半導体有事
著:湯之上 隆
文春新書 1345
半導体の4つの軸についての解説書です
①半導体をめぐる地政学的状況
②半導体の種類:半導体とは一種類ではない、
DRAM:メモリ
スマホ向け:
自動車向け:パワー半導体&アナログ半導体
AI向け
③半導体の製造方法
④半導体産業の現状と問題
半導体は、いまや、戦略物資であり、現代の石油である
気になったのは、以下です
① 半導体をめぐる地政学
米国は、中国経由でロシアに流れている兵器へ転用されている半導体の出荷を止めたい
このために、中国に対して、半導体規制を発動している
・自身しか作ることのできない最先端の技術をもつ、TSMCが米中どちらにつくかによって、世界のパワーバランスが大きくかわる
・TSMCが米国側についたことにより、5Gで世界を席巻していたファーウェイを押さえ、半導体の歴史におけるターニングポイントになった
・ガードレールといわれる半導体の規制について、米国内で製造を行うメーカーが、中国へ最先端チップ技術への投資を禁じている。
・トップを走るTSCMへの影響は、10%であるが、SKハイニックスや、サムスンは、中国に工場をもち、40%近くの影響をもっている
・さらに10・7という規制は、スパコンやAIがらみの半導体開発についても、さらに中国を追い込んだ
・半導体の主要工程の製造装置は、日欧米のメーカーが各分野で独占している。
・中国がこの事態を打破するための、特急券は、台湾に侵攻し、TSMSの技術を奪取することだ
・このため、南シナ海、台湾海峡での軍事的緊張は増している。TSMSの製造拠点は、台湾海峡側に集中しており、たちまち軍事侵攻の影響を受けるからだ
②半導体の種類
・半導体とは、集積回路上に配置された電子回路のことである
・トランジスタを微細化していくと、他の工夫は何もせず、①高速化、②低消費電力化、③高集積化、④低コスト化の4つの相乗効果が得られる。この経験則を一言であらわしたのが、「半導体集積回路の集積率が2倍になる」という、ムーアの法則である。
一言で半導体といっても、その種類はさまざまだ
自動車がクルマをつくれなくなった原因の半導体
モーターを駆動するために必要な、パワー半導体
センサーからアナログ情報を処理するために必要な、アナログ半導体 が原因だ
コネクテッド 自動運転を制御するための AI半導体
5Gの通信制御を行う、通信用半導体 これも必要だ
この4種の半導体は、いずれも、TSMCしか生産ができないものであった
もともと、カンバンで必要な数量しか頼まない自動車メーカーは、一度オーダをキャンセルしたために、
その穴を埋めるために、TSMCは他の用途に生産ラインを振り分けたが、自動車需要が回復したときには、すでに生産能力を振り分ける
ことはできなくなっていたのが原因だ
他、メモリ、MPU,などが半導体の種類である
③半導体の製造方法
半導体は、大きく3つの工程からつくられる 設計、前工程、後工程 である
かつて、日本のメーカーは、すべてを垂直統合で作成していたが、他のメーカーとは互換性がない
一方、世界標準は、設計、前工程、後工程を分離し、それぞれ、ファブレス、EDAツールベンダー、ファウンドリー、アセンブリーに分離することにより、開発リスクを分散し、短期間で半導体を設計・製造することができるようになった
日本のメーカーが世界に負けたのは、この世界標準の波に乗り遅れたことが原因だ
【設計】
ファブレスとよばれる設計専門の半導体メーカーが、製品に合わせて、半導体を設計する
システム設計 電子製品の仕様をCコードというプログラミング言語に書き出す
アーキテクチャー設計 それをソフトウエアとハードウエアに分離する ハードウエアが、集積回路になる
論理設計 1,0の2進法でLSIを記述し、回路設計でトランジスターを配置した回路図に起こす
レイアウト設計 回路図をもとに、パタンの原板(レクチル)をつくる
また、設計ツール、ECAD,検査ツールなどを提供するベンダーを、EDAツールベンダーという
【前工程】
ファブレスが設計したデータを基に、シリコンウェハの上に、半導体を作り込む、このメーカーをファウンドリーという
成膜 ウエハーを洗浄し、メタル、絶縁膜、多結晶シリコンなどの薄膜を成膜する
レジスト塗布 感光性材料であるレジストをウエハに塗布する
感光 レクチルという回路パターンを露光装置で照射する、レジストが化学反応を起こす
現像 現像液をかけて、レジストによる回路パターンが形成される
ドライエッチング レジストをマスクとしてプラズマをつかって、薄膜を加工する、酸素プラズマによるレジストの除去作業を行う
洗浄 洗浄後パタンサイズの検査を行う
この作業を30回~70回繰り返す ⇒ この段階で、歩留を80%以上得ることは非常に難しくなっている
【後工程】
シリコンウェハの回路について、
後ろから研磨して、
チップを切り出して、
樹脂のパッケージに封入して、
動作テストをする
このメーカーをアセンブリ、もしくは、OSATとよぶ
④半導体産業の現状と問題
TSMCを支えているのは、アップルのスマホである、アップルの要請より、TSMCは、3nmという微細技術へ挑戦を続けている
そして、それを支えるのが、EUVという露光装置を製造するASMLである。
TSMCと、ASMLは二人三脚で最先端の微細技術を提供しつづけており、他者の追随をゆるしていない
また、各工程での製造装置や、そこで利用する原材料、洗浄のための薬品は日米欧がほぼ独占を行っている
最後に
現代社会は、半導体なしにはなりたたない
このため、今後人類の文明が発展していくためには、半導体技術の進歩・成長が不可欠である
大きな流れでみると、米中の半導体戦争は、資本主義の発展、発達に反するものであるといわざるをえない
目次
第1章 米国による対中規制と「台湾有事」
第2章 半導体とは何か
第3章 半導体の微細化を独走するTSMC
第4章 クルマ用の半導体不足はいつまで続くのか
第5章 世界半導体製造能力構築競争
第6章 日本の半導体産業はまた失敗を繰り返すのか
第7章 日本の強み 装置は材料は大丈夫か
第8章 半導体と人類の文明
ISBN:9784166613458
出版社:文藝春秋
判型:新書
ページ数:256ページ
定価:950円(本体)
2023年04月20日第1刷発行
2023年05月20日第2刷発行