宇月原晴明のレビュー一覧
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歴史上の出来事に興味を抱くかどうかの境目は、そこに温もりを感じるか否かだと思っている。
そういう意味で、宇月原先生の作品は、ともすると温度をなくしがちな史実に血が通ったものだ。
それは、一つ一つの出来事に、「人の心の動き」が織り交ぜてあるからなのだろう。
この作品は言うなれば「安徳天皇漂流記」のスピンオフだ。
というと元作品より劣っているような気もしてしまうのだけれど、そんなことはない。
どちらか勝るとか劣るとか、そういう問題ではなく、私は、これと前作、二つで一つなのだと思う。
ちょうど、真床追衾と淡島がそうであったように。
できることなら多くの人に、後鳥羽院のように淡島のみを受け入れられるの -
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松永久秀のかわいいことかわいいこと。
傀儡・果心との掛け合いや、兄・庄五郎への親愛、信長への憎しみと嫉妬。
外道の術を扱い、節々で人外らしい評価を得ているのに、その実、誰よりも人間臭い感情を秘めているその葛藤ぶりには、ときめかずにはいられない。
あの時代、既存概念をひっくり返したという意味では誰にも劣らないのに、どちらかといえば織田信長という傑物に掻き消されがちな松永久秀と斉藤道三が、こんな形で描かれるなんて、夢にも思わなかった。
しかし、強い光に隠されがちな星が必死に日輪に抗おうとしている傍ら、微塵も己を「日輪か星か」など疑うこともない信長は、本当に、生まれながらの日輪らしい。
そうなると、 -
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「浪の下にも都のさぶらふぞ。」壇ノ浦の戦いで入水した幼帝。僅か8歳の子供を政争の犠牲にしなくとも…、と此処までは誰しも思う事だが、ここまで圧倒的な世界を創り上げるとは!
神話と史実と虚構が混然一体となった壮大な叙事詩は、無味乾燥な教科書的史実を明らかに凌駕している。
特に第二部の息が詰まる様な叙情的な幻想世界は凄い。酸欠になるかと思った(笑)
そして、日本・中国・欧州、異なる世界・時代の事象と伝説が、蜜色の光を浴びてシンクロしていく様が幻惑的で美しい。
作中で或る有名人が語る台詞を引用し締め括りたい。「かかる妖しき話は、無用なる故にそそられる-。」 -
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それは、ジパングの若き王の物語。稀代の覇王の息子でありながら、もはや騎士ではなくなってしまった、生まれながらの詩人である若き王の物語.
宰相たる叔父と冷徹なる母が、粗暴すぎる武人であった兄を王位から追放し惨殺させrたことが、すべての始まりだったという。
父王の兵が滅ぼしたはずの皇帝、天国でもない地獄でもない煉獄につなぎとめられているかのようなこの少年を守り続ける魔術師の一団、うごめくもう一人の皇帝と貴族たち、古代の神々の宝物、予言する星々、光を失った太陽に月、嫉妬と憎悪に狂う甥、反乱と鎮圧、亡命と挫折、波を渡る夢と雪に散る血、暗殺、それも血縁の手による…
(本文より) -
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幻想文学として素晴らしく読み応えのある物語だ。平家物語で海中に身を投げた安徳天皇を軸に、鎌倉幕府三代将軍であり歌人でもある右大臣実朝が前編、東方見聞録のマルコポーロが後編で絡んでいく、その構成だけ見てもなんとも幻想的である。
正直、〜でございます、という文語体で書かれる前編は読みづらくてしょうがないが、実朝の詠んだ歌を上手く物語の設定に沿って配置するなど、手が込んでいて、徐々に盛り上がってくる。
口語体となる後編では一気に幻想が花開く感があり、どんどん読み進められる。
参考文献に太宰治の「右大臣実朝」と澁澤龍彦の「高岳親王航海記」とあるのも胸熱。 -
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ネタバレスゲーとこ突いてきた小説。
竹取物語をこういう風に解釈するかぁ。
SF・ファンタジー・奇譚・とんでも歴史考察・姉弟ショタ…あるゆるものをごっちゃに詰め込んで、引っ掻き回して、最後の落としどころはあの長編小説とは、落としどころもサスガというか。
もっと書き込もうと思ったらなんぼでも伸ばせるベースあるはずの下地、なんならこれの設定だけで結構な大河歴史ファンタジー小説が書けると思えるのに、ギューッっと濃縮して200Pあまりに納めたところも良かった。気になる伏線放置(竹取翁どうなってん、とかあるも、それでも冗長になるよりは良かったかも。
奇想天外な小説読みたい方にお勧め。ボリュームの割に読み応えあ -
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ネタバレ松永久秀主人公の伝奇小説。脇役として斎藤道三、果心(居士)、明智光秀、織田信長が多く出てくる。
特に道三は久秀の兄弟子という設定で、久秀にとっては大事な存在になっている。子供時分に久秀と天下を二分しようと約束し、互いの道を行くようになる。
また光秀も光秀を通しての久秀、道三を見せてくれる役割としてよく出てくる。
率直に面白かった。続きが気になり、飽きることなくどんどん読んでいけた。
純粋な歴史小説ではないので、そのつもりで買うと想像していたものと違うということにもなるかもしれない。もう少し言うと、久秀や久秀周囲の人間の名前と状況を利用した創作物語と言った所。歴史小説ではなく、創作小説に近い。内