あらすじ
最後の日に。最愛の人と。
致命的な心の傷を、人はいかにのりこえうるか?
ささやくような美しい声で、答えてくれる物語。
(川上弘美 / 作家)
旅をするとき、人は同時に、命を見つめているのではないか。
(西加奈子 / 作家)
この“旅”の体験と記憶は、いつまでも失われない。
自分もいつかは“最高の旅”を誰かとしてみたい。
人生に終わりはないのだ。
(小島秀夫 / ゲームクリエイター)
どこまでも続く青い空と海。エミルとジョアンヌは、南フランスの陽光きらめく中を旅していた。猫のポックとの出会い、海辺での穏やかな日々、ジョアンヌのマインドフルネスの教え。時にぎこちなく、時に深く心を通わせながら、2人と1匹は静かに時を紡ぐ。しかし、旅は穏やかなだけではない。進行する病と薄れゆく記憶はエミルをゆっくりと蝕んでゆく。残されたわずかな時間の中、互いの存在を支えに進むキャンピングカーは最期の目的地へ。失うことの痛みと、それでも生きることの輝きを描く、愛と再生の旅路。
爽やかな筆致で描く、命と愛、生きる喜びについての感動大長編後編。
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Posted by ブクログ
本の中には度々瞑想やマインドフルネスをしてみる場面が度々あったが、私もこの本を読んでいると深く息ができるような、瞑想状態にあるような不思議な感覚を味わうことができた。
恐らく風景の描写が本当に綺麗で目に浮かぶようで、心を穏やかにすることができたのだと思う。
すごくすごく美しくて、悲劇的で、でも泣きながら笑顔になるような作品だった。
1番好きなシーンは、エミルが恐らく最後に落ち着きを取り戻して、微笑みながらジョアンヌの結婚指輪をいつまでもくるくる回すシーン。
なんだか愛を感じてしまって、このシーンを思い出すと泣いてしまう。
Posted by ブクログ
今年読んで良かった本、間違いなく堂々1位です。
下巻で変わっていく、主人公エミルとジョアンヌの関係性。
旅先で出会う人々との交流。
少しずつ明らかになっていくジョアンヌの過去。
そして号泣した最終章とエピローグ。
全てが良かった。
私にはジョアンヌのような優しさや強さはないけど、妊娠出産育児で自分自身と重なるものがあり、
息子のトムが、私の自閉症息子と重なるものがあり、ジョアンヌと一緒に喜んだり、泣いたり、怒ったり、すごく感情移入してしまいました。
トムの髪の毛を勝手に切ったシーンはめちゃくちゃキレました。健常の子では何ともないことだけど、自閉症の子にとってはおおごとなんですよね。
ジョアンヌの父親は専門家でもないのに、自閉っ子の接し方の本質みたいなのを分かっていて、本当に賢い人だったんだろうなと思います。
ジョアンヌ、ラスト3ページでびっくりしたけど、最後の最後まで、よくエミルを支えたね、頑張ったねぇ…(泣)
どうか幸せになってほしい。もう、一人ぼっちじゃないはず。
Posted by ブクログ
「読後感」という言葉があるように、物語を読み終えた後には様々な感情が渦を巻く。爽やかさ、悲しみ、怒りなど、感情的な余韻が残ることが多いが、本作品を読み終えた私は、何より「小説っていいな」という気持ちになった。
エミルとジョアンヌの旅は下巻に入っても止まることなく続いていく。新しい土地、新たな出会いを重ねる中で、私も彼らと同じように新鮮な気持ちと高揚感を味わった。しかしそれと同時に、エミルのブラックアウトの回数も増えていく。当初は混乱し、パニックを起こしていた彼も、次第にその現象を受け入れ始める。その姿がとても寂しく、切なく映った。
彼の目で見た風景、肌で感じた温度、ジョアンヌや旅先で出会った人々との思い出は、ジョアンヌと読者の記憶として確かに残っているのに、当事者であるエミルの中からは消えてしまう。その現実が痛ましく、やるせない。そんな中、最期の記憶として彼のそばに居続けたのが家族だったことに、深い愛の存在を感じた。
下巻で最も印象に残った場面は、エミルがジョアンヌに「なぜ指輪を二つはめているのか」と問いかける場面。彼女の探るような、誰も傷つけないやりとりと、彼の純粋な言葉が切なくも愛おしい。この場面を最後に、彼の中から「ジョアンヌ」という人物の記憶が消えていく。彼女のそれを受け入れる覚悟と、彼に対する深い愛情が、あの短いやりとりに凝縮されていたように思う。
二人は一旦別々の道を歩むことになる。けれど、エミルにはトムが、ジョアンヌには生まれてくる子どもと旅の中で出会った人々が寄り添っている。だから、きっと寂しくはないだろう。
二人が見た景色、紡いだ思い出は、私たち読者の記憶の中に蓄積されていく。それによって、私自身も彼らの旅の同行者になれたような気がした。