あらすじ
最後の日に。最愛の人と。
致命的な心の傷を、人はいかにのりこえうるか?
ささやくような美しい声で、答えてくれる物語。
(川上弘美 / 作家)
旅をするとき、人は同時に、命を見つめているのではないか。
(西加奈子 / 作家)
この“旅”の体験と記憶は、いつまでも失われない。
自分もいつかは“最高の旅”を誰かとしてみたい。
人生に終わりはないのだ。
(小島秀夫 / ゲームクリエイター)
どこまでも続く青い空と海。エミルとジョアンヌは、南フランスの陽光きらめく中を旅していた。猫のポックとの出会い、海辺での穏やかな日々、ジョアンヌのマインドフルネスの教え。時にぎこちなく、時に深く心を通わせながら、2人と1匹は静かに時を紡ぐ。しかし、旅は穏やかなだけではない。進行する病と薄れゆく記憶はエミルをゆっくりと蝕んでゆく。残されたわずかな時間の中、互いの存在を支えに進むキャンピングカーは最期の目的地へ。失うことの痛みと、それでも生きることの輝きを描く、愛と再生の旅路。
爽やかな筆致で描く、命と愛、生きる喜びについての感動大長編後編。
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
迫り来る「死」に向き合う人、「死」を見送る人、死が描かれるほどに、それに反して「生きること」がより濃く感じる。エミルとジョアンヌが出会った人、町、村、エウスのミルティユ、漁村のセバスチャン、パーマカルチャーの村のマルコ…どれもが必然で、2人を導いているようだった。
ジョアンヌが抱える過去は癒しようの無いほど深い傷で、それでもエミルとの旅、出会いを通して、ゆっくりと再生していく。一方、エミルの症状は悪化していくが、彼の望む形で過ごさせてあげようとするジョアンヌの献身に彼女の静かな慈愛を感じた。
最後の数章はぜひゆっくり味わってほしい。
ジョアンヌ!そんな状況でエミルの最後を見届けたのねとか、エミルの残したジョアンヌへの贈り物とか。
読み終わった後、世界中を何周も旅して人生を何度も繰り返して…それくらい心がいっぱいになる(語彙力のなさが悔やまれる)とんでもない本でした。
それから、ジョアンヌと父ジョゼフが時々語る名言が素敵で、どれも書き留めておきたい言葉。
『真の発見の旅は新しい景色を求めることではなく、新しい目を持つことだ』プルーストの一節
『もっとも偉大な旅人とは、自分自身を見つめ直すことができた旅人だ』孔子
『美しさとは見たもののなかにあるのではなく、それをみる目の中にある』フランスの作家ジャン=ルネ・ユグナン
『毎日毎日がそのなかに永遠を宿している』
『世界ではいつだって、誰かが誰かを待っている』パウロ・コエーリョ【アルケミスト】
【アルケミスト】からの言葉は最多。以前読んだ時より、この本を読んだ後の今読み返したら、味わい方が変わりそう。
Posted by ブクログ
旅と共にお互いの事を知り、大切に時間を経たせていく。ジョアンヌの過去が少しずつ明らかになってその痛みに心がしめつけられ、記憶を無くしていくエミルの恐れと見守るジョアンヌの哀しみ、この2人の出会いと旅が奇跡だと思う。
美しい風景と美しい人間の心情、素敵な物語です。
Posted by ブクログ
新聞に紹介されてて迷いなく読みたいと思った。海外ものは訳され方によっては長く読むのが辛くなる場合があるけどこれは違った。原作が和訳に向いた作りなのか訳者が上手いのか。
次の作品も出るみたいだから読んで確かめよう。
それにしても素晴らしかった。あまりにも悲しい…あまりにも残酷、と思って読み始めたけど、これって理想の死に方じゃないかと思わずにいられないラスト。ジョアンヌに巡り会えたエミルは幸運だった、ジョアンヌもエミルに救われた。
ラストがたまらなくいい。主人公が亡くなって終わり…ではこの長い物語に入り込んで読んでいた読者はものなりないのだ、だからちゃんとお葬式にもこっそり参列してくれて、オパールの誕生も知らされることで心穏やかに温かい涙を流して読み終えることができた。
それにしてもエミルがマルジョリーに12月に出した手紙が素晴らしい。この手紙と、山小屋からジョアンヌが電話で「エミルはあなたと共にいました」の一言で遺された家族は救われたよね。
エミルの行動力とジョアンヌの忍耐力、おみごとでした。
Posted by ブクログ
とても綺麗で、詩的で、それでいて若年性アルツハイマーの残酷さも描かれていて…
うちは病院で看取ったけれど、やっぱり母は1日でも長く家にいて欲しかったんだろうと思ったり、父はどう思いながら生きたのかと思ったり。読みながらでも現実はこんな綺麗に行くわけないと思ったり。
海外文学は値段も高いし、面白さがある程度担保されていないジャンルは手が出にくいが、単行本の時に出会えて良かった。
みんな救われたかはわからないけれど一歩進めそうな終わり方で救われた。
久しぶりに自分の中で「良かったわ」って感情が更新されました。
語彙力がないからうまく表現出来ないけど「満点」です。
Posted by ブクログ
本の中には度々瞑想やマインドフルネスをしてみる場面が度々あったが、私もこの本を読んでいると深く息ができるような、瞑想状態にあるような不思議な感覚を味わうことができた。
恐らく風景の描写が本当に綺麗で目に浮かぶようで、心を穏やかにすることができたのだと思う。
すごくすごく美しくて、悲劇的で、でも泣きながら笑顔になるような作品だった。
1番好きなシーンは、エミルが恐らく最後に落ち着きを取り戻して、微笑みながらジョアンヌの結婚指輪をいつまでもくるくる回すシーン。
なんだか愛を感じてしまって、このシーンを思い出すと泣いてしまう。
Posted by ブクログ
今年読んで良かった本、間違いなく堂々1位です。
下巻で変わっていく、主人公エミルとジョアンヌの関係性。
旅先で出会う人々との交流。
少しずつ明らかになっていくジョアンヌの過去。
そして号泣した最終章とエピローグ。
全てが良かった。
私にはジョアンヌのような優しさや強さはないけど、妊娠出産育児で自分自身と重なるものがあり、
息子のトムが、私の自閉症息子と重なるものがあり、ジョアンヌと一緒に喜んだり、泣いたり、怒ったり、すごく感情移入してしまいました。
トムの髪の毛を勝手に切ったシーンはめちゃくちゃキレました。健常の子では何ともないことだけど、自閉症の子にとってはおおごとなんですよね。
ジョアンヌの父親は専門家でもないのに、自閉っ子の接し方の本質みたいなのを分かっていて、本当に賢い人だったんだろうなと思います。
ジョアンヌ、ラスト3ページでびっくりしたけど、最後の最後まで、よくエミルを支えたね、頑張ったねぇ…(泣)
どうか幸せになってほしい。もう、一人ぼっちじゃないはず。
Posted by ブクログ
お見事!!
上下巻800頁以上の大作。上巻は、現在と過去を行き来しつつの序盤の展開に、どうにも乗り切れないもどかしさがあったが、下巻に入ってからの加速度は他に類を見ないほどだったかも。
若年性アルツハイマー型認知症を患う主人公エミルが、人生最後の旅にでる。 旅のパートナーをネットで募り、一風変わった女性ジョアンヌが名乗りをあげる。
いわゆるロードノヴェルのスタイルで物語は展開し、ピレネー山脈沿いを北へ南へ、風光明媚だったり、歴史ある集落、海辺で暮らす、どことなく優雅で気ままな旅だが、エミルの病状の進行に伴い失われていく記憶と、寡黙で謎めいた女性ジョアンヌの過去が明らかになる様子が、丁寧に描かれている。
若年性認知症というものを、具体的に意識したことはなかったが、記憶が一瞬途切れるとか、昏倒するほか、過去が混在し、今の自分が失われていくことの恐怖が、実に巧く描かれていて感心する。
確かに、そんな患者に日常生活を送らせては危険が伴う。ましてや旅するなんて、と思ってしまうが、エミルを支えるジョアンヌが、実に逞しい。
上巻のころによく発せられた「大丈夫」や、「覚悟はできている」という彼女の気丈な言葉は、実は表面的なものではなく、彼女のこれまで過ごしてきた時間から産み出されてきているということが、物語が進むごとに明らかにされていく。
青、ブルートム、レオン、過去と未来、ジョゼフ、そして旅先で出会った人々、ポック、母と子の関係、そして命とは? 様々な伏線が、ことごとく意味を成す。
ややスピリチュアルな世界観に偏りがちではあるが、終盤は、そう来たか!? の連続で、久しぶりに滂沱、だった。
要所で引用される名言(ジョアンナが父の教えとしてエミルに語ることが多い)の数々も、最初はちょっと、とって付けな感じもしていたのだが、だんだんハマってくるようで、良かったかも、
『アルケミスト』は、読まないとな!!
Posted by ブクログ
「読後感」という言葉があるように、物語を読み終えた後には様々な感情が渦を巻く。爽やかさ、悲しみ、怒りなど、感情的な余韻が残ることが多いが、本作品を読み終えた私は、何より「小説っていいな」という気持ちになった。
エミルとジョアンヌの旅は下巻に入っても止まることなく続いていく。新しい土地、新たな出会いを重ねる中で、私も彼らと同じように新鮮な気持ちと高揚感を味わった。しかしそれと同時に、エミルのブラックアウトの回数も増えていく。当初は混乱し、パニックを起こしていた彼も、次第にその現象を受け入れ始める。その姿がとても寂しく、切なく映った。
彼の目で見た風景、肌で感じた温度、ジョアンヌや旅先で出会った人々との思い出は、ジョアンヌと読者の記憶として確かに残っているのに、当事者であるエミルの中からは消えてしまう。その現実が痛ましく、やるせない。そんな中、最期の記憶として彼のそばに居続けたのが家族だったことに、深い愛の存在を感じた。
下巻で最も印象に残った場面は、エミルがジョアンヌに「なぜ指輪を二つはめているのか」と問いかける場面。彼女の探るような、誰も傷つけないやりとりと、彼の純粋な言葉が切なくも愛おしい。この場面を最後に、彼の中から「ジョアンヌ」という人物の記憶が消えていく。彼女のそれを受け入れる覚悟と、彼に対する深い愛情が、あの短いやりとりに凝縮されていたように思う。
二人は一旦別々の道を歩むことになる。けれど、エミルにはトムが、ジョアンヌには生まれてくる子どもと旅の中で出会った人々が寄り添っている。だから、きっと寂しくはないだろう。
二人が見た景色、紡いだ思い出は、私たち読者の記憶の中に蓄積されていく。それによって、私自身も彼らの旅の同行者になれたような気がした。