永井みみのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
読んでいてどこまでも切なくなってしまった.
日々の仕事で触れ合う認知症を持つ高齢者の方々の心の奥底に触れたような,「本音」を突きつけられたような,何とも言えない居心地の悪さと共に,「一人の人であること」の尊さを強烈に感じた.間違いなく,明日からの,いや,今日からの振る舞いに大きな導きを与えてくれたことは確かだ.
誰がどの視点から語っているのかも分からない冒頭,(解説によると千葉弁らしい)「カケイさん」の語り口は,活字にすると当初は読みづらく,意味を理解するのに0.2秒くらいのタイムラグが生じ,ちょっとした違和感がある.しかし,人物像がカメラのファインダーを覗きながら焦点を合わせるように解像 -
Posted by ブクログ
ネタバレ介護の問題について検討する話だと思ったが、そうでもあるけれども、泣きそうな物語である。余韻が残る小説である。
物語は、一人称の「あたし」すなわちカケイさんがヘルパーのみっちゃんに滔々とまくし立てるシーンから始まる。饒舌といっていいほどの雑談と、ひらがなが長く続く文は、最初は少し読みにくかったが、その少々脈絡の乱れる独り言のなかに、カケイさんの波乱万丈の過去が少しずつ浮かび上がってくる。そして現実に戻ると、家族の過酷な接し方などを見て、その無力さが鮮明に描かれている。
では、カケイさんは、しあわせだと思うのか。
全編を通して、涙を誘うところは二つある。まず、前半を読んでいながらずっと疑問を -
Posted by ブクログ
読後感がなんとも言えない 読後感がなんとも言えない、は褒め言葉です。
面白かった、の一言では片付けられないなにかがある。
特に好きなシーンは、冒頭にカケイさんが「あの女医は外国で泣いた女だ」と言い、ヘルパーのみっちゃんが女医に確認すると、おそらく当たっている。
そしてこのみっちゃんは、病院からの帰り道に自身が離婚調停中の身であり、親権を夫に取られるのではないかと危惧していることを明かす。
カケイさんはなんかかっこいいことを言おうと「「チャンスを待て」「まあまあカタチはついたと思う」と伝えると、みっちゃんは泣き出す。
きっと、切羽詰まっているみっちゃんには、カケイさんの言葉が幸せの予言のように聞 -
Posted by ブクログ
認知症を患うカケイさんの語りで描かれる人生の物語。慣れないAudibleで聴いてみましたが、臨場感があり感情の動きをリアルに感じられました。
カケイさんの表の声と心の声、現在と過去を行ったり来たり。ときどきクスリとなる場面も。
介護ヘルパーさんや家族とのやり取りを、カケイさんの目線を通して疑似体験してみて、実際に認知症の人もこんなふうに感じているのかなと想像してしまいます。
認知症になってから思うこと、見えてきたこと、忘れられない後悔、辛かったこと、愛しい存在と幸せな時間が確かにあったこと。
人生の終わりに何を感じ、何を思うのか。
祖母を思い出しながら読んでいて、言葉にならない気持ちにな -
Posted by ブクログ
なんの事前情報もなく読み始めて、読みやすくてさらさら読めてしまった。
でもなんというか、作品のリズムがちゃんとあるんですよね。
ゆっくり、まったり、思考が忙しくないのに、読んでて退屈はしないという不思議。
言ってしまえば、介護が必要になった認知症のおばあちゃんの一人語りなのですが、生きていてずっと覚えている人生の後悔だったり、死期が近づいて周りの人間も死んでいく中で初めて知る事実があったり、死に際のことだったり。
老いて死んでいくということが、必ずしもみじめだったり怖かったりするものではないのかもしれないな、と思わせてくれる作品でした。