あらすじ
経済安全保障の最前線!
アメリカが中国に突きつけた異次元の半導体規制。このままだと中国の半導体工場はやがて稼働できなくなる。追い詰められた中国が狙うのは、世界のトップ企業、台湾のTSMC――。世界中が半導体製造能力をめぐる競争に駆り立てられているなか、日本は再び失敗を繰り返すのか? 新会社ラピダスのいう、「2027年までに2ナノの最先端半導体をつくる」なんてできっこない!
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Posted by ブクログ
半導体有事
著:湯之上 隆
文春新書 1345
半導体の4つの軸についての解説書です
①半導体をめぐる地政学的状況
②半導体の種類:半導体とは一種類ではない、
DRAM:メモリ
スマホ向け:
自動車向け:パワー半導体&アナログ半導体
AI向け
③半導体の製造方法
④半導体産業の現状と問題
半導体は、いまや、戦略物資であり、現代の石油である
気になったのは、以下です
① 半導体をめぐる地政学
米国は、中国経由でロシアに流れている兵器へ転用されている半導体の出荷を止めたい
このために、中国に対して、半導体規制を発動している
・自身しか作ることのできない最先端の技術をもつ、TSMCが米中どちらにつくかによって、世界のパワーバランスが大きくかわる
・TSMCが米国側についたことにより、5Gで世界を席巻していたファーウェイを押さえ、半導体の歴史におけるターニングポイントになった
・ガードレールといわれる半導体の規制について、米国内で製造を行うメーカーが、中国へ最先端チップ技術への投資を禁じている。
・トップを走るTSCMへの影響は、10%であるが、SKハイニックスや、サムスンは、中国に工場をもち、40%近くの影響をもっている
・さらに10・7という規制は、スパコンやAIがらみの半導体開発についても、さらに中国を追い込んだ
・半導体の主要工程の製造装置は、日欧米のメーカーが各分野で独占している。
・中国がこの事態を打破するための、特急券は、台湾に侵攻し、TSMSの技術を奪取することだ
・このため、南シナ海、台湾海峡での軍事的緊張は増している。TSMSの製造拠点は、台湾海峡側に集中しており、たちまち軍事侵攻の影響を受けるからだ
②半導体の種類
・半導体とは、集積回路上に配置された電子回路のことである
・トランジスタを微細化していくと、他の工夫は何もせず、①高速化、②低消費電力化、③高集積化、④低コスト化の4つの相乗効果が得られる。この経験則を一言であらわしたのが、「半導体集積回路の集積率が2倍になる」という、ムーアの法則である。
一言で半導体といっても、その種類はさまざまだ
自動車がクルマをつくれなくなった原因の半導体
モーターを駆動するために必要な、パワー半導体
センサーからアナログ情報を処理するために必要な、アナログ半導体 が原因だ
コネクテッド 自動運転を制御するための AI半導体
5Gの通信制御を行う、通信用半導体 これも必要だ
この4種の半導体は、いずれも、TSMCしか生産ができないものであった
もともと、カンバンで必要な数量しか頼まない自動車メーカーは、一度オーダをキャンセルしたために、
その穴を埋めるために、TSMCは他の用途に生産ラインを振り分けたが、自動車需要が回復したときには、すでに生産能力を振り分ける
ことはできなくなっていたのが原因だ
他、メモリ、MPU,などが半導体の種類である
③半導体の製造方法
半導体は、大きく3つの工程からつくられる 設計、前工程、後工程 である
かつて、日本のメーカーは、すべてを垂直統合で作成していたが、他のメーカーとは互換性がない
一方、世界標準は、設計、前工程、後工程を分離し、それぞれ、ファブレス、EDAツールベンダー、ファウンドリー、アセンブリーに分離することにより、開発リスクを分散し、短期間で半導体を設計・製造することができるようになった
日本のメーカーが世界に負けたのは、この世界標準の波に乗り遅れたことが原因だ
【設計】
ファブレスとよばれる設計専門の半導体メーカーが、製品に合わせて、半導体を設計する
システム設計 電子製品の仕様をCコードというプログラミング言語に書き出す
アーキテクチャー設計 それをソフトウエアとハードウエアに分離する ハードウエアが、集積回路になる
論理設計 1,0の2進法でLSIを記述し、回路設計でトランジスターを配置した回路図に起こす
レイアウト設計 回路図をもとに、パタンの原板(レクチル)をつくる
また、設計ツール、ECAD,検査ツールなどを提供するベンダーを、EDAツールベンダーという
【前工程】
ファブレスが設計したデータを基に、シリコンウェハの上に、半導体を作り込む、このメーカーをファウンドリーという
成膜 ウエハーを洗浄し、メタル、絶縁膜、多結晶シリコンなどの薄膜を成膜する
レジスト塗布 感光性材料であるレジストをウエハに塗布する
感光 レクチルという回路パターンを露光装置で照射する、レジストが化学反応を起こす
現像 現像液をかけて、レジストによる回路パターンが形成される
ドライエッチング レジストをマスクとしてプラズマをつかって、薄膜を加工する、酸素プラズマによるレジストの除去作業を行う
洗浄 洗浄後パタンサイズの検査を行う
この作業を30回~70回繰り返す ⇒ この段階で、歩留を80%以上得ることは非常に難しくなっている
【後工程】
シリコンウェハの回路について、
後ろから研磨して、
チップを切り出して、
樹脂のパッケージに封入して、
動作テストをする
このメーカーをアセンブリ、もしくは、OSATとよぶ
④半導体産業の現状と問題
TSMCを支えているのは、アップルのスマホである、アップルの要請より、TSMCは、3nmという微細技術へ挑戦を続けている
そして、それを支えるのが、EUVという露光装置を製造するASMLである。
TSMCと、ASMLは二人三脚で最先端の微細技術を提供しつづけており、他者の追随をゆるしていない
また、各工程での製造装置や、そこで利用する原材料、洗浄のための薬品は日米欧がほぼ独占を行っている
最後に
現代社会は、半導体なしにはなりたたない
このため、今後人類の文明が発展していくためには、半導体技術の進歩・成長が不可欠である
大きな流れでみると、米中の半導体戦争は、資本主義の発展、発達に反するものであるといわざるをえない
目次
第1章 米国による対中規制と「台湾有事」
第2章 半導体とは何か
第3章 半導体の微細化を独走するTSMC
第4章 クルマ用の半導体不足はいつまで続くのか
第5章 世界半導体製造能力構築競争
第6章 日本の半導体産業はまた失敗を繰り返すのか
第7章 日本の強み 装置は材料は大丈夫か
第8章 半導体と人類の文明
ISBN:9784166613458
出版社:文藝春秋
判型:新書
ページ数:256ページ
定価:950円(本体)
2023年04月20日第1刷発行
2023年05月20日第2刷発行
Posted by ブクログ
米中間そして日韓の開発競争、というよりも足の引っ張り合いが、世界の進歩のためには百害あって一利なしと著者は強く警鐘をらならす。2021年の半導体関連素材の韓国への輸出規制は、ブーメランのように帰ってきて、日本の関係産業を衰退させている様が描写されている。
Posted by ブクログ
産業のコメと評される半導体。
かつて世界を席巻していた日本の半導体産業も今は昔と思っていた。
ところが日本には世界的に高いシェアを持つ製造装置や材料があると知り望みを感じるとともに、半導体は完全に世界的な分業なのだなと。
本書ではそもそも半導体とは何か、微細化の効果と技術、製造過程やシェアについて分かり易く書かれている。
台湾に出張する事も多く、嫌でもTSMCの話は聞くし同じ九州に進出となれば商売に絡む色気も無くはない。
筆者はそこに大きな警鐘を鳴らす。
日本で作る目的は、ターゲットはどこかがはっきりしない。
ラピダスは何のために2ナノを作ると宣言したのか。技術の継承もないのに。
ファウンドリーは委託してくれる先があって成り立つビジネス、ラピダスに委託する先がどことの報道は記憶にないが。
今や半導体なしでは成り立たない現代社会において様々なリスクが本書で紹介されている。
ロシア、ウクライナにおける希ガスネオンの製造リスク、台湾有事など。
特に台湾有事の際はTSMCの工場は自ら破壊することをアメリカが提案している衝撃。
TSMCがクレイジーなまでの微細化を進めるのはアップルからの要望に答えるため、そしてTSMCが中国に渡りそうになれば破壊せよ、アリゾナに最新の工事を誘致、と結局アメリカファーストなのか。
世界の共有財産として半導体をとらえないと大きな争いのトリガーになる。
半導体を巡る世界的な分断は避けるよう英知を結集して欲しい。
Posted by ブクログ
凄い勉強になります。
サプライチェーンが世界中に広がっていて、一国だけではもはや最先端の半導体は作れないこと。
工場を作るからってすぐに最先端の半導体が出来ないこと。
などなど知識が広がりました。
Posted by ブクログ
なかなか刺激的な内容だ。自分が開発している材料の一部も半導体産業で代替の効かない部材に使われている。仮に我が社に不幸な出来事が起こって材料を提供できなくなると、TSMCのWO-WLPプロセスが止まってiPhoneのプロセッサが製造できなくなる。TSMCからは間接的に『どうやったらその狭い規格を満足する製品を供給できるのか?』といわざるを得ない無理難題を要求されていて、本書で書かれている事がリアルに理解できた。ただ装置、材料メーカーに国の支援を入れることは反対だ。著者が最後に書いてあるとおり、自然な再生産のサイクルを破壊する。付いていけない装置材料メーカーは市場から撤退しないと健全な進化が起こらなくなると思う。
2022年に設立された日本の新しい半導体メーカRapidusは、2020年代後半にプロセスルール2nmの半導体の開発・量産を行うとアナウンスされているが、この目標がどれほど大それていて無茶であるか、順を追って説明してくれている。日本の半導体産業がまた失敗を繰り返すであろうことが予測され、残念な現実を見せつけられる。
Posted by ブクログ
半導体3部作②半導体に人生を捧げてきたプロ 日本の凋落期経験からネガティブ
2023年TSMC熊本工場新設も2025年Rapidus工場新設にも悲観的
一度落後した半導体メーカーも国も再起は出来ない
→本当にそうか?
「2n」折角の機会、タイミングに挑戦する価値はある
そもそも1996年日米半導体協定の米国世界戦略は転換するのではないか?
それにしても1955年「ムーアの法則」は世界を変革した
Posted by ブクログ
2020/4/20第1刷。著者は日立の研究所などにいたジャーナリスト。半導体の世界情勢が非常に詳しく書かれている。半導体の製造工程などについても詳しく書かれているが、専門外の私には消化不良。
本書を読んで世界でのTSMCの重要性は改めてよくわかった。また1980年代に世界を席巻していた日本の半導体がコンピュータ業界のパラダイムシフトについていけず過剰品質の追及を続けサムソンなどの韓国勢に敗北する事情なども書かれている。イノベーションのジレンマの典型例とのことである。
日本のラピダスについてはミッション・インポッシブルだ等かなり批判的なことが書かれている。その後どうなったのかよくわかってないが、最近ニュースでラピダスは絶好調といったことは聞くので、多分はずしたのだろう。著者は以前、TSMCは日本には来ない、と断言して大外しして嘘つき呼ばわりされたそうである。
著者は日本がDRAMから撤退するときに日立から早期退職勧告を受けたとのこと。半導体技術者というと門外漢の私には華やかなイメージもあるが、なかなか厳しい世界だというのもわかった。
Posted by ブクログ
EEtimesに掲載されている湯之上隆のナノフォーカスを中心に、米国による対中規制、台湾有事の可能性、半導体にまつわる世界情勢(製造力、車載用半導体不足)、日本の半導体産業に対する警鐘、日本の強みについてまとめて記載した著書。
10.7規制は、2022に中国SMICが7nmの製造に成功し、米国Intelと同水準の技術力となったことが発端であり、中国の半導体開発に歯止めをかけつつ、米国の半導体製造技術の向上を米国は図っている。
ファウンドリービジネスとは、先に生産委託ありきのビジネスである。アップルがこのようなスペックのアイフォンプロセッサーを1年間に2億個、1個100$で作ってくれと言われて、それだと3nmになる。開発費設備投資しても利益が出ると判断し、クレイジーな開発を始める。お客さんに育てられるという側面が強いビジネスモデルである。
日本の製造装置シェアの高いのは、市場規模の小さいコーターデベロッパーや熱処理装置、CMP装置、洗浄装置などであり、市場の大きい露光、エッチャー、成膜、検査装置関係は欧米企業に負けている。
筆者は、素材や部材では日本がまだ強みを発揮している。特に液体や気体、焼き固めたものは強い。その強みをさらに伸ばすような後押しをしていくべきと説く。
湯之上さんの話は明快でわかりやすく、歯に衣着せぬ言い方で、半導体の情勢をしるにはとても良い本でした。
Posted by ブクログ
半導体を微細化するには天文学的な投資と大量の優秀な技術者によるトライ&エラーの積み重ねによってようやく実現できるのに、微細化に取り残されて40nmの半導体しか作れない状況で、一気に2nmの量産化を目指すのは無謀だということがよく解った。
TSMCの依存から脱するためにファウンドリを育てる重要性も理解できるが、せっかく半導体バリューチェーンにおけるチョークポイントを日本の材料メーカーが占めているのだから、彼らの競争力を強化することで日本をバリューチェーンの中で不可欠な地位に固めつつ、ファウンドリはTSMCなりサムソンなりグローバルファウンドリーズなりを誘致する方が持続可能なんじゃないかと思った。
TSMCの熊本誘致(つくばにも研究拠点が出来るらしいが)に税金を投入するのは無駄だというのが筆者の主張だが、これをきっかけに日本の半導体関連企業(特に世界的にも優位性を持つ素材メーカー)が盛り上がることに賭けたいと思う。
Posted by ブクログ
熊本へのTSMCの工場進出と北海道千歳のラピダスの立ち上げによって、日本の半導体はかつて世界を席巻した輝きを取り戻せると思っていた。しかしこの本を読む限りそんなことはとてもあり得ず、とんでもない楽観的妄想に過ぎないことを思い知らされる。そして強いと思っている半導体の製造装置や材料分野もシェアや伸び率が下がり、欧米に追いつかれつつあることも書かれている。筆者は地政学上の課題はあるにせよ、今の国ごとのバラバラな投資競争に対しては相当の危機感を持っている。政府の補助金は熊本や千歳にではなく、まだ辛うじて強さを保っている製造装置と材料分野の一段の強化にこそ注ぐべきであること、そして日本は教育体系を変えて、小中高から半導体技術者の人材育成を図る政策が必要であるとも言っている。
湯之上隆の基本情報とデータに基づく冷静な分析は自分の未知の楽観を打ち砕き、日本の半導体産業政策のあるべき方向性を示している。
半導体には演算をするロジック半導体、データを保存するメモリ半導体、電気・音・光・音・圧力などを処理するアナログ・パワー半導体がある。2020年のコロナ禍でロジック半導体の不足が深刻になり、PC・スマホ・自動車そして家電製品やコロナ用の医療機器も作れず大変なことになった。半導体の受託生産(ファウンドリー)世界一(60%)のTSMCに注文が殺到し、同社の存在が世界規模でクローズアップすることになる。
そもそも今回の半導体をめぐる世界の動きは、中国が2015年に「中国製造2025」を制定し、軍事技術と宇宙産業で米国を凌駕する目標を掲げ実行してきたことから始まる。米国は国家安全保障上中国の半導体産業を押さえ込まなければならなくなる。
2020.5.4 TSMCがアリゾナに進出することを決め、中国のファーウエイに対する半導体の輸出停止を決めた。米国は5nmの半導体製造技術を手に入れ、5G通信基地局で世界制覇を目指すファーウエイの野望を叩き潰すことに成功した。これが一つ目のターニングポイントである。
二年後にCHIPS法が成立し、補助金受給後十年は中国の先端半導体製造施設には投資できないという「ガードレール」を作動させ、台湾はもとより韓国のサムスンやSKハイニクスにも決断を迫る。
2022.10.7更なる規制を発表し、中国の軍事技術に使われる恐れのあるスパコンやAI半導体の開発を完全に押さえ込むことを決定。設計ツール・ソフトウェア・製造装置など技術提供に網を張り、日本やオランダにも足並みを揃えることを求めた。これは二つ目の決定的なターニングポイントで、中国の半導体産業の息の根を止めるようとするものであり、中国に「目に見えない弾道ミサイル」を撃ち込んだようなもので、中国の台湾への軍事進行を誘発する可能性もある。
12/9 TSMCの創業者モリス・チャンはアリゾナ工場開設式でバイデンやトム・クックを前に「グローバリズムはほぼ死んだ、自由貿易もほぼ死んだ・・・多くの人は復活を望んでいるが、私はそうなるとは思わない・・・」と挨拶した。台湾では全土に十万五千ヵ所のシェルターを整備し定住人口の3倍超の8600万人が収容できる体制を整えている。
現在TSMCは世界の7nm以降の最先端半導体の90%以上を製造。工場進出の話では、アリゾナでは5〜4nmに加え第二工場も予定、熊本では28/22〜16/14nm第二工場では7nm。シンガポールやドイツの28/22nm製造の工場建設も検討。中国が軍事侵攻してきたら、TSMCは自ら半導体工場を破壊する可能性も考え、保険の意味から他国・他地域に分散することを始めた。事態は想像以上に深刻である。
一方、日本では通産省が国策で巨額の補助金を拠出し熊本と千歳で半導体工場の立ち上げを始めた。
熊本工場はTSMC70%・ソニー20%・デンソー10%の出資比率で28nmのロジック半導体を生産、ソニーのCMOSセンサーは後工程は台湾で、最終製品への組み込みは中国で行い、売り上げや利益貢献はシェア並みである。補助金は誰の何のためか?
又、千歳のラピダスに至っては27年に2nm量産を謳っているが、小池社長の「世界一の超短TATのファウンドリー構築」という日立時代のトレセンテイ失敗の再挑戦という過去に拘った戦略としか思えない。技術面で微細化の土台が全くなく専門の技術者もいない、IBMとIMECでは全く無理。TSMC・サムスン・インテルでも苦戦している先端半導体を9世代もジャンプして生産するのは不可能である。誰の(ファブレス)どのようなロジック半導体を作るのかもわからない。
5〜7兆の資金が必要。エルピーダの二の前になりかねない。
(どちらも日本のファブレスメーカーと共進関係を構築できるし、工場建設で地域の雇用や資材調達など多くの需要や波及効果は期待できる)
・AIのシンギュラリティが2045年頃の到来を予想
すると2050年頃の半導体出荷額は2020年の8倍の4兆8000億ドル(約624兆円)となり、今の日本のGDP(546億円)を超える規模になる。(自動車産業は22年で約70兆円)
・TSMCを操っているのはアイフォーンを開発・販売している米アップルである。(強力な製品をもつファブレスとファウンドリーの強い共進関係)
・「2027年までに2nmを量産する」と言っている千歳のラピダスに税金を注ぎ込んでいる場合ではない。「ミッション・インポッシブル」、微細化の土台が全くない、2022.12でTSMCが3nmに到達しサムスンは5/4nmでインテルが10/7nmのレベル、日本は40nmレベル止まりの現状。
・TSMCは25年に2nmの量産を目指して必死、最先端の量産・試作・R&Dで精一杯、28nmの熊本誘致申し出は渡りに船であった。(TSMCの工場を
世界分散しても最先端は台湾か米国のみ)
・熊本工場はソニーとデンソーの28/22nmと16/12nmの生産であり、28nmはプレーナ型の最終世代、16nmでは自動運転のレベル4及び5の最先端半導体は生産できない。
・7nm以降にはEUV(極端紫外線露光装置)が必須、ASML(蘭)が20年かけて量産、年数十台の生産が限界、1台200億、TSMCは100台保有(年100万回練習)、サムスン35台・インテル15台、この獲得競争(TSMCとASMLの共進化)
・日本の半導体産業は挽回不能、特にロジック半導体については今からやるのは無理。
・各種の半導体材料、前工程の5〜7種類の製造装置、また装置が欧米製であっても各装置を構成する数千点の部品のうちの6〜8割は日本製であり、ここに日本は高い競争力を持っている。(唯一残された日本の希望の光、最後の砦)
・しかし「装置と材料産業は強い」という思い込み が最も危険で、既に売り上げの伸び・シェア・成長率が下がり「危機的」な状況にある。
経産省や政府は半導体の装置や材料産業をこそ強化すべきである。
・技術者を10年で3.5万人増やすため、教育改革を し小中高大学のすべてに半導体教育を取り入れ、義務教育化し人材育成をするべき。
・・・
熊本や千歳の当該責任者や担当者は以上のようなことは既に十分わかったうえで今回のプロジェクトをはじめているはずである。確かに政策的・戦略的・技術的にも極めて難しい針の穴を通すような難作業であることは事実だと思う。しかし、そもそも事業を起こす・立ち上げるということはそんな無理なことへの人間の挑戦であり、現実のダイナミズムは評論家の静態的な分析とは違う。これだけの否定的な状況を叩きつけられても、理屈ではわかるが、やはりまだ関わる人達の人知を超えた狂気に期待して成功することを祈りたい。
ただ、政治家や官僚のサポートは当てにならない、
これは民間でやり切る覚悟が必要だ。
Posted by ブクログ
アメリカの中国への半導体規制に始まり、ロシアとウクライナの戦争による半導体製造への影響。
日本の半導体政策への戒め。
TMSCのファウンドリとしての圧倒的な強さに、ファブレスの台当があったこと。また成功の裏にASMLの露光装置のEUVの存在があるとのこと。
半導体について内部構造や製造のプロセスなど技術的な観点からも書かれていて、興味深く読むことができました。
半導体の安定的な供給は必要だと思うけど、日本にとってメリットのある政策でなければ、結局、欧米の利益にしかならないのかなとも思う。
Posted by ブクログ
●米国による10.7規制は①中国のスパコン、AIの開発を抑え込むこと②中国半導体に米国人が関わることを防ぐ③あまり注目されない半導体分野も規制④中国向けに米国の部品を輸出することも禁止⑤中国所在のメーカーにも規制
Posted by ブクログ
最先端の半導体技術を持つTSMCが、米中どちらにつくかによって、世界のバランス何変わることは明らかだった。
ターニングポイント1
2020年5月14日、TSMCが中国ではなく米国側についた日として歴史に刻まれた。この日、TSMCが米国アリゾナに進出すること、および中国のファーウェイに対して、半導体の輸出を禁じることとなる。
ターニングポイント2
2022年10月7日の米による「10.7」規制。
狙いとしては、軍事技術に使われる恐れがある中国のスーパーコンピュータや人工知能半導体の開発を完全に抑え込むことにある。米国が強みを持っている半導体の設計図ツールやソフトウェアの輸出を禁止する他、製造装置、部品や材料の輸出を禁止、その他、技術者の派遣も認めない規制であった。これを受けて、著者は中国の半導体産業の息の根を止めてしまい、台湾有事の引き金になり得ると警告を鳴らす。
2022年12月6日
TSMCのアリゾナ工場で開設式典が行われた際、TSMCの創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏は、バイデン大統領や米アップルのティムクックCEOが参列する中で、「グローバリズムはほぼ死んだ。自由貿易もほぼ死んだ。多くの人がまた復活すると願っているが、私はそうなるとは思わない」とスピーチした。「10.7」規制は異次元の厳しさで影響が甚大すぎるのである。この言葉は重すぎる。
ところで、日本における半導体産業についてである。
日本の半導体産業は挽回不能であるという。特にTSMCが世界を席巻しているロジック半導体については、日本のメーカーは2010年頃の40nmあたりで止まり、脱落してしまった。現在の最先端は3nm。一度でも脱落すると先頭に追いつくのはほとんど不可能らしい。
では日本の残された道は?
⚫︎日本の半導体材料は日本が相当頑張っている。
⚫︎製造装置のうち、日本がトップシェアのものがいくつかある。
⚫︎欧米製の製造装置ですあっても部品の6から8割は日本製である。
これらのことから、半導体そのものには期待できないが、材料や装置に日本は高い競争力を持っているらしい。強いものをより強くすることを著者は訴えている。
最後に世界の半導体産業の危機について考える。
⚫︎ロシア、ウクライナは半導体の生産に必要不可欠な希ガスの供給国である。一時期半導体不足が話題になっていたが、希ガスの供給が止まって、半導体工場の稼働が停止したという報告まではない。ただし、今後戦争が長期化することで、世界の半導体産業に深刻な影響何出る可能性はある。
⚫︎3M社がPFAS(パーフルオロアルキルとフルオロアルキル物質)の製造から2025年末までに撤退する。私はPFASが何かも知らなかったし、半導体製造に必要不可欠出るあることなど全く知らなかった。この問題は深刻である著者は言い、しかるべき対策をとらないと、2025年には日本だけではなく世界中の半導体工場が止まるという。3M社は、PFMSが公害を引き起こしているという多数の訴訟に直面しており、その法的負担が約300億ドルであるのに対し、PFAS事業は四半期で約10億ドルしかないため、将来的に事業が成り立たないとのこと。各国でPFASの代替を開発し続けている。
もし半導体の製造が止まったらどうなるのか。
私たちが1年間でどのくらい半導体を消費しているか著者は提示しているのがおもしろい。
→2022年の1年間
半導体出荷額 約5735億ドル
出荷個数 1.1兆個
人口 80億人
→1人あたり
半導体出荷額 71.7ドル/人
1ドル134円で9608円
出荷個数 138個/人
PC、スマホ、各種電機製品、ゲーム機、車について、一人あたり138個の半導体を9608円買っている計算。
先進国は発展途上国の2倍、現役世代は子どもや高齢者残る2倍半導体を消費していると考えると、日本の現役世代は、1年間で約38,432円で552個の半導体を購入していることになる。
半導体市場はこれからもものすごいスピードで拡大し続けるが、世界情勢を見た時に、このまま半導体を需要にあわせて供給し続けることは可能なのであろうか。
半導体残る供給が止まった世界はどのようなものか。想像しても、想像しきれない。
Posted by ブクログ
タイトルに反し地政学的要素はほぼ無い。あったとしても、もし中国が台湾に攻め込んでTSMCに被害があると大変!の繰り返し。
主に半導体製造工程それぞれで主要各国のメーカーがどんな技術力があり様々な役割を受け持っているかが書かれている。