兼本浩祐のレビュー一覧
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これは中身に対して題名が軽過ぎる印象にある。
実態は定型発達と非定型発達の差異から垣間見る人間としての哲学論考に他ならない。
ただ題名だけをみると精神学の本に見えなくもない。これはかなり重めの哲学書であることは踏まえておかないと読むのは苦痛になるだろう。
さて、ADHD当事者としては「せやろか」の連続であることは否めない。さもありなん、カントの例も出てくるが、我々は言語化し得ないファジーな感性の中に揺蕩う一次的感覚を他者に伝達する上で削ぎ落とされる情報と付加される虚偽が生じるのだから。
なので、正確に発達障害と健常発達の病理を明かすと言うよりは、理論立ての遊戯を眺める感覚の方が良いかもしれ -
Posted by ブクログ
とても面白かった。
健常発達を一つの特性として捉え直すことで、普通に生きることの困難さ、生きづらさについて考えていくような流れと感じました。
大きな物語で自己をバラバラにならないようにしていた昭和と比較し、令和はいいね!と言った他者評価により自己をバラバラにならないようにしていくという流れと理解しました。
他者を取り込み自己を形成していく過程を超え、あまりに多くの他者像に触れてしまう現代においては、自己をどのようにも形成できてしまう(ように錯覚してしまう)自己形成における自由の刑に処せられているように思えます。また、少し前ならドラマ、今ならSNSで提供される普通は、とてもハードルが高いと個人的 -
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精神科医の書いた本でこのタイトルなので医学的アプローチの本かと思えば、発達障害を社会モデルで捉え、さらにその「社会」について哲学的な考察を重ねていくといった本であった。
ギャップに面食らったが、内容自体は興味深い。
健常発達の「健常」とはなにか、そもそも人を健常たらしめている力学とは(筆者はそれを社会からもたらされる承認=いいねであると述べる)などなどが語られる。
昭和の時代は社会的に推奨される堅固なロールモデルがあり、それに沿えば承認されていたが、多様性の令和の世となった結果、むしろいいねを獲得するのは個々人の創意工夫が必要となり困難になった(故に発達障害的言説も顕在化している)というあたり -
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私が一続きの私である、というのは決して自明のものではない。「意識」というものを通じて、われわれはどのようにして、この一続きの私を獲得しているのかという問いを、精神病理や哲学の領域から問い直すことがこの本の目的と言えるだろう。著者はその考察の中で、哲学者のベルグソンやドゥルーズ、フッサール、ハイデガーまで援用するが、一方、アントニオ・ダマシオやジェラルド・エーデルマンといった脳神経科学者が得た知見も重視する。
本書の最初に置かれた色見本タグを自由に分類する課題について、統合失調症の患者が普通の健常者とはまったく別の分類をしてみせるという説明は、まずわれわれの常識というものが何らかの当たり前では -
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ネタバレほとんど無知の状態でこの本を手に取ったので、意外とも思える方向に話が進んで不思議だった。哲学、文学、絵画、アート、芸能などからも根拠を引っ張ってくるような感じなので、真に理解するには読者にも幅広い知識が必要なのではないかと思う。
対人希求性や精神鑑定の話、ドーパミンの移行、ベーシック・トラストなどの話は興味深く読めた。
第三章まではそうやってついていくことができたけれど、途中からテーマが変わったように感じられ、話は飛躍していき、読みにくくなっていった。結論があやふやに思える。
人間のことを知っていこうとすればするほど、人間のことが分からなくなっていく。そんな感覚にもなった。でもここに生きている -
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普通とはなんだろうかという問いの一つの解釈として精神科医の視点で解説し問題的提起をする。
発達障害は年々増加傾向となり、直近の厚生労働省の令和4年(2022年)「生活のしづらさなどに関する調査」によれば、医師から発達障害と診断された人の推計数は約87万人で、前回(平成28年、2016年)の約48.1万人から倍近く増えている。現在(2025)においても増加傾向であることは揺るがないだろう。
さて、本著は発達障害ではない健常者という普通の人について焦点を合わせた内容である。普通とはどういう状態かを本著では解説している。現代において、特にスマホやSNSが大きく発展し承認欲求や同調圧力による生きづらさ -
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”定型発達の特性を持つ人も負けず劣らず病的になることがあるのではないか、この本で取り扱いたいのは、こういう疑問です”
ADHDやASD、いわゆる非定型発達という概念が浸透してきた。それに対して、定型発達の特性が過剰な人の特性についても紐解いていくという本
興味深かったのは脳内のドーパミン放出に関するところだった。健常発達(本のなかで著者があえてこう書いている)は自分がなにかに直接触れて感じた快・不快を、すぐにまわりの多くの人が良しとする行為や目標へ置換される。これが躾のしやすさやルールを守ることにつながりやすいが、つまりそれは、社会制度的な正しさが自分の実感と深く結びついてしまい、自分が本来何 -
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ADHDを知りたい気持ちから『健常発達という病』とのサブタイトルに惹かれ、手に取ってみました。健常発達の観点から逆説的にADHDが浮き上がって見えてくるのでは?と思ったのですが、どちらかというとタイトル通りでした。無いことはなかったのですが。
期待した方向とはやや違ったものの、新しい知識を得られる事は面白く、難解ではありましたが興味深く読みました。
第四章で伏線回収、第五章でまとめといった感じでしょうか。
例えに出てくるテレビ番組も有名な哲学者の本もあまり知らず、少なくともテレビ番組を知っていればもっと楽に想像を膨らませて読めただろうと思います。
行き過ぎた健常発達の怖さとそれに付き合わね