あらすじ
貧乏の鎖は、俺で最後にしろ。
二年前、都内団地の一室で自殺に偽装して殺害された沖縄県宮古島出身の非正規労働者・仲野定文。警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一は、仲野が勤務していた三重県亀山市、岐阜県美濃加茂市を訪れる。そこで田川が目にしたのは国際競争に取り残され、島国で独自の進化を遂げる国内主要産業の憂うべく実態だった。仲野は、過酷な労働環境のなかでも常に明るく、ふさぎがちな仲間を励ましていたという。田川は仲野殺害の背景に、コスト削減に走り非正規の人材を部品扱いする大企業と人材派遣会社の欺瞞があることに気づく。
これは、本当にフィクションなのか?
落涙必至! 警察小説史上、最も残酷で哀しい殺人動機が明かされる。
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所謂「就職氷河期」というような頃に社会に出た人達の中に見受けられる、過酷な情況と、その過酷さが拡がり深まるような様、そういう様子に翻弄される人達という様に、田川刑事達は出遭ってしまうことになる。「非道?」というやり方まで出て来る。本当に「何時の間にかそういうことになってしまった?」という様子である。
捜査活動中に耳目に触れた事柄は、殆ど悉く手帳に書き記し、ドンドン分厚くなってしまう手帳の頁を繰りながら考えるという流儀で、田川刑事は丁寧に事件を、そして仲野定文の来し方を探る。そして話しの発端に関わった木幡刑事も活動に参加し、仲野定文の身に何が起こったのかを探って行くことになる。そして家電や自動車というような、日本をリードして来たような業種が何処か「ガラパゴス」な様相を呈し、労働慣行も何やら「ガラパゴス」になってしまい、安心して心豊かに暮らすことが叶う人が少なくなって行くというような様相も見受けられる様が作中世界に展開する。これは凄く考えさせられた。
丁寧に謎が解かれる刑事モノであるが、同時に「何時の間にかこういうことに?」を提示するような感じの作品だ。広く御薦めしたい。
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「震える牛」の続く社会派ミステリー。
今回も引き込まれたました。タイトルの意味、ガラパゴス化はガラ携の世界に限ったことでなく日本の社会全体に及んでいるとの警告です。
派遣労働者の劣悪な環境と搾取される様が描かれ後半、案の定政治家のお出まし…。そして今度は元署長って…。なかなか正義は通らないで、本当の黒幕には手が届かずじまい。社会の闇とそれを暴こうとする人、そしてそれを阻止する人達の思惑が交錯します。
そんなエピローグですが、主人公の個性も映え、素晴らしい仕上がりでした。
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「一万円選書」第6冊目!
6冊目にして、やっと自分の好みの作品と出会えた。感謝。
WOWOWドラマWで以前見た『震える牛』の原作者による続編が本書。続編といっても、主人公が同じだけで、内容は全くの別物だ。
ドラマW版『震える牛』は映像だったせいもあり、あまり自分の好みではなかったが、本書『ガラパゴス』は全く逆。あまり上下巻ものはダラダラしていて好きではないが、あまりの面白さに長さを感じず、いっきに読んでしまった。
いろいろな登場人物にスポットを当て、ストーリーが進んでいく点で、池井戸潤『空飛ぶタイヤ』に似ている感じ。『空飛ぶタイヤ』が好きならば、きっと気に入ると思う。
また、きっとこの作品も、近々間違いなく「WOWOW連続ドラマW」で映像化されると思われる。
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派遣労働者の実態、そして液晶ディスプレイやハイブリッドカーなど日本の製造業が直面した問題をミステリーとうまく絡めて読み応えのある作品だった。
「震える牛」でもそうだっだけど、ストーリー展開上に現代社会・企業の問題を織り込みつつもそれぞれの登場人物が丁寧に描写されているのでヒューマンドラマとしても没入しやすく、直ぐにのめり込めた。
扱われている問題についても、色々と改めて考えさせられるコトが多かったかと。。。
特に派遣労働については記事等で読んだりして厳しい実情って程度の理解は持っていたものの、残念ながら実態に直面する機会がなかったので実感が湧いてなかったってのが現実。リアリティの有無はともかく、本作の被害者となる人物の生い立ちやその背景を通じて、やっと記事に書かれてた内容を生々しく感じ取るコトができた。
タイトルにもなっているガラパゴス化した産業面には明らかにモデルケースが存在しているが、ストーリーの主軸となる事件や被害者そのものは完全にフィクションであると信じておくコトにしよう。。。
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激しい衝撃を覚えた。
日本の有名な企業が、なぜ不正事件が頻繁に起こるのか?
パート、派遣、請負労働など、想像もしない速さと深さで
日本に潜入している。実に、2000万人を超えるという。
正社員になることも、難しい時代に。
そして、それに漬け込んだ悪辣な仕組み。
不正を隠蔽しようとする体質。
あぁ。日本よ。豊かささえも 偽装だったのだ。
ぐいぐい迫って行くが、残念ながら、
本当の悪までは、罰せないのだ。
震える牛も凄かったですが、こちらも凄かったです。語彙と表現力が足りないので、この衝撃をうまく文章に出来ないのが歯がゆいです。
自分の知識がニュースで何となく知った気になっていただけだった事がよく分かりました。
今、仕事があって健康保険を使えて住む所がある事の有り難みをすごく感じました。
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派遣労働者とリコールの闇。
命の重さ、人の価値を田川警部補がピースを嵌め込んでいくごとに考えさせられる。
現代版蟹工船とあったが、そもそも蟹工船を知らない私。
今回も田川さんの人柄に引き込まれたし、田川さんは好きだけど警察嫌いになりそう…そんな作品でした。
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上巻からの続きだが、1冊にまとめられても良いのではないかと感じた。
田川刑事が事件を追い込んでいく。鳥居と森が隠そうとする。「新城 も 780816」というメモの存在は何を意味するのか、と考えるとより楽しめる一冊だ。
仲野を殺害した犯人の動機を考えると、最近の闇バイト事件を想起させられた。
そして真実が見えてきたとき、なんともやるせなさを感じた。そして真の犯人は・・・トカゲの尻尾切り。
派遣労働者から正社員となった清村、長内の結末、そして森の秘書の高見沢の企みはどうなっていくのかも面白い。
三重県シャープ液晶の亀山工場、岐阜県ソニー美濃加茂市工場、ハイブリッドカーのトヨタ、政治と金の社会問題を模していて身近な問題に感じさせられる。ガラパゴスとは、国際競走で取り残され、島国日本で独自の進化をした事を表しているようだ。そして、その行く末えの描写が、まるで相場さん自身が告発しているかのように感じた。田川が森のところに乗り込んだ最後の場面が特にそれを象徴しているように感じた。
一人あたりの所得が低い宮古島出身の被害者仲野もガラパゴスの象徴のように思える。経済ジャーナリスト出身の相場英雄さんらしい構成が興味深い作品だった。
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やや冗長だったなという印象。特に派遣労働者の実態、ハイブリッド車に関するくだり、事件の根幹に関わっているので分からなくはないが、そこまで執拗に書く必要が…?と思ってしまった。後半で実行犯から犯行時の自白を引き出すあたりは臨場感があって良かった。
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2023.05.25
この本が書かれた以降も非正規と正規の格差が広がるばかりでなく、働く人はカネもココロも失い続けている。今、この続編が描かれたらもっと救いがなくなるし、もっと若者や女性を登場させないと2023年の世相を描けないだろうな。
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自殺に偽装して殺害された非正規労働者・仲野定文が良い人すぎて、悲しくて、やりきれない。
主人公の警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一は、言うまでもなく魅力的だが、アナリストの小島が良かった!
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2〜3日ほどで読み終えた。以前読んだ震える牛に続いてこちらも現代社会の闇が見える作品だった。田川の地道な地取り、鑑取りがとても面白い。少しずつ繋がっていくから先が気になって気になって。派遣労働ってこういうもの?
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上・下巻を読み
この作品、ノンフィクション?と思ってしまう。
それほどの衝撃を受けた。
上巻の巻末で田川が呟いた言葉
「狂ってる・・・」
下巻では、事件の真相が徐々に明らかになっていく。
P286
〈仲野が自分の命を賭してまで、日本の歪みきった社会を告発した〉
事件は解決しても、スッキリとしない。
エピローグを読み、虚しくて哀しくて。
小説の中の話と思いたくなる。
でも、すぐ隣で苦しむ人がいるのも現実。
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継続捜査班・田川刑事の地取り、鑑取りが全国展開で進み、点が線になっていく過程を楽しめた。鳥居刑事の過去の生い立ち、派遣労働者が直面する劣悪で陰湿な労働環境、そしてガラパゴス化して国際競争力を失った日本の自動車産業のマイナス面が生んだ犯罪という構図が分かりやすく配置されている。最後は政治的な圧力による、田川にとって不本意な幕切れ。さて、彼が人材派遣会社・森社長に突き付けた落とし前はどうなる? まあ続編になるようなことはないんだろうな……
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田川によって身元不明死体から、殺人の被害者として見出された903、仲野定文は、宮古島の模合から借金して九州の高専を卒業した優秀なエンジニアだったが、推薦された就職先ソラー電子を親友に譲るために面接を欠席した為、指導教師の反感を買い、就職できなかった。
派遣労働者として、過酷な労働条件の下、地方の工場を転々としながらも、周辺の人物には優しい人柄で慕われていた。トクダモーターズの部品工場で働いていたときに車体鋼板が安全性を欠くほど薄いことに気づき、ネット上で告発しようとした矢先、殺されたのだった。
ハンドルネームはガラパゴスの住人。ガラパゴスとは。島国日本では優れた製品として知られるが、国際的な競争力がなく、やがて廃れていく運命の産業のこと。
ガラケー、液晶パネル、ハイブリッド車がここでは挙げられる。
トクダを重要顧客とする人材会社パーソネルズの森、高見沢は、森の後輩で警視庁勤務の鳥居のアドバイスを受け、正社員の身分を欲する派遣労働者、清村、長内を実行犯として仲野を殺害したのだった。
地道な捜査で全貌を暴いた田川だが、政治家がらみによる警察上層部の判断により、トクダモーターズ社長、パーソネルズ社長の逮捕は見送られた。
田川の地道な調査から、派遣労働者の過酷な労働環境やガラパゴス化する日本産業の姿がよくわかった。
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上巻と同様、いやそれ以上に過酷な派遣の現実と、そこから正社員になっても結局上役の顔色を伺い続け、気が休まることのない悲惨さを描き出す。
一番印象的なのは、作中の飲食店での田川と小島のやり取り。
自社利益のためのコスト削減と規制緩和が行き過ぎた結果、派遣やアルバイトにしわ寄せが行き、騒ぎになってからやっと重い腰を上げる。
某飲食チェーン店やコンビニ業界が典型例だが、利便さを求めすぎる顧客側にも問題はあるのだろうな。
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前作に続き田川さんの地道な捜査が最高でした。労働者側と一定の地位を持った側双方ともあると思うと本当に恐ろしい。
どうでもいい話として、いくつかの刑事小説で事件が起こると験担ぎで長いものは食べないと見たが、三重でミソ焼き。岩手でカレー南蛮と田川さんはきにしない。それが田川さん。
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ガラパゴス化した日本の実情を鋭く抉る社会派ミステリー。
あの企業やその企業の実例を交え、固有名詞を読み替えればほぼノンフィクション。すべてそぎ落として新書で刊行したら面白いんだろうなぁ。
国や会社は守ってくれない...。弱者から搾取することしかない悲しい現実がここにある。
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震える牛があまりにも面白かったため、続けて拝読。
テーマは派遣労働者とエコカー問題。
派遣労働者を物として扱う企業の姿勢を強調しており、少し過激な内容。
「人間は置かれた環境と歳月で激変する」
同感。
Posted by ブクログ
読んでいる最中も読み終わった今もやり切れなさでいっぱいです。帯に『これは、本当にフィクションなのか?』とあるが『震える牛』にしろ『ガラパゴス』にしろ事実に基づく何かがあるからこその物語であると思う。安穏と生きている自分には計り知れない雲の上に駆け引きとかもくろみとかが現実にもあるんだろうなとも思う。
Posted by ブクログ
下巻では、事件の真相が次々と点と線が繋がって、企業体質とそこで働く、非正規労働者の問題がクローズアップされていく。
単なる殺人事件としての推理本に留まらず、現在の社会問題に一矢報いることは「震える牛」との共通点かな・・・
憎らしくも切なくなる小説でした。
Posted by ブクログ
二年前、都内団地の一室で自殺に偽装して殺害された沖縄県宮古島出身の非正規労働者・仲野定文。警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一は、仲野が勤務していた三重県亀山市、岐阜県美濃加茂市を訪れる。そこで田川が目にしたのは、国際競争に取り残され、島国で独自の進化を遂げる国内主要産業の実態だった。仲野は、過酷な労働環境の中でも常に明るく、ふさぎがちな仲間を励ましていたという。田川は仲野殺害の背景に、非正規の人材を部品扱いする大企業と人材派遣会社の欺瞞があることに気づく。現代日本の不都合な真実を暴き出す危険きわまりないミステリー!
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前回の震える牛同様
田川さんの地取りの過程にワクワクする
それにしても日本の労働環境は本当にこんななのだろうか...
派遣/契約社員が問題視されていたけど全く深く考えていなかった...
勉強してみよう
Posted by ブクログ
前半は「日本の産業構造の黒い真実に迫る」みたいなノリだったのに…ふたを開けてみれば弱者を踏みにじって覇権を狙う大会社の経営者達のわかりやすい悪だくみに、実直な末端労働者が犠牲になったという、なんとも矮小化された顛末だった。しかも悪役たちの「俺たち悪者だぜ」ってような稚拙な人物描写もこの作品を安っぽいエンタメ小説に貶めてしまってる。
あとしょうもないことですが、自動車産業が描かれる作品からか、事件当事者以外のメーカー名・車名も当初架空のものでそろえられていたのに、終盤になって「セドリック」「スバル・レガシィ」という実在の車名が登場したのはなぜでしょうか。
それだったら前半から(事件に関するもの以外は)実在の名前を使ってた方がリアリティを演出できたのに… なんかモヤっとした。
まあ自分の正義を貫く手練れの刑事が黒幕たちを追い詰めていく勧善懲悪ストーリーは読んでて気持ちいいし、キーマンの一人である悪徳刑事のキャラづくりなんかもいいスパイスになってる。それなりに見どころはあります。
Posted by ブクログ
いわた選書5・6冊目
何でこの本を選んでくれたんだろう?と毎回考えている
加害者にも背景があります系のストーリーはやっぱりしんどい(実世界だとそういうことが多いだろうけど)
田川は清村のことを自己中心的だと責めていたけど、どうして責められるんだろうと思ってしまった。私は同情してしまう、、、、
スキャンダルを暴いても大企業がひっくり返ることはないんだなあ、恐ろしい
Posted by ブクログ
重たいが、しっかり考えさせられる小説。非正規社員の闇に焦点を合わせ、事件との関連性を丹念に繋いでいく刑事の執念。
社会派小説としては、よくできていると感じた。願わくば、最後の最後にもう一波乱、何とか大物を引っ張り出すところまで描いて欲しかった。
Posted by ブクログ
ある身元不明の自殺者を調べていたら 実は殺人事件だった。
そして その事件の背景には
今の日本の ブラックな 部分があったという内容でした。
はじめの方は 有名な電気・自動車 メーカーをもじった 名前が 出てきて
わかりやすいような わかりにくいような 感じでした。
読んでいくと まさか あの会社がこんな 悪劣な状況で 人を雇ってるわけないよね~~ って
本気で心配したくなるような 内容でした。
フィクションとは いえ、、、、
ノンフィクションのように 描かれているのが 凄いですね~~~
上下でしたが 長さを気にせず読めた本でした。
Posted by ブクログ
前作『震える牛』での社会派ミステリての圧倒的な存在感が印象に残っており、メモ魔、田川刑事シリーズ二作目を手に取る。
日本を支える一大産業、自動車産業、そしてその効率・生産性を支えた人材業界の薄暗い闇を描く作品。
身元不明者で、自殺と処理されていたとある遺体。
田川の鋭い観察眼により、他殺であったと判明する。
殺されたのは誰なのか。
なぜ殺されたのか。
どうやって殺されたのか。
ひとつひとつの謎を解きほぐしていくうちに、みえてきたのは巨大企業の歪み、そして闇。。
田川刑事の捜査は見応えがありました。ただ、動機はなんとなく腑に落ちなかったかな。。悲しい結末には、現代社会の暗闇がありました。