冒頭に著者の経歴が披露されている。京都大学大学院を卒業後、日立製作所で半導体の開発に従事し、その後日本の半導体産業の崩壊により、日立を希望退職した。
本来の自分の能力からしてこんなハズではなかった。自分は優秀だが、半導体に関わる経営者・政府がバカだから、こんな結果になってしまったという出だしに、違和感を感じるが、その後の話の展開はそれなりに面白い。
サブタイトルには「ゼロ戦・半導体・テレビ」となっているが、殆ど著者の体験に基づく半導体の話が中心である。
日本の半導体企業は高性能大型コンピュータで養われた高品質のモノづくりに、こだわり過ぎて、安価に作る事を忘れた。
サムソンは高品質を追究するのではなく、パソコン対応の汎用製品を安価に作る事を追究し、その結果が現在の日韓の差になっていると。
面白かったのは、半導体の製造工程について詳しく述べている箇所でした。
半導体製造装置は、よりミクロンの世界へ行くにしたがって、同じメーカーの製造装置でさえ機差(機種による差異)がかなり出るので、設計行程と量産工程との機種が違っていると、量産に移行するのにかなりの時間を必要とし、また歩留まりに影響する。
日立とNECの合併会社のエルピーダメモリは、それぞれ製造装置のメーカーが違っていたので、現場では大混乱を起こして、歩留まりが全然上がらなかったというのは、現場にいた人間ならではのレポートです。
また、半導体製造装置の露光装置で機差が少ないのはオランダのASMLで、今や完全にニコンに代わりトップシェアだそうです。
ただ、半導体各社がいくら発注者(この場合トヨタ等の自動車業界)の要求とは言え、コストや歩留まりを無視して、赤字でも欠陥ゼロにこだわったというのは、本当にそうなのだろうかという疑問が湧く。製造業に携わった者であれば、コストダウン・歩留まり向上は必須の命題で、著者の説明には納得がいかないのではないだろうか。
私は歴史的な円高が汎用製品でのコスト競争力をなくし、高付加価値ではあるが、汎用品のように大量生産出来ない分野へ行かざるを得なかった悲劇ではないだろうかと思うのだが・・・
では、これからどうするか?
著者はサムソンのように模倣に徹して安価なものを作ることに専念せよと。
過去の日本企業がそうであったし、マイクロソフトや過去にはローマ文明しかり。人類の発展そのものが、模倣であった。
そんな単純だろうかと、疑問を感じるが、「模倣で成功した企業は、オリジナルを凌ぐ解決策を見つけ出している」というシェンカーの言葉の引用が印象的であった。