初読みの作家さんです。わりと地に足の着いた感じの文体にとても好感が持てます。
前職のアパレルメーカーを横領の濡れ衣をきせられて退職した羽根は、
現在ディスプレイデザイン会社の契約社員をして下積み生活を送っていた。
毎日ひたむきにがんばっているが、元彼に裏切られて罪を着せられた傷はまだ癒えていない。契
...続きを読む約社員という先の見えない生活にも不安を募らせている。
いわゆる不幸健気受です。
対するはデザイン会社のチーフを務める寡黙で武骨で男気あふれる会社の先輩堂上。
ある日堂上から食事に誘われ、突然好きだと告白されて驚く羽根。
尊敬はしていたが、恋愛感情は持っていなかった。
自分がゲイであると見抜かれていたことへの不安。
断ったら会社にいられなくなるかもしれないという不安。
羽根は堂上を受け入れる代わりに『正社員になりたい』と交換条件をだしてしまう。
これは身を護るための保険みたいなものだと自分に言い聞かせて。
自分を利用しようとする羽根に落胆したはずの堂上だったが、不思議なほど羽根に優しい。
堂上の懐の深さ、多くは語らないけれど羽根を気遣うやさしさに、割り切って始めたつもりの関係がどんどん苦しくなる。
そんな中、またもや元彼の差し金で不正に巻き込まれそうになった羽根は、堂上に迷惑をかけるくらいならと、そばを離れる決心をする。
こういったひとりよがりで周りが見えていない不幸受は通常あまり好きではないのだけど、うわっついていない堂上の不器用な愛情の好感度との相乗効果もあってか、全然嫌な話じゃなかった。
実はまだアパレル会社にいるころから顔も知らない羽根に潜在的に興味を持っていたというエピソードよかったな。
両想いになってからの甘やかしと堂上のやきもち焼きが微笑ましい。