【感想・ネタバレ】国家 下のレビュー

あらすじ

ソクラテスは国家の名において処刑された。それを契機としてプラトンは、師が説きつづけた正義の徳の実現には人間の魂の在り方だけでなく、国家そのものを原理的に問わねばならぬと考えるに至る。この課題の追求の末に提示されるのが、本書の中心テーゼをなすあの哲人統治の思想に他ならなかった。プラトン対話篇中の最高峰。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

上巻とまとめての感想。流石、古典中の古典と言うに相応しい。解説にある様に、国家(ポリティアー)と言うよりは正義論と言うべきか。
ダイアローグで記載されるのでまだるっこしい所もあるが、これはプラトンの思考の過程を追っている様なものだと解釈している。トラシュマコスの正義批判も、必ずしも現実にあったこととは限らず、自分の思考を批判的に分析した上での自作自演的な言説なのかも。それとも、前半はプラトン自身の遍歴やアカデミア設立前で、沢山話し相手がいた時のものとか。いずれにせよ、後半はグラウコンたちも、おっしゃる通りです、しか言わないので、もうダイアローグでなくて良いのでは、と思ってしまうが。

プラトンは正義と善を一つのものと見なしたかったのであろう。だがソクラテスが冤罪で死刑となるような現実において、また不正に生きた方が現世的な利益が得られるような現実において、如何にそれらを一致させてゆくべきか、考えた末に哲人国家、と言う解にたどり着いたのかと思えた。
しかしながら、やはり現実世界においてそれらを一致させる事は難しい。プラトン自身、作中で最上の国家は理論的に不可能では無いが、難しいと言わざるを得なかったほどに。最終的には、現世的な利益を越えた魂の充実、そして霊魂の(イデアーの)不滅が報酬であり、それを求める以上は現世で不正を働いて得た一時の栄華等は儚いもの、と言う結論となった。これは本心だったのか、それとも善を現世に実現したいプラトンの切なる願いだったのか。
だから、こんな世であってはならない、哲学を追い求めるものが虐げられ、貧困に追いやられ、排除されることがあってはならない、と考え、それが、統治そのものが(彼の考える)善の具現化である、哲人国家のイメージに繋がったのか。もしかすると、現代からは時代背景を考慮しても異質と思えるような極端な教育論、財産共有、芸術論に至ったのは現実への反発もあったのだろうか。
自分は門外漢ながら、善と正義をそれぞれどの様に定義するか、は徳倫理学の一大テーマで有り続けているように思う。個人的には、冒頭にある様に正義とは個々の人があるべき相応しいものを受け取れること、と言うことだと思うのだが、結局、「あるべき」「相応しい」の判断にどうしても善悪の議論が入り込まざるを得ないのだな、と感じた。

それにしても、後半の国家形態の5類型の話は身につまされる。有名な「最悪の僭主政は(最良の)民主制から生じる」というテーマである。民主制自体が下から2番目の体制なのはプラトンの考える善の定義から仕方無いとしても、それが堕落して最悪の僭主政に繋がる、というのは改めて寒気を覚える。
今の世の中がこれとは違う、現代人の方が賢い、と言い切れる人はいるのだろうか。

自分としては、たとえ哲人であっても一人の人間の思想に寄りかかる体制は結果的に悪手だと思っているが、さりとて僭主政に繋がるのを食い止めるにはどうすれば良いか。
個人の意見はさておき、これについては「法律」を読んでみて改めて考えたい。

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2025年10月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

下巻は洞窟の比喩、善のイデアの役割、様々な政治形態の国家とその国民の性格の解説、詩人追放論、あといつもの巻末魂の不滅神話など。国家の様々な政治形態のくだりの、形態から別の形態への移り変わりの部分はプラトンの洞察力のすごさを感じた。
下巻まで読むと、正義の議論で始まり正義の議論で閉じるきれいな構造もあって見通しが良く感じるし、イデア論・四徳・洞窟の比喩・魂の不滅など有名な理論がそろい踏みするので壮観でもある。ただそれらは国家論の下敷きであって、その上に立った壮大な国家論こそがプラトンの思想の結晶というべき存在なのだろう。解説にもあったが、ソクラテスの徳や正義の問答、魂を磨き続けるという目標と自らの政治への興味が長い年月をかけてこうして実を結んだのだろうかと思うとなんだか感慨深い。

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2023年12月15日

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