パーシヴァル・エヴェレットのレビュー一覧
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書店で装丁に惹かれて手に取った一冊が、なんとも心揺さぶられる作品だった。マーク・トゥエインの「ハックルベリーフィンの冒険」(というか個人的には世界名作劇場のアニメ「トムソーヤの冒険」が馴染み深いお年頃だけど)のいわゆる改変もので、元になった作品のストーリーを途中までトレースしつつ、黒人奴隷の「ジョン=ジェイムズ」を主人公に彼の視点で物事が描かれる。人でありながら「奴隷」として扱われるジョンことジェイムズの視点で見ると、往年の名作はガラリのその様相を変え、奴隷制度のあまりの非道さに読み進めるのがためらわれるほどだ。
訳あって“白人”の元から“逃亡奴隷”となったジェイムズは、残してきた家族を取り戻すべく、たまたま“白人の子”ハックルベリーフィンと一緒に逃避行する身となった。
白人の前では知識のない馬鹿の振りをし続けてきた(白人より下に見せる必要があった)ジェイムズは、“ある行為”で自らの存在を客観視し、自我を手に入れていく。その過程から目が離せなくなってしまった。
なぜいまだに人種問題がアメリカで蔓延っているのか。下手な論評を読むより、この作品を読めば一発で腑に落ちる。大人はもちろん、中高生にこそ読んでほしい一冊だ。 -
Posted by ブクログ
"善悪と法律はなんの関係もねえだよ。
法律はただ、わしが奴隷だと言っとるだけだ。"
主人公・ジムの言葉です。
確かに現代でも、法律や規則=善悪ではないけれど、それでも昔よりも良い方向に進んでいるんだと信じたいですね。
でも、100年後の世界から現代を見たら、なんて野蛮で未熟な世界だろうと思われるのかもね。140年前の『ハック』を読んで僕らが思うように、、、
本作『ジェイムズ』が、当時(1860年ごろ)のアメリカの世相をどのくらい忠実に再現しているのかはわからないけれど、ジェイムズが支配者階級と同じ白人英語をしゃべり、読み書きができると気づいた際のサッチャー判事の驚愕ぶりは、まさに当時の価値観を象徴している。
「黒人は知性を持たない」という前提が、制度と文化の両方に深く埋め込まれていたのだ。
ただ、この構造は決して遠い過去の特殊な偏見ではない。
ちょっと前まで
「日本人はサッカーが下手」
「日本製のエレキギターは粗悪品」
といった言説が堂々と語られていた。
「日本人」を例に挙げたけど、〇〇人でもアラ〇〇でも女性でも、簡単に例示できる。
支配的な文化が他者の能力を過小評価する構造は、形を変えて今も続いているのだと痛感する。
差別の論理は、時代や対象が変わっても本質的には変わらないんですね。 -
Posted by ブクログ
『トム・ソーヤーの冒険』の続編にあたる『ハックルベリー・フィンの冒険』――暴力的な父親から逃げた少年ハックが、逃亡中の黒人奴隷ジムとともに、いかだでミシシッピ川を下りながら、自由と本当の友情を求めていく物語――を、ジム(ジェイムズ)の視点から描いた作品です。
もっとも、訳者のあとがきによれば、前半は原作と同じストーリーをたどるものの、後半、私の推測では全体の後ろ三分の一ほどは、独自の物語になっているそうです。なにせ原作は未読――ひょっとしたら五十年以上前に読んだのかもしれませんが、もはや忘却の彼方です――なので、どの部分が原作と異なるのかは分かりません。
主人公のジェイムズは、知的好奇心にあふれた黒人です。どういう経緯で身につけたのかは分かりませんが、難しい語彙も知っており、哲学的な本さえ読むことができる。自分の考えを書き残すために、ノートと鉛筆を切望します。
しかし、そうした知性はひた隠しにし、白人の前では、白人が期待する「黒人らしい」言葉遣いで受け答えする。白人たちが黒人を人間として扱わない社会で生き延びるために、あえて愚かで無教養な人物を演じているのです。
描かれるのは、奴隷制度のすさまじさと、その非人間性です。黒人を人間とみなさず、ほとんど理由もなく、肉が裂けるまで鞭打つ。女性をレイプする。ジェイムズが脱走したのも、主人(白人)の都合によって愛する妻子と引き離され、自分自身が売られることを知ったためでした。
奴隷制度の実態について、知識としては知っていたつもりです。しかし、次から次へと描かれるエピソードは、やはり厳しいものがあります。
白人たちの愚かさを知りながらも、従属関係から抜け出すことのできないジェイムズ。しかし、物語の最後には、ついに反乱ののろしを上げます。このあたりが、原作とは異なる展開なのでしょう。
出版社の紹介文には、「痛烈な笑いと皮肉で全世界に衝撃を与えた怪物的話題作」とあります。私は笑えませんでしたが、そこに「痛烈な笑い」が含まれていることは分かります。そして、確かに衝撃的な問題作です。
一方で、「なぜこの時代に、わざわざ奴隷制度を題材にするのか」とも思いました。しかし、アメリカでBLM(Black Lives Matter)運動が広がったことなどを考えると、奴隷制度や人種差別は、いまだに「現在進行形の課題」なのでしょう。
ふと思いました。
そういえば、「C国人」だの「害国人」だのと、ネットで騒いでいる人たちも、個人を見ずに、国籍や民族といったラベルを貼って判断している。その意味では、黒人を一人の人間として見ようとしなかった人々と、どこか同じなのではないか、と。
全米図書賞&ピュリツァー賞、驚異のW受賞!
ブリティッシュ・ブック・アワード、カーネギー賞、カーカス賞受賞!
ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー第1位、2024年ベストブック最多選出。
各賞を総なめにした、2024年アメリカ文学最大の話題作。
……だそうです -
Posted by ブクログ
知的な黒人作家が皮肉で書いた「黒人らしい」ステレオタイプ小説が超ヒット。偽りの成功に揺らぐ一方、家族問題等で実人生が崩壊してゆく悲喜劇。
何より皮肉なのは、文壇の傲慢さを批判した本作が、NYタイムズ「21世紀の100冊」に選ばれたことですね。
「本当に書きたい小説のアイデア」「偽りの姿がどんどん取り返しつかなくなっていくさま」「家族のリアルな悲哀」「あの頃の家族の姿(いま思えば実態は…)」などなど。時系列や描写がさまざま入り組むのに、不思議にすんなり読めるのは構成の妙でした。
権威の偽善を撃つブラックジョーク的「作中小説」が、実際に100Pに渡って展開されるのもスゴかった。
「権威を笑う小説が、権威に絶賛・回収されてしまう」という作中そのままの現実のメタ構造含め、最高にシニカル。 -
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猟奇的な殺人事件で物語は始まる。白人の死体の横に黒人の死体があり、その手には切取られた白人の睾丸が握られている。収容された黒人の死体は所在不明になるが、次の殺人事件現場に現れる。同様の事件は南部を中心に拡がりを見せ、ホワイトハウスで要職者も殺害されるに至る。被害者は黒人や有色人を蔑視する価値観を抱き続ける白人で、レッドネックやペッカーウッドと蔑称される階層だ。ホワイトハウスの要職者も例外ではなく、大統領もその系譜に含まれる。大統領の名前は出てこないが、ファーストレディーの名はメラニーだ。
この小説は現在のアメリカの差別と分断の状況が、新たなフェーズの出現ではなく、時代が単に継続しているだけと警鐘している。BLM(Black lives matter)と同様に。
そもそもタイトルの『赤く染まる木々』は黒人が白人にリンチされ木につるされた状態をで、ビリー・ホリデイが唄う『奇妙な果実』と通底する表現だ。黒人が虐げられ、リンチされた歴史を、人種を反転させて再現させてみせた物語だ。当時リンチされた黒人男性が言った『俺はもう死ぬ、しばらくの間。でもまた戻ってくる。おれたちはみな戻ってくる』が象徴する事件群だ。
事件の黒幕的な人物として、自分が生まれてから発生したリンチ事件を記録し続ける人物が登場する。そのおびただしい被害の記録を提示し、事実を直視するよう世の中の “あほう達” に警告している。史実を修正するな、犠牲を忘れるなと。 -
Posted by ブクログ
残虐な手口で男性が殺され、その場に残された見知らぬ男の遺体が、警察が引き上げたあとに消えてしまうという奇妙な事件から始まる。はじめは犯人探しのつもりで読み進めたが、物語はしだいに混沌としていき、登場人物の輪郭も曖昧になっていった。人の命が奪われているのに、いつしか「またか」という気持ちになってしまう。その感覚こそ、かつてアメリカ南部で繰り返されたリンチや、それを見て見ぬふりしてきた歴史につながっているように思う。
特に印象に残ったのは、死体を集める会社の存在だ。荒唐無稽にも思えるが、「生きている時には注意を受けないのに、死体になるとなぜ注意を受けるのか」という皮肉には、鋭い痛みを感じた。生きているあいだの暴力には鈍感なのに、死んでからの扱いだけが問題にされる。その不気味さが、この作品の恐ろしさなのだと思う。
人種差別という重い問題を、この作品は混沌そのものによって描いているのだと感じた。ただ、個人的にはJamesや消失のほうが輪郭がつかみやすく、自分には好みに合っていた。 -
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・しんどかったけど面白かった〜。
・トムソーヤやハックルベリーはとても昔に読んだのだけど、正直話はあんまり覚えていない。解説で最後財宝を見つけて〜と書いてあったけど、そうだっけ?と思ったくらい。
・なのでこの作品単体で楽しんだ、という感覚。
・まぁ楽しんだ、というには当時の奴隷の扱いがしんど過ぎたけれど。自分は他者が軽んじられる(というレベルでは無いけれど)という描写には基本苦手、しんどさを感じてしまうので。ドラマの「地下鉄道」(あれも凄かった)を思い出した。
・とは言え、ジム(や他の黒人奴隷)の二面性(話し方を使い分ける)等、ゾクゾクする様な設定もあり、文学、社会の歴史的な意義深さ、以外にもちゃんと「不健全な「娯楽性」も存在していて、そこが凄く面白い。ブラックスプロイテーション文学、みたいな。 -
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家族と離されて売り飛ばされる。奴隷のジムは逃亡を決意し、途中で一緒になったハックとミシシッピ川を下る。トゥエンの「ハックルベリー・フィンの冒険」を奴隷のジムの視点から描いたスピンオフ。
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「ハック・フィンの冒険」を読んでから、近年に出版されたというこちらにも興味を持っていたのですが、これはなかなか読んでいて苦しいお話でした。まあ逃亡奴隷の話なので当然といえば当然ですが、「ハック・フィンの冒険」のように、子どもの冒険譚のようなお話を想像していると厳しいです。当時アメリカで黒人奴隷がどのように扱われて、白人に対してどのような態度で生きていなければならなかったのか、正直に言うとどこまで本当のことなのかは知りようもないのですが(だから学ぼうとも思いました)、大体において正しい描写なのだと思います。人をひととも思わぬ所業というのは、身近にないだけで消えたわけではありませんし、少しの油断で我が国でもそうなるものでしょう。少なくともこうした本を読んでおけば、そうした所業に足を踏み入れることをよく考えてみる機会にはなるでしょうから、やはりなるべく多くの人に読んでほしい本だなあ、と思いました。
「人権」という言葉と概念はいつの時代でも風の前の蝋燭の火のように頼りありません。だからみんなが学び、必死に守っていかなければならないものなのだと思うのです。 -
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「ジェイムズ」と同じように、展開が早く読みやすく、とても面白かったですね。また読後の余韻があって、色々考えさせられる小説でした。
タイトルから、分かる人には分かってしまうと思いますが、実際にあった黒人リンチに着想を得たミステリー小説です。「奇妙な果実」という有名な歌もありますね。ただフィクションではあるものの、実話半分みたいな微妙な世界観で、事件が国レベルまで発展した際には、某大統領も登場します。過去の黒人迫害の歴史だけではなくて、今も根強い分断が米国では続いているんだと、読者に訴えかけているんだと私は感じましたし、複層的な切り口で事件を発展させる辺りがとても斬新だなと思いました。
パーシヴァル・エヴェレットにはこれからも目を離せません。 -
Posted by ブクログ
アメリカの負の歴史を克明に記した社会派小説、理解できない事象を解決できるのか… #赤く染まる木々
■あらすじ
アメリカ南部のミシシッピ州で凄惨な死体が発見される。殺人現場では白人と黒人の二体あり、白人の切り取られた睾丸を黒人が握りしめており、さらには鉄条網で首が絞めつけられていたのだ。
地元の保安官たちは捜査を進めるも、さらに同様の事件が発生してしまう。州警察、FBIが捜査に加わるが、事件は全米に広がっていき…
■きっと読みたくなるレビュー
1955年のミシシッピー州、黒人差別によるリンチで亡くなったエメット・ティルの事件を下敷きにした社会派ミステリー。日本人にとってはあまり馴染みのない事件だと思いますが、詳しく知らなくても本作は理解できると思います。ぜひ読み終わった後に、少し調べてみて下さい。
本作は奇怪な殺人事件を保安官や刑事たちが捜査を進めていきながら、その中で事件関係者の価値観、社会的背景、アメリカ南部の闇も描かれていくって筋立て。
そこには現代でも残り続ける人種差別の現実を描いていて、どれだけ読んでも理解が追い付かないのよ。とても現実とは思えないような滑稽なセリフが情報が淡々と綴られるんです。
まったく納得がいかず、絶望しかないため、怒りというよりも、虚しさしかないんですよね…
物語が中盤になると事件がどんどん肥大化してくる。さらに「ママZ」なる人物から提示される情報は、あまりにも衝撃的で失望に暮れてしまう。どれだけ多くの黒人が殺され、そして社会的にも隠匿されてきたのか。
読めば読むほど現実感がなく、何故ここまで人間は非道になれるのか、やっぱり理解できない。
終盤には最たる人物が出てくるのですが、皮肉たっぷりに描かれ、問題の根深さを露骨に表現していますね。もはや涙もでず、乾いた笑いしかでません。正直、我々日本人にとっては遠い国のことです。しかし知り、学ぶことで、未来を変えていくために何かできるかもしれない。大切なことを教えてくれる作品でした。
■ぜっさん推しポイント
読み終わったとき、これはミステリーなのか?という疑問が脳内を溢れる。誰が殺したのか、なぜ黒人の死体が消えたのか、なぜ白人の睾丸を握っていたのか。
いわゆる本格ミステリーとして通用する謎が次々と出てくるものの、真相とはいうと… そう、おそらくは読者が想像する答えではないのですが、これもひとつのミステリーなんだと思いました。
確かに保安官や刑事たちが聞き取り、捜査を進めていく警察小説ではあるのですが、それは本作品においては一部分でしかない。アメリカの負の歴史を克明に記した社会派小説なんです。果たしてこの「理解できない事象」を解決できるのでしょうか。