佐藤弘夫のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
紙では絶版なのがあまりに残念。
手垢のまみれた「神国日本」という概念を、文献を元に考察を加え、議論の土台を与えることに成功している。
神国ならびにその一部である天皇について「右」も「左」も無知な人も必読の文献。
・P33.天皇号の採用は今日では、天武・持統朝説が定説。
・P44.の伊勢の神様の昇天と日蓮の神天上の法門の類似性。
・P084.アマテラスオオノカミを頂点とする強固で固定的な上下の序列が古代的な神々の世界であるとすれば、中性的なそれは横一線にしのぎを削る有力神が、仏教的な世界観に組み入れられ、その理念を紐帯としてゆるやかに結び会わされたものだった。P096.本地垂迹
・P095 -
Posted by ブクログ
[ 内容 ]
日本は神国である。
―誰もが耳にしたことのあるこの言説。
しかし、われわれは、「神国日本」がいったい何を意味するのか、本当に知っているのだろうか?
その展開を実証的にたどってみると意外な事実が見えてくる。
たとえば、「ナショナリズム」を高揚させるイデオロギーと思われがちなこの思想も、中世においては、必ずしも、他国に対する日本の優越を説くものではなかったのだ。
その他、天皇・仏教的世界観など、さまざまな観点より、古代から中世、そして近世・近代に至る神国言説を読み解く。
一千年の精神史。
[ 目次 ]
序章 神国思想・再考への道
第1章 変動する神々の世界
第2章 神と仏との交渉
-
Posted by ブクログ
仏教が民衆支配の強力なイデオロギー装置として機能していた中世にあって、法然、日蓮の思想とそれを引き継ぐ弟子たちに権力に対峙できる信仰を見出すことができることを論証した本。好著。室町時代に至る記述も分かりやすい。
・〈選択〉主義を捨てて伝統仏教との融和を目指すという方向は,日蓮や道元の教団でも全く同様であった。(真宗も)
・しかしその代償として、それらの宗派においては祖師にみられた理想主義や現実批判の精神が、しだいに色あせていったことも否定はできない。
・中性の農民には(江戸時代と違って)領主を選ぶ自由、移動の自由が保証されていた。
・その行動を客観的な立場からながめたとき、これらの在俗信徒こ -
Posted by ブクログ
2006年五月に起こった森喜朗首相(当時)の「神の国」発言は多くの批判を受け、今でも嘲笑の対象となっている。しかし日本の「神国思想」の歴史的、現代的実像を正しく把握している人間がどこまでいるのだろうか。
「神の国」発言には天皇を存在を基盤とした選民思想(「天皇」と「ナショナリズム」)が垣間見えた。しかしこの著書に沿って、日本の神国思想を歴史的実証的に見ていくと、国内外の多彩な思想との影響において様々な変遷をしてきたことが分かる。特に中世の特色として「現実世界に化現した神・仏・聖人への信仰を通じて、私たちはだれもが最終的には彼岸の理想世界に到達することができる」という「ナショナリズム」を越えた -
Posted by ブクログ
ネタバレp26著者は「日蓮は最高位の国王は亀山天皇であるが、その下で実質的権力を握る地位(治天)が院=天皇の父から北條得宗に移行したと考えていた」「その転機は彼の誕生の前年の承久の乱である」天台宗が仏説の究極とした法華経は現実変革の志向が強い。国王=天皇と国主=執権との二重権力状態。第1段原文「国主国宰之徳政」あとの「国」はクニ構えに「民」となっているという。前は朝廷、後は関東幕府を指すか/四大教祖のうち日蓮だけが東国出身、武家政権への説得に「邪教で勝利祈願したから承久の乱で朝廷側は敗北した」とする/本書上書8年後、蒙古の国書が届き、朝廷は侮蔑的返答を作成したが、幕府は「黙殺」と決め、十七歳北条時宗を
-
Posted by ブクログ
古代から近代にいたるまでの、日本における宗教的世界観の変遷過程をえがき、それぞれの時代の特徴について考察をおこなっている本です。
著者はまず、仏教と神道が入り混じっている日本の宗教のありかたを、「神仏習合」という概念でとらえることへの疑義を提出しています。「神仏習合」という概念は、仏教と神道をそれぞれ独立した宗教と規定したうえで、その二つが混淆している状態を表わすものですが、著者は日本の宗教的世界観を「基本ソフト」とし、その上で仏教や神道という「応用ソフト」が成り立っているというモデルによって、日本人の信仰のありかたを解き明かそうとしています。
著者自身も「あとがき」で、「タイトルから推測 -
Posted by ブクログ
1994年に刊行された、著者の鎌倉仏教にかんする解説書の文庫版です。
いわゆる鎌倉新仏教による専修の主張は、民衆にとって荘園支配を支える仏神的なイデオロギーを否定する意義をもっていたと著者は論じています。こうした見方は、田川建三のイエス論を連想させる内容ですが、こうした視点からの研究は、いまではやや古びてしまったような印象もあります。
著者自身もこのことは認識しており、文庫化にさいして付け加えられた補論のなかで、黒田俊雄や平雅行らの研究成果について触れられています。著者は、鎌倉仏教に「民衆性」といった要素を認める見かたがしりぞけられたのではなく、「鎌倉新仏教」の切り開いた新たな思想的地平に -
Posted by ブクログ
しばし議論を巻き起こす「日本=神国」という理念。しかし我々はそもそもこの「神国」というものを正しく認識していると言い切れるだろうか。「神国」思想の変遷を当時の日本の社会構造、歴史、また当時の仏教などの関わりを踏まえた観点からたどったのが本書である。
若干、同じフレーズが多く構造がくどい気がしないでもないけれど一冊でとても濃い内容ではないだろうか。
我々には近代で劇的な変化を遂げたものであっても、それが昔からそうであったかのように錯覚し、そのまま肯定するか否定するかの態度をとってしまう癖の様ながあるが、それはこの神国思想に限らず非常に残念なことであると思った。この本が広く読まれることを願う。