日本文藝家協会編『雨の中で踊れ 現代の短編小説 ベストセレクション2023』文春文庫。
日本文藝家協会が2022年に文芸誌などに発表された短編小説から12編をセレクトしたアンソロジー。『ベストセレクション』を標榜する割りには心を掴まれる短編は1編も無かった。強いて言えば森絵都『雨の中で踊る』が良かったくらいだろうか。
佐藤愛子、森絵都、一穂ミチ、まさきとしか、高野史緒くらいまでは読めるが、君嶋彼方から後の短編は酷いものだ。
佐藤愛子『悧口なイブ』。含蓄のある短編。最初の短編ということで、軽いジャブから始まったようだ。ある国の政治科学研究所で、電子計算機と向き合う毎日を送る定年間近の男は電子計算機に『イブ』という名を付け、会話を楽しむ。★★★
森絵都『雨の中で踊る』。タイトルはヴィヴィアン・グリーンの言葉から。脇目も振らずに仕事をしているうちに家庭の中に居所を失った夫。まさに現代の日本という設定だ。コロナ禍で自宅でリモートワークをする妻と10日間のリフレッシュ休暇を取得した夫。妻は自宅に居る夫が邪魔で、フットマッサージへ行くことを勧める。夫は海パンを履いてフットマッサージに向ううちに海に行きたくなる。★★★★
一穂ミチ『ロマンス☆』。コロナ禍、フードデリバリー、LINEと現代の日常の出来事を切り取ったような短編。簡単に恋が出来て、簡単に失恋する現代。街で見掛けたフードデリバリーサービスの男子に恋心を抱いた若妻。★★★
まさきとしか『おかえり福猫』。44歳のおひとり様女性と猫の話。それにしても生き難い時代になったものだ。★★★
高野史緒『楽園の泉の上で』。未来版の『蜘蛛の糸』という感じのショートショート。一種のSF。★★★
君嶋彼方『走れ茜色』。LGBTQをテーマにした学園物。なんだかなぁ。★★
佐原ひかり『一角獣の背に乗って』。一角獣に蹴り殺された叔母の復讐を誓う主人公。荒唐無稽な話。★★
須藤古都離『どうせ殺すなら、歌が終わってからにして』。ソマリアが舞台の話。アル・シャバブに拉致された恋人との再会。★★★
斜線堂有紀『妹の夫』。またもSF。宇宙に届いた妻が殺害される映像。余りにも捏ねくり回し過ぎのようだ。★★
荒木あかね『同好のSHE』。高速バスの中で起きたトラブル。★★
逸木裕『陸橋の向こう側』。女性探偵が主人公のサスペンス。短編の中に詰め込み過ぎかな。★★★
一條次郎『ビーチで海にかじられて』。サメ退治にシャーク長老と読む気が失せた。★★
本体価格930円
★★★