【感想・ネタバレ】二つの祖国(四)のレビュー

あらすじ

極東国際軍事裁判の苛烈な攻防戦も終盤を迎え、焦土の日本に判決の下る日も近い。勝者が敗者を裁く一方的な展開に、言語調整官として法廷に臨む賢治は、二つの祖国の暗い狭間で煩悶する。そして唯一の慰めであった梛子の体に、いつしか原爆の不気味な影が忍び寄る……。祖国とは何か。日系米人の背負った重い十字架を、徹底的な取材により描ききった壮大な叙事詩の幕が下りる。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

第4巻目は東京裁判の後半部分が展開される。
天羽賢治は東京裁判の言語調整官として、日々の裁判に臨んでいた。
裁判が進むにつれて、勝者が敗者を裁く様相が明確に成っていった。
最初は公正な裁判を望んで、その一助になればと思い、臨んだ賢治であったが、
裁判が進むにつれて、その実相は裁判という体裁を整えただけの、勝者が敗者を裁く不正な内容だった。
賢治は裁判が進むにつれて、煩悶する日々が続いた。
日本に来ている賢治の妻エミーとも夫婦喧嘩が絶えなかった。
かつての同僚の椰子との付き合いにだけ、心が癒される賢治だった。
椰子は広島での被ばくが元で白血病になる。
日々衰えていく椰子を、裁判が忙しく見舞いにも行けない賢治は、ますます苦悩の日々が濃くなっていく。
椰子が重体の知らせを聞いた賢治は、すぐにでも駆け付けたかったが、裁判中に、それは許されなかった。上司になんとか許しを得て、極秘に広島に向かったが、間に合わなかった。
死ぬ直前まで、「ケーン、ケーン」と言っていたと椰子の妹の広子から聞き、その遺体を見て賢治は慟哭した。
傷心の賢治は東京に戻った。
やがて、判決の時が来た。
戦争犯罪人となり、7人が絞首刑の判決を受けた。その中の一人は文官であり、どう見ても死刑の判決はおかしいと賢治は思ったが、モニターである賢治は判決に一切の口出しはできなかった。
裁判中に審議された、アメリカの原爆投下についても文書からは削除され、何も問題にされなかった。
日々疲れていく賢治は自分のしていることは何なのかと煩悶の日々は続く。
そんな中、賢治にCICからアメリカについての忠誠の嫌疑がかかり、査問される。
自分はアメリカに懸命につくしているのに、どこまで行っても人種差別され、嫌気がさして軍隊を辞めてしまった。
一方、かつて椰子の夫であった、チャーリー宮原は、軍隊を辞め、華族と結婚し、結婚式が済むとアメリカへ行ってしまった。
賢治の弟、忠は生前の椰子の言葉によって、賢治とのわだかまりが解消していった。
忠は日本に残った。
裁判が終わり、妻のエミーと二人の子供は先にアメリカへ帰した。
チャーリーの結婚式を中座した賢治は宿舎へ戻り、軍隊の制服とピストルを返却する用意をした。
弟の忠から連絡があり向かったはずが、どういう訳か、誰もいない裁判所に着いてしまった。
裁判では、「被告を絞首刑に処す」と言わされた。
賢治は虚無感に襲われ、ピストル自殺をする。
死ぬ瞬間の賢治の脳裏には、星条旗と日章旗がはためいて、砂漠の砂塵が濛々と容赦なく吹き付け、果てしなく続く鉄条網が焼き付いた。

悲しい結末で終わってしまった。
この物語はフィクションであるが、巻末にある作者が取材した協力者の氏名と膨大な参考文献から、史実を忠実に再現した物語だ。
この物語を読んで、戦中戦後の日系人の苦悩が初めて分かった。
テレビでもNHKの特集番組か、なにかで東京裁判の様子を流していたが、そんなものかと興味が無かった。
戦犯として、極悪人に仕立てあげられた東条を含む死刑囚7人は普通の良識人であったようだ。
本物語で、その様子が理解できた。
偉大な作家のご冥福をお祈りします。

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2024年01月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

山崎豊子さんの作品は悲劇的なものが多いなぁ・・・・・。  「白い巨塔」しかり、「華麗なる一族」しかり、そしてこの「二つの祖国」しかり・・・・・。  なまじこれらの作品の主人公たちが途中までは強靭な精神力の持ち主として描かれているだけに、最後が・・・・。  

個人的にはこの作品に於いて、賢治と梛子さんの恋愛エピソードは不要なものに感じました。  もちろんあの時代にアメリカの日系人迫害を逃れたアメリカ国籍を有する日系2世の人が広島で被爆したというエピソードと彼女が最期に漏らす「私はアメリカの敵だったのでしょうか?」という問いかけはとても重要だと感じるし、この物語の中で別の形でなら出てきて然るべき話だとは思うけれど、本妻エミーとの不仲とか友人の元ワイフとの恋愛模様っていうのはどうなのかなぁ・・・・。

なまじそこに恋愛関係を持ち込んだことにより賢治の絶望感の深刻さがちょっと別物になってしまったような印象を受けるんですよね。  初読の20余年前にはこの「悲劇性」にただただ感情的に埋没しちゃっていて、気が付かなかったことなんですけど・・・・・。  本来この小説は「国家と個人」というテーマを真摯に扱う物語になるべきだったところ、そのいとも厄介なテーマをやんわりとオブラートに包んで終わらせちゃったような気がして仕方ない・・・・・。  

実際、この物語が執筆された時代(≒ KiKi が若かりし時代)には、KiKi をはじめとする多くの若者があの戦争を過去のものとして忘れ去り、同時に過去の「国粋主義」への反省(?)からか、個人主義にどんどんはまっていって、挙句、KiKi のように「愛国心が薄い」という自覚のある世代をじゃんじゃん生んでいた時期だったわけで、そうであるだけにそこに何となく読者に媚びているような、敢えて軟派を気取っているような不自然さに近いもの・・・・を感じてしまいました。

もっともあの若かりし頃にはこのエピソードがなかったら、あまりにも重すぎるテーマに軽佻浮薄に日々を過ごしていた KiKi は放り出してしまっていたかもしれないのも又事実(苦笑)で、そうであればあの「東京裁判」を知らなければならないという義務感のようなもの・・・・・を感じることさえなく、この歳まで生きてきてしまったかもしれないんですけど・・・・・ ^^;

「正義」、「祖国愛」、「国益」という耳触りだけはいいものの、実際にそれが何を表しているのか、人によっても解釈が異なるし、その守り方も立場が異なれば違ってくるものが、「すわ、一大事」ともなれば大手を振るって個人を抑圧する・・・・・。  なまじバランス感覚を大切にしようと努力する個人がそこにいると、その環境下でもがけばもがくほど、その圧迫感は真綿で首を絞めるかのように、個人を支えている大切な何かを絞め殺していく・・・・・。

賢治は「大和魂(民族の文化)を体現した良きアメリカ国民たろう」としていたわけだけど、平時であればそれは1つの生き様として称賛されたかもしれないことが、戦時という特殊状況の中では命取りになってしまった好例なんだろうと思うんですよね。  逆にそういう「民族」とか「文化」とか「生まれ育った環境」といったものに無頓着であれば、彼ほど悩みを抱えることもなく、絶望することもなかっただろうに・・・・・と思わずにはいられません。

彼の絶望は彼が辿ってきた苦難の人生(収容所送り、収容所における「踏絵」的な思想テスト、下の弟のヨーロッパ戦線での戦死、上の弟と戦場で相まみえ誤射、その弟との間のわだかまりに満ちた日々、妻のレイプ事件、梛子の被爆による白血病発症と死亡、軍歴、東京裁判での判決翻訳)を経てもなお、疑われ問われるアメリカ合衆国への忠誠という一事に尽きると感じます。  常にギリギリの妥協点でアメリカ国民であろうとし続けた人生の全てが否定されたと感じられた瞬間、しかも自分がギリギリの線で選んできた祖国アメリカが為した「東京裁判における偽善」の罪深さに、彼を支えていた何かがプツリと切れたのだろう・・・・と。

ただ、今回の読書で KiKi が感じたことはもう1つあって、賢治はある意味であまりにも純粋(? 頑な?)に「話せばわかる」という幻想に近いものを抱き続けてしまった人だったのではないかなぁ・・・・と。  以前、梨木香歩さんの「春になったら苺を摘みに」の Review でも書いたことだけど、あの本の中に書かれていた

「信念を持ち、それによって生み出される推進力と、自分の信念に絶えず冷静に疑問を突きつけることによる負荷。  相反するベクトルを、互いの力を損なわないような形で一人の人間の中に内在させることは可能なのだろうか。  その人間の内部を引き裂くことなく。  豊かな調和を保つことは。」
の「互いの力を損なわないような形で1人の人間の中に内在させること」を目指した賢治は結局は「その人間の内部を引き裂かれ」てしまった人だったのではないのかなぁ・・・・・と。  実際、彼のまわりには彼の立ち位置を理解・・・・とまではいかないまでも納得・受容してくれていたアメリカ人が全くいなかったわけではないし、そういう意味ではアメリカで教育を受け、アメリカ国籍を保ちながら広島で原爆後遺症に苦しむ人々と寄り添う梛子の妹広子のように、たった一つの教会が見せてくれた誠意だけで生きる力を得ることができた人もいるわけで・・・・・。

いずれにしろ私たち日本人は今の日本で暮らしている限りにおいては賢治と同じような苦悩とは無縁の生活を送ることができます。  そしてこの日本国の大きな経済力というお守りを引っ提げて、海外では比較的安全に観光なりビジネスなりをすることもできています。  これって決して当たり前のことではないということ、例えば現在のアメリカや西欧社会(実は日本も含め)でも人種差別は決して過去のものではないことを忘れてはいけないと感じました。

(全文はブログにて)

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2012年06月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

前巻から続く東京裁判も個人弁論に入り、判決へと向かっていく。
そして賢治の心は、更に重苦しく重大な展開を見せるモニター、翻訳の仕事と、私生活における葛藤とストレスで次第にすり減っていく。

二つの祖国を持つという特殊性から、どちらからも疑われ、疎まれ、それでも忠誠を貫こうともがき苦しむ賢治の姿には、もはや悲壮感しか感じない。
この話自体はフィクションではあるが、天羽賢治のモデルのように、似た苦しみに苛まれて命を絶つことになってしまった人のことを忘れてはならないだろう。

また、あまり知らなかったアメリカにおける太平洋戦争中の日系人への差別行為、東京裁判について知ることができたのは大きい。
もちろん、この本だけで理解したつもりになってはいけない分野。
太平洋戦争についての話題は、右翼だ左翼だとレッテル貼りの応酬になっている印象なので敬遠してきたのだが、日本人として少しぐらいは知っておくべきだと感じた。

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2018年06月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

仕方ないとはいえ、東京裁判の引用のくだりは冗長だと思う。
また、山崎豊子の作品に共通することだが、あまりにも主人公が生真面目すぎ不器用で、少し現実離れしているかなとも思う。
まあ主人公の中に葛藤があるから作品が面白くなるので、凡人のようにその場の雰囲気に流されるままならば作品にはならないのだろう。

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2017年09月18日

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