【感想・ネタバレ】「その日暮らし」の人類学~もう一つの資本主義経済~のレビュー

あらすじ

私たちはしばしば「働かない」ことに憧れながらも、成果を追い求め、今を犠牲にしてゴールを目指す。しかし世界には、そうした成果主義や資本主義とは異なる価値観で人びとが豊かに生きる社会がたくさんある。「貧しさ」がないアマゾンの先住民、気軽に仕事を転々とするアフリカ都市民、海賊行為が切り開く新しい経済圏……。彼らの生き残り戦略から、働き方、人とのつながり、時間的価値観をふくめた生き方を問い直す。

3.9
Rated 3.9 stars out of 5
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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

朝日新聞出版の「一冊の本」に連載されていた「無条件の条件」で著者の視点がユニークだったので、本書を紐解いてみたが、大いに楽しめた. タンザニアのインフォーマルな交易に携わる人たちの独特の生き方が紹介されているが、この国ではそのような人が6割以上存在している由.試しにやってみる行動形態、変わり身の早い態度 など先進国の経済状態からすると理解できないものだが、彼らは生きている.中国への買い付けも行っており、タンザニアにも中国からの商人が増えてきている.下からのグローバル化という表現が何度も出てくるが、新自由主義の新しい形態になるのかもしれない.コピー/ゲリラ商品を主体とする山賽の紹介もあったが、中国人らしい発想には驚きより戦慄を感じる.

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2023年10月05日

Posted by ブクログ

職業の選びかたも仕事の仕方も、ニセモノの位置付けも、私たち日本人が常識と信じている価値観を覆され、その社会の中で生き抜くための知恵としなやかさを持つことの大切さを改めて感じさせられる。
既存の価値観にとらわれない先生のフィールドワークは、普通の人にはなかなかできるものではないですが、素晴らしいです!

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2023年04月11日

Posted by ブクログ

一口に資本主義経済といっても、根底に流れる価値観(文化・宗教・自然等など)によって、どのように受け入れられるか(利用されるのか)は異なることを知る。とても面白い。

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2022年02月20日

Posted by ブクログ

すごく面白かった。
タンザニアでのフィールドワーク等、人類学的なアプローチで(ときには露店商をやり)検討される、いわゆるインフォーマルセクター、本書で言う「Living for Today」の経済活動。「なぜ共同経営しないのか?」「なぜ未来のために貯蓄しないのか?」「なぜ貸した金を返してもらわないのか?」「なぜコピー商品を作るのか、買うのか?」などが、当事者の言葉で語られ、なんとなくちょっとわかった気がする。いまの20代〜30代の一部にも(自分を含め)相通じるメンタリティがある気がする。山寨企業の原動力、強み、市場への向き合い方は、アジャイルの究極なのかもしれない。

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2021年10月04日

Posted by ブクログ

常識が揺さぶられる一冊。
タンザニアを舞台に「インフォーマル経済」のあり方を観察したレポートなのだが、現在の日本社会(の主流)とは全く異なる原理で動いているので、スムーズに読み進まなくて頭がムズムズする。
サブタイトルの「もう一つの資本主義経済」というのは、確かにその通りなのだけど、いままでは規模が小さいから見逃されていただけで、2つの資本主義が並立したり主導権が入れ替わるかはよくわからない。
最終章で触れている、スマホを使った送金システムの普及によって社会(我々とは異なる原理で動く社会)が変質し始めていることを示唆しているし。

一応、現代日本とは異なるというスタンスで述べてきたが、1970年代末頃の日本でも偽ブランド品が割と普通に受け入れられていた(abidasの靴とかネタ交じりで履いていた)ことを思い起こすと、「全く別」は言い過ぎかもしれない。

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2021年04月14日

Posted by ブクログ

ルポとしての面白さは『チョンキンマンションのボスは知っている』の方が上。でも、比較文化的な観点から日本を考えるためには参考になる。また、海外ビジネスを考えている人は読んでおいて損はないと思う。

本書を読んでいると、杉浦日奈子の描く江戸庶民の暮らしが思い出される。例えば、タンザニアの人々の購買活動には計画性が欠けていて場当たり的だという指摘は、「宵越しの銭は持たない」という江戸っ子気質に重なるものだし、その時々の状況に合わせて職を点々として生きていくという点もまた、江戸の下層市民に見られるもの。何より、貸しと借りの感覚の(いい意味での)ルーズさは「金は天下の回り物」と言い切って、深く考えずに金を貸し借りしてしまうのになんだかんだで誰かに助けてもらえる、江戸の街がかつて持っていた懐の深さを彷彿とさせる。戦前まではこの空気は残っていたらしい。食い詰め者がホームレスとしてあからさまに排除されるようになったのは、街が焼け、江戸が根こぎにされた後のことだと語る人もいる。

ーー目標や職業的アイデンティティを持たず、浮遊・流動する人生はわたしたちには生きにくいものにみえるが、タンザニアの人びとはこうした生き方がもたらす特有の豊かさについて語る。それは職を点々として得た経験(知)と困難な状況を生きぬいてきたという誇り、自分はどこでもどんな状況でもきっと生きぬく術を見出せるという自負であり、また偶発的な出会いを契機に、何度も日常を生き直す術であった。(p.217エピローグより)

同様のことを杉浦日奈子は『百日紅』で葛飾北斎の娘・おえいに喋らせている(筆と箸二本あれば、おれと鉄蔵はどこだって食っていける、だったかな)。画業で名を成した故の自信に裏付けられた発言、というよりは、浮草の身を気にもかけない、飄々とした彼女の人柄を一言で言い表したセリフだった。彼らは家に他派の絵師が上がり込むのも気にかけない。タンザニアの零細商人たちが後続の同業者に惜しみなく自分の手管を教えてしまうように。
ただ、タンザニアの彼らと日本人とで決定的に違うことが一つある。『チョンキンマンションのボスは知っている』で言及される、独立自尊の気風だ。タンザニアの零細商人には、これが極めて強い。徒党を組むことを潔しとしない。「寄らば大樹の陰」「長い物には巻かれろ」という空気(同調圧力とも言う)が微塵もないこと。実は、「開かれた互酬性」を実現するにあたって最も必要かつ日本社会に欠けているのはそれなんじゃないかという気がしてならない。

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2021年03月20日

Posted by ブクログ

■著者が扱っているメインテーマ
その日暮らしの文化を通じて、私たちの生き方、経済、社会のしくみを問い直す。

■筆者が最も伝えたかったメッセージ
その日暮らしの生き方は、未来を企図することを難しくさせるが、その時に可能な行為には何でも挑戦する大胆さを生み出す力がある。

■学んだことは何か
未来のために今を犠牲にする私たち日本人の生き方は、安心を手に入れる事でもあるが、そのために、未来という時間に縛られた不自由な生き方を選択している事になる。
未来を考えず、今という生を謳歌する生き方は、不安定だが、自由で人間らしいペースで生きる事である。

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2021年03月06日

Posted by ブクログ

かつての戦後日本のような貧しくダイナミズムに溢れたアフリカ社会。経済成長と共に日本人が失くしたものが分かる気がして読んでましたが、日本人とは違うと、違和感を覚えたのは商売における信用についてでした。

相当昔、近代化以前の江戸時代でも、信用を重んじて割と誠実な取引を好んだように思いますし、貸し借りには几帳面です。

やっぱり日本は世界のガラパゴス、特殊な人たちなのでしょうか?

これから経済的にはますます貧乏になり、人口も減っていくと、どういう社会になるのでしょう。アフリカ的なliving for todayとは少し違う感じです。少なくとも今よりみんなが幸せを感じられる社会になって欲しいですね。

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2020年08月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

例えが多くて分かりやすい内容です。


特に、私は、本書で書かれているタンザニアの人の、製品(売り物)に関する概念が気になりました。
私見をもとに書いてみます。

ーその場で必要な物を、必要な時だけ使えればいいという考えー
 本書にある例は、雨が降ったら傘を買う、ことと、興味深くて欲しいけどすぐ飽きそうなものは安くて壊れやすくてもいいから買う、というもの(うろ覚え)。

 自分の中にある、長持ちするものなら少し値が張るものでも買うという考えとは異なる。
また、高品質で、高いものも多いメイドインジャパンを好む人ばかりじゃないのだなと知った。


 

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2019年10月20日

Posted by ブクログ

“日本製は高いけど長持ちするから長い目で見たら日本製の方が割安だよ” この理屈、Living for Todayの人には響かない。彼らはすぐ壊れると分かっていても安い中国製を選ぶ。その日暮らしの論理とはそういうもん。

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2019年04月15日

Posted by ブクログ

計画性や予測可能性を前提としない社会や経済でサバイブしようとすれば、我々のような文化規範を持った人間からは「テキトー」「いい加減」「いきあたりばったり」と映る行動原理が高度に戦略的で合理的だということが僕にはすごく新鮮で。

僕らは、「努力する(意識の及ぶ範囲の自分の時間やリソースを未来の自分のために投資する)」≒「我慢する」を美徳としサバイバル戦略に多く採用している。

・将来のために勉強する
・将来のためにスキルを磨く
・将来のために働いて貯蓄する

その「将来のために」のために「今を犠牲にする」自制心や克己心が無い人間のことを僕らは「怠慢な人間だ」と評価する。

だけど、違う国や違う文化や違う歴史にあればそうじゃないことだってたくさんある。

変化が大きく、そのスピードも速い環境において線形の思考回路や計画、段取りを重んじる行動原理は決して効果的ではない。本書で取材されている人たちは、例えば商品の仕入れはスケールメリットを追求せずに分散せるし、短期間で商いをどんどん変えていく。契約や約束ではなく、人との出会いや同郷のつながりを大事にする。信用はルールを守る人にではなく、「騙しあい」をうまく処した人間に与えられる(商売の人的ネットワークが強いので犯罪的な抜け駆けをする人間はきちんと淘汰される)。

これって一周して、進んでいる。シュンペーター型競争に適合できずに苦しんでいる僕らに学ぶことはすごく多い。

僕らがコミットしなければならないのは、経済指標やデータやお上や上司から言われたことじゃなくて、めくってみれば目をそむけたくなる日本社会のリアルだったり、街を歩いてすれ違う人たちの年齢や国籍や会話の中身だったり、中華料理屋のオムライスがなんであんなに美味しいのかの驚きだったり、自分や親の健康だったり、中学校の同級生との世間話だったり、そういうものだと思う。

備えても憂いばかりと悲観するより、意思決定や行動のタイムスパンをもっと短くして、今ここにいる自分や周りの人たちの幸福についてもっと心を動かしてみるべきだろう。

だから僕は、頼んだことをやらない、フォローを入れても無視する、次にどういう行動に出るか予測できない、これまでのパターンを織り込んで先手を打ってもそれを軽く乗り越えてくる、そもそも普段なにやってんのかわからない今の上司を、温かい目で見ることにした。

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2019年04月15日
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