あらすじ
比類なき圧巻の物語、いよいよ完結!!
「飢えの雲、天を覆い、地は枯れ果て、人の口に入るものなし」
恐れていた災いが凄まじい速さで広がる中、アイシャたちは必死に事態の収束を図るが、巨大な国家は、容易に方向転換が出来ない。民に危機が迫る中、孤独を抱えながら生きて来た<香君>が選んだ道とは。比類なき圧巻の物語が、いよいよ完結。
解説・長田育恵
※この電子書籍は2022年3月に文藝春秋より単行本上下巻で刊行された作品の、文庫版を底本としています。文庫版は4巻構成となります。
単行本『香君 上 西から来た少女』 → 文庫版『香君1 西から来た少女』/『香君2 西から来た少女(ともに2024年9月発売)
単行本『香君 下 遙かな道』 → 文庫版『香君3 遙かな道』(2024年11月発売)/『香君4 遙かな道』(2024年12月発売)
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Posted by ブクログ
一度は静まったはずの天炉のバッタ。
けれど物語は、まるで風が巻き戻るように、
再び羽音が空を覆うところから始まりました。
この巻があるということは、きっとまだ世界には揺らぎが残っている――
そんな予感を胸の奥で鳴らしながら、私はページを開きました。
バッタたちは、生き抜くために、より大きく、より強く変わっていた。
その変化を知ったアイシャは、御前会議で
「国中のオアレ稲を焼くべきだ」と進言します。
それを実行できるのは、皇帝か香君の言葉だけ。
オリエとマシュウは策をめぐらせ、
香君としての言葉が民に届く場を用意しようとします。
しかしその思いを察したイール・カシュガは、
オリエに毒を盛るという残酷な手を選びました。
満身創痍の体で、それでもオリエは香君として、
国の民が自ら選び取るための場をつくろうとします。
けれど、その道半ばで倒れてしまう――。
オリエの意志を継いだアイシャは、
香りで見通す力を示しながら、
香君としての言葉を人々の心へ送り届けます。
はじめは拒んでいた民も、やがてその香りで見通す力を目の前にし、
“決断には、自分たちが向き合わなければならないものがある”
と気づいていく。
そして、皇帝オードセンは覚悟を定め、
オアレ稲の焼却が行われました。
天炉のバッタの脅威は、再び燃え尽きてゆきます。
――物語の中で、私の心に深く残ったのは、
オリエがアイシャに告げたこの言葉でした。
「生き物はどんな存在に生まれるのか選ぶことはできない。
望む力を持って生まれてくるわけでもない。
それでも、それぞれが己の持つ力を活かし、
あるときは他者を助け、あるときは他者を害して生きていく。」
香君の力を持たず、けれど香君として生きてきたオリエだからこそ、
この言葉には静かな重みが宿っているように感じます。
苦しみを知り、役割の痛みを知り、
それでも前に進もうとしてきた人の声。
私は、自分のことを「平均的な人間」と思っています。
特別に秀でたものがあるわけではなく、
時に誰かを傷つけてしまう自分に
胸がきゅっとなることもあります。
でも――オリエの言葉は、
そんな自分をそっと包み込むように感じられました。
「それでも、生き物は生きていくのだ」と。
ありのままの力で、ありのままの役割を担いながら。
この物語を閉じたあと、
私の胸には小さな灯のような願いが残りました。
自分の持つ力を、静かに活かしていきたい。
与えられた役割を、自分なりに全うしていきたい。
そう思わせてくれる一冊でした。
Posted by ブクログ
読み終わってしまった。
涙無しでは読めなかった。自分のことより周りのことを考え、いま何をすべきなのか。香君として神々しく立ったオリエ。引き継ぐアイシャ。2人の香君に涙が溢れました。もう一度1巻から読み直したくなりました。
Posted by ブクログ
面白くて一気読みした。神ではないのに人々から純粋で切実な祈りを捧げられ、そんな民をいわば欺きながら生きる香君のあり方を、オリエは変えようとする。神の前に人は皆平等である、ということを強みに変えて、そうした場を作って世界の危機を救おうとする、そんな発想ができる権力者は真の神といってよいのではないか。そんなオリエとなりゆきでバトンタッチで香君になったアイシャは、民と共に泥まみれになりながらオアレ稲の研究をしていくことで、香君は神ではなく人なのだと人々の認識を変えていこうとする。神に頼り、帝国に頼る無力な子どもとして、守ってもらおうとするばかりでは、民は危機から自分を救うことができない。楽をせずに自分で考えて行動することが、生き延びる力につながる。
人間の目から見れば害だったり益だったりいろいろあるが、植物も動物も、己の力で精一杯生きている。人間も自分に合った場所で、与えられた力を精一杯使って生きていくのがいいのだ、というメッセージを感じた。
マシュウとオリエが結婚できてよかった。
上橋菜穂子さん、ずっと「我孫子にて」だったのが「日吉本町にて」になっていて、馴染みの地名すぎてびっくりした。
Posted by ブクログ
久しぶりに上橋さんの本を読んだ。
さすがの世界観。
政治的な駆け引きも、極悪人がいなかったので、案外あっさり収まった印象。
オアレ稲が本来呼んでいた天敵が「もういない」という事が一番怖かった。
Posted by ブクログ
アイシャの物語がこれで完結しました。
本当に壮大で、私の貧祖な想像力ではなかなか追い付かないファンタジーでした。
「救いの稲」やその他の植物までもを食い尽くす「天炉のバッタ」の被害が東西カルタンで急速に広まっている中、完全にその害虫被害を撲滅するためにアイシャは帝国を含む全土のオアレ稲の焼却が最善だと考えます。しかし、当然ながらまだ被害の及んでいない藩国では、その必要性を疑い、焼却後の困難を予想して、当然反対の声を上げます。
ウマール帝国の陛下を説得しようと試みるアイシャやマシュウですが、それぞれの立場や地位の本音や建前が渦巻いて、(私の中で)議論は混とんとしてきます。何が正解なのかなんて、結局事後にしかわからない。でも、誰かが大きな決断をする必要がある。こんな時代の大転換のようなときに、香君という活き神の存在が、良くも悪くも際立ってきます。祈りを捧げ、その存在に、声に、絶大な信頼をおく、ということは、人々が自ら考え、決断することを放棄できる便利な言い訳になるのです。かくして、ウマール帝国の皇帝オードセンも、全土のオアレ稲焼却の発令を香君に託そうとします。
これに断固反対のマシュウの兄イールと、皇帝をうまく自分の作戦にのせるマシュウ。ここでもそれぞれの考えがぶつかり合います。
それからのアイシャの活躍は圧巻でした。なんと賢く勇気のある少女なのだと信じられない気持ちで読み進めました。しかしそのうちにわかってきたことは、オリエがあってのアイシャなのだということ。香君をアイシャに引き継ぐことになったオリエは、アイシャのような特殊な力はなくとも、香君として立派に自分の考えを持ち、それをアイシャと共有したのだとわかってきます。
「香君」を崇め奉る、いわば信仰から人々を解き放ち、「香君」も生身の人間であると知ってもらうこと。そしてオアレ稲だけに依存しない経済を作っていくこと。それに向かってアイシャは「香君」でありながら、旅をつづけ、農夫たちに混じって活動していきます。
マシュウの父が過ごしたという異郷の地については、結局詳しいことがわかったわけではありませんでした。アイシャやマシュウの母親たちがなぜそこから来たのか。オアレ稲が呼び続けたパリシャとは何か、なぜ来なかったのか、などなど謎は深まるばかりですが、異郷はそのようなベールで包まれていた方がいいのでしょう。
アイシャが孤独な「香君」になってからも、オリエのような過酷な人生を歩まずにすむことにほっとしました。そして、オリエが普通の人間としてこれから暮らしていけることがうれしかったです。
ファンタジーでありながら、現実世界の縮図を見せられているような物語で、作者の筆力や、何よりもその知性にため息しかでませんでした。素晴らしい物語です。
Posted by ブクログ
夢中で読んだ。これで完結と思うと寂しいけど、温もりを感じるいいラストだった。
香君とオアレ稲は同一のテーマを持った存在だったのかと、いまさら察した。異界から運ばれてきた『種』で、類稀な能力を持ちながら、この地で芽吹いた存在である以上は周囲と手を取り合って生きなければいつか滅びをもたらす。オアレ稲も香君も、遠い未来にはこの地になじむのだろうか。
それはそれとして推しカプ結婚した。
Posted by ブクログ
2025年6月4日
香君は女性だった。
異郷とのつながり。
今起きてる米不足はこの物語を読んで起きたのではないかと何度も思う。
アブラムシに食べられて助けを呼ぶ植物。テントウムシに助けられる。
香りや呼び声をもつ植物。
これは新鮮だった。
ファンタジーではあるが、真に感じられた。
登場人物が多いし、親子、兄弟、両親、祖父母の関係が覚えきれず、対立関係も良くわからないで読み進めてしまった。
Posted by ブクログ
全巻読み終わりました。
とにかく登場人物が多く何度も「これって誰だっけ?」となりながら読み進めました。
最終的にどうなるのかここまで読んできましたが、ハッピーエンドでよかった!
自然界と人間の共存をテーマとした壮大なストーリーでしたが、次どうなるのかとハラハラしながら読み進められました。
Posted by ブクログ
ははあ、こう言う結末になるのかあ。
ちょっと思ってたのと違った。
最終巻。
異郷の蝗害の脅威の前で国家としてどう対応するのかと言う選択を迫られる展開。
なのでファンタジーよりも政治の話が前面に来た感じがする。
その中でアイシャの香君としての決意と立場が国を動かすわけだけど、ちょっとすんなりとは腑に落ちなかった。
作者の物語としては珍しくご都合主義というか、そんな簡単に行くかなあというのが素直な感想。
この混乱の中、人を動かすのならもっと劇的な奇跡が必要な気がする。
それと最後まで神郷の秘密が謎のままになってしまったのも残念。
それもあってスッキリしないのだろう。
その辺、続編とか書いてもらえないだろうか?
切に^^
Posted by ブクログ
この物語はもっともっと続くものだと思ってた…それくらい世界観とか人物描写が丁寧だったので、4巻を手に取ってこれが最終巻だと気づいたときすごくびっくりした。
もっと読みたかったなあ…でも最後のアイシャの演説シーンの満足感やこれからアイシャが歩んでいこうとする道のりがわかるラストはよかった。
久しぶりに上橋菜穂子先生の作品を読んだけど、作品のテーマになる動物や植物などへの知的好奇心や学びの姿勢は本当に尊敬する。
わたしもこういう博学な人になりたい…