あらすじ
宮本文学初の大河歴史小説、堂々の開幕篇!
幕末・維新の激動に立ちむかった「富山の薬売り」たちの知恵と勇気。
人を導く、「大いなる力」とは何か?
人間を描き続けてきた宮本文学の集大成にして初の歴史小説、堂々の開幕篇。
幕末の越中富山に生まれた川上弥一は、藩を挙げての産業・売薬業に身を投じる。
やがて薩摩藩を担当する行商人となった弥一は、じょじょに薩摩藩の内情に通じてゆき、薬売りと薩摩藩をつなぐ「秘密」に気づき始める――
黒船来航、幕府の危機を背景とした壮大な物語が、今はじまる。
第二の開国(グローバリゼーションや通貨変動)にさらされる現代日本人にとって「羅針盤」となる大長編!
※初回配本限定特典「讀む藥」は、電子書籍版には収録されておりません。ご了承のほど、お願いいたします。
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Posted by ブクログ
著者が初めて取り組んだ歴史小説。約10年をかけて執筆、全4巻からなる大力作だ。
幕末の動乱期を薩摩藩を担当する越中富山の薬売りの目を通して描いている。
第1巻は黒船来航、尊王攘夷ののろし、篤姫の将軍家定へのお輿入れなど安政の大獄前夜までの時代風景を描写する。
物語は主人公・川上弥一の語りの形式をとって進められる。
弥一は越中八尾の紙問屋に長男として生まれるが、薬種問屋「高麗屋」に奉公にあがり、特任で薩摩組の売薬商人となる。
富山の薬売りは薬種取引に隠れて、清国が望む蝦夷地の干し昆布を北前船で薩摩へ運び、代償として入手しがたい唐薬種を大量に得ていた。
薩摩組と呼ばれる薩摩担当の薬売りは廻船問屋とタッグを組み、薩摩藩の密貿易の片棒を担ぎながら一蓮托生の関係にあった。
北前船の船乗りたちは、日本の海を行き来することで物の動きを知り、世の中の流れを知る、売薬人も津々浦々を歩くことで日本全体の事情に常に接する状況にあった。押し寄せる異国の脅威を江戸の幕閣や旗本よりも早い段階で感じていた。
大きな時代の潮流を物語を通して知れるのだが、富山の薬売りについて学べたのも良かった。越中の売薬と八尾の紙との深い結びつき、「先用後利」、得意先に信頼されるための人材育成など。
また、薩摩藩の借金を力づくで無に等しくした調所広郷の存在価値や薩摩組を監視する強面目付・園田矢之助と弥一が互いに信頼関係を築く過程が興味深かった。
幕藩体制への批判の視点も取り入れられていた。士農工商に対する百姓たちの怨嗟の声、薩摩藩への嫌がらせ、武士階級の中での城下士と郷士の身分差など。
Posted by ブクログ
実に久しぶりの宮本輝作品。楽しみにしていたが、期待を裏切らず面白い。相変わらずとても読みやすい。まるで見てきたような描写力が素晴らしい。弥一の京都に入ってからの獅子奮迅の活躍が特に面白かった。しかしいつも思うが、昔の人は日本中を歩いて旅するという、今では考えられない事をしていたのだから凄い。個人的には好きな幕末の話なので、二巻以降にまた期待する。