スチュアート・リッチーのレビュー一覧
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装丁に書かれている内容から、世の中で信じられている
「 科学的とされているような事実」が実際は嘘でしたと言う軽い告発系の読み物かと想像していたのだが、 実際には想像以上に硬い内容の話だった。
一言で言えば、今の科学研究は様々な理由により再現性がない、 あるいは効果がない研究成果が溢れており、そのような事態が発生してしまうメカニズムと解決するための方法論を提示しているのが本書だ。
どのようなシステムであっても、必ず問題が起こることは避けられないので、 そのような例が少ないのであれば問題はない。しかし本種によれば、分野によって異なるがかなりの事例が歪められているとのことである。かつて大学院まで -
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著者はキングス・カレッジ・ロンドンの講師(出版時34歳)。専門は心理学だが、生命科学や脳科学から心理学や経済学まで、実験科学における研究や論文の不正をメッタ斬る。若いだけに勢いがあって、解説も歯切れよい。
データの捏造や改竄はもってのほかだが、事後のデータの追加やp値ハッキングはインフォーマルにはよく見かける。これがなぜダメか、そのへんもわかりやすく解説されている。その点でも、とくにこれから研究の道に進もうとしている人には、おすすめ。研究室の悪しき慣習や伝統に染まるまえに(途中で大きくコケないためにも!)、一読しておいたほうがよい。
(蛇足。日本版の帯には、大きく「スタンフォード監獄実験はイカ -
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本書『Science Fictions』は、科学の世界に潜むさまざまな問題点――特に、研究の再現性の欠如や不正、そして構造的なバイアスについて取り上げた一冊である。私たちが「科学的」と聞いたときに抱くイメージは、客観的で、正確で、信頼できるものというものが多い。しかし著者は、そのような科学の理想像と現実との間にあるギャップを、具体的な事例を通じて明らかにしている。
中でも印象的だったのは、科学的な発見が必ずしも厳密なプロセスを経ていないこと、そしてその中に成果の誇張や再現性のない研究が少なからず存在しているという点である。また、研究成果が評価されるためには注目を集める必要があるという現実が、 -
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科学者を取り巻く環境における問題を実例と共に挙げていき、最後に現在改善するために行われている取り組みを紹介した本。
スタップ細胞のようにリアルタイムで騒がれているのを見ていたなら知っていることでも、生まれる前の有名な実験が否定された経緯については驚くほど知らず、読んでいて間違いだったの!?って驚くことも多かった。スタンフォード監獄実験とか普通にまともな実験結果だと思ってたよ。
第二章の再現性の危機の話を読んでるときは、ニコニコ動画の「世界の奇書をゆっくり解説 第6回 「フラーレンによる52Kでの超伝導」ほか」で何で再現できない革新的発見をここまで持ち上げられるんだろう?と思ったのを思い出し -
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ネタバレ科学論文の衝撃的な不正実態と背景、そして考え得る対策が詳細に解説されている。心理学や栄養学は再現性が難しいと言われているらしいが、経済学、医学、生物学、教育学など、様々な分野で不正が横行しているようだ。
もちろん第一義で責任を負うべきは主たる研究者なのだが、本書を読むと、全て研究者が悪いとも言い切れないように思ってしまう。限られた研究費やポストを得るためにはインパクトのある論文を多数発表する必要がある。悪意がなかったとしても再現性実験やデータ確認に割ける時間は多くなく、グレーな結果が多くなるだろう。また、nullまたはnegativeな結果はインパクトが薄いため、オープンになりにくい、所謂出版 -
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これは根底から認知が変わる。
大体、「論文で査読されててメタアナリシスであれば信じるに値する!大学でも何度も引用されてるから信用できる!」と信じて疑わなかったものが一気に崩れ去り、「あの心理学の講師今頃冷や汗かいてるのかな」「多分その講師も俺も教わったんだから嘘な訳が無い!」とするんだろうなとか色々妄想してた。
自分事だけど「筋肉の超回復を信じていたし、大学の講義でも使われてたのでドヤ顔で言ってた」過去を枕に顔を埋めて足をバタバタする毎日で他人の事は言えない。
結局大人はみんな「星の王子さま」に出て来るビジネスマンやジオグラファーや点燈夫なんだから、制度、金、環境で真実はそれらによって定め -
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科学における不正・怠慢・バイアス・誇張が生じるしくみ
<目次>
◎第1部「あるべき」と「ある」
第1章 科学の仕組み
科学研究活動の基本の流れ/真の科学が備える価値観
第2章 再現性の危機
再現性が失われた原因/医学における大きすぎる代償
◎第2部 欠陥と瑕疵
・第3章 詐欺
科学の歴史上まれに見る汚点/単純な手口による悪質な不正/
操作された画像/ノイズの消されたデータ/不正な科学の蔓延/
科学者に紛れ込む詐欺師/一度の不正から広がる影響
・第4章 バイアス
発表されないNULLの画像/メタアナリシスで科学を再分析する
「良い値」が出るまで何度もサイコロを振る/
研究成果をゆがめる利害関係 -
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ネタバレノーベル賞に代表されるように、科学という営みは日々進歩し続けている。
分からないことが分かるようになり、出来ないことが出来るようになる…一方で、科学結果自体の正しさ(再現実験)は殆ど重要視されていない、という一冊。
筆者が心理学者なだけあって基本的な例が心理学に偏っているけど、まぁ科学界すべてに言える話だろう。再現実験の必要性は誰もがわかっているけど、時間も資金も限られている中で自分がやる必要はない、という難しさ。
個の最適が全体の最適と逆行するからこういう問題が起きるので、筆者の上げた逆インセンティブは(劇薬ながら)理にかなっているなぁ、と。
スタンフォード監獄実験とか、ほかにもいろいろ -
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ネタバレ某国(亡国)の大統領は自分に都合が悪い科学的なエビデンスがお嫌いなようですが、本書は科学的なエビデンスに関しての危機に関して説明してくれています。
科学が他の宗教などの思想と異なるのは、実験などにより得られたデータを基に論理的な推論によってエビデンスが語られ、そのエビデンスの再現を誰もが実施できる点にあります。その一連のプロセスが人間的な要因によって捻じ曲げられている実情を実例を挙げながら論じ、どうしたら今の状況が改善できるのかの考察も行っています。
目次は以下の通り。
◎第1部「あるべき」と「ある」
第1章 科学の仕組み
科学研究活動の基本の流れ/真の科学が備える価値観
第2章 再現性の危機 -
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シャレが効いたタイトル。普通サイエンスフィクションと言ったら空想科学小説のことを指すが、これは科学(の論文、発表)に関する虚構という意味を持たせている。
科学における数々の不正・怠慢・バイアス・誇張。調査して発覚した、再現性に危機のある論文の割合はなんと半数以上に及ぶ。
科学ってもっと、しっかりとした土台の上に成り立って発表される、確かで拠り所のあるものなんだと思っていたけど、もしかしたらその認識はナイーブすぎるのかもしれない。
またどうしてそのような事態が起こってしまうのか、その裏に秘められた科学者の実態は悲哀を感じずにはいられない。
これは読んで良かった。
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科学研究における「再現性の危機」を枕に話は始まります。従来の宗教とは違い、わたしたちはなんとなく、「科学の無謬性」や「科学者の誠実さ」を「信じて」いる節があります。しかしこの構えは、従来の宗教に対するスタンスと変わらない、ということ。以前読んだ本では、科学の「反証可能性」について強調されていました。この検証と反証を認めるのが、科学が宗教よりも人類を遠くに連れて行ってくれる可能性を高める所以になるわけですが、科学も宗教と同じで、運用するのは我々不完全な人間です。ちゃんと勉強をしてきた科学者も、ヒトの肉体と心の働きからは自由になれません。バイアスがあり、また功名心もあります。そして食べて行くにはお
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科学者の成果とも言える論文に関して、様々な不正があることを綿密に調査した本だが、小生も10本位の論文を投稿した経験からすると、意外な事実に驚いた.ある程度成果が顕在化しないと、研究資金が調達できないことは理解できるが、故意に不正な行為をすることは許されないことだと考える.早速Retraction watch databaseを見てみたが、小保方春子はしっかり掲載されていた.藤井善隆が183本もの撤回された論文を作ったのも驚きだ.最後の章に打開策をリストしているが、プレプリント、オープンアクセス、チームサイエンスなどは有効な方法だろうが、科学者自体の良心が基本だと思う.