イリナ・グリゴレのレビュー一覧

  • 優しい地獄

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    まだ見ぬ世界。知らない場所。知らない環境。行けない時代。戻れない時間。知り得ぬ人々の日々の営みと、日々の地獄から逃げ出したいという想い。けれども逃げた先にあるまた違った地獄があるという現実。のびのびと自然と共に生きた小さき頃の鮮やかな思い出。青春期のセピア色のような、灰色のような時代。絶望を知り、希望を見つけた瞬間。生きていくこと。死んでいくこと。諦めたい気持ちで死を選ぶこと。けれども、死んでも何にも変わりはしないのならば。生きて世界を変えよう。ルーマニアには行ったこともルーツもない自分だが、この本を読んで私はタイムスリップして透明人間になってイリナさんの生きた時間を一緒になって駆け抜けたよう

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    2025年11月30日
  • ガラスと雪のように言葉が溶ける 在日韓国人三世とルーマニア人の往復書簡

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    言葉を通して、言葉にならないこと、語り得ないことについて語られているような、尹さんとイリナさんの往復書簡。

    静かな悲しみが胸の奥に積もってゆく感じがしました。
    良い悪いではなく、確かにそこにあること。
    断じることで終わりにしようとするのではなく、胸の奥に携え、その感覚とともに生きてゆくこと。

    母国語を、子どもに伝えずに生きてゆくということ。

    深い悲しみが、苦しみが、伝わってくるようでした。

    イリナさんの書籍を読んでみたくなりました。

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    2025年10月07日
  • 優しい地獄

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    社会主義政権下のルーマニアで翻弄された、人類学者の自伝的エッセイ。彼女の傷を淡々と開いて見せ、夢も現実の一つとして取り入れる彼女の語りは透明で柔らかく、そして強い。
    現代の『優しい地獄』に身を置き、私たちはどう生きるか。

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    2025年09月16日
  • みえないもの

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    こんなひとが近くにいたら、どんな手を使ってでも友だちになりたいと思った。みずみずしい感性が光る文章はもちろんのこと、挙げられているカルチャーがどれも好みすぎる。
    アンドレア・アーノルドの映画、『Trance and Dance in Bali』、『世界の宗教大図鑑』、日本酒とよく合うアカシアの花の天ぷら、眠れない夜のLeo Welch。
    温泉、ラジオ、踊ること。わたしも大好きだよ〜、気が合うなぁ…。

    たんぽぽ綿を「かわい子ちゃん」と呼び、綿飴を食べさせようとする娘さん、ほんとうにかわいいし、ひいてはグリゴレ家全体のセンスを感じる。

    終盤は、みえないものとしての女性の物語を、まさに口寄せする

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    2025年09月05日
  • 優しい地獄

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    エスノグラフィー。初めて知った。
    ルーマニアに生まれた著者が、日本に留学し、最終的には住むことになった。そして、日本語で書いたエッセイ。

    エッセイではあるが、詩的で映画的であり、不思議な世界に連れて行ってくれる。言葉でこの世界を伝えるのは至難の業ではないかとも思う。

    世界と自分が溶けているような感覚を疑似体験させてもらった。

    新しく味わった読後感である。

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    2025年08月25日
  • みえないもの

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    “お喋りが得意な人と下手な人は生まれつき決まっていると思う。そして人が人を選ぶ。この場合、私は人間より機械のほうがいい。機械のほうが冷静だから。人が客観的になるのはただの妄想だから。”(p.124)


    “ここ最近の私の疑問ーー生物の身体、物体の経験は普遍的ではないことが確かなのに、なぜ社会は普遍的にしようとしているのか。社会とは何? 誰?”(p.105)


    “「私じゃない」、「私じゃない」と泣き始めた。この世を傷つけているものは私ではない。麻酔で動かせない顔の半分で泣く。だから戦争がまだあると思った。イライラしてクラクションを鳴らしたのは後続車の男だ。でも私が泣いたのは誤解を受けたからでは

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    2025年04月29日
  • 優しい地獄

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    独裁時代・社会主義時代・資本主義時代という激動をルーマニアで経験した著者が、鋭い感性で自分や周囲について描いたエッセイ。非常に感受性が豊かで、詩のような表現も多い。

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    2024年08月04日
  • 優しい地獄

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    トンネルを抜けると、そこは…ルーマニアであり青森であり、過去と現在、夢と記憶だった。暗闇を通って行き来する時間や痛みや喪失の旅。静かで温かく湿った霧の向こうに、朧げに儚く寄る辺なく漂う残像。まさにタルコフスキー映画のよう。

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    2023年03月18日
  • 優しい地獄

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    『「私が死んでも何も変わらない」。死んでも何も変わらないのであれば、生きて世界を変えよう。』
    ー「優しい地獄 下」より

    こんなにも要約が書けない、こんなにも痛切で、一言で感想を表せない本はなかなか無い。
    著者の紡ぐ言葉の一言一言を、全て余さず噛みしめたい。忘れたくない。この本を、著者を抱きしめたい。そう願わされる本。
    でも悲しいかな一言一句逃さず覚えていることは困難で。それが心の底からもったいないと思う。

    イリナさんの夢と現実と過去と現在を行き来する、目まぐるしいような夢の中を…それこそ生暖かい優しい地獄を彷徨いつづけているような心地で読む。
    彼女の感受性の豊かさには驚くばかり。痛みも喜び

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    2023年03月14日
  • 優しい地獄

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    どこかのレビューでおとぎ話みたいとあったが、本当にそう。
    エッセイで、時間軸行ったり来たり、映画からの引用、著者の夢の話、感じたこと、、
    大変な辛い話もあるけど、家族との交流、温かな眼差し、強い意志を感じて、おとぎ話に迷い込んだような不思議な感覚。

    繊細すぎる感受性、体と心があると辛いけど、でもこんなに人生を意味深くできるのか...

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    2023年01月03日
  • 優しい地獄

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    ルーマニアに生まれ、弘前に暮らし、書いて、研究する著者の過去と現在を行き来するエッセイ。26編が並ぶが、著者の感性を通した日々とその思いの描写が大きな一編の抒情詩のようでもあるし、また故郷の思い出や歴史、社会を克明に記した叙事詩のようでもある。
    著者の見た夢の話が何度も出てくることもあり、夢と現実のあわいをたゆたうような浮遊感に身を任せていると、ところどころに散りばめられた力強い言葉に覚醒させられたりもする。要するに多面的な作品なのだ。
    「自分がこうなったのは本当の自分を受け止めたからだ。もう、無理はしないと決めた。隠すのはもういやだ。今の自分がそのままの自分だ。」(p.189)
    「どんな状況

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    2025年08月28日
  • みえないもの

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    世の中にはびこる、"彼女"たちへの暴力
    暴力に溢れた世界で、自然を見つめる著者の優しいまなざし(いや、もともと人間は自然なのだという考え)が際立つ

    人間は色々すぎて、みえるものとしての社会通念のもとで暮らしてると、みえないものが多すぎるのだな

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    2025年08月24日
  • みえないもの

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    現実のことを書いているのに別世界をのぞいているような?自分を律している理性とか、自分の中のいろんな人格とかの縛りが緩んでいった先の文章という感じがする。チェルノブイリとか、病とか、子育てとか、超、現実的事柄なのに。イワナや雪や、故郷の森や虫のお墓や、思い出のヴェールを纏って描かれていてとても美しい。
    抑制がなくなって混乱してるのとは違う。理性的なまま、大脳新皮質の働きが薄くなってる感じ。不思議な文章だった。

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    2025年08月20日
  • 優しい地獄

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    この本を最初は翻訳エッセイだと思っていて、最初から日本語で書かれたエッセイだと知ったときには驚いた覚えがある。私も田舎の漁師町で生まれ育った身ではあるけど、そんな生い立ちとイリナさんのそれとでは凄まじく違いすぎる。こんな生き方、こんなものの感じ方があるのかと思った。スピリチュアルという言葉はもはやいろんなニュアンスを含むのであまり使いたくはないけれど、スピリチュアルとはもしかしたらこういうものかもしれない。人間も動物も草木も花も自然も全てが渾然一体となって、有機的にその人を作る。過去と現実を行ったりきたりしながら進むエッセイは、どこかさみしくて、そのさみしさが強烈に胸に残る。薔薇の赤、紫式部の

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    2025年07月20日
  • 優しい地獄

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    もっと年上かと思ったら、著者が80年代の生まれで驚く。森や農村で暮らした御伽話のような幼年期、社会主義の影響下の暗さとチェルノブイリ事故による体調不良や生命の不安を抱えた青春時代。すべて、遠い時代の出来事みたいにおもえた。わたしの人生と同じ時間に起きていた出来事、他の人生たち。知ることができてよかったと思えた。

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    2025年06月29日
  • 優しい地獄

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    ネタバレ

    生き物としての本 上
    p6
    ジプシーの乳を飲んだせいで、あなたはずっとその日から自由を探している、と。

    p8
    祖母の焼いたパンと郷土料理は、今はもうことの世にはなき味だ。

    人間の尊厳
    p31
     もう一度いうが、社会主義とは、宗教とアートと尊厳を社会から抜き取ったとき、人間の身体がどうやって生きていくのか、という実験だったとしか思えない。

    p32
     ドストエフスキーが『カラマーゾフの兄弟』を最後まで書き切れなかったことが残念だ。社会主義でもなく、資本主義でもない世界があるとすれば、そこはどんな世界だろう。人の身体が商品にならない日がきっとやってくる。

    無関心ではない身体
    p84
    ベッドに

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    2024年10月23日
  • 優しい地獄

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    若い頃読んだ川端康成の『雪国』をきっかけに日本に移住したルーマニア人の人類学者によるエッセイ
    社会主義も資本主義も、およそ人間の作ってきたものはなんと不完全で地獄なのだろうか
    しかし地獄だからこそ、ひとはそこに文化を作るのかもしれない

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    2024年08月11日
  • 優しい地獄

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    CDジャケ買いならぬ、本の題名借り。

    革命前後のルーマニア。
    チェルノブイリ原発事故被曝。
    エッセイ全体が薄鼠色。
    死と共に送る生の日々 みたいな。

    「映画と宗教と夢がちと多い。全て著者を表すアトリビュートではあるもののこれってどこが本筋?七夕の短冊は綺麗だよ。だけどそれだけでは。肝心の笹はどこにあんのよ」

    ちょっと読者(というか私)置いてけぼりな感じ、柔道の技のかけ逃げか偽装的攻撃みたいだな
    と、とまどいながらおどおど読んでたけど、ページが進むにつれて読み方が分かってきたというか、馴染んだ。

    表題は収められた短編エッセイのひとつでしかないけど、本全体、彼女から見た世界全体とのダブルタ

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    2024年08月04日
  • 優しい地獄

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    少しずつ読み進めていたのに、途中から止められなくて一気に読み切ってしまう本があり、これもそう。後半は、考えながら、自分と議論したり著者に問いかけたりしながら読んでいた気がする。内容についての感想はきれいには纏まらない

    日本語がとても好みで、読んでいて心地よかった

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    2024年02月27日
  • 優しい地獄

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    行動を決断できるほどの衝撃が無いから、日々を何気なく繰り返す。その穏やかな生活こそ、幸せと言えば幸せ。しかし、どこかに現状を変容させたい衝動があるなら、挑戦して変える事もできる。この本を読んで、そう思う。

    チェルノブイリの子。放射能が原因で病気を患い手術。貧しい旧社会主義国で生まれた著者の半生。生まれた時に乳を与えられぬ母の代わりに、隣の産婦であるジプシーの女の母乳を飲んだ。その出来事に意味づけをし、自らのアイデンティティとして吸収する。多かれ少なかれ、人間は日々の出来事を自らの血肉とし、それは信仰のようなものになる。その大きな天啓として、川端康成の『雪国』との出会いが著者を日本に駆り立てた

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    2023年12月16日