小宮豊隆のレビュー一覧

  • 夏目漱石 下

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    私は漱石の亡くなった齢をだいぶん越したのだが、自分の考えの浅はかさに、自分勝手さに情けなくなる。さて、漱石は、修善寺の大患を経て大きな転機が訪れ、晩年の【則天去私】の道に繋がっていくのである。その修善寺の大患の模様は、坂元雪鳥の『修善寺日記』に詳しく示されているが、それは凄惨きわまりないものであった。そして、生き返った漱石は『思い出す事など』で「…余は病に謝した。また余のためにこれほどの手間と時間と親切とを惜まざる人々に謝した。そうして願わくは善良な人間になりたいと考えた。」この漱石の本心が私は好きだ。

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    2012年06月08日
  • 夏目漱石 中

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    漱石が神経衰弱になったときの家族は悲惨であったろう。このように漱石が荒れ狂うのは、漱石の生まれてから幼少期までの原体験がそうさせるのではないだろうか。

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    2012年06月05日
  • 夏目漱石 下

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    漱石の晩年の著作背景と人生を記録した本

    岩波文庫 小宮豊隆 夏目漱石


    亡くなった時の病床での漱石の写真で始まり、死の一部始終を描写した章で終わる 驚きの構成

    「漱石は一作ごと前作を否定して進歩して行った」という結論は、なるほどと思う。漱石作品は「坑夫」以後、制作順に読んだ方が 良さそう


    則天去私を漱石像の中心に捉えている。江藤淳 氏の漱石より、同時代を生きた著者の漱石の方が実像に近く感じる

    「漱石は死を生の中に織り込み、相互に反発し矛盾する二つのものを、一つに連接させたいと希った。則天去私はそのことを可能にする唯一の道であった」

    「文芸の哲学的基礎」
    真を理想とする文芸は、他の善・美・壮を 理想とする文芸と同様に存在することを許されているが、その真を尊重する余り、他の善・美・壮を冒そうとする場合、その文芸の存在は到底許され得ない

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    2026年03月23日
  • 漱石先生と私たち

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    夏目漱石の弟子である筆者による、夏目漱石と周りの人々についての話。

    いかに筆者が夏目漱石ラブだったかが伝わってきた。基本全肯定ですから。読んでてこっちも嬉しくなる。夏目漱石の他の弟子についても書かれてて、なんかイメージが具体的になって、ちょっと親しみが湧いてきて、これもよかった。なんか文章も読みやすかった。

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    2023年12月02日
  • 夏目漱石 中

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    愛弟子による評伝、中巻です。

    熊本の第五高等学校で教鞭をとっていた漱石は、二年間の英国留学の辞令が出て、ロンドンへ。そして『文学論』の執筆、一度目の神経衰弱、帰国(出発直前に子規の訃報)、二度目の神経衰弱、『吾輩は猫である』の誕生、『倫敦塔』、『幻影の盾』、『薤露行』など短篇の執筆、『坊ちゃん』、『草枕』、『二百十日』の執筆、朝日新聞へ入社、そこで『虞美人草』を執筆、という流れです。

    私生活では、妻鏡子が一度流産するも、2年後には長女筆子が誕生し、ロンドンへ発った1年後に次女恒子が誕生、帰国後には三女の栄子が生まれています。

    いやはや、漱石が一番大変な思いをした時期だったのではないでしょうか。なかなか自分の思うように動けず、世間、周囲、仕事などへの不満がつのり、イライラピリピリすることが多くなっています。

    でも褒められるとやはりうれしいらしく、山県五十雄への手紙では、〈小生の文章を二、三行でも読んでくれる人があればありがたく思います。面白いという人があれば嬉しいと思います。敬服するなどという人がもしあれば非常な愉快を覚えます。この愉快はマニラの富にあたったより、大学者だといわれるより、教授や博士になったより遥かに愉快です〉なんて、すごくうれしそう。

    これまで、夏目漱石というと、あの有名な写真が思い浮かび、気難しそうにいつも思い悩んでいるようなイメージでしたが、本書を読んでみると、愉快と不愉快を行ったり来たりしている、とても人間的な漱石さんが立ち現れました。著者が漱石と散歩したときの思い出も、この本ならではのエピソードです。

    中巻では、小宮氏が漱石の弟子として直接見聞きしたことが多く語られます。また同時に、これは上巻からずっとそうですが、日記や書簡など多くの資料をもとに書かれており、よくここまで資料を集めて調べてくれたと関心するばかりです。おかげで、ロンドン留学以降の経緯は、まさしく〈漱石が漱石になるための、必要な過程だった〉ことがよくわかりました。

    では、いよいよ下巻へまいります。

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    2023年07月29日
  • 漱石先生と私たち

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    修善寺日記とか、奥さんのと比べるとなかなか面白い。さすがは「漱石神社の神主」と言われただけのことはあるって言うくらい、先生絶対、先生ラブ、みたいな感じが伝わって来る。
    昔の人の日記を見るといつも思うのが、昔の人って開けっぴろげにケンカしてるよなーって言うこと。今の人はそんなにしないと思うんだけど。自分の周りだけなのかな。

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    2023年12月03日
  • 漱石先生と私たち

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     漱石に接した人間は多く回想の文章を書いているが、本書は一番弟子とも言うべき小宮豊隆の師漱石をはじめ、寅彦、三重吉、松根東洋城、安倍能成、森田草平等についての回想の文章を収めたもの。
     本書を始め弟子たちの文章からは、いろいろ忙しいにもかかわらず面倒見の良い漱石と、それに甘える弟子たちとの子弟関係が良く分かるが、それにしてもこれだけ弟子たちから慕われた漱石の偉大さと言うものを改めて感じた。

     もっとも印象に残ったのは、巻頭の「休息している漱石」の中の文章で、「今から考えると、私たちはどうしてあんなに先生の邪魔計りしていたのかと慚愧に堪えない。」との弁。おっしゃる通りとは思いつつ、それだけの時間を割いてなお漱石があれだけの作品を書いたことに驚くのだが。
    (もっとも、「我々がああして先生の邪魔をしたからこそ、淋しがりやの先生も、いくらかは気が紛れてよかったのだ」と言うのだが。)

     他の人物評からも各人の性格や著作の本質等が自ずと浮き上がってきて、その目の確かさに頷かされるところが多い。

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    2023年11月27日
  • 夏目漱石 下

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    漱石の門下生であり研究者でもある小宮豊隆氏による評伝、下巻です。

    上巻の感想に書いたように、本作は漱石の作品よりも生活に的を絞って書かれているとのことでしたが、下巻はほとんど作品の解説と言ってもいいくらい、漱石の生活を背景にして、『坑夫』、『三四郎』、『それから』、『門』、『彼岸過迄』、『行人』、『こころ』、『硝子戸の中』、『道草』、『明暗』といった作品それぞれについてたっぷり語られています。 

    これらの執筆の合間に、漱石は、満韓旅行へ出かけ、『朝日新聞』の文芸欄をめぐる問題や胃潰瘍に悩まされ、修善寺で危篤状態に陥ったのち、則天去私の心境に至り、そしてついに死を迎えます。

    小宮氏もそこにいたのでしょう、漱石の臨終の瞬間がリアルで、まるで私も立ち会っていたかのような気分になり、読後しばらく呆然としていました。誰がどう話しかけ、漱石がどう反応したか、どのように死に至ったか、克明に書かれています。

    〈死んだら皆に柩の前で万歳を唱えてもらいたい〉と手紙に書いていた漱石。〈死を人間の帰着する最も幸福な状態だと合点している〉という漱石の死生観、好きです。〈私は生の苦痛を厭うと同時に無理に生から死に移る甚しき苦痛を一番厭う。だから自殺はやりたくない〉というのも、なんだかうれしくなりました。

    〈青春の気に満ちた青年が、心を躍らせつつ自分の作品を読んでいるのだと想像することは、漱石にとって、心丈夫なことだった〉らしいので、今でも漱石の作品が多くの人に読まれ続けていることを、さぞ喜んでいるのではないでしょうか。

    上巻で、漱石が子規への手紙に書いた〈塵の世にはかなき命ながらへて今日と過ぎ昨日と暮すも人生にhappinessあるがためなり〉 という一文が印象に残っています。これまで知らなかった、知りたかった漱石の様々な表情を知ることができ、上中下全3巻、読んでよかったです。

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    2023年09月04日
  • 夏目漱石 上

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    〈漱石を敬愛すること誰よりも厚かった愛弟子〉による評伝です。

    執筆に際し〈冷静な客観的な態度〉を心がけたと「第一版序」に述べられていますが、読んでみると漱石への尊敬の眼差しがそこかしこに感じられます。でもだからこそ弟子になったわけで、その敬愛の念を排除できなくて当然。愛弟子の目から見た夏目漱石という人に興味があるので、私はそこはほほえましく受けとめて読んでいます。

    岩波書店から刊行された『漱石全集』の全巻解説を小宮氏が書いたことにより、そちらとの重複を避けるため、本評伝では漱石の作品よりも生活に的を絞って書かれたとのこと。とはいえその生活における出来事や心情などが、漱石の多くの著作の中で記されていることがわかり、今後は漱石の作品をより深く味わえそうです。

    さて、上巻は、まず夏目家の系図から始まります。始祖はなんと源頼朝の時代の人。そこから系図をたどってきて、漱石(金之助)の出生と家庭事情、教育事情、大学予備門と落第、正岡子規との出会い、初恋、大学時代、就職、を経て、松山へ赴任、結婚へと至ります。

    正岡子規との友情が良いですね。英語ができる上に漢詩にも精通する漱石と、哲学を志し詩歌を愛する子規が、お互いに畏敬の念を抱きつつ、そこまで書いちゃって大丈夫かと心配になるようなことまで手紙に書き合えちゃうほどの仲だったというのは、理想的な友人関係に思えて、なんだかうらやましくなりました。

    本書はあくまでも弟子による評伝なので、〈はっきりとは分からない〉ということがけっこうあり、内容にいくつか誤りもあるようですが(解説で指摘されています)、そんなところも含めておもしろく読めています。ということで、中巻へ進みます。漱石さん、イギリスへ旅立つようですよ。

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    2023年07月21日