あらすじ
アルメニア使徒教会の殺人事件後に続いた同様の殺人事件。両耳の鼓膜を突き破られ、周囲には、血文字で書かれた聖歌『ミゼレーレ』の歌詞。元警部と薬物依存症に苦しむ刑事というはぐれ者ふたりによって明らかになっていく聖歌隊の少年たちの失踪事件と、殺された指揮者の秘密。彼は、ピノチェト軍事政権下の南米チリから亡命してきたドイツ系チリ人だった。南米のナチ残党と秘密兵器研究、謎のカルト教団のコロニー……。そして明らかになる、捜査権のない二人の驚くべき過去。グランジェの強烈な筆致に読者は翻弄され息を吞むこと間違いない!
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Posted by ブクログ
怨恨か、ヘイトクライムか、国家の垣根を超えた陰謀か、
二転三転、時には振り出しに戻り、どこへ連れて行かれるか予測できないページターナーで一気読み。惨い描写もあり、魂の傷付いた刑事と元刑事2人の捜査は地獄巡りの様相を帯びるも目を逸らすことは出来ない。
Posted by ブクログ
ジャン=クリストフ・グランジェ『ミゼレーレ 下』創元推理文庫。
下巻に突入。型破りのフランチ警察ミステリーである。何しろ、捜査権を持たない62歳の元刑事とヘロイン依存症で休職中の若手刑事がコンビを組み、謎のベールに包まれた巨悪に挑むのだ。
久し振りにグランジェ劇場を堪能した。
アルメニア使徒教会で聖歌隊指揮者でオルガン奏者のウィルヘル・ゴーツが謎の凶器で両耳の鼓膜を破られ、殺害された事件を切っ掛けに、同様の殺人事件が連鎖していく。周囲に血文字で書かれた聖歌『ミゼレーレ』の歌詞。
捜査権のない元刑事のカスダンとヘロイン依存症で休職中の刑事ヴォロキンにより明らかになる聖歌隊の少年たちの失踪、南米のナチ残党の兵器研究、謎のカルト教団の存在。ついに2人の驚愕の過去が明るみになり、2人に絶体絶命の危機が訪れる。
2人が掴んだ衝撃の真実とは……そして、大いなる謎を残したままの結末。
本体価格1,300円
★★★★★
Posted by ブクログ
2025年の12、13冊目は、フランスの誇るジャン=クリストフ・グランジェの「ミゼレーレ」です。
タイトルの「ミゼレーレ」は、イタリアの作曲家グレゴリオ・アレグリが、旧約聖書詩篇第51篇を元に作曲した合唱曲です。この合唱曲が、当然ながら全編を通して大きな鍵となって来ます。アルメニア使徒教会で聖歌隊の指揮者が殺害されます。更に関連したと見られる殺人事件が続けて起きます。最初は、グランジェお得意のバロック風ミステリーの体で展開して行きますが、徐々にカルト宗教に絡んだテロ話に集約して行きます。(オウム真理教も言及されています)そして最後は、要塞化されたような宗教施設に乗り込み、まるでC.J.ボックスのジョー・ピケットばりのアクションシーンでエンディングを迎えます。
主人公は、停年退職した元殺人課の刑事カスダンと青少年保護課の刑事ヴォロキンです。老刑事と青年刑事の組み合わせもグランジェのお得意で、「クリムゾン・リバー」を彷彿させます。そして、この刑事は2人共に大きな問題を抱えています。
一番の読みどころは、事件の顛末よりも主人公2人のキャラクターと衝撃過ぎる過去ではないでしょうか。カスダンの過去にはやられました。流石、グランジェと言った所でしょうか。
☆4.6
Posted by ブクログ
これでもかと続く拷問実験の描写に嫌悪しながらもカスダンとヴォロキンの動きに目が離せられない。
事件の真相に近づく度に消される参考人達。もう紙面が残りわずかなのに、と言う所で明かされるカスダンとヴォロキンの本当の過去。犯人との対決。最後が早すぎて気持ちがついていけなかった。
Posted by ブクログ
グロかった。
カスダンの過去、ヴォロキンの過去も明るみなるし、2人とも信頼し合ってるようでなにより。
声を武器にするってまぁ、突拍子もない考えだけど、せっかくなら使ってみて欲しかった。
あと数ページしかないのに結末が見えなくてもしかしてハルトマン倒さないで終わる?ってドキドキしたけど、ちゃんと決着つけてくれてよかった。
Posted by ブクログ
上下巻合わせて。
パリの教会で、聖歌隊指揮者兼オルガン奏者が殺される。遺体の両耳の鼓膜は破られ、周囲に血痕があった。あまり大きくない足跡も。
凶器は見つからなかったが、この教会に通っていたアルメニア出身の元警部リオネル・カスダンは、これは事故や病死ではなく、殺しだと直感した。そして退職後の身でありながら、この事件を追いかけることにする。
被害者は両耳の間を貫通するように細長いもので刺されたと考えられた。そのような殺害法を実行するには強い力でかつ正確に急所を狙わなければならないだろう。
一方、被害者の内耳にはいかなる微細な金属片も残されていなかった。凶器はどのようなものなのか?
被害者は聖歌隊の少年たちを指導していた。彼らの中の誰かが、遺体の傍にあった足跡の主なのか。誰か、事情を知るものがいるのではないか。
カスダンのほかにもこの事件を追うものがいた。青少年保護課刑事のセドリック・ヴォロキン。薬物依存者を追うにあたり、自らも中毒者となってしまっていた。依存症治療のため、休職中である。しかし、教会での殺人、そして少年たちが関わっている可能性が、彼をこの事件に引き付けた。
かくして、カスダンとヴォロキンのはみだし者バディが不可解な事件に挑むことになる。
事件はこれでは終わらなかった。
同じような殺され方をするものが次々と現れた。決まって両耳の鼓膜が破られ、付近には子供のものと疑われる足跡があった。遺体の近くには、被害者の血で意味ありげな文言が書かれていた。
血を流しし罪よりわれを助けたまえ、
わが救いの神よ、
わが舌は汝の義を歌わん。
聖書の詩篇からの一節。アレグリ作曲の聖歌『ミゼレーレ』の歌詞である。
別の被害者の近くにも、また別の一節が。
最初の被害者の部屋にはこの曲のCDが遺されていた。しかも、CDの指揮者は被害者自身だった。
この曲が事件の鍵を握るのか・・・?
・・・ここまででもかなりてんこ盛りなのだが、本作、これでもかといろんな要素が詰め込まれ、あっと驚く展開も多い。
チリ軍事政権の闇、ナチスの残党、凄惨な拷問、カルト教団のテロ事件、国家の中に存在する「自治領」。少年による残虐な犯罪。
少しずつリアルを混ぜ込みながら、目くるめくフィクション世界が繰り広げられる。そう、それは、「ない」とはわかっていても、どこか「ある」ように感じられる世界線だ。
主人公の2人とて、実は一筋縄ではいかない。それぞれ、秘密の過去を持つ。その過去があってこそ、この事件にこれほど執着するのだ。
ノンストップの展開の果てには、映画ばりのアクションシーンも。現実的にはどちらが勝つかは自明だと思うのだが、さて。
そして、ああ、ようやく解決した、と読者が一息つく間もなく、最後の一行には爆弾が仕掛けられている。
安心させる隙を与えず、どこか不穏な空気を孕んだまま、物語は閉じられる。
好き嫌いはあるかもしれないが、そして個人的には好きというには少し色彩が強すぎる感があるが、怒涛の「サービス精神」には恐れ入った。