ク・ビョンモのレビュー一覧
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先日読んだピエール・ルメートル『邪悪なる大蛇』と同じく、殺し屋の老婆が主人公。『邪悪なる大蛇』の方は前頭側頭型認知症かと思われる症状の出現により、反社会的行動が加速度的に増していっていたが、こちら『破果』の主人公爪角は歳を重ねたことによって、殺し屋として持つべきでない「情」の溢出を、どうしてもおさえることができないでいる。これが何ともいい。
飼い犬のため家をこまやかに改造し、ターゲットを追わなきゃならない場面ではよろよろのおじいさんについ手を差し伸べずにはいられず、そして治療をしてくれた若き医師に淡い恋心を抱いてしまう…。ハードボイルドな女のこのいじらしさ、けなげさ!最高です。
しかし、何よ -
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私生活を含めてプロに徹してきたベテラン殺し屋爪角。
老いを意識すると同時に彼女の信条が揺らぐ。人間らしい感情が溢れでてしまうことが己の弱みになるのに。
それでも彼女の技は年老いたとはいえまだ現役。
若くてやり手の殺し屋トゥとの死闘は圧巻。(トゥは結局何を求めていたのか。爪角に己の存在を認識させて力を認めさせる=爪角を制圧すること?純粋なようで歪んだ彼の内面も考えさせるポイント)
トゥに勝った代償は左腕と殺し屋稼業。
爪角はこれからどんな人生を送るのかな。
地味だけど上品にまとめた見た目に不釣り合いなその過去と、夜空の花火のような美しいネイルと一緒に。
「あたしはおたくのお母さんじゃないで -
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韓国の女性の小説家ってすごいなと思うことが続いている。
出生率が日本より低いことから、家父長制とそれによる分断が、日本よりキツいのだろうなと、推測されるのですが、「自由を奪われている人は、自由を謳歌している人より余程、世の仕組みについて明確に知ることができる」と丸山眞男先生もおしゃっる通り、抑圧された韓国の女性作家の小説からは。鋭い人間観察と深い人生観がバシバシ感じられます。
老境に入った女性が子どもを守るという設定は、映画の「グロリア」を思わせる。「グロリア」もメチャクチャいい映画だけど、この小説の主役「爪角」は「グロリア」よりも年齢はるかに上の65歳!なのに若い男に惚れちゃうし、急に気弱 -
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おどろおどろしい装画に手に取るのを一瞬ためらうほどです。ちょっと元気がない時は読むのを遠慮しちゃうかも。
ですが、カバーを外した本体をぜひ見ていただきたいのです…!
カバーの怖さとは一転、何やら真っ黒ではない優しい雰囲気。
おそらく、桃色の紙にこげ茶色を印刷していると思うのですが、それが良い味を出しているのです。
経年劣化や摩擦で、印刷がはげて中のピンクがうっすら見えてくる。
まるで爪角が老いと共に見出した優しさや情けといった人間らしさをあらわしているよう。
もしくは、冷蔵庫の奥で忘れさられて腐った桃か。
そのどちらでも、読む人によって解釈を自由にできる装丁がすばらしいです。
触れるたび -
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ネタバレ65歳の殺し屋の話。
淡々とした語り口。達観した主人公。
が、老いを感じる中で、人への、老犬と繋がり、彼らへの共感、情け、愛情に気づき、冷静さを保ちながら、淡々とした風情は保ちながらも、戸惑い、それまでとは違う行動をとっていく。
カッコ良い。老女のハードボイルド、ノワール小説ってのが新しい、フェミニズム小説、という触れ込みですが、確かにそうなんだが、本当にそうなんだが、その意味で非常に価値ある小説ではあるんだが、それにとどまらずにただただかっこよいのだ。
もちろん、フェミニズム要素も満載。特に冒頭。
(これを読んで、そうか、リボルバーリリーも、大事な作品やな、と思った。主従関係強めの恋愛要 -
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ネタバレ非情であるべき殺し屋のベテランにしては、爪角は感情の揺れが大きすぎて、そんなんで45年もよくやってこられたねぇ…と訝ってしまうけど、それを差し引いても最後まで引き込まれるように読み切ったのは、爪角が自身の生き方にどんな風にケリをつけるのか見届けたいと強く思わされたから…でしょうか。
ここに描かれている爪角は、甘いし、ゆるいし、迂闊だし、そんなんじゃダメでしょ⁈ってツッコミどころはたくさんあります。が、それが老いの結果ということなのだとしたら、人間とはかくも愛おしいものなのか…と思ってしまいました。ノアール小説でこんな風に思うなんて、とても不思議です。でも、自分に置き換えると、57歳で未経験の -
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ネタバレ⭐️3.8
「殺し屋はおばあちゃん」のノワール小説と聞いたら読むしかない。
完璧主義で孤高のヒットマンも歳はとる。高齢期に差し掛かり心身ともにくたびれきっている。けれどもプロとしてのプライドが、主人公爪角(チョガク)を奮い立たせる。
はるか遠い昔日の師匠への思慕、傷ついた主人公を助ける歳若い医師への現在地での淡い想い。殺し屋として封印してきた女としての心の揺れにグッと来る。
ライバルとなるトゥも、愛に飢えてきた殺し屋であり、愛情の裏返しゆえの憎しみ、そして哀しみだった。
殺し屋である前に女性であること、そのヒロインの葛藤をていねいに描く筆者の矜持が見え隠れする、断固とした女性への賛歌である本作 -
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ネタバレ家業ひとすじ45年
かつて名を馳せた女殺し屋・爪角の
ノアール小説
どこで勧められた本だったか痛いのは苦手なのに、爪角の人生に魅せられて一気読み
ただのノアール小説に終わらず、人間味溢れる小説になっている
父親を殺されたトゥよりも、爪角に感情移入してしまうのは爪角の人生を追って来たからなのか、、、
リュウとの生活はあまりにも切ない
肉体の老いのみでなく、揺れ動く様になってしまった感情
そんな中繰り広げられる最後の死闘
一緒に生きて来た老犬も無くし
リュウの元に行くまで、これからどんな人生を送るのか、、、、
花火の様な、果物の様なネイルも見てみたかったな
続編も読んでみよう♬
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最近にない美文かつハードボイルドな文体だった。冒頭で主人公が仕事を終え地下鉄駅から地上に出る際の表現、『地上の輝ける闇を目指し進んでいく』を読んだ瞬間、僕の意識は開高健さんの『輝ける闇』に一瞬飛んで行ったが、それはオマージュでもなんでもなかった…。
そう、65歳の女主人公爪角の仕事とは殺人だ。これが日本人作家による小説だったら嘘くさくて世界観に入り込めないが、翻訳小説だと想像の範疇に入ってくるから不思議だ。女性であることと、年老いて能力の衰えを自覚するに至ったハンディを抱えながら仕事を続けている。年齢を重ねると、運動能力だけでなく感受性にも変化が現れることは同年輩の私も理解できる。端的に