月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 海外文学を読み始めてまだ日が浅いけれど、このお二人がとてつもない量の仕事をしていることは嫌でもわかる(各々5人くらいいるんではないかと疑ってる)。それほどまでに英米文学の棚には彼らの名が連なっている。柴田氏の訳文は海外文学初心者の私でもスーッと脳に染み込むようで心地よく、みんなにオススメしたい。

 しかし、100%自由に書ける小説と違い、翻訳というのは原作の上に成り立つ。そこにストレスはないのだろうか?翻訳者でもあり、世界中さまざまな言語に翻訳される著書を多数持つ村上春樹氏の翻訳に対する見解は意外なものだったー“多少誤訳があっても、多少事実関係が違ってても、べつにいいじゃない、とまでは言わないけど、もっと大事なものはありますよね。僕は細かい表現レベルのことよりは、もっと大きな物語レベルのものさえ伝わってくれればそれでいいやっていう部分はあります。作品自体に力があれば、多少の誤差は乗り越えていける。それよりは訳されたほうが嬉しいんです。”ー
 
 人称をどう訳すか、he said she said〜みたいなくどい文章をどのように訳すか、過去形と現在形を織り交ぜてリズムを作り出す、などなど、訳文はあらゆる小さなこだわりの積み重ね。あらゆる翻訳は誤訳である、何らかのノイズは忍び込む。そのノイズをいかに取り除き、原文の文学的価値を損なわないようにする、繊細すぎるにもほどがある仕事だということがわかった。
 今からでも翻訳家になりたいなー。そりゃ、ダジャレなんかも理解できないといけないくらい、英語そのものだけでなく現地の文化などへの理解も求められる大変なものだとは思うけど。柴田さんの、芸術方面に興味があるけど事務処理が得意っていうの、すごいわかる(わかるなんて言ったらおこがましいけど)。

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2017年10月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

本作は、作家でありながら、翻訳にも精力的に取り組む村上春樹氏と、東大で長年教鞭をとり現在は名誉教授教授の柴田元幸氏の対談集。
対談は、一つは東大の生徒を前にしたもの。もう一つは翻訳会社のフォーラムにて。

更に、同じ文章を村上氏と柴田氏が翻訳したもの2篇、その原文、またこれらを踏まえて他の(当時の)若手翻訳家たちとの座談会を行った様子も、併せて収録されています。

なお本作は2000年の出版。もう25年も前の話なのですね。

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翻訳の世界。憧れがあります。カッコいいなあって。

でもgoogleで「翻訳 デビュー どうやって」とか「翻訳 英語 収入」とかで見てみると、余りいい話は出てきません。

翻訳学校に行って、卒業後はそこ経由でちいさいお仕事を貰いつつ、出版社らの依頼にきちんと従う、なのに仕事はあまり回ってこない、など。

新参者には厳しい世界であることを感じました(まあ、いい話・おいしい話などの情報の非対称性は、ネットが生き渡る現在はすぐに消散してしまうのでしょうが)。

そこにあってこのタイトル。夜話、ですよ。

昼は平気でうそをつく、というわけではありませんが、夜に話すというのは、やはり本音や打ち明け話ではないでしょうか。ましては宴会ではなく、少人数で語り合う。
きっと、忖度なし、隠し事なしの話が聞けるのだろうと期待が膨らみます。

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で、読んでみると、村上氏がえらく飛ばしているなあ、という印象笑

その翻訳のattitudeですが、これ本当に感覚的に申し上げると、フィーリングの村上氏と、基本メソッド+臨機応変の柴田氏、という印象を受けました。

翻訳をするにあたり、作家への思い入れや、感じるものがあるものを訳したいという村上氏。実際それを行ってお金を稼げているので素晴らしいことです。

他方、職業翻訳家はそうはいかないでしょうし、ある意味依頼が来ても断らない(断れない?)ことは多い気がします。

故にか、場を仕切る柴田氏は、そつなく村上氏をいなし、否定はせずにうまく対話や座談会を回していた気がします。

そういえば、村上作品を英語に訳す米国人翻訳者についても書いてありました。一人はハーバードの先生でかっちり訳す。もう一人は正体不明?の人で味のある訳し方をするとか。で、村上氏はどちらもそれでよい。作品の雰囲気を保ってくれれば細かいことには困らない、という話をしていらっしゃいました。

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さて二大巨頭の訳の競演ですが、”Collectors”(Raymond Carver)と”Auggie Wren’s Christmas Story(Paul Auster)”が選ばれています。

これがなかなか面白い。

スタイルとか味、という観点で行くと、私は断然村上氏の訳が好みです。
なんというか、まとまりというか、すごく型があるように感じて、味わい深い。

他方柴田氏の訳は、正しい翻訳だったり、適切な意訳だったり、二篇とも理解度は村上氏を上回ると感じました。ただ、良くも悪くもクセがない印象でありました。

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因みにAuggie Wren’s~ の翻訳で、ワインを二本ばかり、という訳がありました(偶然にも二人とも全く同じ訳)。

訳を読んだとき、二本ばかりの原語ってなんだろう?って思っていました。原文を見ると a couple of bottles of wineでありました。学校英語だと、a couple of で可算名詞を2つ、というのは習いましたが、訳すときは「ばかり」と付加しているんですね。こうするとぐっとこなれた感じが出ますよね。へー。

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ということで村上氏、柴田氏の対談集+α、でした。

翻訳を行う方々の本音が垣間見えて、面白い本でした。また二人の翻訳の違いがはっきり出てくるこうした訳文公開企画もなかなか面白いと感じました。

やや古いのですが、翻訳の現場がのぞける貴重な作品であると感じました。

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2025年05月22日

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