小林慶一郎のレビュー一覧
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民間シンクタンクの活動を基点とした経済学者のワーキンググループによる、日銀金融緩和の出口検証と財政デザイン論考。個人的には、これまで接してきた金融政策に関する知識から大きく逸脱せず驚きは少なかったものの、知識の再整理には大いに役立った。
威勢は良いが論理的冷静さを欠くリフレ支持派には、是非とも「統合政府」のB/Sの意味を論じた第3章と、財政破綻で最も大きな影響を受ける医療福祉領域の未来を予測する第4章を一読してもらいたいところ。しかしおそらく彼らの多くは、「現状何事も起きていない」という刹那的な事実を持ち出して問題の先送りを正当化するばかりか、あまつさえ巻頭に福井俊彦全日銀総裁の名が現れることのみを以てして、本書の主張を(内容を吟味することもなく)日銀バンカーや官僚の保身が目的だとして拒絶するだろう。
以前、「政府紙幣」の発行で国家の過剰債務は即解決する、と主張する友人と一頻り論争を交わしたことがある。その時「そんな簡単なフリーランチが存在するのなら、なぜギリシャもアルゼンチンも、そして日本もその政府通貨とやらを発行していないのか」と尋ねたところ、その友人はこともなげに「それは官僚らの陰謀のためだ」と答えたのだった。
無論、彼の無知を嗤うのは容易い。しかしことほど左様に問題の根は深いのだと認識せねばならない。本書のように「フリーランチなんてものはないんだよ」と、噛んで含めるようにわかりやすく諭してくれる書に対しても、自分から縁遠いアカデミズムの匂いがするというだけで、端から拒絶反応を示す層が、確実に日本にも存在するのだ。
知識層が研究と議論を深めれば深めるほど、その成果は彼らの耳には届かないというジレンマ。今後日本経済が苦境に陥るにつれ、不遇を託つ彼らの声は知性の囁きを掻き消して益々大きくなるだろう。それを思うと、いかに本書でフューチャー・デザインが熱っぽく語られようと、シニカルな思いを抱かずにはいられない。 -
Posted by ブクログ
日本のコロナ対応について、経済学者の視点から問題点とその解決策を述べたもの。前半の医療体制に関する考察は素晴らしく、とても参考となった。ただし、財政についてや税制については、コロナとはかけ離れた内容も多く、参考にならなかった。また、後半の解決策もそれぞれの章をまとめた内容でくどく感じた。
「医療エリートによる判断は、医療システムを平時と同じ状態に保つことと医療機関の経営が成り立つことを優先し、そのために国民の様々な経済社会的な活動は大幅に制限する、という判断に傾きがちなのだ。コロナ危機は社会全体に大きなコストをもたらしたが、非医療の活動が受けた制限とコストがあまりのも大きかったことに比べて、医療提供体制の改革の度合いや医療提供者が分担するコストはあまりにも小さかった」p46
「(スイッチOTCが進まない)「医薬品の安全性は医療の専門家が判断しなければならない」という意識が専門家には強すぎて、消費者の自己判断への信頼がまったく欠けている。医療専門家は「自分自身の健康について判断する一般国民の知的能力」をまったく信用していない、ということである。エリートが一般市民を自分と対等な思考力を持たない愚民とみなすような歪んだ状況である。専門家にこういう認識が広がっていること自体が、成熟した民主主義社会としてきわめて不健全ではないだろうか」p47
「水際対策をめぐる議論でも同様に、国民全体が被る膨大なコストに想像力が及ばず、きわめて内輪の業界コストばかり重視する議論が厚生労働省の医系技官の官僚集団などから繰り返された。水際対策を強化しない隠れた大きな理由は、ひとことで言えば、「水際対策を行う検疫所の職員の仕事が増えすぎて大変だ」ということだ。2020年のコロナ禍が勃発した時点で、国境を閉鎖し、政府のあらゆる政策資源を水際対策に投入しておけば、日本の感染はオーストラリアなどと同じようにかなり抑え込めたはずである」p50
「現実の政策当局者は、検疫所の「仲間」の業務が増えすぎて耐えられないから、という理由で、国民が巨大なコストを支払うことになると分かっていながら不作為を選んだのだ」p51
「日本の医療エリートがコロナ危機という非常時に見せたのは、医療側の変革はできる限り後回しにして、一般企業の営業の停止や個人の外出の自粛など、国民の基本的人権を極端に制限することには何のためらいも見せない、というお家大事のご都合主義的な姿であった」p52
「(ダイヤモンドプリンセス)自衛隊が管理した区域では管理者側に感染者は出なかったが、それ以外の区域では、管理者側に船内感染者が続出した。危機管理の徹底している自衛隊と、一般の行政職員との間で、感染者側の徹底度合いが違うことが如実に表れている」p54
「誰が感染者かわからないという「情報の不完全性」は、経済活動を大きく悪化させる。PCR検査などの感染症検査は、この情報の不完全性を是正する機能を持つ。本来は診断と治療という医療行為のための感染症検査が、社会の「情報の不完全性」を是正するという経済政策としての機能を有してしまった」p56
「公衆衛生の専門家にとっては「感染症を見つけること」が検査の目的なので、一般市民に無作為に検査をして陰性の結果が大量に出れば、それは「無駄な検査をした」ということになる。一般市民への無駄な検査をなるべく減らして、感染していそうな対象者を選んで検査をすべきだ、という考えになる。一方、経済学的な視点からは「情報の不完全性」を是正することが善なので、一般市民に検査をして、陰性の結果が出れば、その結果は「感染していない確率が低い」という有益な情報をもたらし、経済を活性化させるので、「無駄な検査ではない」ということになる」p57
「(ワクチンがどこにいくらあるのか把握できなかった)医療機関・接種会場におけるワクチンの過在庫状況を迅速に把握するシステムを欠いた結果といえる」p65
「(閉鎖的・独善的になりやすい医療政策の決定プロセス)この背景には政策決定を担う、あるいは影響力を及ぼす厚労省の各委員会・審議会のメンバーの多数を医療関係者が占めていることがある。そこには同じ分野の専門家がサークルを作って物事を決めて、経済学を含めて他の意見が入り込む余地のない「ムラ社会」がある。癒着や既得権益を擁護する温床になるだけではなく、政策決定が閉鎖的・独善的になりやすい。利用者の利便性や医療費の適正化といった目線を欠く。そもそも、先述のセルフメディケーションを含めて医療政策で「最も重視」されてきた安全性と有効性は医師によって担保されるべきという「家父長主義」的風潮、つまり医師の判断が絶対的で患者・国民の選択を尊重しない姿勢があることが否めない。その姿勢は平時の医療に限らず、コロナワクチンの接種が医師(および医師の指導の下での看護師など)に限られるなど非常時においても変わらなかった(結果、ワクチン接種の担い手の確保を困難にした)。総じて厚労省の意思決定は、医系技官という医師免許・歯科医師免許を持った官僚と医師の団体である日本医師会を軸に回ってきた。これは医療政策のガバナンス問題といっても過言ではない。しかし、医療は医療従事者に限らず、健康やコストなど患者、自治体、保険者、企業を含めて多くのステークホルダーの利益に関わる。感染症対策を含む「医療のように重大なことを、医師にすべて任せるわけにはいかない」。エビデンスに基づきつつ、安全性や有効性にとどまらず、利便性や経済性など多様な視点による政策決定が求められているのではないか」p68
「(コロナ禍の医療従事者の多忙感)新型コロナに対応する一部の医療従事者に負担が集中する一方、医療従事者全体としては、必ずしも労働時間が増大していない実情が窺われる(財政制度等審議会建議)」p76
「(過大な病床数)わが国の病床は人口1000人当たり13.0床でアメリカ(2.9床)やドイツ(8.0床)を上回るなど諸外国に比べても多いにもかかわらず、コロナ病床数確保は遅々として進まなかった。感染者数が欧米より少ないにもかかわらず医療が逼迫する要因になっている」p98
「(過度な個人情報管理)個人情報は漏洩がないようにと、きわめて神経質に扱われてきた。セキュリティを理由に個人情報の利活用が進まないケースも少なくない。情報漏洩が起きるたびにメディアなどでも大々的に取り上げられることから現場が委縮している面も否めない」p106
「全国的にわが国は病床が過剰気味である。多すぎる病床は入院の頻度や期間を増やし医療費を高めてきた」p118
「わが国では病床数と入院医療費との間には高いプラスの相関があることが知られている。つまり、医療機関は病床を埋めるように入院の頻度や日数を増やす誘因を持つ」p122
「わが国の環境税は国際的に見ていまだに低い水準にとどまる。(CO2 1トンの排出に対して日本は2万4241円(2017年3月)、イギリス4万2193円、ドイツ3万7128円)」p162
「わが国の行政は「申請主義」を旨としてきた。国民一律10万円を支給した特別定額給付金でさえ、世帯ごとに申請しなければならなかった。持続化給付金を含む中小企業への支援も同様である。しかし、この申請主義の弊害が近年目立っている」p208 -
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コロナ禍における各国政府の財政出動はまさしく異次元のレベルだが日本もスゴイ。よって、財政破綻後の事を真剣に想定しておきたいなと思って、以前に献本頂いていた本作を緊急事態宣言下において読んでみた。内容は財政破綻の定義とそのメカニズムに始まり、それが起きた後の緊急対応(財政トリアージ、日銀施策)と恒久対応(医療・介護制度の再編と財政規律の再設定、予算庁の設置等)の具体的策にかなりの字数を割いて提示している。そして最後はナイトの不確実性や時間整合性問題などに触れたうえで、人類の長寿命化における財政の世代間格差問題を新しい社会契約論で刷新していくことを提唱して終わっている。
これを読んでの感想は2点。1つは財政破綻から破綻後の再生局面においては個々人の「健康」がとても重要になること(多くの医療機関等が破綻し、医療・健康サービスを受けれなくなる。)これは今のコロナ禍においても言えることなので、コロナ禍から財政破綻が連続する現象になるならば健康を維持し続けることが極めて重要な要素になりそう。
もう1つは財政の世代間格差問題は、結局は「同世代互助」に仕切り直さない限り、人生百年時代においては書中にあるような新しい社会契約は理想的過ぎて難しいのではないかということ。これは政治家にはぜひ検討いただきたい。
とにかく、「健康」の価値に改めて気づけたのはよかった。財政破綻までもう少し時間はあるだろうから、運動したり、食べるものに気を使って、備えるぞ。 -
Posted by ブクログ
人口減少が進み大幅な経済成長が期待できない中、膨大な政府債務が累積しており、今すぐにではないにしても、日本の財政が持続可能でなくなる、すなわち、いつか破綻する可能性は低くないと考えられる。本書は、財政破綻が起こるとき、日本社会に何が起きるか、また、財政破綻の「後」の社会を立て直すためにどうすべきかを論じている。
本書における「財政破綻」の定義は、国内外の市場の投資家が日本国債を買わなくなるという事態が発生することを前提に、インフレ率又は名目金利が高騰する状態であるとする。
財政破綻後の対応としては、➀歳出の執行停止・先送りなど直後の対応、②歳出削減を含む「止血措置」、③財政赤字を作らない体質(構造)への展開に向けた「構造改革」があるとした上で、特に最初の2つの段階においては、歳出面において何を残し、何をカットするかをあらかじめ決めておく「トリアージ」が必須となると指摘している。また、長期の財政再構築として、ミクロ的な措置=歳出・税制の効率化が重要であり、赤字が膨らんだときの対処をあらかじめ「財政ルール」として定めることを提言している。一方、財政再建を進める中でも、社会の分断等を防ぐために、弱者を救済するセーフティーネットの整備も必要だと指摘している。最後に、財政破綻を防ぐための経済・政治思想的な議論も行っている。
財政破綻の可能性を提起する論者を「狼少年」に喩え、本書のような議論を馬鹿にしたり、忌避したりする向きも少なからずあるが、東日本大震災における原発事故の教訓があるように、将来起きる可能性が少しでもあるのであれば、「最悪の事態」を想定して政策議論をしておくことは、たいへん意義のあることだと考える。
また、現状の「国債のパラドックス」とも呼ばれる国債残高が累増しているにもかかわらず国債金利が低水準で推移している状況は「危うい均衡」であり、国債への信認を変化させるような何かをきっかけ(国債を国内の金融資産で支えられなくなったとき等)に財政危機につながりうるという本書の見立ては、納得のいくものであり、その点でも「財政破綻への備え」は必要だと感じる。
本書で示される財政破綻後の措置や財政破綻を防ぐための処方箋は、いずれも厳しいものではあるが、目を背けてはならないと思う。 -
Posted by ブクログ
経済学を専門としない幅広い層向けに、経済学の基本的なものの見方を知り、経済学を使って現代日本のさまざまな問題を考える一歩としてほしいという趣旨の経済学の解説書。「経済学のメガネ」として、「虫の目」(ミクロの視点)、「鳥の目」(マクロの視点)、「魚の目」(時代の趨勢を捉える視点)の3つの視点に内容を分けて書かれている。
多少は経済学の素養があったので、「世の中の見え方がガラッと変わる」とまではいかなかったが、ミクロ・マクロ経済学の基本的な考え方と、それを使って現実の問題をどう考えるかについて、要となるポイントを押さえた解説がなされており、非常に優れた経済学の入門書だと感じた。
特に、 「第6章 国の借金と財政再建」は、厳しい内容ではあるが、現在の日本の財政問題の本質を捉えたものであると感じた。いずれ痛みを伴う財政再建か、大幅なインフレによる国民生活の混乱か、どちらかを選ばざるを得ない局面が訪れるのだと思う。できる限り早めの対処が求められる。