民間シンクタンクの活動を基点とした経済学者のワーキンググループによる、日銀金融緩和の出口検証と財政デザイン論考。個人的には、これまで接してきた金融政策に関する知識から大きく逸脱せず驚きは少なかったものの、知識の再整理には大いに役立った。
威勢は良いが論理的冷静さを欠くリフレ支持派には、是非とも「統
...続きを読む合政府」のB/Sの意味を論じた第3章と、財政破綻で最も大きな影響を受ける医療福祉領域の未来を予測する第4章を一読してもらいたいところ。しかしおそらく彼らの多くは、「現状何事も起きていない」という刹那的な事実を持ち出して問題の先送りを正当化するばかりか、あまつさえ巻頭に福井俊彦全日銀総裁の名が現れることのみを以てして、本書の主張を(内容を吟味することもなく)日銀バンカーや官僚の保身が目的だとして拒絶するだろう。
以前、「政府紙幣」の発行で国家の過剰債務は即解決する、と主張する友人と一頻り論争を交わしたことがある。その時「そんな簡単なフリーランチが存在するのなら、なぜギリシャもアルゼンチンも、そして日本もその政府通貨とやらを発行していないのか」と尋ねたところ、その友人はこともなげに「それは官僚らの陰謀のためだ」と答えたのだった。
無論、彼の無知を嗤うのは容易い。しかしことほど左様に問題の根は深いのだと認識せねばならない。本書のように「フリーランチなんてものはないんだよ」と、噛んで含めるようにわかりやすく諭してくれる書に対しても、自分から縁遠いアカデミズムの匂いがするというだけで、端から拒絶反応を示す層が、確実に日本にも存在するのだ。
知識層が研究と議論を深めれば深めるほど、その成果は彼らの耳には届かないというジレンマ。今後日本経済が苦境に陥るにつれ、不遇を託つ彼らの声は知性の囁きを掻き消して益々大きくなるだろう。それを思うと、いかに本書でフューチャー・デザインが熱っぽく語られようと、シニカルな思いを抱かずにはいられない。