あらすじ
香りの声が渦巻き荒れ狂う。手に汗握る第3弾!
虫害によって国の威信が揺らぐ事態に陥ったウマール帝国。その危機を打開する方法が見つかるが、アイシャは、なぜか、その方法に不安をおぼえる。そんな中、天炉山脈の聖地で、ひとりの男が発見される。男に会うために天炉山脈に向かったアイシャとマシュウは、驚愕の事態に遭遇するのだった――。
胸に迫る圧倒的世界観の第3幕!
※この電子書籍は2022年3月に文藝春秋より単行本上下巻で刊行された作品の、文庫版を底本としています。文庫版は4巻構成となります。
単行本『香君 上 西から来た少女』 → 文庫版『香君1 西から来た少女』/『香君2 西から来た少女(ともに2024年9月発売)
単行本『香君 下 遙かな道』 → 文庫版『香君3 遙かな道』(2024年11月発売)/『香君4 遙かな道』(2024年12月発売予定)
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Posted by ブクログ
「なにか呼んでいる、遥か遠いものを」
その帯を目にした瞬間、胸の奥で小さな気配が動きました。
――呼ばれてはならないものが、呼び出されてしまうのだ、と。
ミリアに攫われたアイシャたちが見た、
海辺で風に揺れるオアレ稲。
本来そこにあるはずのない生命の姿。
そして、〈絶対の下限〉を越えて育てられた稲が放つ、
「来て」と囁くような気配。
応じる生き物のいないその声は、
ひどく静かで、どこか不吉でした。
やがて見えてきた“救いの稲”という名。
政治のために掲げられた旗のようなその言葉の下、
遠い異郷からマシュウの父が戻る知らせが届きます。
そこで出会ったのは、マシュウに似た男と、
空気をざわめかせるほどのバッタの群れでした。
その瞬間、私は自分の大きな勘違いに気づきました。
ずっと“虫害”は“蝗害”のことだと思い込んでいたのです。
オオヨマがそのままバッタなのだと、
何の疑いもなく読み進めていました。
けれど、マシュウの父とバッタの描写が現れたとき、
胸の内を冷たい風が抜けていきました。
――今まで描かれていたのは、あくまで“虫害”だったのだ、と。
別の作品で蝗害の恐ろしさを読んだ記憶があり、
大地を飲みこむような、雲のようなその気配を思い出すと、
物語がこれからあの惨禍へ向かうのだと想像して、
背筋がすっと冷えました。
実際の描写は悲惨さをあまり帯びていませんでしたが、
“鈍い雲”のように現れる天炉のバッタの群れを思うだけで、
心がわずかに凍りつくようでした。
オオヨマを食べて増え、産み落とされた若虫が
次のオアレ稲へと飛んでいく。
その繰り返しの中で広がっていく気配を前に、
自分ならきっと無力感に押しつぶされてしまう――
そんな想いも、静かに胸に落ちました。
それでも、広がりがなんとか抑えられたとき、
深いところからふっと息が抜けるような安堵がありました。
そして今、最終巻へ向かう道の先で思います。
バッタよりも大きなものが現れるのか、
それとも物語は異郷へ向かうのか。
その行方を思うだけで、
まだ見ぬ遠い景色が、そっと呼んでいるようです。
Posted by ブクログ
オオヨマに食われず、海辺でも栽培できる上に収量も増える救いの稲。しかし異郷との通い路が開き、救いの稲やオオヨマを食べて増えるバッタが大量発生する。帝国から下賜されるオアレ稲に頼って生活する故に、その稲が打撃を受けると餓死の危機に瀕する藩王国のあり方と、食料自給率が低く、輸入品に頼らないと人口を賄えない現代日本が重なって恐ろしくなる。
Posted by ブクログ
後半から一気に不穏な状況で、虫の薄気味悪さも相まって息つく暇もない。アイシャが感じる救いの稲の正体不明の怖さは何なのか…。稲がなければ飢えるから栽培地の人たちがオアレ稲を焼き尽くすことに同意できないのは当然のことだと思うけど、より多くを救うためには犠牲も必要でもどかしい。虫害も一筋縄ではいかない展開。初代香君の絶対の下限の真意が気になる。
Posted by ブクログ
やっぱりそうなるよなあと言うのが素直な感想。
掟を無視したオアレ稲の栽培で勃発する異郷からの蝗害。
古き記録に記される災害の再来か。と言う展開だった。
詳細は異なるがこの展開は実は一巻を読んだ時からある程度予想できた。
その時、真の香君アイシャの活躍は? と期待していたのだけど、今巻ではまだ戸惑いの中にいるようだ。
ひとまず蝗害は終息するのかと思わせてラストで不穏な引き。これまたそうなるよなあと思ってしまった^^
この先はおそらく神郷に向かう展開になるのではないかと思うのだけど、そこに何があり、アイシャの母親たちがどんな存在なのか?
大き謎が解き明かされ、危機は乗り越えられるのか?
ミステリの最終章のような最終巻が楽しみ。
Posted by ブクログ
またしても気になる終わり方。それにしても、上手くいくかと思えば新たな試練が襲ってくる。それも乗り越えられそう…と思ってたらまたしても、ときりがない。そりゃ、そんなに簡単にいくわけはないのだけれど。
前にも書いた気がするけど、この作品にでてくる人たちは、基本的に自分の「なすべきこと」のために動いているから、負担なく読める。あと、オリエとアイシャが仲いいのがいいなぁ。人物同士が無駄にギスギスしてる作品って読んでいて疲れるから。(必要性がある場合は別です。)
あと、前作の『鹿の王』を読んでいた時にも思ったのだけれど、結構専門的な話が出てきても、小難しくなく書かれているので頭に入りやすい。単なる説明台詞とか、作者のうんちく披露とかだと頭に入らないから斜め読みしてしまうのですが、上橋さんの作品はそうならない。おかげでページを繰る手が止まらないです。
さて、いよいよ最終巻。4巻も一緒に買ったことだし、早く続きを読もう…!
Posted by ブクログ
すごく面白い。マシュウの父親が異郷から戻ってきて、バッタのような虫が飛来して、初代香君の時の出来事が起こって来て面白い。異郷とは何なのかその謎もすごく気になる。
Posted by ブクログ
自然の営みの中で、人間がやってしまったことの大きさと、できることの小ささを感じた…
まさに起承転結の転の話で、相変わらず読みやすいけど、今回は蝗害のことが物語の多くを占めていた。登場人物の掘り下げがあまりなかったが、次巻が完結編なので、そこで様々なことが明かされるだろうなあという感じなので、楽しみ。
印象的だったのは、次の栽培地へ飛んでいく若虫がふっと落ちて死ぬシーンで、アイシャがその虫にとっての「生きること」に思いを馳せる。
蝗害と捉えると、得体の知れない恐ろしい災害に思えるけど、虫一匹にも短い生の中で子孫を残すために必死で飛んでいる…という考え方は、とても親しみがあった。
虫は苦手だけど、たまにそういうことを考えるので…
あと、蝗害とか橋頭堡とか知らない言葉が出てきて勉強になった。