あらすじ
大ベストセラー『震える牛』ふたたび!
警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一は、メモ魔の窓際刑事。同期の木幡祐司に依頼され、身元不明相談室に所蔵されている死者のリストに目を通すうち、自殺として処理された案件を他殺と看破する。不明者リスト902の男の発見現場である都内竹の塚の団地を訪れた田川と木幡は、室内の浴槽と受け皿のわずかな隙間から『新城 も』『780816』と書かれたメモを発見する。田川が行った入念な聞き込みにより者不明者リスト902の男は沖縄県宮古島出身の派遣労働者・仲野定文と判明した。田川は、仲野の遺骨を届け、犯人逮捕の手掛かりを得るため、宮古島に飛ぶ。仲野は福岡の高専を優秀な成績で卒業しながら派遣労働者となり、日本中を転々としていた……。
現代の生き地獄を暴露する危険きわまりない長編ミステリー!
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Posted by ブクログ
『ガラパゴス』というのは少し不思議な語感の題名かもしれない。
ガラパゴス諸島―「ゾウガメの島々」という意味らしい…―という南米の東太平洋上の島嶼が在って、大陸と陸続きになった歴史を持たず、島々の生物は飛来したか海を渡って漂着したものの子孫に限られ、他では見受けられない固有種になっている様子が多く見られるのだという。但し、主に19世紀頃から多くの人々が入り、外来の生物も持ち込まれ、様子が変わってしまったということも在るようだ。
このガラパゴス諸島の名から転じて「ガラパゴス」という言い方が在る。周囲から隔絶した環境の中で独自に進化しているかのように、様々な国や地域での基準を外れてしまったような状態に在るという意味で用いられるようになった。主に日本の様子を、少し揶揄的な意味を込めて言う場合に使うのかもしれない。独自の方向で高機能化した製品やサービス、海外進出への消極的な捉え方、排他的で規制の多いマーケット等が、国際基準から離れた状態で進化してしまっているという観方だ。
本作の『ガラパゴス』は、この「日本の様子」に関する言い方から来ている。
基本的には刑事達が事件の謎を解明する物語だが、色々と考えさせられる内容が含まれている。
身元不明遺体のファイル番号「903」は、自殺と見受けられるという処理になっているが、写真を視てみれば「毒殺?」という特徴が在った。調べなければなるまいと田川刑事達が動き始める。
「903」に「仲野定文」という氏名が与えられた時、その男の身に何が在ったのかを探す動きが始まる。
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相場英雄『ガラパゴス 上』小学館文庫。
あの社会派ミステリーの傑作『震える牛』に続く、シリーズ第2作。
今回、取り上げられるテーマは『雇用』である。タイトルの『ガラパゴス』と『雇用』とがどう結び付いていくのか、この先が興味深い。また、埋もれた他殺事件の背後に見え隠れする大企業と急成長した人材派遣企業、悪徳刑事の姿……こちらはさらに気になる。
切れ者であるが故に窓際に追いやられた警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一は同期の木幡祐司の依頼で不明者リストに目を通すうちに自殺処理した案件が他殺だと看破する……
作中に登場する自動車メーカーや電機メーカーはあそこだろうなと容易に連想出来る。今や多くのメーカーは固定費である社員を極限まで削り、変動費という形で派遣や請負社員を雇うことで生産や利益の調整を行っている。企業存続のために海外企業に事業を売却したり、工場閉鎖を行うメーカーも多い。もはや労働者にとって雇用はおろか最低限の生活が出来る保証はなくなったのだ。政府が失業率を下げるという数字だけの馬鹿なまやかしを行った結果なのだろう。
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震える牛が面白かったので田川警部補シリーズを…と読み始めたが、やっぱり面白い。
地道な地取りでピースをかき集め中。
今回もいろんなところに伏線あり。
下巻へ急ぐ。
Posted by ブクログ
良く作りこまれてまあまあ面白いです。
事件、そして社会構造の犠牲者達へ寄り添う愚直な主人公刑事の姿勢も気持ちいです。
出張先での地元民との交流や地元グルメへ舌鼓を打つシーンはほのぼのします。
ただ、自動車産業の真実・労働市場の闇、みたいなのをあまりに悪意を持って誇張しすぎてるのが鼻につく。社会派リアリズムを気取ったような作品なので、このエンタメのためのご都合主義的なアンバランスさが若干興ざめ。
Posted by ブクログ
織田裕二主演でドラマ化されており、なかなかテンポ良く面白かったため、原作も読んでみた。
ドラマと原作とでは、ずいぶんと内容は異なるものの、それぞれのよさがあった。
本作は、現代版蟹工船。派遣労働者とは、正社員とは、現代社会をテーマにしており、今の世の中に対するアンチテーゼのような内容に、考えさせられる作品。
上下巻で大変ボリューミーな圧巻の作品である。
Posted by ブクログ
ドラマを視聴し、心情など再確認したくて原作を手に。
読み終えて、思った以上にドンと胸に響く。
請負、派遣労働者は部品以下。
P197
〈企業にとって人材派遣は社会保険など固定費のかからない都合の良い調整弁です〉
急ぎ下巻へ。
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久しぶりに推理小説(警察小説)を読んだ。相場英雄氏の著書を読むのは2回目で、「震える牛」を読んだことがある。いわゆる社会派、現代社会の裏の部分のやるせなさを炙り出す。
本書は軽く読めるが、テーマは重い。日本で非正規雇用者が増えて、低賃金で働くことを余儀なくされるその人たちの生活がひっ迫しているということが根本にある。
ある非正規雇用者が自殺に見せかけて殺されていたことが分かった。彼はどうして殺されたのか。日本の組織や企業の闇の存在がある。弱い立場の人間は、もみ消されてなかったことにされる。
「そんなことあるかな?」と疑問に思う設定もいくつかあったが、最後まで楽しく読めた。警察小説は、最後に容疑者を刑事が追い詰めていくところが大好きだ。
馴染みが無い沖縄宮古島の風景が小説内に出てきて、インターネットで見てみたら本当にきれいな場所で、いつかぜひ行ってみたいと思った。
Posted by ブクログ
企業の雇用、賃金、非正規労働ってなんなんだろうと考えさせられる。企業も生き残りに必死ではあるが、働く人が落ち着いて生きていける賃金を安定的に得られる社会であって欲しいと強く思った。
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『震える牛』の次に選んだ著者の作品。鑑識課の身元不明者解消ノルマに付き合わされることになった田川刑事。しかし、自殺扱いだったホトケに他殺の痕跡を発見し、再捜査に着手したことから、派遣労働者の過酷な運命が露わにされていく。同時に、SITで業務上過失致死傷を扱う鳥居刑事と、派遣ビジネス、ハイブリッド車製造にまつわる黒い霧のストーリーが進む。本書を読むと、日本標準の製品開発は自動車に限らず、世界標準から見るとガラパゴス化が進んでいるのを実感できる。続きが気になる展開。下巻へ進むぞ!
Posted by ブクログ
1 この相場氏の著書は、震える牛(食品偽装問題がテーマ)に続く作品です。ガラパゴスとは、南米エクアドルの沖合にある島々です。題名のガラパゴスは、日本の製造業が国際標準からかけ離れ、競争力を失っている状態を揶揄した言葉です。
2 相場氏は、「デフォルト」でダイヤモンド経済小説大賞を受賞。その後の「震える牛」は、ベストセラーになりました。
本書は、主人公の田川刑事が活躍するサスペンス小説です。勿論、警察小説として、迫力があります。また、派遣労働者と正社員との処遇格差を赤裸々に訴えた労働問題小説の一面もあります。
この「ガラパゴス上」は、田川刑事が、派遣労働者の自殺事件を他殺と判断し、被害者の特定と周辺を洗い出していく物語です。
3 私が、書中で心に留めた事を私見を加えて、3点書きます。
(1)「他社の幹部達は、社員は家族などと甘い考えを平気で垂れ流していたが、松崎(トクダモーターズ社長)は、こうした情緒的な気分を社内から徹底的に排除する事に努めた」 ●私見⇒過去に欧米の人事がもてはやされ、信賞必罰の成果主義を取り入れた企業が多々ありました。結果は失敗したケースが多く、家族主義的雇用制度に戻したそうです。日本の風土(年功序列等)を充分考えた対応が必要です。関係者の意見をよく聞いて、時間をかけるテーマです。
(2)「従業員の個人的な時間や性格などは、はなから経営陣の眼中にはありません。洗脳して、ロボットにしてしまえば、後は企業の好き放題です」 ●私見⇒こんなに極端かつ資質に欠ける経営者がいるとは思えません。経営陣のレベルの低さは救い様がありません。熟慮して、退職した方がよいかも?
(3)「我々(請負・派遣労働者)は部品や備品と同じ扱いで、外注加工費としてカウントされている。我々は部品以下の扱いでした。正社員に、“お前はクズだ、ゴミだ”と罵倒され、耐えてきました」 ●私見⇒迫真を狙った、やや誇張表現です。私が勤めた会社にも、非正規社員が多くいました。職場での差別的な扱いはありませんでした。処遇差はあったと思います。しかし、社員登用制度があり、正社員になった人も多いいました。
4 まとめ:
ガラパゴス上では、警察小説として、自殺を他殺と断定し、犯人を追い込んでいきます。そのプロセスの中で、日本社会の暗部を掘り起こし、読者に問題提起します。
日本企業の発展の背後には、労働環境の二重構造(正社員✖️非正規社員)があります。私達は、よくスポーツなどで、“勝ち組、負け組”と口にする時があります。しかし、生活面では、区別の無い社会が良いですね‼️
Posted by ブクログ
震える牛に続いて面白い。
今回は身元不明遺体から自動車業界と派遣労働者にスポットを当て、前作同様「力を持つ側」の欺瞞を描く。
この作品が書かれてから5年弱が経ったものの、依然として厳しい状況は変わらないだろう。
規制も進んで以前ほどの無法地帯よりはマシになったと聞くが、それでも不安定なことに変わりはない。
今年のようにコロナで業績が悪化してしまうと、真っ先に切られてしまい、首が回らなくなってしまう。
SNSで犬探しの情報はどんどん集まるのに、何百人分もある身元不明者の情報が全く集まらない歪さへの指摘が興味深い。
各警察署で身元不明者の写真、情報が公開されているが、果たしてどの程度情報が集まってくるのだろうか。
Posted by ブクログ
震える牛があまりにも面白かったため、続けて拝読。
テーマは派遣労働者とエコカー問題。
派遣労働者を物として扱う企業の姿勢を強調しており、少し過激な内容。
「人間は置かれた環境と歳月で激変する」
同感。
Posted by ブクログ
警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一は、メモ魔の窓際刑事。同期の木幡祐治に依頼され、身元不明相談室に所蔵されている死者のリストに目を通すうち、自殺とされたナンバー903の男が他殺だったことを看破する。二年前に死体が発見された都内竹の塚団地を訪れた田川と木幡は、室内の浴槽と受け皿のわずかな隙間から『新城も』『780816』と書かれたメモを発見。903の男は、沖縄県宮古島出身の派遣労働者・仲野定文と判明した。仲野は福岡の高専を優秀な成績で卒業しながら派遣労働者となり、日本中を転々としていた…。
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ストーリーの背景が少し前という感じがして新鮮さは無かったが、確かに社会や経済の問題として大きな議論があった。
この時期より少し経済が持ち直してきているが、まだまだ雇用形態が派遣という事で思い悩んでいる人々がいると考えると暗い気持ちになる。
下巻には明るい結末があるとは思えないが読まずにはいられない。
ストーリー展開が巧みだと思う。
Posted by ブクログ
食肉偽装問題が題材の前作「震える牛」から四年。51歳の田川刑事が挑むのは派遣労働者偽装殺人の陰に潜む大企業のリコール隠し。そして、捜査の前に立ち塞がるのはSITの鳥居警部補。大企業や人材派遣会社と癒着し、隠蔽工作に奔走する彼にも暗い過去が―。真っ向から正義を貫く田川と黒い執念を燃やす鳥居、熾烈な攻防戦の序曲に胸が高まるが、所謂【氷河期世代】に属する自分は、作中で語られる派遣労働者達の劣悪な雇用環境に心が痛む。コスト削減の名の下に【部品】扱いされる彼らの苦しみを他人事とは到底思えない。息苦しさと共に下巻へ。
Posted by ブクログ
相場英雄さんというと、社会派ミステリーを想起させられるが、ガラパゴスという題名が何を物語るのか、興味が湧いてくる。
派遣労働の闇、自動車整備工場の黒い側面を通じて、警視庁捜査一課継続捜査班・田川刑事が過去の事故として処理された案件を相棒で鑑識課の木幡とあぶり出す。
現在の日本経済の低迷は、社会システムの老朽化によるものだと思う。そういった意味で「ガラパゴス」という題名なのだろうか、田川が使っているのがガラケーだからだろうか。
ある生い立ちを背景にもつ名古屋弁の鳥居刑事は、元上司の森と何を考えどう動くのかもポイントになる。
背景に政治と金がついて回るミステリーだ。最後に派遣労働の闇を提起して上巻は終わった。
Posted by ブクログ
田川信一 警視庁捜査一課継続捜査班
木幡祐治 鑑識課身元不明相談室、田川の同期
矢島達夫 警視庁特命捜査対策室理事官
鳥居勝 警視庁特殊犯捜査係業務上過失致死担当
根来正一郎 城東美容外科クリニック
田川里美 田川の妻
梢 田川の娘、新潟で初孫を出産
松崎直樹 トクダモーターズ社長
佐藤亜由美 日本実業新聞記者
小松幸彦 トクダモーターズ研究開発役員
原野 トクダモーターズ総務部長
近藤正 竹の塚の団地の自治会長
森喜一 総合人材サービス会社を起業、鳥居と同郷
パーソネルズ社長
野村 竹の塚署地域課
903 竹の塚団地で自殺とされた身元不明死体
西 沖縄伊是名島出身、竹の塚の居酒屋店主
川満歩 沖縄県警宮古島署刑事課
高橋修三 元警視庁捜査一課長、元新宿署署長
小島孝夫 証券会社ファンドマネージャー
仲野定文 903、34歳、優しい人柄、優秀
三浦光輝 鳥居の後輩、鑑識係
宮国教諭 伊良部島在住、定文は教え子
高見沢紅美 森の秘書兼愛人、元銀座の女
有吉宏二郎 仲野の高専の親友、ソラー電子社員
浜田丈吉 国会議員、高見沢の元パトロン
木口 田川の近所の精肉店店主
工藤 長らく派遣、木口の紹介で正社員に
辻良平 系列の派遣会社東海営業所所長
宮崎晴夫 仲野と働いていた派遣労働者
脇田朱美 仲野と働いていた派遣労働者
清村 派遣労働者からパーソネルズ正社員に
三村警部補 鳥居の5期上の先輩、生活安全課
久保警部 鳥居の3期上の先輩、岩手組対4課
武田 トクダ車体人事課長
若宮 工業高校の教師、学生時代の清村を知る
コバヤシ ブラジルショップ店主
長内保 ソラー工場の派遣労働者で仲野の友人
後藤 鑑識課の若手
吉岡達雄 ベルン証券アナリスト、自動車界出身
野田公二郎 ベルン証券自動車部品アナリスト
宮城島拓真 会計士、車体780816を所有していた
堀合圭介 岩手県警
高田 警部、監察
稲垣圭祐 弁護士、元東京地検特捜部検事
高橋 新宿署の元署長、元捜査一課長
Posted by ブクログ
とある事件からストーリーが企業の人材派遣労働者への非人道的な問題へと発展。
刑事ものかとおもいきや、前作「震える牛」を彷彿とさせる。
後篇の展開に期待!