あらすじ
漱石を敬愛することだれよりも厚かった愛弟子が師の「動的な生活を動的に把握」しようとこころざして書きあげた初の本格評伝。作品はもとより各種の資料を駆使して漱石の出自から死までを細緻にあとづけ、のちの漱石研究にはかり知れぬ影響をあたえた。「系図」から「死」まで全部で七十三章から成る。 (解説 平岡敏夫)
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Posted by ブクログ
私は漱石の亡くなった齢をだいぶん越したのだが、自分の考えの浅はかさに、自分勝手さに情けなくなる。さて、漱石は、修善寺の大患を経て大きな転機が訪れ、晩年の【則天去私】の道に繋がっていくのである。その修善寺の大患の模様は、坂元雪鳥の『修善寺日記』に詳しく示されているが、それは凄惨きわまりないものであった。そして、生き返った漱石は『思い出す事など』で「…余は病に謝した。また余のためにこれほどの手間と時間と親切とを惜まざる人々に謝した。そうして願わくは善良な人間になりたいと考えた。」この漱石の本心が私は好きだ。
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漱石の門下生であり研究者でもある小宮豊隆氏による評伝、下巻です。
上巻の感想に書いたように、本作は漱石の作品よりも生活に的を絞って書かれているとのことでしたが、下巻はほとんど作品の解説と言ってもいいくらい、漱石の生活を背景にして、『坑夫』、『三四郎』、『それから』、『門』、『彼岸過迄』、『行人』、『こころ』、『硝子戸の中』、『道草』、『明暗』といった作品それぞれについてたっぷり語られています。
これらの執筆の合間に、漱石は、満韓旅行へ出かけ、『朝日新聞』の文芸欄をめぐる問題や胃潰瘍に悩まされ、修善寺で危篤状態に陥ったのち、則天去私の心境に至り、そしてついに死を迎えます。
小宮氏もそこにいたのでしょう、漱石の臨終の瞬間がリアルで、まるで私も立ち会っていたかのような気分になり、読後しばらく呆然としていました。誰がどう話しかけ、漱石がどう反応したか、どのように死に至ったか、克明に書かれています。
〈死んだら皆に柩の前で万歳を唱えてもらいたい〉と手紙に書いていた漱石。〈死を人間の帰着する最も幸福な状態だと合点している〉という漱石の死生観、好きです。〈私は生の苦痛を厭うと同時に無理に生から死に移る甚しき苦痛を一番厭う。だから自殺はやりたくない〉というのも、なんだかうれしくなりました。
〈青春の気に満ちた青年が、心を躍らせつつ自分の作品を読んでいるのだと想像することは、漱石にとって、心丈夫なことだった〉らしいので、今でも漱石の作品が多くの人に読まれ続けていることを、さぞ喜んでいるのではないでしょうか。
上巻で、漱石が子規への手紙に書いた〈塵の世にはかなき命ながらへて今日と過ぎ昨日と暮すも人生にhappinessあるがためなり〉 という一文が印象に残っています。これまで知らなかった、知りたかった漱石の様々な表情を知ることができ、上中下全3巻、読んでよかったです。