あらすじ
独立二日目、吉里吉里国の通貨イエンのレートは日本円に対して刻々上昇、世界中の大企業が進出した。だが国外から侵入した殺し屋や刑事らも徘徊、ついに初の犠牲者が出る。さらに日本国自衛隊も吉里吉里国最大の切り札四万トンの金の奪取に乗り出した。SF、パロディ、ブラックユーモア、コミック仕立て……小説のあらゆる面白さ、言葉の魅力を満載した記念碑的巨編。
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Posted by ブクログ
下巻に入り、更にテンポアップ。面白さにグイグイのめり込む。吉里吉里国の独立の戦略である、医療立国、金の隠し場所に迫る。
相変わらずの言葉遊びと、荒唐無稽のストーリーだが、段々と中毒になってきた様に面白いと感じる。
そして、一気に物語はラストのクライマックスへ。
ラストで、この物語を紡いできた記録者がキリキリ善兵衛であり、百姓どもに朝が訪れることを待ち望んでいたことが明らかにされ、この物語が、百姓の解放を通底とした独立物語であるというテーマが浮き上がってくる。
ここで言う百姓が朝を迎えるというテーマは、現代消費社会、国際分業といったシステムから降りて、自給自足をしながら文化を守り医療を享受し独立して生きていくという、自然資本によって生きるローカリズム宣言や、半農半X、ダウンシフターズの生き方に通じるものだと気がつかされる。バブル期前の昭和56年時点で、2020年現在、走りとして動きはじめた自然資本、ローカリズム宣言、ダウンシフターズといった運動の主題を、吉里吉里国独立物語として描き出した作者の力量に唖然とする。そして、ラストまで、そうした消費社会システムからの解放、自然資本に則った定常社会の実現を目指すという主題を感じさせずにエログロナンセンスの装いで娯楽小説として描き出したことも驚愕。
喜劇として描かれてきたこの物語が、吉里吉里国独立の失敗、自然資本に基づく定常社会の確立という挑戦の失敗、すなわち、百姓が朝を迎えられなかったという悲劇に終わったことを、とても残念に思う。
喜劇が、悲劇やシリアスを描き出したというところで、岡本喜八の喜劇を見たような満足感を味わえた。
上巻で辞めずに、読み切って良かった!
Posted by ブクログ
読み終わりました。救いのない形にしないと終われないのかもしれません。「地域」自治、食料、医療、平和、国際関係、ほんとうに詰めていくと傷があるのかもしれませんが、思想(理想)は、そうあってよいのではないか。考えさせられる本でした。井上ひさしさんの、虐げられる人たちへの優しい視点も感じさせます。それにしても、古橋・・・。
Posted by ブクログ
上中下巻に渡る大作。
日本が抱える様々な矛盾や課題を、農業政策と医療政策を切口に皮肉りながら、ドタバタでガタガタでハチャメチャでハラハラに書き進めるコメディ。
ハッとするような指摘を、軽妙なコメディタッチで書き上げているのが面白い。
40年近く前の作品でありながら、今の日本への提言として遜色ないのは、内容が普遍的で不変だからなのか、日本という国が成長していないからなのか…
そして、読んでいるうちに、脳内は“吉里吉里語”に汚染されていく。
それにしても、主人公・古橋健二のダメ人間ぶりがものすごい。フィクションだから、あえて極端に振ってるんだろうけど、それにしてもひどい。それが面白いんだけど。
そのダメっぷりが、最終的には吉里吉里国独立運動を失敗的終焉に導くんだけど、なんだか終わり方がグロテスクで、最後の最後でビックリしてしまった。