あらすじ
失敗に終わったマルクス主義を追うのではなく、『共産党宣言』の結論を裏付ける書物としてとらえるのでもなく、21世紀の現代社会を読み解くために必要な、マルクスの理論を理解する入門書の決定版。
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Posted by ブクログ
『資本論』第三巻で論じられている内容を、マルクス自身が書きのこした草稿にもとづいて、その真意を解説している本です。
マルクスの死後、『資本論』第二部および第三部にかんする草稿はエンゲルスの手によってまとめられ刊行されることになりましたが、現代のマルクス草稿研究はマルクス自身の考えていた内容をくわしく解き明かしつつあります。本書では、そうした研究成果をもとにして、マルクスの考えていたことにせまろうとしています。
そのさいに著者が注目するのは、「形態化」とマルクス独自の「均衡」の概念です。すでに『資本論』第一部でマルクスは、資本主義の本質がわれわれの目からかくされてしまう物象化のメカニズムを明らかにしていました。第三部では、資本主義の本質が、どのような「形態化」を経て、われわれの目にとらえられるような現象となるのかということが解明されます。
またマルクスは、需要と供給の一致による価格決定のメカニズムにかんする議論が、価値法則という資本主義の本質的な側面から離れてしまっているとみなし、社会的総労働の均衡的配分の現象形態として、需要と供給の一致をとらえなおそうとしていました。マルクスの「均衡」の概念は、直接的に価格を調整する働きをもつものではなく、あくまで資本主義のもとでの生産様式にもとづいて考えられています。
資本主義の本質的なメカニズムとその現象形態を区別するという、マルクス経済学の基本的な枠組みにもとづいて、このような説明のしかたがなされていることはわかるのですが、本質とされるものが形而上学的な実体とみなされてしまうのではないかという点に疑問をおぼえます。わたくし自身のマルクス経済学にかんする知識が乏しいせいでもあるのですが、本書におけるマルクス独自の「均衡」の概念についての解説は、かなり難解に感じました。