【感想・ネタバレ】こうふく あかののレビュー

あらすじ

「こうふく」二部作第二弾。

ふたつの物語が、交互に描かれていく。ひとつは、結婚して十二年、三十九歳の調査会社中間管理職の「俺」の妻が、ある日、他の男の子を宿す話。もうひとつは、二〇三五年、小さなプロレス団体に所属する無敵の王者、アムンゼン・スコットの闘いの物語。
三十九歳の「俺」は、しだいに腹が膨れていく妻に激しい憤りを覚えながらも、その様子を見続ける。そして、自壊し、「俺」はバリ島に向かう。バリ島で溺れかけた「俺」は、ある光景を目にする。帰国後、妻の出産に立ち会う。生まれてきた子の肌の色は黒く輝いていた。
負けることなど考えられない王者、アムンゼン・スコットは、物語の最後、全くの新人レスラーの挑戦を受ける。その男のリング・ネームはサミー・サム。肌の色は黒く、その隆々たる体躯は、チャンピオンを思わぬ窮地に追い込む。リングサイドでは、ひときわ声を涸らして応援する初老の男がいた――。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

西加奈子「こうふく みどりの」の姉妹作。
2冊で1作品、ということだが、普通に【続編】と理解
した方が良いかも。だから、もしこの作品を読もう、と
いう人が居るのなら、先に「みどりの」を読んでからの
方がおもしろい、と最初に言っておくことにします。

「あかの」の主人公は二人で、それぞれのタイムライン
の物語が交互に進む、という構成。一人は2007年の段
階で調査会社に中間管理職として勤務する男で、典型的
な「事なかれ主義」を貫くサラリーマン。
もう一人は2039年の段階で「最強」とされるプロレス
ラー。残念ながら、その時代のプロレスはかなり衰退し
ている模様。

2007年のある日、妻の突然の「妊娠報告」に狼狽する
夫。妻とは長い間夜のコンタクトが無かったため、お腹
の子どもが自分の子ではない、ということは確定。妻を
問いただし、揶揄したいという願望はあるものの、事な
かれ主義が身体に染みついている男は何をどうしたら良
いか解らない。
一方2039年、ドサ回りをしながら少ない観客の前で最
強を証明し続ける48歳のプロレスラーは、新人選手の挑
戦を受ける。対戦相手はコレがデビュー戦。普通では考
えられないシチュエーションの試合で、王者は…という
内容。

「みどりの」に比べれば、束も薄く、苦手な大阪弁表記
も無いので読みやすいハズなのだが、こちらの方が読み
終えるのにかなりの時間を要した。本当なら嫌悪すべき
な調査会社課長に多大なる感情移入をして読んでしまい、
そのいたたまれなさに読書を数度中断したのが原因。
おそらく僕も「事なかれ主義」の権化であり、問題対処
の考え方が主人公とほぼ同一。共感するたびに情けなく
なる、という、やたら精神に突き刺さる作品であった。

この作品の根底には、「みどりの」よりも数倍色の濃い
『アントニオ猪木』が流れている。『俺が今まで、猪木
のような眼をすることがあったかと、四十を手前にして
思うのは大変に辛く、ただただ手遅れであった』という
一文が、この作品の全てを表現している、と言って過言
は無い。

…僕もだ。
50年近くアントニオ猪木を見続けて来たのに、猪木の
ような眼で何かに立ち向かったことが一度でもあったの
か?そう考えると、涙が出てくる。

僕より一回り若い女性は、きっと猪木と同じ眼をして小
説を書き、結果的に直木賞を受賞した。そう考えるとか
なり悔しいけど、悔しさ以上に西加奈子という稀有な才
能をリスペクトせざるを得ない。

【こうふく】連作、凄いインパクト。目が覚めました、
本当に。

0
2021年04月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読んでいる最中は「普通かな」と思ったが、ラストと作者のあとがきがいい!2007年と2039年の二つのストーリーのつながりに感づくことができる人には全く違った景色が見えるのだろう。後先になるが、「こうふく みどり」も読もうと思う。

0
2021年08月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 39歳の中間管理職・靖男の、突然妻が他人の子を宿す話と、2039年、衰退しつつあるプロレスで、無敵の王者を誇るアムンゼン・スコットの物語が交錯するように進んでいく。
 最後は二人の物語と、こうふくのみどりともすべてがつながり、ちょっとした快感を得ることができる。

 靖男はシンプルに言うと嫌なやつだ。計算高くて、いつも周りを見下してて、自意識過剰。嫉妬に類される醜い感情が嫌いだから、いつも安全地帯から物事を見ている。嫌なやっちゃな〜と思ってふと考えると、「自分もこんなんやん。」と気付く。挫折を知らない友人にも、こういうタイプは多い。
 そんな彼が、恥も外聞も捨てて、アムンゼンに挑む姿へ「俺の息子だ!」と叫ぶことになるまでに、どんな道があったのだろう。彼が世の中で最も嫌悪していた嫉妬という感情を乗り越えるまでの期間。そこに思いを馳せると、落涙を辞さない。
 女は、膣で考えている。でも、その赤い道は、誰もが通る道だ。

 アントニオ猪木対ストロング小林戦は観たことないけど、同じ瞬間を多くの人が共有し、そして前に進んでいく。それって、なんて美しいことなんやろう。本でも芸術でもスポーツでも景色でも、人の心を動かしてくれる存在は偉大だ。

0
2016年08月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

こうふく みどりの
こうふく あかの

二つの物語の些細な繋がりを発見する度ときめく。
みんなどっかで出会った誰かを生かし、誰かに生かされてるのかなぁと思う。

主人公の奥さんの心情は、こうふくみどりのに出てくる女性が全部語ってくれる。
違う時代、違う境遇、違う相手、でもわき上がる感情はそれを全部越える。

0
2013年01月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

こうふく2部作2作目

「こうふく みどりの」とのリンクは薄い。直接的な関わりは薄いとあとがきに書いてあったのだけど、もうちょっと関連があるのかという想像は覆される。辻村作品のリンクみたいなことを想像してたのでちょっと意外だった。

プロレスを上手に小道具、伏線に仕立てていて面白い。最後の仕掛けも秀逸。伏線回収の心地よさがこの本の読み所。

主人公、スゲーイヤな奴。でもこいうところ俺にもあるんだろうなぁ。人の目を気にしすぎて生きていくというのは人間を卑屈で薄っぺらくする。もっともっと自己満でエエんかなと、この本を読んで思えた。

0
2018年06月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「こうふく みどりの」を読んでなかったら★2つだったかも。
妻が妊娠した。それは自分の子ではなく、しかも妻がバリ島へ行ったときに行きずりで知り合った現地人の子供。妻のことはもともと軽蔑しているが、常日頃、人の評価ばかり気にしている「俺」は妻の不倫の子を自分の子として受け入れる。
 その不倫の子が、成人してプロレスラーになったときに戦う相手となるアムンゼン・スコット。無敵の王者アムンゼンは「こうふくの みどりの」で、緑のおばあちゃんちによく遊びに来ていた森本栄子の孫であった。おばあちゃんちのテレビで猪木のプロレス中継を見たのが記憶に残り、プロレスラーへの道へと導かれたのだという、「こうふくの みどりの」とは猪木つながり。

この本の意味する赤は、お産に立ち会った「俺」が見た出血の赤。生々しい産道の赤。女はみんな子宮で考える、と女をバカにする俺。レスリング道場内に作られた不思議なバーが意味するものは何か。今ひとつピンとこない。

0
2011年12月04日

「小説」ランキング