湯之上隆のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
最先端の半導体技術を持つTSMCが、米中どちらにつくかによって、世界のバランス何変わることは明らかだった。
ターニングポイント1
2020年5月14日、TSMCが中国ではなく米国側についた日として歴史に刻まれた。この日、TSMCが米国アリゾナに進出すること、および中国のファーウェイに対して、半導体の輸出を禁じることとなる。
ターニングポイント2
2022年10月7日の米による「10.7」規制。
狙いとしては、軍事技術に使われる恐れがある中国のスーパーコンピュータや人工知能半導体の開発を完全に抑え込むことにある。米国が強みを持っている半導体の設計図ツールやソフトウェアの輸出を禁止する他、製造装置、部品や材料の輸出を禁止、その他、技術者の派遣も認めない規制であった。これを受けて、著者は中国の半導体産業の息の根を止めてしまい、台湾有事の引き金になり得ると警告を鳴らす。
2022年12月6日
TSMCのアリゾナ工場で開設式典が行われた際、TSMCの創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏は、バイデン大統領や米アップルのティムクックCEOが参列する中で、「グローバリズムはほぼ死んだ。自由貿易もほぼ死んだ。多くの人がまた復活すると願っているが、私はそうなるとは思わない」とスピーチした。「10.7」規制は異次元の厳しさで影響が甚大すぎるのである。この言葉は重すぎる。
ところで、日本における半導体産業についてである。
日本の半導体産業は挽回不能であるという。特にTSMCが世界を席巻しているロジック半導体については、日本のメーカーは2010年頃の40nmあたりで止まり、脱落してしまった。現在の最先端は3nm。一度でも脱落すると先頭に追いつくのはほとんど不可能らしい。
では日本の残された道は?
⚫︎日本の半導体材料は日本が相当頑張っている。
⚫︎製造装置のうち、日本がトップシェアのものがいくつかある。
⚫︎欧米製の製造装置ですあっても部品の6から8割は日本製である。
これらのことから、半導体そのものには期待できないが、材料や装置に日本は高い競争力を持っているらしい。強いものをより強くすることを著者は訴えている。
最後に世界の半導体産業の危機について考える。
⚫︎ロシア、ウクライナは半導体の生産に必要不可欠な希ガスの供給国である。一時期半導体不足が話題になっていたが、希ガスの供給が止まって、半導体工場の稼働が停止したという報告まではない。ただし、今後戦争が長期化することで、世界の半導体産業に深刻な影響何出る可能性はある。
⚫︎3M社がPFAS(パーフルオロアルキルとフルオロアルキル物質)の製造から2025年末までに撤退する。私はPFASが何かも知らなかったし、半導体製造に必要不可欠出るあることなど全く知らなかった。この問題は深刻である著者は言い、しかるべき対策をとらないと、2025年には日本だけではなく世界中の半導体工場が止まるという。3M社は、PFMSが公害を引き起こしているという多数の訴訟に直面しており、その法的負担が約300億ドルであるのに対し、PFAS事業は四半期で約10億ドルしかないため、将来的に事業が成り立たないとのこと。各国でPFASの代替を開発し続けている。
もし半導体の製造が止まったらどうなるのか。
私たちが1年間でどのくらい半導体を消費しているか著者は提示しているのがおもしろい。
→2022年の1年間
半導体出荷額 約5735億ドル
出荷個数 1.1兆個
人口 80億人
→1人あたり
半導体出荷額 71.7ドル/人
1ドル134円で9608円
出荷個数 138個/人
PC、スマホ、各種電機製品、ゲーム機、車について、一人あたり138個の半導体を9608円買っている計算。
先進国は発展途上国の2倍、現役世代は子どもや高齢者残る2倍半導体を消費していると考えると、日本の現役世代は、1年間で約38,432円で552個の半導体を購入していることになる。
半導体市場はこれからもものすごいスピードで拡大し続けるが、世界情勢を見た時に、このまま半導体を需要にあわせて供給し続けることは可能なのであろうか。
半導体残る供給が止まった世界はどのようなものか。想像しても、想像しきれない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ冒頭に著者の経歴が披露されている。京都大学大学院を卒業後、日立製作所で半導体の開発に従事し、その後日本の半導体産業の崩壊により、日立を希望退職した。
本来の自分の能力からしてこんなハズではなかった。自分は優秀だが、半導体に関わる経営者・政府がバカだから、こんな結果になってしまったという出だしに、違和感を感じるが、その後の話の展開はそれなりに面白い。
サブタイトルには「ゼロ戦・半導体・テレビ」となっているが、殆ど著者の体験に基づく半導体の話が中心である。
日本の半導体企業は高性能大型コンピュータで養われた高品質のモノづくりに、こだわり過ぎて、安価に作る事を忘れた。
サムソンは高品質を追究するのではなく、パソコン対応の汎用製品を安価に作る事を追究し、その結果が現在の日韓の差になっていると。
面白かったのは、半導体の製造工程について詳しく述べている箇所でした。
半導体製造装置は、よりミクロンの世界へ行くにしたがって、同じメーカーの製造装置でさえ機差(機種による差異)がかなり出るので、設計行程と量産工程との機種が違っていると、量産に移行するのにかなりの時間を必要とし、また歩留まりに影響する。
日立とNECの合併会社のエルピーダメモリは、それぞれ製造装置のメーカーが違っていたので、現場では大混乱を起こして、歩留まりが全然上がらなかったというのは、現場にいた人間ならではのレポートです。
また、半導体製造装置の露光装置で機差が少ないのはオランダのASMLで、今や完全にニコンに代わりトップシェアだそうです。
ただ、半導体各社がいくら発注者(この場合トヨタ等の自動車業界)の要求とは言え、コストや歩留まりを無視して、赤字でも欠陥ゼロにこだわったというのは、本当にそうなのだろうかという疑問が湧く。製造業に携わった者であれば、コストダウン・歩留まり向上は必須の命題で、著者の説明には納得がいかないのではないだろうか。
私は歴史的な円高が汎用製品でのコスト競争力をなくし、高付加価値ではあるが、汎用品のように大量生産出来ない分野へ行かざるを得なかった悲劇ではないだろうかと思うのだが・・・
では、これからどうするか?
著者はサムソンのように模倣に徹して安価なものを作ることに専念せよと。
過去の日本企業がそうであったし、マイクロソフトや過去にはローマ文明しかり。人類の発展そのものが、模倣であった。
そんな単純だろうかと、疑問を感じるが、「模倣で成功した企業は、オリジナルを凌ぐ解決策を見つけ出している」というシェンカーの言葉の引用が印象的であった。