あらすじ
青い田園が広がる東北の農村の旧家槙村家にあの一族が訪れた。他人の記憶や感情をそのまま受け入れるちから、未来を予知するちから……、不思議な能力を持つという常野一族。槙村家の末娘聡子様とお話相手の峰子の周りには、平和で優しさにあふれた空気が満ちていたが、20世紀という新しい時代が、何かを少しずつ変えていく。今を懸命に生きる人々。懐かしい風景。待望の切なさと感動の長編。
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Posted by ブクログ
「なぜこの結末を書いたのか?」
この問いから逃れることはできない。これと向き合わなければこの本は終われない。
本作の描写はあまりに柔らかく美しい。蒲公英草子とはよく言ったもので、麗らかな光が降り注ぐ日本の原風景のような楽園が広がっている。
淡い恋があったり、”にゅう・せんちゅりぃ”を生きる人々の葛藤と情熱の描きっぷりも巧みで、風景から心の描写まで筆が乗りに乗っている。
本当にこの美しい夏の記憶だけをずっと味わっていたかった。
だが、結末はどうだ。起承転落だ。それも深い深いところに突き落とされる。楽園で解きほぐされた剥き出しの心をガツンとやられて、問いを渡されたまま終わる。
だからこそ、「なぜこの結末を書いたから」これを考えなければいけない。
“「この国で生きていくことを決めた時から、僕たちはみんなを『しまう』ようになったんだ。みんなの思いをこの先のこの国に役立てるために。僕は、自分の一族に生まれついたことや、この生活を後悔してないよ」”
→これだ。多分これなんだ。僕たちも生きていく上で「しまう」ことをし続けなければならないんだ。美しいことを「しまう」ことは簡単だけども、苦しいことも悲しいことも「しまって」それでも前を向いて生きていかなければいけない。そういうことを言っているのだと思う。
辛い読書体験だったが、どうにかこの本を僕の中に「しまい」、少しでも「響く」ものにしたい。
Posted by ブクログ
「君の一途さ、無垢さが、吾が国を地獄まで連れていくだろう。」
この言葉が強く印象に残った。
国を思うことに憧れのようなものを抱く。
それと同時に、自分には何も力がないことに、何もできないことに愕然とする。
ご先祖様たちが死にものぐるいで守り、作り上げてきたこの国で、私はなんとお気楽な日々を送っているのか、なんてことを思ってしまう。
才能があってその道に行かざるを得なくて、自分の望み通りでないとしても、この才を生かすのだと使命感を持って生きること。
やる気はあるのに、まったく能力が伴わない悲しみ。
ほんわかとした表紙と題名に対して、なんとずっしりと心に来る話だろうかと、読後しばらく頭から離れない。
Posted by ブクログ
感想書くため再読。
初めの「光の帝国」より、こっちの方が好きだなあ。
優しい雰囲気が漂う中で、そこに集まる人たちの過去や人柄、想いが明らかになり、そしてそれぞれが変わっていく。んー、なんかいいね。
と思ったら、とんでもない災害。また後味の悪いことに…、と思ったら、聡子様の奮起、強い想いが明らかになり、悲しいながらもポジティブな雰囲気に感動した!
で、(またまた)と思ったら、戦後の混乱状態に時が進み、この対照的な雰囲気の違いが、戦後の大変さを際立たせて、しんみりしてしまう。
最後が少々ポジティブさが欠けた感があるけど、全体的な優しいイメージが(峰子さんのお話口調がお上品で)なんというか安心して読めた。
Posted by ブクログ
最後の転落からの転落がものすごい。
いつも新しい時代の幕開けは
様々な希望や志を持ってた人たちが
いた訳だけど、終戦した日はどんな気持ちに
なったのだろう、峰子みたいに思った人が
沢山いたんだろうな。
現代で言うと、バブルを経験した人が
リーマンショックも経験したり今の
円安の物価高で打撃受けてる人みたいな感じかな。
常野の人たちが居たら私も聞いてみたい。
日本これから大丈夫か?って。
Posted by ブクログ
「光の帝国」の続編。常野物語。
ストーリーとしての話の続きではなく、「光の帝国」の「大きな引き出し」の春田家の先祖?の話。
ファンタジー的な要素は少なですが、常野一族(というか春田家の「しまう」能力)の事がよく分かった。
で、ストーリーは身体が弱い聡子様と話し相手にそして友だちになった峰子の交流を中心になんとなく心が温まる話だったんですが。この聡子様は、たぶん遠目の能力があったような感じ。常野の能力が隔世遺伝したのかな?それで先のことを見通せるが故に・・・。
天聴会、書見台などでなるほど、と思いました。
最初は明るくてまぶしい感じで始まったストーリーだったんですが、悲しく切ないエンディングでした。
前編でツル先生のキャラが好きだったので、また登場するかな?とか期待していたんですが、登場しませんでした。
続けて続編を読みます。
Posted by ブクログ
常野物語、2作目。
前作は連作短編集だったが、今回は1つの長編だった。
前作の「大きな引き出し」に出てきた春田一家の先祖のお話。
序盤から示唆される終わりの予感と、そこに向けて収束していく物語に引き込まれ、悲しみに囚われる前に一気に読み終えてしまった。
悲しみだけのお話しじゃないのだろうけど悲しい。
Posted by ブクログ
恩田陸氏による常野物語シリーズ第二巻。本シリーズでは、常野と呼ばれる特殊能力を持つ一族の活躍や生き様が描かれます。
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時は新世紀(20世紀…1900年)初頭。とある田舎の村で周囲を取り仕切る槙村家。その槙村家にいる末娘聡子様にお仕えすることになった、中島医師の娘の峰子。この峰子が老いたときに在りし日を回想する形式で、槙村家で起こった超常現象と悲劇について描いたもの。
・・・
常野という特殊能力をもつ方々が出てくるので、まあ超常現象系の事件がクライマックス。
ただね、何ていうんだろう、峰子の聡子様へ女子高的憧れやその聡子様の恋心、槙村家の屋敷に集う風変りな方々の描写など、峰子の青春の一ページを切り取ったかのような描写が太宗を占める印象。
割と淡々と進んでいき、クライマックスが過ぎると途端に現代に戻るのは、まるであり得ない夢を見ていて突然目が覚めたかのようでもありました。
あっさりとしていますが、ホントそんな感じ。まあ青春小説ですね。
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ということで恩田氏の常野物語第二弾でした。
本作は超常系<青春系みたいな感じで、少し肩透かしを食らった印象。個人的には派手に超能力かましてほしかったかな。
第一弾・第二弾と読んだので第三弾もいずれ読みたいと思います。
Posted by ブクログ
常野(とこの)のシリーズの一つ。
恩田陸の作品は、どれも読みやすいのだが、今回、登場人物が多くて、それぞれに抱えているものがあり、それらが少しずつ語られているからなのか、どの人が誰なのかが、ちょっと混乱した。また、思い出が語られることもあり、今、いったい何歳なのか、何年経ったのかがわからなくなった。最終的に、運命の日が来た時、彼らは何歳だったんだろう?
話の始まりから、いずれ物語が戦争に突入するのではないかと感じさせられていたので、もっと、そのあたりが書き込まれるのかと思っていたのだが、そこは少し肩透かし感があった。
とはいえ、全体的に読みやすく、ほのかな哀しみと癒しがあり、良作だった。