高橋安幸のレビュー一覧
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本書は,「名コーチ」とはどういう人を示すのか,どういう条件を備えている人なのかを,明らかにしようとするドキュメントである。
ファンはしばしば,エラーやミスをする選手に対して,「コーチがもっとしっかり技術を指導しろよ」と批判するが,技術指導だけがコーチではない。それに加えて,従来の昭和時代型コーチは,自身の経験だけを素材とした命令基調のティーチングであったが,それで結局,多くの若手選手が成長してきたわけではない。なかには,そうした経験自体が,のちに反面教師になることもあり得た。著者は,監督でもなく,選手でもなく,コーチという存在に焦点を当て,2021年時点で球団に所属していたコーチングスタッフ6人に取材を行い,本当の「名コーチ」の条件を探究することに努めてきた。
序章に続いて,本章では,6人のコーチ(石井琢朗,鳥越裕介,橋上秀樹,吉井理人,平井正史,大村巌――以下,人名は敬称略)が,1人1章ずつ,著者のインタビューに対して,コーチングのプロセス,そして「名コーチ」とは何かを回答している。まず,6人のコーチングには,投手・野手を問わず,なんでも教え込むのではなく,選手自身に主体的な達成感をもたせることを共通点としている。ただし,そこに至るアプローチは,6人6様であった。たとえば,鳥越や大村のように,家庭的な躾という観点から入団まもない選手たちを育成する方法もあれば,橋上のように,データをもとにして主力選手と個別に対話したり,吉井のように,大学院へ進学し,専門的な心理学や生体力学の研究を修得した成果をコーチングの現場で活かすやり方などがある。橋上と吉井の受け答えが理論的かつ具体的である分,他の4コーチのコーチングがやや抽象的・一般的な印象を拭えなくはないが,それでも本書としては,さまざまな事例を列挙することに意義がある。
読者によっては,贔屓の球団におけるコーチングを垣間見るという読み方をするケースもあ。ライオンズファンとしては,橋上秀樹を語る第3章は,熟読するに値する。
ファンの間では,いわゆる「暗黒時代」と呼ばれる田辺監督期の最終年(2016年)に,ライオンズの作戦コーチに就任した橋上は,チームの三振数を減らすことを至上の命題とした。そのターゲットとなった浅村栄斗や森友哉に対しては,彼らと個別に対話することで,両選手とも2ストライク後の打撃が改善され,つなぐ打撃の大切さを再認識できるようになったという(88頁)。また,金子侑司に対しては,それまでの打撃練習で中村剛也や浅村と同じようなバットの振り方をしていたのが,自身のセールスポイントを強調させることで,選球眼が磨かれたという。そういう意味で,2018~19年の「山賊打線」は,橋上のコーチング力なくして語ることはできないといえよう。紙幅の制約で省略されたのかもしれないが,惜しむべくは,浅村,森,金子が,橋上のサジェスチョンをどのように受容していったのか,その返答も,言葉として聞いてみたかった。
最後に本書の構成に関して,2点指摘しておきたい。
第1に,序章は,「名コーチ」とは何かの問題提起をしながら,かなりの具体例も書かれていたために,幾分長く感じられた。序章では問題提起のみを語って,荒川博や土井正博,根本陸夫の部分は,各論が展開されるまでの短い第1章としたほうが,読者には読みやすかったかもしれない。なぜかというと,根本による「どれだけその選手の目標をサポートできるか」という台詞が,序章にして,本書の結論となっているため,読者によっては,各章を読む必要がないとも思ってしまうからだ。
第2に,「名コーチ」の条件を,どのようにカテゴライズするか,この結論がやや弱かった。「コーチになるからには自ら勉強するしかない。近道はなく,地道に続けるしかない」(216頁)という締め括りでは,この議論が先に発展しづらいからである。そのなかで,アナリストとコーチの関係性(212-213頁)を今後の課題として設定したのは,非常に有益だろう。橋上・吉井型のコーチングはアナリストとマッチしやすいが,鳥越型のそれはどのように関係性を築いていくのか,続編を待ちたい。 -
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根本陸夫という男は唯一無二な存在だったのだと感じた。本書を読む限り全てが完璧で計画的だったわけではないが、不思議と人の心を掴んで離さない人間的魅力があったのだろう。それは独自の人を、組織を、野球をみる「目」であったり、損得を超えた範疇での「人情」であったりするのだろう。正直、超人的な逸話も数多くあり真似できないことも少なくないが、どこか人間らしさ(例えば監督としての采配はチグハグ等)が根本の魅力をさらに上げているように思う。根本のことを「オヤジ」と慕う愛弟子たちのように、私自身も根本の人生から学び、それを自分のフィールドで活かしていきたいと思った。
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帯の惹句には…
選手として三流、監督として二流、でもGMとしては『天下無双』。誰も真似できない『人脈』と『洞察力』を武器に低迷していたカープ、ライオンズ、ホークスを変革し、黄金時代を築いた男の実像に迫るノンフィクション…とある。
本書は根本陸夫に薫陶を、指導を、影響を受けた
元選手をはじめ20名の『証言』を基に、『球界の寝技師』異名を取った根本陸夫全仕事をつまびらかにしていく。
【証言者一覧】
工藤公康・大久保博元・関根潤三・土井正博・衣笠祥雄・坂井保之・石毛宏典・森繁和・行沢久隆・小島弘務・毒島章一・石山建一・小枝守・浜田昭八・安倍昌彦・大田卓司・下柳剛・瀬戸山隆三・森脇浩司・王貞治
【根本陸夫とは?】
法大では捕手として、終生の友であった関根潤三とバッテリーを組む。1952年近鉄に入団、57年引退。実働4年。選手としては三流。ただ抜群の記憶力から首脳陣の信頼を得、監督の補佐役を務める。引退後はスカウト・二軍のマネージャー・コーチを務め1967年広島のコーチを経て監督就任。退団後、解説者を経てクラウンライターの監督に。1978年西武がクラウンを買収、監督兼管理部長に就任。田淵幸一・野村克也・山崎裕之らをトレードで獲得。81年監督を退任、管理部長専従となり、実質的なGMとして辣腕を振う。広岡・森を監督に招聘、石毛・秋山・伊東・渡辺・工藤・清原らを獲得、西武黄金期を築く。92年ダイエー中内功から招聘を受け、ダイエーの監督兼GMに就任。秋山をトレードで獲得、FAでは松永・石毛・工藤、ドラフトでは小久保・城島を獲得。95年に勇退、球団専務に。後釜に王貞治を据える。99年初優勝を見届けることなく、同年1月心筋梗塞で急逝。享年73歳。
【読後感】
4球団の指揮を執りながら、Aクラスは1度だけ。殊、チーム作りにおいては抜群の腕の冴えを見せる。GMとして西武で黄金期を築き、ダイエーで土台を作る。大胆な補強とスカウト時代に張り巡らした人脈を駆使した他球団の裏をかくドラフト戦略。白眉は6年を費やし世界の王を口説き監督に招聘。2005年ダイエーをソフトバンクが買収するや、潤沢な資金の下、常勝チーム化に拍車がかかり、紛れもなくその礎を作ったのは根本陸夫である。
没後21年。
工藤公康・辻発彦は監督に、渡辺久信はGMに、伊東勤はヘッドコーチとして活躍。根本遺産はますます進化中。惜しむらくはポスト根本陸夫。根本亡き後、『名GM』として名前が上がる人は見当たらない。広岡達朗・中村勝広・高田繁・落合博満・渡辺久信・石井一久…現役経験者がGMに就任するも高田繁を除き適任の声は聞こえてこない。
そもそもGM制度はメジャーの編成システムから生み出されたもの。毎オフ、FA市場は活況を呈し、トレードも頻繁に行われる。そう『編成』がチームの浮沈を握る。FA制度とGM制は密接な関係があることから日本の現行のFA制度下では十分な機能を果たせるとは言い難い。
では、なぜ根本陸夫がGMとして機能したのか?
西武もダイエーも新興球団。プロ野球に関して無知なカリスマオーナーが君臨。ゆえに丸投げせざるを得なかった。豊富な人脈・現場経験・情と理の絶妙な使い分け・背広組も一目置く見識の高さ…これらが備わる根本陸夫にチーム作りを全権委譲するのは当然の流れ。
根本陸夫を一言で言えば『種を撒く人』。
他球団垂涎のソフトバンクの3軍制度の充実ぶりなんて、まさにその象徴。根本イズムの真骨頂である。
監督就任時は三顧の礼、低迷すればマスコミと共に石持て追う。首のすげ替えで常勝チーム化を図れる…と未だ信じてやまないオーナーの方々に是非とも一読してもらいたい一冊。 -
Posted by ブクログ
なかなかに面白い本だった。
一文、スカウティングの肝みたいな話の中で、根本さんがいかに早く動くのか。いかに多くの人に会っておくのかが肝要というようなことを書いてあるところがあって、勿論自分は根本さんの足元にも及ばないが、それでもなんとかやれていたことが出来ていないのが、ここ数年の自分の課題になってしまってる営業の不調の原因だよなやっぱりと今更ながら気付かされたように思った。
根本さんには関係ないが、栗山さんがあのWBCの監督をやったときに、いかにしてあのメンバーを集めたのかについて書かれた本があればそれをぜひ読みたいと思った。もしかしたら栗山ノート2かな…
そのときに根本さんは集めたメンバー見てもう勝てるだろうと思っていたらしい。いかに準備を周到にしておくかということが肝心なんだと… -
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箱根駅伝を観ていて駒大の大八木監督が「答えを伝えてはいけない、私は提示するのは選択肢。 そこから選手達が自分の意思で決めていく」と語られた事を思い出しました。
「人を育てる」とはどういうことなのか? 改めて考える機会を与えてくれる本です。
スポーツに限らず「即戦力」は企業側は歓迎しますが、それは言わば「替えの効く部品」に過ぎません。
人材を「部品」ではなく、その人の幸せがその先に見えるように育てる(見守る)ことが「コーチの役目」だと感じました。
どんな業界、世界でも「現役で活躍」できるのは実はほんの僅かな年月、人生において「そこから、どれだけの人を育てられるか?」が真価かもしれませんね。
野球の枠を頭から取り払って読んでみるととても意味深い本だと思います。 -
Posted by ブクログ
プロ野球における現代のコーチのあり方についての本です。
プロ野球における育成については、この本に出てくる現役のコーチ陣のやり方に違和感はないですが、一般の仕事における育成では、この本の内容とは異なる部分が多々ある気がします。
一般の仕事における育成においては、いわゆるCOACHよりも、TEACHの比重が高い気がします。
ちなみに、読んでいてとくに気になったのは、指導者のライセンスの話。
日本において、サッカーは、指導者になるためにはライセンスがありますが、野球にはありません。
ライセンス制度があるのがいいのかどうかはわかりませんが、日本のプロ野球とプロサッカーにおけるコーチの貢献度の違いを比較・調査した結果があるのかどうかが気になりました。
競技が異なるので、貢献度の比較は難しい気がしますが、ライセンスのあるサッカーの方が明らかに高い、ということであれば、野球もライセンスを導入した方がよいかと。
しっかりとした指導者が増えることで、しっかりとした選手が増えれば、そのスポーツにとって、マイナスになることはないはずなので。 -
Posted by ブクログ
数多くの野球関係者の証言を集めた貴重な本。
元プロ選手だけではなく、アマチュア球界OBや取材者の視点まで含めている。
インターネットメディアの連載をまとめたものなので、文庫本で一気に読むと重複する記述も出てきてしまうが、その点はやむを得ない。
とにかく、証言の数の多さと多くの人が共通して語る根本陸夫さんの姿があることに驚かされた。
今の球界に根本さんほど自由に動ける人はなかなかいないだろうが、根本さんが遺したノウハウや人情は大切にしてほしいと改めて思った。
チームの発展や選手の発掘には長い時間がかかり、長期的な視点が重要であることがよくわかる。