木内尭のレビュー一覧
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謎の組織によるテロ行為はエスカレートし遂に犠牲者が出る。
その煽りを受けながら大統領選は終結する。
家族内での不幸。もっとも若い息子が死に、体の不自由な父親は生き延びる。
主人公は妻との関係を修復するも過酷な運命が待ち受けていた。
上巻から物語の重要な要素と思われていたテロとの戦いや大統領選は尻すぼみに終わり、家族の話、そして主人公個人の生死をめぐる話へと収束していく。スケールの縮小。
弟オーレリアンはともかく、妹セシルや義妹インディーは最後まで活躍するかと思ったが。イラストまで用いたテロ組織の正体は投げっぱなし。
大統領選もあれだけ騒いでおいていざ終わればあっけない。その終わり方も味気ない。
ウエルベック作品の割には強烈な毒や怒りはない。諦念と悲哀のトーンが全編に漂っている。世界は混乱し、人は死に、運命には抗えない。
「自分が耐えられなかったのは、無常そのものであると、彼は不安な気持ちで気づいた。無常とは、この世のものは何であれ、いつか終わるという考えである。彼が耐えられなかったもの、それは生きることの本質的条件のひとつにほかならなかった」。 -
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作家ミシェル・ウエルベックの最新刊。時は2027年、大統領選挙を間近に控えるフランスを舞台に、経済財務大臣補佐官のポールを通して同国および世界の抱える病理と苦悩を見つめた大作。
相次ぐ国際テロ事件、選挙に向けた候補者応援活動、そしてパラレルに進行するポールと彼を取り巻く親族の家庭問題が、筆者の皮肉やジョーク、近現代の哲学思想をふんだんに交えて展開される。
ポピュリズムに支配される政治ゲーム、晩婚化と少子高齢化、過酷な介護の現場、メディアによる暴露など日本とも無関係ではないトピックに彩られながら、救われたいと願いつつ運命に翻弄される現代人を浮き彫りにする。滅び行く世界の中で、ポールと妻プリュダンスが行き着いた風景とは。サスペンスであり、恋愛小説であり、はたまた医療ドキュメンタリーであり。多彩な側面を示しながら、物語は静かな余韻を残して締めくくられる。 -
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ストーリー冒頭のブリュノ大臣偽殺害動画は何の目的で誰によって作られたのかも分からないまま、主人公ポールと妹弟たちとの関わりが描かれていくので、ミステリ的な展開を期待して読んでいたら動きがなくて肩透かしをくらった感じになった。
本作は主要人物たちが著者によって意識的に描かれてると思うからその辺を注意して読むと面白い。
ポールは現代社会の「勝ち組」で今のところ現代フランスのハイクラス男性の典型みたいな描かれ方にとどまっているように思う。
妹のセシルは田舎で暮らす敬虔なキリスト教信者で経済的な成功者のポールと差があるように見えるけど、関係は良好に見える。
一方、男性的な成功基準から外れた弱い男として描かれている弟のオーレリアンはポールから見ても頼りない存在。
まともな政治家ブリュノや権力欲の強いジャーナリストとして描かれているオーレリアンの妻インディーも注目すべき人物。
上巻だけでは評価が難しいけと、下巻でストーリー的にも大きく動きがあると思うのでラストに向かって主要人物たちがどうなるかで本作の真価が見えてくると思う。 -
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ミシェル・ウエルベックの二巻本の最新長編小説、ということでずいぶんと期待をもって読んだ。以下、おおいにネタバレがあるのでまだ読んでいない人は注意してほしい。
小説の途中までは、経済・財務大臣の腹心の高級官僚である主人公ポールを中心に、フランス大統領選を控えた選挙戦略、政府へのサイバー攻撃、父親の脳卒中とケアの問題、妹弟とくに弟夫婦との関係とそれを発端としたスキャンダルと実弟の自死、妹のキリスト教と妻の新興宗教、年を経た夫婦の関係、と何本もの糸を張って物語を紡いでいった。小説の終盤にかけてこれらの仕掛けをどうやって回収していくのか、と楽しみにしていた矢先に、ポールの悪性の口腔癌が発覚する。その後はほぼ仕掛けはそのままに、ポールの予後は思わしくなくなり、もうすぐ死を迎えるところで小説は終わる。数々の設定は宙吊りにされたままだ。思うに、それらは宙吊りにされるために書かれたのだと合点した。どうしたところで、死がこのようにすべてを無に帰すように終わらせるのだ、と示すために。おそらくは、小説の最後に置かれたのは妻との絆と妻の信仰だが、それが最後に置かれた意味はあるだろう。そのとき何を思うことが可能なのかと。
ウエルベックは小説世界の中で積み上げてきたものを壊してしまうことで、死の暴力を書こうとしたのだろう。『滅ぼす』というタイトルに込めた意味もおそらくはそこにある。もちろん、それはひとつの読み方でしかないのだけれど、剥き出しの「死」こそがこの小説のテーマなのだ。読者としてはせっかくの物語のかたを付けてもらいたかったという思いは残るが、それも含めてウエルベックの狙いだと思うこととしよう。
死に方に関して言えば、小説の中で出てきた数々の死 ― 実父の脳卒中(植物状態で生きているが)、ポールと実弟のオーレリアン、ポールの妻プリュダンスの母の交通事故死 ― を比べると、やはりポールのように癌で死にたいと思うのだ。自分が死にゆきものであり、およそいつごろ死ぬのかを知りつつ最後を迎えたいと強く思う。老衰の前に病によって強制的に死にゆくポールをウエルベックはひとつの理想とみているのかもしれない。そうでないかもしれないけど。 -
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物語後半で展開されるのは人生の不条理劇。解明しようとしてたサイバーテロ攻撃も父が残した謎も大統領選もこれ以上進展がのぞめない。なぜならポールは口腔癌によって「滅ぼされる」から。
自分はまだ重い病気に罹ったことがないから、癌の告知、治療の選択、家族へ知らせる過程等をポールと共に追体験した。嘘つくまではいかないが言うべきことを妻に言わなかったりセカンドオピニオン受けて治療法を天秤にかけたりと、細部にリアリティがあってこんな感じなのかーとしみじみ思った。
やっぱり、妻であるプリュダンスとパートナー関係が修復できてるのが今までのウエルベック作品と異質だと思う。
知人とも話したけど、ウエルベック年々作風丸くなっていってるよね????昔はもっと露悪的だったよ -
Posted by ブクログ
いつものウエルベック節を求めている人にとって期待以上に楽しめる本だと思う。
序盤から断頭台の図解が出てきて笑ってしまう。まだ上巻しか読んでないけど、ポールとプリュダンス夫妻の歩み寄り・関係の修復が見られそうなのがこれまでのウエルベック作品とは違う点かな。
ポールが人間嫌悪とテロリストへのシンパシィを独白するシーンは正直ドキッとさせられた。
一番印象的だったのはポールの妹セシルが得意の料理を武器に働きに出て、ブルジョワの家で作業をする中で社会的階層の違いを痛感するところ。「こんなの知りたくなかった」けど夫と合流する頃には「楽しかったわ」と表面上取り繕う。うーんしんどいな -
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ミシェル・ウエルベックはフランスの作家で、ほとんどの著作が日本語訳されているように、世界的なベストセラー作家でもある。2022年のノーベル文学賞では受賞最有力とされていた。ちなみに実際に受賞したのは、おなじくフランスの作家であるアニー・エルノーだったので、もうウエルベックの受賞はなさそうである。長生きしていればあるかもしれないが、どうにも不健康そうだし。
ウエルベックのポルノ映画事件というものがあった。くわしくは検索してもらえばいいのだが、これ自体がくだらない話である。
それと、本書の始まりはウエルベックのイスラム教への発言についても触れられる。イスラム教徒を犯罪者と同列視する発言をしたとして、炎上したものである。こちらも呆れる話である。
本書は、これらへのウエルベックの弁明である。ただの言い訳ともいえるが、すぐに話が逸れて閑話が多い。むしろそっちのほうが安心して楽しめる部分もある。
本筋の弁明に関しては、あまり賛同を得られるとも思えない内容である。そもそも事の発端である映画というのは、ウエルベックの妻とオランダ人女性との3Pをするシーンというのがあり、さらにいえば妻がウエルベックのために女性を探しているという話もある。このような生活に、あまり共感できる人はいないだろう。
百歩譲って、それをウエルベックという作家の特質に還元し納得するとしても、そのあとのウエルベックの弁明も厳しく、見苦しいものである。
ただ、ウエルベックというひとはそういうひとでもある。あまり賛同を得られないことを前提として、なるべくおもしろい文章を書こうとしているように思える。だいたい、そのようなサービス精神がなければそんな映画にも、イスラム教への発言もなかっただろうと思う。 -
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ネタバレ滅ぼすとはそういうことだったのかと、読み進めるにつれて、悲しい気持ちになった。オーレリアンは自殺し、ポールが末期の癌になるとは。喉頭や口腔癌になると、舌を切除しなければならないこともあるとは、知らなかった。
プリュダンスと仲良しに戻っていて、本当に良かったと思った。死期を悟った後も冷静で、手術を拒み、点滴の際は読書をして過ごしたポール。自分だったらどうしていただろうか。
所々に散りばめられたウエルベックのユーモアにはクスッとさせられた。デュボンとデュポンは特にお気に入りだ(笑)。
政治や歴史、文学に恋愛、扱う内容をフランスらしいと言って良いかは定かではないけれどそのように感じ、読み応えのある好みの本だった。 -
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もはや一種の黙示録とも呼べる文学作品を作り続けているフランスの鬼才、ミシェル・ウエルベックによる新著であり、過去の作品と比べても単行本上下巻という大著。
個人的に新著が出たら、迷わずに買うことを決めている現代作家の一人がウエルベックなのだが、迷わずに買ったことを全く後悔しないほど完成度高く魅惑的な作品であった。
ウエルベックの作品は登場するテーマや意匠に強い共通性がある。デビュー当初は、カルト宗教やセックス/性の問題に始まり、ここ10年ほどは極めてアクチュアルな移民問題やテロリズム、資本主義の限界など政治・経済学的な側面が強まっている。本書はまさにウエルベックを構成するであろう様々なテーマ・意匠が総動員されることで、作家自らの代表作といって過言ではない文学世界が構築されている。
正直、圧倒的な物語の面白さはありつつも、その陰惨たるテーマ・意匠の連続によって読み手の体力を著しく奪う書物に仕上がっている。そのような辛さを味わってでもなお先を読み進めたいという中毒性を与えてくれる作品というのは非常にレアであり、その黙示録的な現代社会の救いのなさの前でただ佇むことしか私にはできない。 -
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もはや一種の黙示録とも呼べる文学作品を作り続けているフランスの鬼才、ミシェル・ウエルベックによる新著であり、過去の作品と比べても単行本上下巻という大著。
個人的に新著が出たら、迷わずに買うことを決めている現代作家の一人がウエルベックなのだが、迷わずに買ったことを全く後悔しないほど完成度高く魅惑的な作品であった。
ウエルベックの作品は登場するテーマや意匠に強い共通性がある。デビュー当初は、カルト宗教やセックス/性の問題に始まり、ここ10年ほどは極めてアクチュアルな移民問題やテロリズム、資本主義の限界など政治・経済学的な側面が強まっている。本書はまさにウエルベックを構成するであろう様々なテーマ・意匠が総動員されることで、作家自らの代表作といって過言ではない文学世界が構築されている。
正直、圧倒的な物語の面白さはありつつも、その陰惨たるテーマ・意匠の連続によって読み手の体力を著しく奪う書物に仕上がっている。そのような辛さを味わってでもなお先を読み進めたいという中毒性を与えてくれる作品というのは非常にレアであり、その黙示録的な現代社会の救いのなさの前でただ佇むことしか私にはできない。