あらすじ
『純粋理性批判』の精緻な実現を記す『実践理性批判』。「義務論」を念頭に本書を読み解けば、作品とその思想について新たな姿が見えてくる。現在日本のカント研究を牽引する第一人者による最上の入門書。
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Posted by ブクログ
『実践理性批判』の内容を、カント自身の議論の展開にそくしてていねいに読み説いている解説書です。
カント倫理学といえば、義務倫理学の代表的な思想として知られており、多くの倫理学の入門書にその解説があります。しかし著者は、「カント倫理学を義務論として理解することに誤りがあるわけではありませんが、どのような意味でカント倫理学が義務論なのかという説明が不十分なのです」といい、「理解されるべきなのは、カントの用いる「義務」とはどのような概念であり、その「義務」づけの構造がどのようになっているのかということです」と述べています。こうした問題意識にもとづいて、本書ではカント自身の議論をたどることで、その内容に立ち入って検討をくわえ、カントの真意を読み説く試みがなされています。
『純粋理性批判』では、理性の思弁的な使用において経験の領野を離れて用いられるために、われわれがアンティノミーに陥ってしまうことが明らかにされました。カントはこうした純粋(理論)理性の機能と意義を、理性の自己吟味というかたちで示しました。これに対して『実践理性批判』でおこなわれるのは、純粋実践理性の批判ではありません。実践理性のうちに、われわれの意志を経験的に条件づけられることなく規定することのできる純粋実践理性を見いだし、それによってわれわれの道徳的行為の自由を基礎づけることがカントのねらいでした。
本書は、こうしたカントの意図を明確にしたうえで、普遍的な道徳性の原理を提示した『道徳形而上学の基礎づけ』との関係にも触れながら、その議論の道筋をたどっています。
本書とおなじ「シリーズ世界の思想」から刊行された『カント純粋理性批判』(2020年、KADOKAWA)以上に、原著にそくした解説が徹底されているような印象を受けました。