藤原帰一のレビュー一覧
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ネタバレ朝日新聞の月1回の連載「時事小言」を2020年から2025年2月までをまとめた新書。2025年2月の最新の記事が頭にあり、そこから過去の記事にさかのぼっていく、という体裁になっている。
驚くべきは2020年のトランプ政権最後の年の藤原先生の分析が、最新の2025年のトランプ政権をそのまま正確に分析していることだ。これは凄い。トランプがその本質において変わっていないこと、藤原先生が2020年の段階でトランプの本質を最初から見抜いていたこと、両方がある。ただ、論文ではなく新聞の記事だから掘り下げた分析、ということはない。それでもこの本を2025年の記事から過去に向かって読み進めることには十分価値 -
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今年退官の藤原氏の講義録。論点を提示するスタイル(おそらく授業で討論?)。保護する責任と沈黙の陰謀は初耳、人道的介入は戦争回避と矛盾するがそこが課題。
アメリカと同盟を結ぶ各国の存在から勢力均衡ではなく公共的覇権国の意義を見出すが、筆者はその意義を疑問視。覇権国による恣意的判断には不満が募るが、強制力に疑問符がつく多国間協調よりは実効性があるのではないか。
民主主義による文民統制が平和を生むという仮説を三浦瑠璃の議論から反論する。民主主義は国際関係よりも国内社会を優先するため両者の調整には外交官が不可欠だと思う。
権力移行論については両者が合理的行動を取れば覇権戦争は起きない立場をとって -
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戦争があったのは事実で、
その戦争で亡くなった人がいるのも事実。
人権侵害が行われたこともあったし、
大量破壊兵器が作られ、使われたこともあった。
それはいいとして。
この事実をどう記憶するのか、ということについては、
時代・地域によって様々だということを、この本は教えてくれる。
戦争観ほど、相対化されてしかるべきものはないと思う。
同じ事実を受け止めて、違う捉え方をしていい。
どのように受け止めたところで、
所詮は戦争という真理の一側面を、さらに断片的に知ったにすぎないからだ。
しかし、政治的な動きはそれを許さない。
特定の戦争観を礎にして共同体を作ることだってあるだろう。
特定の戦争観 -
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戦争がどんな場合に起こってしまうのか、それがタイトルと私なりに判断したが、著者は結びで戦争を避けるための条件、それでも戦争に訴えなければいけないときに満たす条件という2つの意味が込めているらしい。とにかく戦争を避けることは絶対条件であるという認識で、いろんなケース事例ごとに、A国、B国、C国と言う呼称を使って読者に考えさせるという本が明らかに米、ロシア、中国、北南朝鮮、イスラエル、イラン、旧ユーゴスラビア各国、その他の国々を想起させる。世界中から専制主義国が消えて民主主義国になれば戦争は無くなるという理想が本当にそうなのか?民衆が戦争を望んでいる場面がある!(かつての日本そして…)という残念な
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国際政治学における「正戦論」「現実主義」の違いと歴史的な変遷を説明するもの。
「絶対平和主義」と「相対主義」の違いと言い換えてもよいのだと思う。
正義のために悪を制御するために行われる戦争という、目的のためには手段を選ばぬやり方は、言ってみれば十字軍であって、そこで掲げられる「正義」が相対的なものであるという話。
これを総論として、各論としてポスト冷戦のあり方、日本の戦後の平和主義、東アジアの状況にまで論が及ぶ。
日本についていえば、「戦争における加害者であったこと」をコントロールするために憲法9条が作られたということが話題にされる。
一定以上の年齢の人には自明だし苦い記憶だからあまり語られ -
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藤原 帰一さんは、日本の政治学者で、専門は国際政治学・比較政治学。朝日新聞夕刊に月一で「時事小言」が連載されており、以前から鋭い視点で国際情勢を捉えている方だなと思っていたが、その藤原さんの書籍で、しかもタイトルが『「正しい戦争」は本当にあるのか』と、今般ロシアがウクライナに侵攻・侵略している時勢にマッチしていることから、興味が湧き手にした。
どの戦争が誤りで、どの戦争が必要なのか?正しい戦争は本当にあるのか?は、非常に難しい問いだ。明確な回答は示されてはいないが、我々がどう考えるべきかを、歴史の中における成功や失敗の事例を挙げながら、より平和な国であるべき方向に導いてくれる書だと感じた。
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「A国に軍事侵攻されたB国が、第三国Cに派兵を求めてきた。C国はどのような行動をとるだろうか」という様に、固有名詞を避けた問いかけを軸にして国際政治について考えてゆく一冊。
様々な考え方を披露するものの、結論があるわけではなく、「まさに現代国際政治のジレンマそのもののなかに読者を放置したまま、この章を終えることとしたい」などと突き放してしまう。読んでいる途中は、正直言って疑問を感じていたが、「結び」を読んだ瞬間、著者のこの突き放しの意図がわかってスッと落ち、星の数もひとつ増えた。曰く「教育問題と並んで、国際問題は素人の発言が専門家と横並びにされる領域である。…(中略)…国際問題について行われる -
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著者は国際政治学を専門とする東大教授である。本書は、A国やB国などさまざまな仮定の状況を設定し、どのような対応が起こるかを考察するという形式を繰り返して、国際政治の初歩を考える、という書である。本書を自ら読もうとする人ならば、専門家でなくてもすんなり理解できるような内容であり、そんなに難解な内容ではない。
最近のマスコミや識者の論調には、自論に合った現実を提示し自説の正しさを強調するものが多く見られるが、その一方、反対者も同様なので議論は深まることなく互いに罵るだけ、という見苦しい状況にあるように感じているが、そのような不毛で本質に遠い論議にさらされている人やうんざりしている人にこそ、国際