岩井秀一郎のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
【こんな人間になりたい…なんて言うのも恥ずかしい】
二・二六で凶弾に倒れた渡辺錠太郎の伝記。歴史書としてもおもしろい上に、人物伝として描かれる彼の生きざまが文句なしに素晴らしい。
まずは歴史書としての観点から。これまであまり知らなかったけど、永田鉄山とともに、もし生きていたらその後の陸軍、ひいては歴史を変えたかもしれない、日本を救ったかもしれないといわれる大人物。彼に手を下した愚か者が憎いと思った。けど渡辺和子が言うとおり、直接手を下した青年将校や下士官たちよりも、貧しい農村を思う彼らの純朴な思いを利用してクーデターを扇動し、事件を起こさせておきながら、天皇の激怒を知って知らんぷりを決め込 -
Posted by ブクログ
過日、旭川を訪れる機会が在って、街を歩いて常磐公園に立寄った。
公園の入口に「常磐公園」という園名が刻まれた立派な碑が在る。昭和の初め頃に出来た碑だが、文字は旭川に司令部を設置していた陸軍の第七師団で当時師団長を務めていた人物が揮毫したのだという。往時の陸軍では「師団長」は中将の階級に在る者が務めていたようだが、「常磐公園」の揮毫をしたのは渡辺錠太郎という人物だった。
「渡辺錠太郎」の名に聞き覚えが在った。彼は旭川での任務の後、大将に昇任している。やがて教育総監という陸軍首脳部の要職に就くのだが、「二・二六事件」の際に自宅に在った時に襲撃され、殺害されてしまった。その「二・二六事件で害されてし -
Posted by ブクログ
ネタバレ多田駿の名前は参謀次長として聞いたことはあるが、ぞの前後での活躍は見た覚えがなく、どのような人なのか気にはなっていたが知りようがなかった。
だからこの新鋭の作家によって、まさに伝記が発刊されたのを知り、喜ぶと同時に地味なこの人の伝記におもしろいところはあるのだろうか、と余計な心配もした。
この本の一番の読みどころは、まさに次長時代の話で。蒋介石国民政府を相手にせずの近衛声明に表された交渉打ち切りに最後まで反対したところだろう。政府、外務大臣、海軍、陸軍大臣、参謀本部内の拡大派を相手に立ち向かったが敵わず、その後の南京攻略など対中戦争が激化泥沼化したが、唯一の反対派が陸軍参謀本部だったのだ -
Posted by ブクログ
二・二六事件で暗殺された陸軍教育総監渡辺錠太郎。貧しい境遇から士官学校、陸軍屈指の読書家で独自の非戦思想。歴史の狭間に埋もれた人物の実像に迫る傑作評伝。
本書の主役渡辺錠太郎の二女の名は渡辺和子。あの「置かれた場所で咲きなさい」の筆者。二・二六事件、青年将校の凶弾に父が倒れた時、8歳の娘は正に同じ部屋にいたという。53歳で生まれた娘。「長くは一緒にいられない」と孫ほどに年の離れた娘を父は溺愛。
日本の陸海軍士官は旧制高校、帝大と並ぶ当時のエリート。渡辺錠太郎の生涯、凄いのは小学校を卒業後、農業のかたわらで独学、旧制中学を経ずに陸軍士官学校に合格するところ。
二・二六事件に至る陸軍の道、そ -
Posted by ブクログ
渡辺錠太郎は2.26事件で非業の最期を遂げました。学者将軍と言われていた渡辺錠太郎。そんな彼は非戦思想を持っていました。
そんな渡辺錠太郎と、同じ日に殺害された高橋是清が、もし生き延びていたら、と思います。
「もしもあの時、父が青年将校たちの手で殺されていなかったら、後年キリスト教の洗礼を受けなかったかも知れないし、その結果として修道者となり、岡山に派遣されることもなく・・・」と、渡辺和子シスターは語っています。
この本ではまた、渡辺錠太郎の命を奪い処刑された青年将校の弟と、渡辺和子シスターとの交流も少し描かれていて、そのくだりにも心打たれるものがあります。
起こって欲しく -
Posted by ブクログ
ネタバレ対中不拡大派の多田駿氏の評伝。近衛内閣が蒋介石率いる国民政府に対し、相手とせずという声明を出す前、陸海両相、外相を相手に、閣議で交渉継続を訴えた中国通の軍人。
本書を読むと、対中国については、陸軍と海軍というよりも参謀本部の不拡大派(主に作戦実務を司る二課)に対して、拡大派が陸軍その他ならびに海軍という様相が見て取れます。
陸軍内で言えば、東条や杉山が論外なのはもちろん、海軍でも当時近衛内閣にいた米内海相までもが対中拡大派として動いており、戦後評価されている米内の評価はやはり疑問です。
いずれにしても現地の情勢や作戦実務に精通していた官僚の適切な意見を内閣ならびに閣僚が選択できなかった -
Posted by ブクログ
ネタバレ永田鉄山という人物は、いろんな風説が流れやすい人物であるが、改めて整理すると理論家で現実主義者で、天才肌でありながらも理知的で交渉も上手な切れ者という、ぐうの音も出ないほどの人材であったのが分かる。
昭和の陸軍は、かなりいろいろな問題を起こしているが、そんな中で永田鉄山は「総力戦」に備えながらも陸軍内部の統制に厳しく、決してそこから逸脱することはなかった。
いわゆる昭和陸軍が軍閥のように無茶苦茶になっていったのは、永田のようにこうした「国軍」としての陸軍のあり方から逸脱し、気づいた時には下克上と無秩序で支離滅裂になっていった要素が高い。
それは海軍も同じ事が言えるのだが、個人的に酷いと思 -
Posted by ブクログ
1937年の盧溝橋事件後も戦争の不拡大を主張した中国通で知られた陸軍中将・多田駿参謀次長の名前を覚えている人はそう多くない。結局,不拡大の方針は採られず,近衛文麿は「国民政府を対手とせず」の声明をだしてしまったからだ。また東條英機とも対立し,太平洋戦争前には予備役に編入されたことも関係するのかもしれない。盟友の石原莞爾は有名だが,それとの関係で言及されることもほとんどないように思う。
実はこの多田駿のご子息である多田顕先生は,千葉大学から大東文化大学に移って,また日本経済思想史研究会でもご一緒させていただいたこともあり,よく存じ上げていた(1996年に逝去)。ご自身のお話はほとんどされたこと -
Posted by ブクログ
永田鉄山について書かれた書籍は多数あるが、歴史研究家が事実に重きを置いて記載してきた物とくらべると、本書は歴史のifに触れる珍しい内容である。そこに面白さがあると言って良い。
永田鉄山は言わずと知れた昭和陸軍における最高峰の頭脳の持ち主で、「永田の前に永田なく、永田の後に永田なし」というフレーズを聞いた事のある読者も多いだろう。その考え方は極めて合理的、神係的な精神論で押し通す事の多い軍人の中で、一切そうした考え方を排除し、膨大な知識からなる状況分析と冷静な判断で渡り歩いた人物である。そして太平洋戦争の遥か以前から「国家総力戦」の重要性を説き、近代国家が避けて通れない大規模な戦争の勃発とその際 -
Posted by ブクログ
今村均という人物は大東亜戦争(海軍的な視点で見た太平洋戦争ではなくアジアで繰り広げられてた意味で使用)に於いて優れた指揮官として書籍にも多く取り上げられている。私が初めて深く知る事になったのは角田房子氏の「責任 ラバウルの将軍今村均」であった。以来、ビジネスマン・リーダーとしての在り方は正に今村均の責任感の全うにあると、敬意の念を抱くと共に、そうあるべきと手本としてきたつもりである。久々に今村均を主題とした本書に触れ、益々その想いを強くすると共に、私のような非凡な人間であっても、かつ歳を重ね会社人としても折り返し地点を当に過ぎた身でありながらも、まだまだ修練が必要で、それによりさらに高みを目指
-
Posted by ブクログ
この作者は、主人公の遺族に会って見せてもらった写真や聞いた話を紹介するので、仕事以外の主人公の姿も見えてきて多少なりとも親近感が湧いてしまうという特徴がある。
この手法は好きである。人物を描くからには私的な面があって当然で本当の姿がそこにはあるし、また調査を行って書くということは空想小説ではないという証拠でもある。
永田鉄山は、相沢事件で刺殺され関係者に残念がられたとか、前後に人がいないなどの優秀ぶりが語られているが、それ以上の情報は乏しくよく分からなかったが、その辺りは本書でクリアになったと思う。
合理的だが対人折衝も上手で軍人以外にも理解者が多かったというのは、能力はあっても言動で -
Posted by ブクログ
戦前・戦中の海軍=善玉、陸軍=悪玉の印象公式が揺らぎます。と云うのも著者があとがきでも綴って居た通り。
こんなにマトモな人が中央に居乍ら、日中関係硬化・悪化の後の太平洋戦争だったのなら、それこそ何かの見えざる手だとか、時代の気風の魔力としか言いようが無い。
禅僧の様な佇まいに日本古来からの武将の様な仁・義・情に満ちた人柄。袴姿での証言台の映像がアーカイブで見られるとの事、早速探してみようと思います。
…と云う感想も、この著者の調査能力と筆力あってこそ。お若いのに、そして会社勤めの仕事と両立してノンフィクション作家であるという所が凄い。ノンフィクション作品の中には、まるで熱に浮かされたように自 -
購入済み
読み応えある評伝
名前こそ知っていたが漸く評伝が出た。日中戦争を扱った戦史研究は数あれど近衛第一次声明からの近衛改造内閣と参謀本部の動向についてはあっさりと済まされることが多く、多田駿という人物とその内面は良く知られていなかったと思う。
僧侶が何故か高級軍人になってしまった人である。書簡にある日本や日本人への諫言が重い。 -
Posted by ブクログ
処世術とはいつの時代も人を救ける。無論本人の持った生きていくうえで必要な能力である。世の中をうまく渡り歩くというのは難しいもので時代も環境も周囲の人間も全て自分の思い通りでは無いから、如何に状況に合わせて上手く立ち振る舞えるか、それも本人の実力の一つである事は間違いない。世のには上からも下からもウケが良く、困難な状況も上手くすり抜ける人がいる。そういう人を見ていると、内心腹立たしい事もあるが、自分には真似できないカリスマみたいなものを持っているのか、周囲と上手くやっていくために相応の努力や我慢もあるだろうと尊敬の念に駆られる事もある。
本書は太平洋戦争時における軍部の中枢、大本営の参謀の生涯を