「もうひとつの脳」R.Douglas Filelds
脳内には、1,000億個のニューロンがある。
ニューロンは脳内の全細胞の15%しかない。残りはグリア細胞。
グリアはシナプスを介して回路に接続されているのではなく、メッセージを脳全体に向けて広く送信している。
盗まれたアインシュタインの脳
...続きを読むは、脳の四領域全てにおいて、一般人に比して、ニューロンの数は同じくらいだが、グリア細胞は二倍近くあった。
グリア細胞は四種類に大別される。
シナプスは経験に従って神経系の計算能力と情報処理能力を大きく向上させる。学習が可能。
人間の記憶はニューロン内部ではなく。シナプスを介したニューロン間の結合部に貯蔵されている。
グリア細胞の一つであるアストロサイトとニューロンの前頭皮質における比率について、人間は4対1だが、クジラやイルカは7対1。
下等から高等な動物に進化するに従ってニューロンに対するグリアの比率が高まる。グリアは知性の座。
脊椎動物はミエリンを形成するグリアを持つが、無脊椎動物は持たない。両者の違いは、神経系の機能に寄与するグリアの進化、すなわちミエリン形成能の獲得がもたらした最大の功績。
神経系の設計に関する解決策は小型化。絶縁にかかわるグリアは軸索というホースに何重にもミエリンを巻きつけることによって電気の漏れ口を実際に塞いでこの小型化を可能にしている。その結果、脊椎動物の脳と末梢神経では、極めて細い軸索が遠くまで迅速に情報を運搬する事ができる。
小さな接着細胞を意味するミクログリアは、脳内に存在するグリア全体の5-20%を占めている。ニューロンとミクログリアはほぼ同数。
目は脳の一部。胎児の発達期に脳から外側へ突出した膨らみとして目が形成される。
アストロサイトは神経伝達物質を感知できるだけでなく、電気信号の代わりにカルシウムイオンを使って仲間同士でメッセージをやりとしている。
アストロサイトも細胞の間隙を通して、ある種のシグナル伝達分子を送って交信していた。ニューロンとグリアは同じ様式の交信経路を持っていたが、シナプス結合を介したニューロンのコミュニケーションが固定電話と同じ線形回路であるのに対してアストロサイトは携帯電話のようにシグナルを広範囲に送信する方法で交信している。
ニューロンがシナプスでのコミュニケーションに使っている様々な神経伝達物質の全てを含む、神経系におけるシグナル伝達分子の大多数を感知できるセンサー群をグリアが持っている。
未成熟なグリアに幹細胞のような働きができる事や、成熟したアストロサイトが成人脳では休眠状態にある幹細胞を刺激して、代替のニューロンやグリアへと分化させられる事が明らかになっている。
統合失調症やうつ病から病的虚言や音痴のような特異な疾患までを含む多くの精神疾患にもグリアが関係している。
老化、癌その他の健康に関わる脳機能の多くの側面がもう一つの脳と関係している。従い、グリアは脳の健康と病気のハブだと言える。
男性の方が悪性の脳腫瘍に罹りやすい。女性は脳と脊髄の被膜にできる良性腫瘍である髄膜腫は発症しやすく、その羅漢率は男性の20倍になる。
放射線は健康な組織も損傷するだけでなく、長期的には腫瘍を誘発する。
グリアの細胞膜には、ニューロンが持っているイオンチャンネルのほぼ全てが発現しており、グリアの細胞膜を通り抜ける特定のイオン(カリウム、ナトリウム、塩素イオン)の流れを調節している。
多くの癌細胞は細胞を繋ぎ合わせている細胞外マトリックスを溶解する酵素を分泌して細胞間の通り道を緩めている。
車椅子の四人に三人は男。車椅子利用者の五人に三人が30歳未満で車椅子生活になっている。
脳細胞への局所的な血流を制御しているのはアストロサイト。
女性が妊娠すると、脳内で乳汁分泌を制御しているシナプスを取り囲んでいるグリアがこの部位の構造を変化させてシナプス回路を配線し直す。
睡眠中の脳活動を制御しているのは、大脳皮質でもニューロンでもなく、アストロサイトを通して流れる活動波が、視床ニューロンの大集団を結びつけてその神経活動を競技場の観客の動きのように協調させている。
ハエの脳内のグリアは、ニューロンによる神経伝達物質のドーパミンやセロトニンの産出を調節する事で睡眠と活動のサイクルを制御している。
アストロサイトの遺伝子を欠損させた遺伝子改変マウスは、脳卒中後に海馬の長期増強が損なわれる。
アストロサイトは記憶を保持するシナプスを掌握している。
アストロサイトは周囲にあるシナプスを抑制して、記憶中枢に対する特定の入力を際立たせている。
学習とは、脳が環境と相互作用した結果。
玩具や社会的交流を増やすという刺激の豊かな環境で飼育した動物と通常の条件下で飼育した動物では、前者は認知刺激が増加するので、高次認知機能に関与する大脳皮質が厚くなり(グリア細胞の数が増える)脳が大きくなる。
豊かな環境で生育された動物では、私たちの左右の脳を連結するケーブルを包んでいる絶縁体が増加し、この絶縁体を形成するオリゴデンドロサイトの集団が3割近く増加し、学習および記憶力が増す。
人間は生殖期を迎えるまでに、自分が生まれ落ちた特定の環境に最適な脳を発達させている。
成人期を迎えるまで脳が可塑性を持つ事こそが、人類がいかなる生命体をもはるかに凌ぐ爆発的な進化を遂げた理由。
プロピアニストは、右側の脳にある白質神経束の一部の軸索を被膜するミエリンが一般人よりも厚い。白質神経束の組織は、幼少期か成人期かに関わらず、練習時間に比例してミエリン形成が済んでいない脳領域で増大する。
ミエリンと学習の相関関係は、複雑な技能の習得は人生の早いうちに始める必要がある事を示している。
グリアは人間の反射を超えた領域へ私たちを連れていく。
グリアの緩慢で着実な影響は、身体の平衡、ホメオスタシスに重要な役割を担っている。
情動や感情、注意のサイクル、成長や老化に伴う認知力の変化、ギター演奏のような複雑なスキルの獲得はグリアが得意とする。
アストロサイトはニューロンの全ての活動を傍受する能力を備え、グリア間の交信は神経伝達物質のみならず、ギャップ結合やグリア伝達物質、ATPなどいくつもの通信回線が使われている。
ニューロンはニューロン同士で適切な相手としかシナプスを形成しないが、グリアは仲間同士でもニューロンとも交信する。そしてオリゴデンドロサイトやミクログリア、血管細胞や免疫細胞とも交信している。
グリアは包括的なコミュニケーションネットワークの役割を担っており、それによって脳内のあらゆる種類の情報を連係させている。
グリアは神経系を構成するあらゆる細胞を一つの機能的ネットワークに編成している。
脳の活動には、即断を要する直感的な思考とそれに伴う速い反応と、深い思索、意識や感情、情緒のような緩やかに展開する生理過程が共存しており、前者がニューロンの機能であり、後者がグリアの機能。