ミランダ・ジュライのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
作品紹介・あらすじ
水が一滴もない土地で、老人たちに洗面器一つで水泳を教えようとする娘(「水泳チーム」)。英国のウィリアム王子をめぐる妄想で頭がはちきれそうな中年女(「マジェスティ」)。会ったこともない友人の妹に、本気で恋焦がれる老人(「妹」)-。孤独な魂たちが束の間放つ生の火花を、切なく鮮やかに写し取る、16の物語。カンヌ映画祭で新人賞を受賞した女性監督による、初めての小説集。フランク・オコナー国際短篇賞受賞作。
*****
けったいな一冊、って印象。奇談、というわけでもなく、前衛的ってわけでもなく、虚実入り混じった印象でもなく。荒唐無稽な話でもなく、あくまでも現実に即した話なのだけれど、ちょっとどこか変。最初はあまりシックリこなくて「あれ、失敗だったかな」と感じたのだけれど、読んでいくうちにドンドンとこの底なし沼みたいなけったいな世界にズブズブと浸ってしまった。
僕はあまり読書体験が豊富な方ではないので、断言はできないけれど、この短篇集に収録されているものと似たような作品を書いている人を知らない。唯一無二という意味でかなりユニークだと思う。仮に「小説の書き方」みたいなマニュアルがあったとしたら、そのマニュアルを完全に度外視して自由奔放に書き連ね、でも作者自身はそれを全く自覚していない、そんな感じ。読み手側からしたら、好き嫌いが明確に分かれるんだろうな、と思う。
僕は気にならなかったのだけれど、レズビアンが結構な頻度で登場するし、時にストレートな性表現がでてくるので、そういうのが苦手は人にはちょっと辛いかも。 -
Posted by ブクログ
一番ここに似合う人、あなたを選んでくれたものに続いて。こんなに1人の人の著書を読むのは久々。人があえて文字にしたり口にしたりしないような人間のどろっとした事や世界の一部を冷静かつプッと笑っちゃうような表現でひとつの作品にしちゃうのがこの人のすごいところ。動物の鳴き声が「たすけて」に聴こえてもその動物にとっては全く違う意味かもしれないし、とか。しょーーもないんだけど確かに真理だと思わせられる面白い表現がいっぱい。端的に書こうと思えば全然書けそうなことを良い意味でダラダラ書いてて、でもそのどうでもよさに登場人物たちの生活を感じる。短編もドキュメンタリーも面白かったけど長編は読み終わってこのミランダジュライワールドの人達とお別れするのが寂しくなった。
-
Posted by ブクログ
ある種妄想の世界に生きる43歳の女シェリルと、その前に現れる最強最悪の「現実」クリー。よくある女性2人の分かり合いの物語ではなくて、変化、変化、変化。2人の関係はひたすらに変化し続ける。避ける、闘う、愛し合う、あらゆる剥き出しの感情の表出だ。そして見えていないものが見える。職場の人物。セラピスト。恋愛。あまりにも入り組んでいて話の流れとして読みやすいとはいえないけれど、最初に感じたあまりの嘘くささ(現実との乖離)から、最後には滅茶苦茶な現実が輝く。エピローグの輝かしさ。
主人公にどことなく共感してしまう。ぜんぜん違う性格だし考え方も違うけれど、その人生回避の姿勢に。しかし彼女はぐちゃぐちゃではありながら走り抜けた。素敵だ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレnetflixのドラマのようにゴクゴクと読んでいけちゃう喉ごしでありながら、しっかりと人間のアブない深淵を覗かせてもくれる一冊。笑い、泣き、慄きました。
個人的に一番キてるな〜と思ったのは、シェリルが玄関でカタツムリ百匹ぶちまけながら自慰にふけってしまうシーン。その後人間同士の関係は驚くべき変化を遂げていくのに、カタツムリは後半に至ってもまだ屋内を這っていたりする。また、クリーが去った後もしばらく彼女の搾乳したミルクがジャックに与えられ続ける描写などもあって、一瞬で変化する物事とマイペースに連続性を保った物事との対比が面白く、もの悲しい。
奇妙な筋立てにリアリティーを与える細かな描写もいちいち印象に残った。「いまやわたしたちはいっしょに救急車に乗り、内側からサイレンを聞いた仲だった」とか、「これは政府が国じゅうの出産中の女たちのために配布した道具だ」とか、本当にそういう経験した人からしか出て来なそうな表現で感心してしまう(馬鹿みたいな感想ですが)。
子育て中の身にとっては、夜中の授乳時に自分の人生の可能性について思いを馳せてしまうシーンが、男であっても共感せずにはいられない。訳者あとがきによると本作は妊娠中から出産の三年後まで執筆されていたようだから、これらのシーンの異様な説得力にも納得できる。