【感想・ネタバレ】台湾の少年1 統治時代生まれのレビュー

あらすじ

一九三〇年,日本統治時代の台湾に生まれた蔡焜霖(ルビ:さいこんりん)は,読書が好きな少年で,教育者になることを夢見て育った.戦争の色濃い時代は日本の敗戦で終わったが,戦後は国民党政権による新たな支配が始まり,ある日,町役場で働く焜霖のもとへ憲兵が訪ねてきて…….白色テロの深い傷を描いた台湾の傑作歴史コミック,第一巻.※この電子書籍は「固定レイアウト型」で作成されており,タブレットなど大きなディスプレイを備えた端末で読むことに適しています.また,文字だけを拡大すること,文字列のハイライト,検索,辞書の参照,引用などの機能は使用できません.

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Posted by ブクログ

漫画の4分冊の大作といえば私は「アドルフに告ぐ」(手塚治虫)を思い出す。私が大学時代に読んだ「初刊『アドルフに告ぐ』(文藝春秋刊全4巻)」のことだ。だが「アドルフ~」が史実を下敷きとしながら登場人物のほとんどは手塚の創作なのに対して、「台湾の少年」は蔡焜霖という実在した台湾人の波乱の生涯が脚色された物語だ。

ところで私が改めてこの本の読後に愕然としたのは、私が台湾の歴史をあまりに知らないという事実を突きつけられたことだ。私が「アドルフ~」を読んでいた1980年代後半の大学生の頃までに並行して、台湾では1987年7月15日に解除されるまで、1949年5月に発布された戒厳令が数十年継続していたのだ。日本で社会的な緊張感に押しつぶされることもなく大学生になった私だが、この本を読んで、改めて考えた-私が蔡さんと同じ状況に置かれていたら、蔡さんに劣らないような生き方ができたのか。私に蔡さんほどの“強さ”があっただろうか。そして私に蔡さんほど人を引き付ける力があったのか、と。

だがこの本は重苦しい内容だけではない。強権的な政治体制とつらい境涯が差し挟まれるものの、蔡さんの人生の豊かさを表す多くのエピソードにこそ私は引き付けられた。その一部を私なりに選び出すことがこの本のレビューにふさわしいと考え、書き進めていく。

1巻。幼稚園児の蔡さんが、帰りに同級生の妹と連れ立って帰ることに。男子同士でわいわい騒ぎながら帰るのとは違い、先生からだめと言われていた寄り道をして、道に落ちたサトウキビの皮を剝いで中の繊維を吸いながら歩くなど、秘密を含んだ甘い雰囲気に包まれて蔡さんも楽しい時間を過ごす。他人から見たら小さなことかもしれないけれどそれに似た甘い思い出が私にもあった。でも実は先の各巻では、その妹が蔡さんの人生にとって重要な存在となって現れる。1巻ではまったくわからないけれど。

2巻。意思に反して家族と離され、知らない土地で知らない人たちに囲まれて暮らすことになった蔡さん。そんなつらいなかで彼らが声を合わせて歌う「ダニーボーイ」は、その歌詞の内容とともに心にしみた。歌の力。普段は気づかないけれど、こういうときに大きな力をもたらしてくれる音楽こそがいい音楽だとわかった。まさに「ショーシャンクの空に」の主人公にとってのモーツアルトのように。
なお4巻でも蔡さんが日本語で聞いて感銘を受けたという「千の風になって」を歌う印象的な場面が出てくる。つまりこの物語の特色のひとつは、数々の美しい歌が効果的に使われていることでもある。

3巻。蔡さんの仕事人としての紆余曲折が描かれるなかで、あるエピソードに目が留まった。1968年のシーズン前に読売ジャイアンツが台湾でキャンプしている。当時の台湾政府はバスケ(籠球)を推していたらしいが、蔡さんは野球のチームプレーこそ台湾で流行する素地ありと先読みしていた。2024年の世界野球WBSCプレミア12の台湾での盛り上がりは、先見の明としてそれを証明しているだろう。蔡さんは自分が発行する雑誌の企画で王貞治選手にインタビューしているが、巨人軍の台湾遠征と王選手の当地での人気ぶりは「巨人の星」でも描かれて知っていたので、「あの話のことか」と思わず笑みがこぼれた。

4巻。時は流れ、大学に勤める游珮芸さん(女性です)は、当時講演などで自己の体験を伝える活動をしていた蔡さんと出会う。游さんの大学生時代は戒厳令解除と重なり、当時感じた「どうして歴史の教科書には何も書いてなかったんだろう?」という思いは、蔡さんという実在の人との出会いによって強められる。だがその思いは別に台湾の人だけが持つものではないはず。
また、蔡さんが游さんへ言った「自分で経験してなきゃ、ぼくだってこんな残酷なことが台湾で起こっていたなんて信じられないですよ」のひとこと。これも袴田さんのことを思って「台湾」を「日本」と読み替えてみればいい。
このレビューをここまで読んだ人ならば、北朝鮮などの他国を考える前に、この物語には日本の現在進行形の事象にも重なる自分に身近なテーマがあると容易に想像できるものと信じたい。

以上、1巻から4巻までで印象に残った点をあげてみた。わざと目を背けたくなるような場面をあげるのは避けた。それでも私があげた限られた記述からでも、この本が読んで興味深く楽しい内容だという核心が伝われば、私の喜びである。

翻訳者の倉本知明さんも似た考えだと思う。この本の翻訳には倉本さんならではの工夫がある。蔡さんと同様の教育を受けた人の多くは日常語の台湾語のほかに日本語と北京語を話せるが、台湾語の日本語訳には「もちろんじゃ、もう予定あけとるが」のように、岡山県出身の私の妻が話す方言に近い言葉が使われている。倉本さんの略歴を見ると香川県出身。台湾の地域性を考えると、東京弁(標準語)よりも自分が使ってきた地の言葉のほうがふさわしいと思ったのだろう。うまいと思った。耳慣れない言葉が出てきても妻に聞けばすぐに意味がわかるし(笑)。

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2025年01月05日

Posted by ブクログ

日本統治時代に生まれ育った子。故郷のことば台湾語、政府としてやってきた北京語、50年という長い統治で現地に根付いてしまった日本語。マルチリンガルに育ち、日本統治下とはいえ、絵のタッチが示す子ども時代は牧歌的でもあり洗練されている
太平洋戦争、なんて今は言わないのかもしれないが日中戦争に日本側として訓練や労働となり、そのあとくる、国民党、中華民国政府の台湾[統治]

台湾の人々が往々にして先進的でしなやかであることが理解できる。まず入り口の第1巻。
美しい絵、美しい言葉。残していくべき記憶。

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2023年07月23日

Posted by ブクログ

台湾で日本統治から敗戦及び国民党が来てからの台湾の少年の話であった。小学生、中学生、高校生と仕事ということの間に戦争と政治に翻弄される少年の姿を描いている。
 説明かと思ったらマンガであった。

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2023年01月20日

Posted by ブクログ

この漫画は、日本統治時代の台中に生まれた蔡焜霖(さいこんりん)を主人公に戦後台湾の白色テロの時代が描かれている。

第1巻は戦争に負けた日本が撤退。国民党政権による新たな支配が始まり、2・28事件を経て1950年代からはじまる白色テロの時代開始までが描かれる。町役場で働いていた焜霖のもとへ憲兵が訪ねてきていきなり拘束されるところまで。以下、続刊。

今はオシャレなカフェになっている「宮原眼科医院」が目医者さんとして登場しているのも見逃せない。読書好きな蔡焜霖は目を悪くして、この宮原眼科でメガネを作り、以後、蔡焜霖のトレードマークとなった。

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2022年08月18日

Posted by ブクログ

文章が少ないので、とてもあっさりと読めてしまった。
裏に含んだ内容はとても深いはずなのに、あっさりと読んでしまっていいものなのか…?
もしかしたら、そこにこのマンガの凄さが隠されているのかもしれない。
このマンガを軸として、歴史を肉付けしていく、というのが良いのかもしれない。

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2024年04月14日

Posted by ブクログ

訳あって、3巻から逆読みしています。統治などの社会的変化の激しさが印象的です。3度も青年期までに大きな変化があり、価値観が変わっていて、とてもハード。おおきなより広い家族も含めた人間関係が支えにはなったのかもしれません。それでも社会の不条理に耐えるうる関係にまでなっているのはそれを大事に思いはぐくむと同時にそのちからが人のなかにあったのだろう。柔らかい絵柄で淡々と描かれている感じだけれども、読むと様々に思いが広がって
考えさせられる内容です。

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2023年07月02日

Posted by ブクログ

台湾が戦時中日本に占領されていたという知識はあるが、その実態がどういうものだったかということは知らなかった。そこで生まれ育った人たちは学校では日本語が母語で、家庭では台湾語が母語で、占領が終わったら今度は北京語を習わないといけなくなった。そんな経験をされた人たちがいることを忘れてはいけない。

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2023年05月22日

Posted by ブクログ

ブックガイドとか書評で複数回目にする機会があり、それは読んどかないと、ってことで。マンガだから取っつきやすいってのも大きい。台湾有事を頻繁に見聞きするけど、その歴史はと問われると、殆ど知識が無いことに気付き、情けない思いにとらわれる。その点、読み易く漫画で描かれた本書は重宝する。物理的な距離感のみならず、日本との関係も色濃い訳で、やっぱり無関心ではいられない。本書を入り口に、ノンフとかも紐解けたらな、と。

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2023年10月13日

Posted by ブクログ

白色テロ時代の台湾について知りたくて。
政治犯の疑いをかけられ、10年間を収容所で過ごし、出所後は出版人として生きた蔡焜霖氏。温かく楽しげな幼年時代と、重苦しい緑島収容所生活の隔絶が、描線の変化でも表現されていて、読んでいて胸にせまった。たくさんの国で、過去にも現在にも、こういう理不尽があることを思うと、人間の闇の深さに苦しくなる。
現在の台湾に至るまでに、台湾の人たちがどんな犠牲をはらってきたのか、たくさんの苦しさのひとつを教えてもらった。

グラフィックノベルなので、読みやすい。

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2023年06月29日

Posted by ブクログ

一夜にして自分の名前も言えない「文盲」へ変わってしまいました 言語は常にグラデーション状に広がっていて 寄る辺ない自らの感情を仮託して表現する一つの手段だったのです ホラー映画『言葉が消えた日』 香港で中国政府を批判する「焚書」を販売して拘束された 現在は白色はくしょくテロ時代の政治犯の名誉回復と

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2023年06月29日

Posted by ブクログ

1930年台中に生まれた蔡焜霖の少年時代を描いた漫画(?)。
淡々と日常が描かれていておりリアルに感じた。戦争がいつの間にかはじまって、終わって、新しい時代が始まって。
市井の人々が、いつの間にか、でも確実に時代の流れに飲み込まれていく様が、悲しい。あっという間。サマーキャンプに参加して国民党に入党させられるとかすごいな。

実際のところ、教科書に載っているような歴史的史実もこんな感じなのだろう思う。コロナもあらあらあらーと思っている間に大変なことになり、あれあれあれーとなっている間に終息したと言われる今に至る。

台湾の歴史を勉強したいと思っているので、イラスト(漫画?)とともに、読めるのは嬉しい。また台中には訪れたことがあるので、現役の宮原眼科(今はお菓子屋さん)が作中に出てくるのは嬉しい。続きを読むのが楽しみだ。もっと暗い内容はになるのかな?
20230614

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2023年06月14日

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