高橋知之のレビュー一覧
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『アルテーミー・セミョーノヴィチ・ベルヴェンコーフスキー』アレクセイ・トルストイ
馬車の故障で立ち寄ったお屋敷の主アルテーミー・セミョーノヴィチは風変わりな発明狂だった。素っ裸で散歩して、30分間大声で騒ぎ立て、それから発明!発明!発明!
語り手は、アルテーミー・セミョーノヴィチの膨大な金を注ぎ込み珍妙で役に立たない発明自慢を聞くだけなので「変わった人だなあ」で済むんだけど、金がどんどんなくなって彼の屋敷の人たちは大変そうだよね、というお話。
『指輪』エヴゲー二ー・バラトゥインスキー
真面目な貴族のドゥブローヴィンは膨大な借金を背負うことになってしまう。ドゥブローヴィンは変わり者引きこもり資産家のオパーリスキーの小屋を訪ねて借金を願う。オパーリスキーは、ドゥブローヴィンの指輪を見て「この指輪はもともとわたしのものだった。この指輪の持ち主は私に対して絶対な力を行使しうるのです。どうか私に尽力させてください。感謝します。」と言って、その後も資金もどんな願いも叶えてくれる。
やがてオパーリスキーと指輪の逸話が明かされる。なんでも彼はかつて金持ちで驕慢、片思いの女性を得るためにカバラ秘術に頼った。すると精霊が現れて指輪を授ける。オパーリスキーは愛する女性にその指輪を差し出して真を誓った。だがその女性は、指輪でオパーリスキーを裏切り操る。
そこからオパーリスキーは不死身となり、点々とする指輪の持ち主の命令に従ってこの世をさまよい続けた。その指輪は今は良き隣人ドゥブローヴィンの物となった。
…という幻想文学かと思ったら、じつはかなりの部分がオパーリスキーの妄想。彼が愛するお生に裏切られたのは事実だけどそれは数十年前。彼女に振られたことにより時間感覚が無くなり、数日のことを「数年さまよい続けた」と認識するように。
まあ最後はドゥブローヴィンや、本来指輪を持つべき娘さんに「救われた」という心の平安を得られたから良しとしましょう。
『家じゃない、おもちゃだ!』アレクサンドル・ヴェリトマン
ナポレオン戦争後、伝統が失われつつあり、近代化が進むモスクワ。かつては家の暖炉に住んでいた精霊ドモヴォイ爺さんもいなくなってしまった。
ここに二軒の古いまだドモヴォイ爺さんが住んでいる家がある。右の家には過保護なおばあさんと孫息子ポリフィーリーが、左の家には過保護なおじいさんと孫娘サーシェンカが住んでいた。ポリフィーリーはおばあさんのショールでくるまれてまるで女の子、サーシェンカは遊び男を避けるため髪を切られてまるで男の子だった。
二人はおばあさん、おじいさんの目を盗み仲良くなったが、お互いに相手が自分と同じ性別だと思っていたのだ。
やがておばあさんとおじいさんが死に、二人は相手が魅力的な異性だと気が付き、あっというまに燃え上がる恋心から婚約をした。
しかしあまりに世間知らずの二人、しょうもないことから別れ別れに!
…なんかもう、色々と「ふたりとも落ち着け(-_-;)」でした。
二軒の家は売りに出され、一軒の家になった。すると二人のドモヴォイ爺さんが顔を合わせることに!ドモヴォイ爺さんたちは縄張り争いで大喧嘩!新しい住人はその物音で逃げ出したり、「昼は人間の時間、夜はドモヴォイ爺さんの時間」と契約したり。
そして右のドモヴォイ爺さんは、左のドモヴォイ爺さんを追い出すために「おもちゃの家」を人間に建てさせることを思いつく。新しい住人は毎夜毎夜新しい「家じゃない!おもちゃの家を創るんじゃ!!」という夢に、借金をしてでもミニチュアの家を創る。
その新しい家にドモヴォイ爺さんたちは大喜び!これで棲み分け?と思ったんだけど、騙したはずの右のドモヴォイ爺さんが「やっぱりこの家じゃないおもちゃを左のドモヴォイ爺さんにくれてやるのは惜しい」と考えるようになり、おもちゃに入り込む。しかし新しい住人はミニチュアを建ててすっかり満足して、借金の代わりに道具屋に払い出してしまう。右のドモヴォイ爺さんはおもちゃとともに家から強制的に締め出されてしまいましたとさ。
ところでポリフィーリーとサーシェンカも、涙の再会を果たしたのでした。
一応収まったけど、この先家、ドモヴォイ爺さん、新婚の二人、これから大丈夫なんだろうか(^_^;)
『白鷲ー幻想的な物語』ニコライ・レスコフ
地方都市に就任して汚職調査を命じられた監視ガラクチオン・イリイチは、美貌の青年イワン・ペトローヴィチを知る。何でもできるイワンを眩しく感じるガラクチオンだが、イワンは突然死してしまう。そして町では「ガラクチオン・イリイチが邪眼でイワン・ペトローヴィチを呪い殺したんだ!」と噂される。その日からガラクチオンの眼の前には、常にイワンの妄想が現れるように!
…邪眼の呪いといいつつなんか呑気さもある。背後には官僚社会の出世だとかお色だとか。
『どこから?』フセヴォロド・ソロヴィエフ
わたしははどこへ向かっているのだろう?そうだ君の家に決まっている。わたしの親友の君!君はいつものようにわたしを迎えてくれる。だが気がついた。わたしは四年前に棺に入れた君をこの部屋から運び出したではないか。
…死の自覚がなく、死後の虚無世界を彷徨うお話。
『乗り合わせた男』アレクサンドル・アンフィテアトロフ
社内で乗り合わせた男に「あなたのことが気に入った。だから秘密を教えます。この列車は脱線事故を起こします、だからその前に飛び降りなさい」と忠告された。何を言い出すんだと思ったが彼は続ける。「自分は死んでいるんですよ。生前は五等官でした。列車の事故で身体を失ってしまったので、天国にも地獄にも行けません。そこで同じく事故で死んだ五等官の身体を集めて自分のものにしようとしてるんです」
なんかよくわからんが、自分は五等官よりずっと下位だから対象外らしい。どうしよう、自己地点が迫ってきた、スピードがゆるくなった。飛び降りるか!?
『クララ・ミーリチー死後』イワン・トゥルゲーネフ
”深窓の青年”のヤーコフは、世慣れた友人クプウェル(ドイツ系)を通して歌手のクララを知る。クララは情熱の眼差しをヤーコフに向ける。
だが世間のこと、人付き合いが全くわからないヤーコフにはそれがなんだかわからない。クララからの手紙に応じたヤーコフだが、二人の会話は全く通じずクララは怒って帰る。しばらくして、ヤーコフはクララが舞台の上で毒を飲んで死んだという知らせを聞く。
…クララは「あなたのことを聞きました(多分クプウェルから)」っていうなら、ヤーコフが人とまともに会話したこともない世間のことも恋愛というものも全く知らないって分からなかったのか、その男はとぼけるわけでもからかうわけでもなく、本当にただの朴念仁なんだよ(-_-;)
その夜からヤーコフはクララの幻を見る。わざわざクララの実家を尋ねることまでする。
そして読者はクララちゃんの気性の激しさを知るわけなんだが、それにしてもちょっと落ち着け、死ぬことはない。
それでですね、題名からして「死んだあとの恋のお話ね」って想像がつきますね。はい、ヤーコフはクララちゃんに取り憑かれて、それが幽霊なのか、ヤーコフの思い込みなのかはわかりませんが、しかしこの死後の恋は実る。熱病に死んだヤーコフは、安らかなほほ笑みを浮かべていたという。 -
Posted by ブクログ
短編が6つ、中編が1つ収録されている。
『奇譚』というと怖い系をイメージするかもしれないけど、奇怪・珍奇という感じの話も多かった。
解説によると短編は全て本邦初訳らしい。
中編も現在では入手が難しいとか。
好きだったものを以下にいくつか。
「アルテーミー・セミョーノヴィチ・ベルヴェンコーフスキー」
初っ端から全裸で走り回ったり、30分間も雄叫びをあげるのを習慣にしている元気なマッドサイエンティストが出てきて、あまりのキャラの濃さに笑った。
全体的にコメディ色が強い。
「指輪」
不思議な指輪にまつわる因縁話。
指輪の持ち主のいうことには無条件で従う男がいるが、それには合理的な説明がつくかと思いきや……
少し切ない話。
「どこから?」
10ページほどの短い話だけれど一番これが好きだった。
幻想的な雰囲気と、ゾッとするような展開。
「乗り合わせた男」
鉄道怪談。多少コメディ色もある気がするけど、正統派な怪談だと思う。
「クララ・ミーリチ ── 死後」
唯一の中編。死後の恋系の話。
読みやすくもあるし、小説としての出来が一番良いのはこれじゃないかなと思った。
悪夢の描写がよかった。
『何てことはございません!死でございます!では、よい旅を!』とか、『おい、喜劇で終わると思ってたんだろう?ばかな、悲劇なんだ、これは悲劇なんだよ!』あたりが凄く好みの言い回しだった。 -
Posted by ブクログ
都会で暮らす「私」は、育ての親である「おじ」が大変な状況に置かれていることを知り慌てて里帰りをする。
そこで出会う様々な人々に振り回される「私」と人がいい「おじ」との二日間を描くドタバタ笑劇
人を疑わず、学者を崇拝しがちなおじを好きなように操る、学者を名乗るフォマー。そのフォマーなしでは生きていけなくなっているおじの母である将軍夫人。この2人から叔父を助け出し、実家を平和にする話……かと思ってよんでいたので、まぁ、びっくり。そういう方向かぁ。これは喜劇だわ(笑)→
ドストエフスキー初期の作品らしいこちら、いい意味で勢いがあって、圧倒される。個性的なキャラクターがたくさん出てきて、なんか目が離せないままページが進む。
第二部に入ってから一気に話がおかしくなり……なるほどなー!!
「罪と罰」とはまた違った読み心地!面白かったー!! -
Posted by ブクログ
ユーモア小説ではあるけど、そこまで笑えるというほどではなく、普通にこの状況やばいし怖くないか?と思う場面も多かった。
ただ、他のドストエフスキー作品に比べると、思想や宗教についてのことがほぼ書かれてないし、難しさもないので読みやすい。
自尊心を拗らせに拗らせたフォマーが本当に読んでてイライラした。
なんでも被害者面して「侮辱された!」とか言うのはすごく卑怯な攻撃の仕方だし、それに対して周りの人たちもそうだそうだ!ってなったり、謝ったりしてるのがこれまた余計にイライラさせる。
家のなかにあんな人がいたら心が休まらないだろうに、なんであそこまでフォマーにみんな執心してるのかわからなかった…。
他の登場人物もキャラが濃い人揃いだったけど、あまり出番はなかったりしたのでもっとその人たちについて読んでみたかったかも。
名前をやたら変えたがる召使のヴィドプリャーソフや、素直で天真爛漫そうなぽやっとした感じの美少年召使のファラレイについてはもっと色々書けそうではあったし、個人的にはもっと彼らについて読んでみたかったなぁと。
あのドタバタ感からあのエンディングにもっていくのはすごい力技というか、エッ!?とはなった。 -
Posted by ブクログ
『君主論』などのロシア版のようなリーダー論なのかと思って手に取ったが、小説であったので、少し面喰いながら読み始めた。読み始めながらも、「英雄」らしき人物の登場はなく、かといってそれほど「悪人」が登場するでもなく、よくわからずに本文を読み終えた。詳細な解説や年表などで、本書の位置づけや評価がなんとなくわかった。結構有名なものだったようで、浅学を恥じた。現在、本文庫版で順次刊行中の『戦争と平和』を読書中で、それとも共通するのだが、当時のロシアの貴族や軍人の思考や行動、風俗などは非常に特異なものがありつつ、現代にも通じる人間の性がうかがい知れる点は、興味深い。
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Posted by ブクログ
本書『現代の英雄』が刊行されたのは1840年、著者レールモントフが26歳のとき。翌年には旧友との間での決闘により命を落とす。
本書では、主人公であるペチョーリンに関して、恋物語やちょっとした冒険談などのエピソードを折り混ぜて、語り手による語りや手記、本人の日記の形を取って、その性格や考え方、人物像が明らかに(?)なっていく。
ペチョーリンはどういう人物なのだろうか。全体的には、冷笑的で、物事に真剣に取り組むことを避ける人物という感を受けるのだが、細部まで読めば読むほど、理解するに一筋縄ではいかない面が多い。「自意識」の塊のような人物と言えばよいのだろうか。
こうした人物を、26歳という若さで造形したというのが何といっても凄いことと思う。
また、帝政ロシアがカフカス地方に侵攻していた時代状況を背景として、カフカスがロシア文学において占める位置なども理解できた。