ラグナル・ヨナソンのレビュー一覧
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フルダシリーズ三部作の完結編。
レイキャビークという首都の名前も、海岸線を縁取るニョロニョロとしたフィヨルドに囲まれたサイの横顔のような国の形も、随分身近に感じられるようになった。
前作から更に10年遡り、フルダは40歳。夫のヨンも娘のディンマもまだ生きている。
今回はクリスマスの時期に起こる事件で、舞台は人里離れた雪深い高原地帯の農場だ。読むだけで体が冷えるので、暖かい上着と熱いルイボスティーは必須だな。
近くの一軒家で一人暮らしをしている娘と過ごすクリスマスを楽しみにしているエルラと、その夫のエイナール。しかしドアをノックしたのは心待ちにしていた娘ではなく、一緒にきた猟の仲間とはぐれたと -
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終わったところから始まる物語。時間を逆行して発表されてきた女刑事フルダのシリーズ三部作、早くもその完結編である。
これを読んだのは、北海道までをも巻き込んだ猛暑のさなかだったのだが、作品世界は雪に閉じ込められたアイスランドの一軒家である。とりわけ、三人だけの登場人物による恐ろしい駆け引きの第一部は、大雪で閉じ込められ、血も凍る恐い心理小説なのである。まさに猛暑対策にはこの上ない一冊なのだった。
アイスランドという国、その特色を生かした寂しさと孤独と、辺縁の土地を襲う暴風雪。それらが重なるだけでも、いわゆるヒッチコック的スリラーの完成度が極めて上がる。そこに加え、前二作によるヒロインの -
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フルダシリーズ三部作の最終巻。
重い内容ながら読みやすく、あっという間に読んだ。
三部作を通してフルダが対応している事件よりも彼女の家庭が気になる。
二作目までで家庭で何が起こったのかは匂わされてはいるが、本作でもフルダの心情は描かれるが実際家庭で起こった出来事が詳細に語られることはない。
本作が読めるのを楽しみに待っていたのでその辺をもっと詳しく読んでみたかった気もするが、重すぎるテーマゆえ、娘と夫に関しては淡々と事実が描かれるだけでも胸が苦しくなる。
三作通して、アイスランドの凍てつくような寒さも相まってひたすら重い雰囲気の作品ではあるが、名作である。 -
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一方の端からもう一方の端へと振れ幅の広さにまず驚く。
昨年、アイスランドのシグルフィヨルズルという北極に最も近い漁村の警察官アリ・ソウルのシリーズに驚いたぼくは、この人の作品は書かれた順番に読もうと誓っている。なので、アリ・ソウル・シリーズも一作、二作という順に読んで、先に翻訳された五作目はそのまま手元にあるが読まない。この作品はこのシリーズの三作、四作と読んでから取り組むべきなのである。それを感じたのは一作から二作へ渡される作者の想いのようなものだと思う。時間というバトンは決して軽くない。作者はそれだけアリ・ソウルとシグルフィヨルズルの街を丁寧に扱いたいのだと思った。
さてアリ・ソ -
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『闇という名の娘』に続くシリーズ2作目。
このシリーズは、回を重ねるごとに過去に戻るのだ。
主人公のフルダ・ヘルマンスドッティルは、前作では定年間近だったが、今作では10数年遡り、まだ50歳。偉くなりたいという野心の炎は赤々と燃えている。
フルダという人間は、非常に頑固で扱いにくい一面がある。
それは彼女が幼い頃、ある理由から施設に預けられていたからなのか。
その頑固さ故なのか母親と心を通わせることができなかった。その人間としての不完全さが、彼女自身を傷つけているのではないかと思う。
起った事件についていうと、前回の話より今回の話のほうが分かりやすく、読みやすかった。
10年前に起こった、 -
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『ヴェラ~信念の女警部』が好き過ぎて、海外の女性刑事というと、頭の中で描くビジュアルがすべてヴェラになっちゃう。困ったもんだ。
それはおいといて。
とても面白かったです。訳者との相性がよかったのか文章はスルスルと読み易く、あまり馴染みのないアイスランドという国の美しい風景写真を眺めながら、あっという間に読み終わりました。
数か月後に定年を控えた女性刑事、フルダ。64歳。
いわゆるガラスの天井なるものに阻まれて、優秀だったにも関わらず警部どまりだったことに憤りを感じている。夫とは死別しており、今はひとり暮らしだ。
最近趣味の山登りで、素敵な男性と知り合った。穏やかな人柄で、暮らしぶりもよく -
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ネタバレ謎解きは面白くテンポも良い。そして、あっと驚く結末。
充分に読み応え有り。
でも、作者の書きたかったのは、主人公の生い立ち、苦悩、苦境、孤独などなど、
どこ切っても辛く悲しく、そして憤り。
こうまで辛い人生でも刑事として自分なりの正義を貫こうとする姿勢は、立派だけど作者は更に捻りをいれてくる。
正義って見方によって、悪にでもなるし、悪い事をすれば、災厄が自分に返って来る
なんて、説教臭いけど、いわゆる因果応報ってことだね。
衝撃的なラストも、僕に皮肉が強すぎて、まるでコメディのように思えて、不謹慎だけど笑ってしまった。
ともかく、すげぇ~と思わせる作品だった。 -
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フルダシリーズ2作目。1作目の解説で、2作目の紹介が有ったのでフムフムと。
前回のフルダはいわば「人生の難破船」的精神状態。崩れ落ちて行く周囲の世界の合間でどこまでが現実やら、どれが現時点やら、こちらも雪盲状態?で読み終えた。この作家さん、独特の精神世界。センテンスの短さ、驚くほど文字数の少ない症候性で抜群の読み易さというか「読む絵本」的。
そうはいってもひしひし迫る冷たさと嘘寒い恐怖の高まりは今回も同様。
若返っているはずのフルダはなんか老成している感じ。
前作は夫との関係、哀しい娘の生涯が語られたが今回はフルダ自体の出生の秘密。
アイルランド版朦朧体とでも言えるかな。