湯之上隆のレビュー一覧
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半導体有事
著:湯之上 隆
文春新書 1345
半導体の4つの軸についての解説書です
①半導体をめぐる地政学的状況
②半導体の種類:半導体とは一種類ではない、
DRAM:メモリ
スマホ向け:
自動車向け:パワー半導体&アナログ半導体
AI向け
③半導体の製造方法
④半導体産業の現状と問題
半導体は、いまや、戦略物資であり、現代の石油である
気になったのは、以下です
① 半導体をめぐる地政学
米国は、中国経由でロシアに流れている兵器へ転用されている半導体の出荷を止めたい
このために、中国に対して、半導体規制を発動している
・自身しか作ることのできない最先端の技術をもつ、TSMCが米中どちらにつくかによって、世界のパワーバランスが大きくかわる
・TSMCが米国側についたことにより、5Gで世界を席巻していたファーウェイを押さえ、半導体の歴史におけるターニングポイントになった
・ガードレールといわれる半導体の規制について、米国内で製造を行うメーカーが、中国へ最先端チップ技術への投資を禁じている。
・トップを走るTSCMへの影響は、10%であるが、SKハイニックスや、サムスンは、中国に工場をもち、40%近くの影響をもっている
・さらに10・7という規制は、スパコンやAIがらみの半導体開発についても、さらに中国を追い込んだ
・半導体の主要工程の製造装置は、日欧米のメーカーが各分野で独占している。
・中国がこの事態を打破するための、特急券は、台湾に侵攻し、TSMSの技術を奪取することだ
・このため、南シナ海、台湾海峡での軍事的緊張は増している。TSMSの製造拠点は、台湾海峡側に集中しており、たちまち軍事侵攻の影響を受けるからだ
②半導体の種類
・半導体とは、集積回路上に配置された電子回路のことである
・トランジスタを微細化していくと、他の工夫は何もせず、①高速化、②低消費電力化、③高集積化、④低コスト化の4つの相乗効果が得られる。この経験則を一言であらわしたのが、「半導体集積回路の集積率が2倍になる」という、ムーアの法則である。
一言で半導体といっても、その種類はさまざまだ
自動車がクルマをつくれなくなった原因の半導体
モーターを駆動するために必要な、パワー半導体
センサーからアナログ情報を処理するために必要な、アナログ半導体 が原因だ
コネクテッド 自動運転を制御するための AI半導体
5Gの通信制御を行う、通信用半導体 これも必要だ
この4種の半導体は、いずれも、TSMCしか生産ができないものであった
もともと、カンバンで必要な数量しか頼まない自動車メーカーは、一度オーダをキャンセルしたために、
その穴を埋めるために、TSMCは他の用途に生産ラインを振り分けたが、自動車需要が回復したときには、すでに生産能力を振り分ける
ことはできなくなっていたのが原因だ
他、メモリ、MPU,などが半導体の種類である
③半導体の製造方法
半導体は、大きく3つの工程からつくられる 設計、前工程、後工程 である
かつて、日本のメーカーは、すべてを垂直統合で作成していたが、他のメーカーとは互換性がない
一方、世界標準は、設計、前工程、後工程を分離し、それぞれ、ファブレス、EDAツールベンダー、ファウンドリー、アセンブリーに分離することにより、開発リスクを分散し、短期間で半導体を設計・製造することができるようになった
日本のメーカーが世界に負けたのは、この世界標準の波に乗り遅れたことが原因だ
【設計】
ファブレスとよばれる設計専門の半導体メーカーが、製品に合わせて、半導体を設計する
システム設計 電子製品の仕様をCコードというプログラミング言語に書き出す
アーキテクチャー設計 それをソフトウエアとハードウエアに分離する ハードウエアが、集積回路になる
論理設計 1,0の2進法でLSIを記述し、回路設計でトランジスターを配置した回路図に起こす
レイアウト設計 回路図をもとに、パタンの原板(レクチル)をつくる
また、設計ツール、ECAD,検査ツールなどを提供するベンダーを、EDAツールベンダーという
【前工程】
ファブレスが設計したデータを基に、シリコンウェハの上に、半導体を作り込む、このメーカーをファウンドリーという
成膜 ウエハーを洗浄し、メタル、絶縁膜、多結晶シリコンなどの薄膜を成膜する
レジスト塗布 感光性材料であるレジストをウエハに塗布する
感光 レクチルという回路パターンを露光装置で照射する、レジストが化学反応を起こす
現像 現像液をかけて、レジストによる回路パターンが形成される
ドライエッチング レジストをマスクとしてプラズマをつかって、薄膜を加工する、酸素プラズマによるレジストの除去作業を行う
洗浄 洗浄後パタンサイズの検査を行う
この作業を30回~70回繰り返す ⇒ この段階で、歩留を80%以上得ることは非常に難しくなっている
【後工程】
シリコンウェハの回路について、
後ろから研磨して、
チップを切り出して、
樹脂のパッケージに封入して、
動作テストをする
このメーカーをアセンブリ、もしくは、OSATとよぶ
④半導体産業の現状と問題
TSMCを支えているのは、アップルのスマホである、アップルの要請より、TSMCは、3nmという微細技術へ挑戦を続けている
そして、それを支えるのが、EUVという露光装置を製造するASMLである。
TSMCと、ASMLは二人三脚で最先端の微細技術を提供しつづけており、他者の追随をゆるしていない
また、各工程での製造装置や、そこで利用する原材料、洗浄のための薬品は日米欧がほぼ独占を行っている
最後に
現代社会は、半導体なしにはなりたたない
このため、今後人類の文明が発展していくためには、半導体技術の進歩・成長が不可欠である
大きな流れでみると、米中の半導体戦争は、資本主義の発展、発達に反するものであるといわざるをえない
目次
第1章 米国による対中規制と「台湾有事」
第2章 半導体とは何か
第3章 半導体の微細化を独走するTSMC
第4章 クルマ用の半導体不足はいつまで続くのか
第5章 世界半導体製造能力構築競争
第6章 日本の半導体産業はまた失敗を繰り返すのか
第7章 日本の強み 装置は材料は大丈夫か
第8章 半導体と人類の文明
ISBN:9784166613458
出版社:文藝春秋
判型:新書
ページ数:256ページ
定価:950円(本体)
2023年04月20日第1刷発行
2023年05月20日第2刷発行 -
Posted by ブクログ
産業のコメと評される半導体。
かつて世界を席巻していた日本の半導体産業も今は昔と思っていた。
ところが日本には世界的に高いシェアを持つ製造装置や材料があると知り望みを感じるとともに、半導体は完全に世界的な分業なのだなと。
本書ではそもそも半導体とは何か、微細化の効果と技術、製造過程やシェアについて分かり易く書かれている。
台湾に出張する事も多く、嫌でもTSMCの話は聞くし同じ九州に進出となれば商売に絡む色気も無くはない。
筆者はそこに大きな警鐘を鳴らす。
日本で作る目的は、ターゲットはどこかがはっきりしない。
ラピダスは何のために2ナノを作ると宣言したのか。技術の継承もないのに。
ファウンドリーは委託してくれる先があって成り立つビジネス、ラピダスに委託する先がどことの報道は記憶にないが。
今や半導体なしでは成り立たない現代社会において様々なリスクが本書で紹介されている。
ロシア、ウクライナにおける希ガスネオンの製造リスク、台湾有事など。
特に台湾有事の際はTSMCの工場は自ら破壊することをアメリカが提案している衝撃。
TSMCがクレイジーなまでの微細化を進めるのはアップルからの要望に答えるため、そしてTSMCが中国に渡りそうになれば破壊せよ、アリゾナに最新の工事を誘致、と結局アメリカファーストなのか。
世界の共有財産として半導体をとらえないと大きな争いのトリガーになる。
半導体を巡る世界的な分断は避けるよう英知を結集して欲しい。 -
Posted by ブクログ
なかなか刺激的な内容だ。自分が開発している材料の一部も半導体産業で代替の効かない部材に使われている。仮に我が社に不幸な出来事が起こって材料を提供できなくなると、TSMCのWO-WLPプロセスが止まってiPhoneのプロセッサが製造できなくなる。TSMCからは間接的に『どうやったらその狭い規格を満足する製品を供給できるのか?』といわざるを得ない無理難題を要求されていて、本書で書かれている事がリアルに理解できた。ただ装置、材料メーカーに国の支援を入れることは反対だ。著者が最後に書いてあるとおり、自然な再生産のサイクルを破壊する。付いていけない装置材料メーカーは市場から撤退しないと健全な進化が起こらなくなると思う。
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Posted by ブクログ
電子立国日本の中核を担っていた半導体産業の凋落と、サムスンを始めとした新興国の隆盛。その渦中の中にいた、半導体メーカ技術者であった著者による分析と今後の日本の半導体産業への提言が本書。
目から鱗だったのが、半導体産業の凋落の理由。今までのメディア情報で、設備投資のタイミングが遅いことと、アメリカからの貿易不均衡が同時に重なったことだと思い込んでいた。しかし、その本質が職人気質という日本文化の影響で、全体最適を考える経営者が不在で、技術者は部分最適の技術レベル向上に固執するという、典型的な日本メーカの負けパターンだったとは。
しかし、半導体技術開発の困難さが初めて分かりました。その意味で、半導体技術の概要を解説した本書の第2章は、自分にとっては、次章以降を読み解くためには、大変有意義でした。 -
Posted by ブクログ
1980年代に世界をリードした日本の半導体産業。ところが現在では日立とNECのDRAMの合弁会社エルピーダメモリーは経営破綻し、日立、三菱、NECのマイコンを経営統合したルネサスエレクトロニクスも倒産寸前まで追い込まれるなど、当時の面影はありません。
日本の半導体産業が世界一であった1980年代に日立に入社し、その凋落を目の当たりにしてきた著者が半導体産業の裏側とその凋落の理由を解説。
半導体とはどのように製造されるのか?、なぜマイコンの世界シェアNo.1のルネサスが赤字なのか?、東日本大震災でルネサス那珂工場が被災した時、代替生産がなぜできなかったのか?、日本が強い技術分野と弱い技術分野とは?、日本のテレビ産業の凋落の原因はなにか?、など興味深い視点からの解説は製造企業に身をおいた著者ならではの分かりやすさです。
述べられているさまざまな論点のなかでも「各工程の部分最適を求めるあまり、製造工程全体としての全体最適が実現できていない」という現象は大企業に限らず、中小企業でも忘れてはならない視点だと再確認させられました。 -
Posted by ブクログ
元日立でエルピーダにも在籍した半導体技術者が、日本半導体の敗戦の原因をその内部にいた経験から分析したものである。まずは日本の技術は一流でそこは負けていないという神話の否定がある。少なくともコストパフォーマンスの面で劣っていたことは確かだろう。エルピーダで経験した事実の解説は負けるべくして負けた状況が理解できる。
日本には、イノベーションとマーケティングがなかった、と著者は言う。イノベーションは「技術革新」と捉えられ、本来の「新結合」という意味では捉えられていなかった。マーケティングも「市場調査」と捉えられ、本来の「市場創造」の思考が日本にはなかった。イノベーションとマーケティングはかの日本びいきのドラッカーが企業が成果を生む二つの機能として定義したイノベーションとマーケティングがなかったのだ。
また、政府主導のプロジェクトへの批判も強い。一度決めたことを変えられず、何もしないことが最善になっても止められない状況も発生していたようだ。官僚の無謬性の罠にはまった形だし、そもそも政府が誘導するべきではないのだ。
本当に当事者としてその戦いに参加し敗れた著者の言葉には説得力がある。腑に落ちるとはこのことかもしれない。 -
Posted by ブクログ
日本メーカー、特にソニー、シャープ、パナソニック、NEC、日立、三菱電機などの電機メーカーは、サムスンやアップルなどに敗退している。
なぜ、日本型ものづくりは世界で勝てないのか。その理由を考察した一冊。
筆者の湯之上氏は、日立製作所入社から16年にわたり半導体の開発に従事した、日本のものづくり現場を熟知した人物である。
湯之上氏は、日本企業の問題点は「イノベーション」の捉え方にあると指摘する。
イノベーションは「技術革新」と同義で使われることが多いが、経済学者シュンペーターの定義では、「発明と市場との新結合」であるという。
いくら革新的な技術が生み出されても、それが技術者の自己満足に過ぎず、ユーザに普及することがなければ、それはイノベーションとは呼べない。
湯之上氏は、「爆発的に普及した技術や製品」をイノベーションと呼んでいる。
「日本の技術力は高い」と日本人の多くは何の疑いもなく信じているが、そもそも、「技術」の定義はひとつではない。
日本は確かに「高品質を作る技術」は高いが、「低コストで作る技術」は韓国メーカーや台湾メーカーに負けている。
さらに、サムスン電子は専任のマーケッターを数多く配置し、市場の動きにいち早く対応している。
日本の中においても、例えば日立とNECでは「技術開発」の定義が異なるという。
半導体の開発において、日立の「技術開発」は、新材料や新構造を検討し新装置を開発することを指す。
一方、NECの「技術開発」は、試作ロットが流れるための最適条件を決めることを指すという。
エルピーダメモリにおいて、日立とNECという文化の全く異なる2社が合併したが、規模が大きくなったのみで、その中身においてはそれぞれ合併前から変わることはなく、混ざり合うことはなかった。
日立にしろNECにしろ、エルピーダにしろルネサスにしろ、半導体業界にしろテレビ業界にしろ、技術力の使い途を誤った日本企業は、世界の中で勝ち抜くことはできない。
日本企業は、欧米やアジアの後追いだけに終始するべきではない。
特にものづくり分野においては、先進者を模倣しながらも、日本企業が得意とする摺り合わせ技術を用いて、発明と市場との新結合であるイノベーションを起こすことで、新市場を創り出す「イモベーター」となるべきである。
湯之上氏は日本の半導体製造業界を熟知した人物であり、業界内部の暴露話的なものも書かれており、ルポタージュ的な読み物としても面白い。
ちなみに、サブタイトルに出てくる零戦については、日本のものづくりが特定の要求は完璧に実現するが(零戦の格闘戦性能や航続距離、DRAMの耐久性など)、ユーザのニーズを満たすものではない(零戦の防弾性能、DRAMのコストなど)ために、イノベーションとはならない説明の例として書かれているだけであり、半導体やテレビに比べると、あまりページを割いているわけではない。
ここ最近の「永遠の0」や「風立ちぬ」における零戦人気に便乗したものか・・・。
世の中は常に変化する。
パラダイムシフトが起こったときに、コスト的に対策するだけでは、日本企業は勝てない。
「あなたが世界をどう変えたいのか」という視点を持って現場へ赴き、「問題の発明」を行い、創造的模倣力を発揮すること。
私自身は自動車産業で働いていたことがあるが、日本の完成車メーカーや部品メーカーも、今でこそ世界で有数の技術を誇る企業は多いが、うかうかしていると他国にイノベーションを起こされかねない。
イモベーターとなり、常に変化していくことが必要である。
日本のものづくり企業だけではなく、すべての日本のビジネスパーソンが今こそ読むべき一冊。 -
Posted by ブクログ
【ポイント】
23/イノベーションとは、シュンペーターの定義:「発明と市場の新結合」
◆「爆発的に普及した技術や製品」 と著者はしている。
55/半導体の量産技術
量産移管の方法には、「コピーイグザクトリとコピーエッセンシャリ」がある。
89/エルピーダはなぜ倒産したか?
→低コストでDRAMをつくることがてきなかったその技術が問題。
つまり、坂本社長の経営者として責任は、低コストでDRAMをつくる技術を
向上させることができなかったことにある。
89/ 30年間変わらなかったDRAM技術力 (25年の耐久性)
93/ 開発と量産の境界がない組織(サムスンとの比較)
95/ 装置を変えない、プロセスを変えない。
96/ 歩留り100%はめざさない
98/ 230人もいる専任マーケッター
99/サムスンは、一番優秀な人間をマーケッターに抜擢する。
→自社の未来はマーケッターの双肩にかかっている。
世界の動向からその国や地域での市場を予測し創造することが、
マーケッターに要求される。
この能力は、その人間が持っている「センス」である。教育できない。
★このセンスを持った人間を世界じゅうから探し、集めるのが経営者の仕事。
100/ 即断即決する極めて優秀な専務たち
112/玉ねぎの皮を剥いていったら最後になにが残る?
170/日本人は、技術者だけでなく、
経営学者までも、イノベーションを正しく理解していない。
★経済学者のシュンペーターは、「イノベーションは、発明と市場との新結合」と定義
★ 「イノベーションとは、爆発的に普及した新製品」
←技術が革新的かは一切関係ない。
技術開発を行ってもイノベーションにならない。
→その技術をつかった新製品が売れて初めてイノベーション。
176/「つくったものを売ろうとする間違い。
178/サムスンは、売れるものをつくろうとしているのに対し、
日本は依然として作ったものを売ろうとしている。
日本人が認識しているマーケティングとサムスンが考えるマーケティングが違う。
◆サムスンにとって、マーケティングはとは「市場創造」である。
180/日本企業が認識する「マーケティングとは、「市場統計・市場調査」だ。
←サムスンの「市場創造」ではない。
←日本では、マーケティングは質の低い人がつくと見做され、軽視されている。
181/マーケティングの本質とは?
研究も開発も製造も営業も総務も経理も資材も人事も、関わるすべての組織と社員が
★マーケティングの感性★をもっていなければ、変化する世の中に対応できない。
社員全員がマーケッターにならなければ、生き残れない。
183/サムスンは、液晶テレビの模倣容易性を理解していたからこそ、他社との比較優位を 持たせるために、世界の国ごとにマーケティングした。
←技術の模倣はできるが前提。
211/日本人の得意なことは何か?
?製造工程に競争力の源泉がある産業
?高度な擦り合せ(インテグラル)技術が必要な産業
?持続的技術が必要な産業
232/価値のほとんどは模倣者が得ている。→半導体産業とは大いなる模倣産業である。
234/科学における創造とは「二つまたはそれ以上の事実または理論を統合すること」
経済学者のシュンペーターは、イノベーションを「発明と市場の新結合」と定義した。
イノベーションとは、「新結合」である。
241/模倣能力を今一度甦らすことが再生への近道。
再生した模倣能力を最大限に活用して、新市場創出するイノベーションを起こすこと。
243/新市場を作るために技術は一切必要ない。
「新しい市場の作り方/三宅秀道」
どんな技術も商品も誰かの幸せの役にたたなければならない。
だから新市場ができる前にその幸せがイメージできなれればいけない。
★これを「問題の発明」という
←発見(すでにあるものを見つける)ではなく発明(存在してない価値を生み出す)
244/技術開発が必要になるのは、「問題が発明」された後。
247/エジソンがウォシュレットを発明できなかった理由は?
←お尻を洗えない不幸を感じなかった。
「お尻を洗うと気持ちがよいのではないか」という「問題を発明できなかった。
252/物理学は一神教、化学は多神教。
物理学は基本原理を理解すれば、後は論理で解決できる。
化学は、多面的なノウハウの蓄積が必要で、ある技術を習得するのに時間がかかる。 -
Posted by ブクログ
今まで多くの日本脅威論を読んできましたが、その多くは製造業の実態をご存じない方が書いたものであり、一方で、日本のモノづくりがいまだ健在であるという本を読んで自分を安心させてきました。
特に、ものづくりにおいて、最終製品では外国勢に負けていても、材料や半製品、製造装置のシェアは高く、これが日本の強さであるという論調に私は日本の底力を見ていたつもりです。
この本は、それらを十分に揺らぐほど衝撃的でした。この本の著者は私より3歳程年上で、日立製作所で半導体研究や製造技術に拘った、中身を良く知った方です。彼がはぜ1980年代には世界一だった半導体行が、現在ではそれを思い出せないほど惨めな姿になってしまったのかを解説しています。
また半導体製造は、装置を買ってくればすぐにできるような簡単な技術ではなく、韓国・台湾勢が、当初はリストラされた日本人技術者を上手に使って学び改良したということも解説しています。
著者によれば、今の日本企業の姿は、太平洋戦争時のゼロ戦の栄光と転落と同じだとしています。現在では、日本に残されている優位性のある技術は存在しているものの、かなり少なくなってきているようです。
最後に日本が甦るための条件を示していますが、パラダイム変換をおこす必要があり、一度何かが起きて、現在の既得権益を握っている人達が退場しない限り難しいなと思いました。現在は、まさに戦争に突入していった頃に似ているようですね。
以下は気になったポイントです。
・世界最高品質、シェア一位の企業が凋落するには共通する原因がある、それは、パラダイムシフトに対応できず「イノベーションのジレンマ」に陥った、つまり、既存顧客の要求に忠実に耳を傾けるあまり、性能や品質に劣るが「安い、小さい、使いやすい」特徴を持った破壊的技術に駆逐されること(p13)
・技術力には、高位品質をつくる・高性能をつくる・低コストでつくる・短時間でつくる技術等、様々な評価軸がある、ひとつの評価軸において高いだけで「日本の技術力は高い」というのは大きな間違い(p22)
・創造とは「無から有を生み出す」のではない、「2つ以上の事柄を統合する、一種の模倣能力」(p25)
・AMAT(アプライドマテリアルズ)は、1992年以降、半導体製造装置で世界一、2013.9.24に世界3位の東京エレクトロンと統合発表した(p32)
・オバマ大統領の製造業輸出5倍計画は、再生エネルギーによるグリーン革命は失敗したが、3Dプリンター、ロボティックス、脳科学、サイバーセキュリティ産業は大進歩、シェール・オイル革命も追い風(p33)
・半導体製造には、多くの要素技術を精密にすり合わせるインテグレーション技術と、歩留まりを向上させる量産技術が必要である(p58)
・日本半導体メーカは、大型コンピュータ用に製造した25年保証の高品質DRAMを、PCに転売したが、明らかに過剰品質であった(p63)
・製造工程の洗浄液に互換性がないという事実、これがエルピーダのDRAMシェアを低下させた原因(p70)
・日立、NEC出身者のほとんどが「経営、戦略、コストで負けた」と言ったのに対して、三菱出身者は、「安くつくる技術に問題があった」ことを認めていた(p82)
・後から考えると、日立が新技術の研究開発を行い、三菱がインテグレーション技術を担当、NECが量産工場の生産技術に専念すれば良かったかもしれない(p86)
・サムスン電子では、開発から量産へ、またはその逆がありチームが入れ替わる。最初から量産立ち上げを視野に入れて歩留まりを向上しやすい工程フローを構築する必要がある、日立では、研究所・開発センター・量産工場とヒエラルキーがある(p94)
・会社組織では、人間は能力の極限まで出世する、すると有能な平社員も無能な中間管理職となる、こうなるとあらゆる職責を果たせない無能な人間によって占められる。仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われる。ピーターの法則(p101)
・東日本大震災の影響を最も受けたのは、トヨタ(特にプリウス)であった。茨城県にある那珂工場が直接被害を受けたから、トヨタのマイコン:ECU(機能の90%を制御)を作っていた(p148)
・ルネサスの那珂工場はラインの稼働率を上げるために、利益の出ないECUを作らざるを得なかった(p159)
・シュムペーターは、イノベーションとは発明と市場の新結合とした、つまり、爆発的に普及した新製品、普及が大事なのであって、技術が革新的かどうかは一切関係ない、ここが日本人が誤解しているポイント(p170)
・サムスンにとって、マーケティングとは「市場創造」である、これも日本では誤解されている、市場統計・市場調査と考えている(p179,180)
・インテルは iPhone用プロセッサ製造を断り、韓国サムスン電子が製造することになった、これによりファンドリービジネスで3年間で10位から3位に躍進した(p201)
・日本が弱体化した分野には共通要因がある、標準化・プラットフォーム化・モジュール化がしやすい分野(露光装置、ドライエッチング、検査装置、成膜装置)である、一方で、ハードウェアと液体材料の摺合せに必要な部分はドキュメント化ができない暗黙知が多く、標準化・モジュール化が難しい(p217,223)
・日本半導体メーカが、微細性・精度を強調するのに対して、韓国・台湾半導体メーカは、スループット(時間当たりウエハ処理数)である(p219)
・1台40-50億円もする装置を、導入から9-14日で製造に使うか、40日弱も無駄な性能試験をやるか、この差が高コストにつながる(p223)
・新市場の発明をするには、誰かの幸せに役立たなければならない、市場ができる前に、その幸せがイメージ(何をどうかえたいか)できなければならない(p243)
2013年12月15日作成 -
Posted by ブクログ
JBプレスで連載している日本半導体・敗戦から復興へのシリーズが面白い。そこで10月発刊のこの本が反響を呼んでいると有ったので読んでみた。「失敗の本質」の産業版だなあというのが感想だ。
イノベーションを技術革新と訳すのがそもそも間違いじゃないか?経済学者のシュンペーターはイノベーションを「イノベーションとは発明と市場の新結合」と定義しており、著者はもっとシンプルに「イノベーションとは爆発的に普及した新製品」と定義している。まあ著者の定義だと中毒の山寨機もイノベーションになるのでそれはどうかと思うが、ある意味ではそれも正しい。個人的にはトヨタ生産方式など商品ではなくてもイノベーションと呼んでいいものはあると思う。
題名には零戦があがっているが三菱と中島飛行機では同じ零戦と言いながら互換性が無かったらしい。著者の定義ではこういう匠の技はいくら技術が優れていてもイノベーションにはならない。匠の技は爆発的な新製品は生まない。
サムスンの半導体開発チームは現行100ナノとして次世代は95ナノ、90ナノなどを同時並行で開発する。そして、開発が成功したチームがそのまま量産を担当する。このメリットは開発のときから量産化を見据えて開発する事と、強烈な競争原理が働くことだろう。100ナノチームは新たに微細化の開発を担当することになる。そして、競争に負けるとはじき出されるサムスンでは責任者は現場に詳しい現役の開発者に近い。
対するエルピーダでは量産には新技術を用いず、完璧主義の変わりに担当が細分化され技術者も多く、立ち上げに時間がかかるNECと新製品開発には能力があるが量産化ではなかなか歩留まりを上げる事が出来ない日立が組んだ。この時現場の技術者に最も評価が高かったのが三菱の技術者でこれはコミュニケーション能力と調整能力が高くうまくすりあわせができたからだ。著者はルネサスに対し新製品開発は日立、量産化前のすり合せと条件だしを三菱、量産化はNEC出身者が担当すればいいのではと提案したそうだが顧みられることはなかった。実際には日立、NECのたすきがけ人事が行われたのだ。
マーケティングの発想も日系企業と、サムスンでは全く違う。最も優秀な人を大量にマーケティングを担当させるサムスンに対し、日本のある大手メーカーではマーケティングに廻されるのは左遷と捉えられてたらしい。イノベーションの解釈の違いが最も顕著に出た例だと思う。サムスンはかなりグレーな事もやっており、普通には手に入らない資料やサンプルも入手できていると言うのだが、結局それは情報を流す元大手企業の社員がいると言う事だ。
2007年1月、同志社大勤務の著者を呼び出したルネサスのある幹部は講演と執筆活動をやめろと迫る。この幹部が言うには日経マイクロデバイスがさんざんDRAMをやめてSOC(システムオンチップ)へ舵を切れと言った事が日本の半導体産業をミスリードしたのだと。そして著者にもお前の正だと言うような事を言い、とどめがこうだ。「SOC最大手のTIが微細化をやめたと言ってるんだぞ、俺たちルネサスはどうしたらよいというんだ?この発表以来、ルネサス中が大騒ぎになっている。」護送船団方式に慣れ、自分で考える事が出来なくなってしまった人が幹部では従業員もたまったもんじゃないだろう。
この40年間売り上げランキングベストテンに入り続けた企業はTIのみ、そして20年間としてもこれに東芝とインテルを含めた計3社しか無い。最近ではインテルすらも危ないと見られている。PCではマイクロソフトと組んで無敵のインテルだったがスマホ/タブレットへの変化を読めず、この分野では出遅れている。2012年スマホ用プロッセサーのシェアはクアルコムが36%、アップルが20%、サムスンが11%でインテルのシェアは0.2%しかない。
では日本の半導体産業が全滅かと言うとそうではなく、すり合せの部分では相変わらず強い。標準化、モジュール化はうまくいかず、インテグレートはうまいと言う零戦以来の伝統でもある。液晶テレビなんかも似たような傾向があるが。
車載用半導体で圧倒的なシェアを持ちながら交渉力を発揮できず低利益に甘んじたルネサスもちょっと交渉力があればもっと利益が高くてもおかしくなかった。
著者の指摘で最も重要な点は、技術では勝ったが販売で負けたのではなく、低価格化や量産化(特にスピード、コスト面で)という技術面で日本がサムスンなどに負けたと言うところだろう。ニッチの世界では匠の技もいい。しかしイノベーションを起こすには大きな市場を相手にしないとできない。技術の捉え方が狭かったということなのだろう。 -
Posted by ブクログ
類似テーマの名著、山本七平の「日本はなぜ敗れるのか」に引けを取らない面白さとリアルなインプリケーションの深さと普遍性からいうとどの業界にいる方に対しても「今個人的に一番おすすめしたい一冊」。
2013年秋から妙にサムスン凋落を囃し上げる快哉が鳴り響いてはおりますが、結果論としての生き残った、生き残っていない、勝った、負けたというところで溜飲を下げているようじゃなぁ、と危機感をよけい強めてしまいます。日本の産業がどういう戦略(あるいは「戦い方」)を選ぶにしても、何が弱みでライバル企業はどう分析し、具体的に何をどうしたのかくらいは目をそらさずにいる勇気の有無を問われる内容です。喉元過ぎて熱さを明日には忘れてしまうんじゃないかしらん、とつながった首の皮一枚が明日もつながっているのか、飛び散った返り血はどんな痕を残しているのか・・・為替レートが「修正」されただけで浮かれてないで脳に汗をかかねばいけないなと反省いたしました。 -
Posted by ブクログ
元日立の半導体設計者である湯之上隆氏の最新刊。何冊も読んだが今回も本当に面白い。星5つ。
半導体、電機をはじめとする日本のものづくりが敗戦したのは、世の中の変化パラダイム・シフトに対応することができず、顧客の注文に忠実に耳を傾けるあまり、性能や品質は劣るが『安い、小さい、使いやすい』などの特徴を持った破壊的技術に駆逐される、いわゆるイノベーションのジレンマに陥ったことが原因であると指摘する。今回は、これが当初はアメリカの戦闘機を圧倒していたにも関らず、海軍の言うとおりの仕様である軽さを追求し過ぎたて撃たれ弱いボディとなり、最終的にはアメリカの戦闘機に負けてしまう零戦と同じであると斬る。DRAMも、SOCも、マイコンも、メインフレームやトヨタから要求される過剰な品質を満たしつづけ、遂にはコスト競争で駆逐されていったからだ。
勝ち組サムソンとマーケティング力の違いを比較して、彼らが最も優秀な人員をマーケティング部門に配属し、世界のあらゆる地域に1年間済ませ、現地を調査させ、現地目線のマーケティング戦略を組むことは有名だ。一方日本の会社はマーケティングを軽視しており、単なる市場調査や市場統計に終わっており、市場創造には繋がっていないという。模倣の特性を進化させて活かす能力を持つ企業を、模倣を意味する『イミテーション』と革新を意味する『イノベーター』を融合して『イモベーター』というが、まさにこれがサムスンにピッタリという。単なる猿真似だけでは生き残れるはずは無く、著者はイモベーター、サムスンを高く評価する。
最後に日本が生き残るための提案がなされている。元々日本の強みは、製造技術に競争力の源泉があり、すり合わせ技術、持続的技術が必要な分野で成功してきた。模倣力を取り戻し、イモベーターとして稼げと檄を飛ばして締めくくっている。
世界の半導体の巨人についてもまとめられている・
インテルの全CEOオッテリーニが、スティーブ・ジョブズが初代iPhoneのプロセッサの製造を依頼した際、まさかそれほど売れると思っていなかったため断っていたようだ。結局代わりにサムソンが製造することになり、サムソンの半導体は膨大な利益をあげた。自他共に認める『ファーストフォロワー』であるサムソンは、ここで模倣力を発揮し、『GALAXY』で世界ナンバーワンの売上につなげた。もしインテルが引き受けていれば世界半導体のパワーバランスは今とは違うものとなっていただろう。しかし、さらなる模倣を恐れたのか、アップルはこのiPhoneのプロセッサの製造をサムソンから台湾のTSMCに切り替えた。インテルはその後FPGAのアルテラののファウンドリービジネスをとった。サムソンは台湾滅亡計画の最後の対象としてUMCの次にTSMCのファウンドリービジネスをターゲットとしている。今後の、この3者の行方は目が離せないが、日本半導体の名前がでてこない。