イアン・トールのレビュー一覧
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イアン・トール著『太平洋の試練』は、太平洋戦争を主としてアメリカ側の視点から描いた大著である。三部作の第三部にあたる『レイテから終戦まで』は上下二分冊で、本書はその上巻。サイパン、グアムなどマリアナ諸島をアメリカに奪われ、日本の敗色が決定的となった時期から、終戦までの戦いを描いている。
上皇ご夫妻も慰霊の旅に訪れたパラオ・ペリリュー島での、日本軍による玉砕覚悟の激闘。日本本土攻撃への足がかりとして台湾攻略を目指すか、それともマッカーサーの悲願であるフィリピン奪還を優先するかをめぐる、アメリカ軍内部の激しい攻防。そして、日本の連合艦隊が最後に組織的な戦闘を行ったレイテ沖海戦と、神風特別攻撃隊による特攻作戦の始まり。
詳細な資料をもとに描かれるイアン・トールの戦場描写は圧巻である。
さらに本書の魅力は、人物描写の巧みさにもある。フランクリン・ルーズベルト大統領とマッカーサーの確執。アメリカ太平洋艦隊の指揮をめぐるスプルーアンスとハルゼーの激しいライバル関係。当時、同じ太平洋艦隊をスプルーアンスが率いると第五艦隊、ハルゼーが率いると第三艦隊と呼び分け、二人が交代で指揮を執る体制がとられていた。性格が正反対のこの二人の提督の対比が実に面白い。
そして、ハワイのオアフ島から全体を統括したアメリカ太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツ。その冷静沈着な人間像も印象に残る。
特に興味深いのは、ルーズベルト大統領の「タヌキ親父」的なしたたかな政治的行動、マッカーサーの目立ちたがり屋な性格、そして従軍記者を巧みに利用してアメリカ国内での人気を高めようとする数々のスタンドプレーである。
一方、冷静沈着なスプルーアンス、面倒見がよく男気のある一方で、レイテでは大きな判断ミスを犯してしまうハルゼー。それぞれの人物が、イアン・トールの筆力によって実に生々しく描き出されている。
戦場で繰り広げられる激闘だけでなく、戦争を動かした人物たちの人間臭さまで楽しむことができ、長大な戦史でありながら、飽きることなく読み通すことのできる一冊である。 -
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ネタバレ太平洋戦争をアメリカの視点から描く、大部の作品の二章目に当たるのが本作だ。上巻ではガダルカナル陥落までが描かれ、この下巻ではその後の太平洋の戦闘と、その最終的な帰結としてサイパン(グアム含む)での米軍勝利までが描かれる。
少なくともミッドウェーまでは天秤がどちらに傾くかがわからなかった太平洋戦争も、この下巻までくると最早アメリカの勝利は約束されたものとなった感覚を覚えるようになる。もちろん個々の戦闘では日本軍の奮闘もあり米軍の損害も大きなものになるが、全体としては国全体の生産能力が巨大となり兵站が安定した米軍は太平洋でははっきりと優位を示すようになる。
一方で日本軍は物資の補給、失った艦船や飛行機の補充、そして熟練した軍人といったあらゆるリソースが足りなくなってきており、戦いは悲惨なものになっていく。米軍の中でも陸軍と海軍の調整があったり、あるいは会議の中でも航空畑と艦隊畑の勢力があったりと事件はそれなりにあるのだが、戦いそのものは「思い通りにはいかなくても、期待以下ではない」といった状況で進んでいく。
この第2巻の終わりでは、サイパンが米軍の手に落ちたことで本土への空襲が近づいてくる。それは太平洋という戦場での戦いだけではなく、戦争中に新たにB-29という長距離爆撃機が開発されたように、国全体の争いの中で日本がはっきりと敗北しつつあることが明白になってくるということでもある。
また第二部上巻までは著者の筆も、日本とアメリカを等距離に描いていようと感じられるところもあったが、この下巻になると、日本の状況が理解を超えてきつつあるという雰囲気になってくる。それは未来からの視点だけではなく、たとえ当時の視点を採用したとしても、日本がはっきりと狂気へと落ち込んでいくのが見えるからだろう。
そして本書ではその責任の一端がどこにあったかも明確に記載されている。 -
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太平洋戦争をアメリカの視点から描く、大部の作品の二章目いに当たるのが本作だ。第一章の最後でミッドウェー海戦により日本の劣勢は明確になった後、ガタルカナルからサイパンの陥落(日本側から見て)までが、この第二章で取り上げられる。
この上巻では、ガダルカナルの陥落直前までが描かれ、日本軍が南太平洋ではっきりと劣勢になるところで下巻へと繋がっていく。
すでに当時の出来事を歴史的な出来事として見ている自分のような人間からすると驚きだったのだが、この南太平洋の戦いというのも、決して当初はアメリカ軍にとって優勢ではなく、 彼らも様々な苦労をした結果として少しずつ少しずつと戦いを有利にしていったことがよくわかる。
また、陸軍と海軍の縄張り争いというのは日本側ではおなじみだったのだが、 アメリカ側でも似たような出来事が散々あったことも本書を読むとよくわかる。 まあ人間が作る組織なので、国が変わろうと揉めるところはあまり変わらないということだろう。
ただ、それでも少しずつ少しずつアメリカが優勢になっていくのは、 トップに近いところで思い切った人事があったり、あるいは生産力が圧倒的に違ったりということで、 そういったことをイアン・トールは重層的に描いていく。
そしてまた、この一巻では日本軍にとっては痛恨の出来事となった 山本勲の戦死も描かれている。無駄にヒロイックにしたかったわけではないだろうイアン・トールは、このところはさらりと書いているが、やはり総司令官が 死者中に戦死するというのはただ事ではない。
こういったことからも日本軍が劣勢にあることは明らかであり、 残りの3冊はよりアメリカ軍が優勢となって物事を進めつつも、 一方で裏側では色々な揉め事があったのだろうということを描いていくのだろうと思う。 -
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アメリカ側の視点で見た太平洋戦争。 全6巻シリーズの5、6冊目の完結編。上巻はガダルカナル後からレイテ沖海戦まで、フィリピン戦も含む。 下巻はレイテ海戦後から沖縄戦、本土攻略、終戦までを描く。 上巻の前半はアメリカの政治的な話が多かったが、後半は日本の戦史本では読んだ事が無い様々なエピソードや出来事が詳細に考察されていて、大変面白かった。 日本側の戦史本では、米軍が物量と作戦で日本を圧倒したような記述が多いけれど、実は米軍も指揮官の判断ミスや失敗、予想外のことが起きていて、相当苦労しながら戦っていたらしい。 日本の陸海軍の仲が悪かったのと同様に、米軍も陸海軍の仲は良くなかった。 上級の指揮官のうち、誰が主導権を握るかで政治的な駆け引きがあったりして、日本軍と同じような状況だった。 レイテ海戦の栗田中将の謎の反転は有名な話だが、著者の考察には納得する部分が多かった。 つまり栗田中将のトラウマが原因であり、本当は特攻作戦だったが、現場は全く承知していなかったことなど。また日本の戦史本にはあまり出てこないフィリピン戦の状況も詳しく書かれている。下巻では台風でアメリカ艦隊に被害が出ていた話、台湾侵攻を中止した話、九州侵攻のオリンピック作戦や関東侵攻のコロネット作戦なども紹介されていた。 下巻のハイライトは、戦艦大和の沖縄特攻、沖縄戦と日本本土空襲、原爆までの話。政治的、大局的な話から沖縄戦、広島長崎の市民の声まで緻密に取材されていて、大変読み応えがあった。 日本と米国のそれぞれの視点で書かれた歴史を知ると、よりこの戦争が立体的に見えてくる。 戦争は、勝者敗者に分かれるのではなく、どちらも敗者になるのかもと思った。現在進行中のウクライナ戦争も勝者はいないだろう。
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ガダルカナルと言えば日本軍が悲惨な敗北を喫したイメージしかなかったが、はじまった当初は米軍にとってもかなり際どい戦いであったと知った。日本側の戦力逐次投入が戦略ミスとして批判されたりするが、日本をそのように受け身の態勢に追い込んだ背後にも、現場の反対を押し切ってガダルカナル上陸のスケジュールを無理やり早めたキング提督の判断があったりするわけだ。上陸作戦は成功に終わるもののその後も空と海で一進一退の攻防が続き、一時は日本軍に島から追い出される心配までしていたとは意外なところ。また、日本軍の同島からの撤収は、完全に米軍を欺いた見事なものであったそうだ(撤収の実行以外はいいところがないのだが)。
下巻にはいって中部太平洋の戦いでは、すでに勝負あったの感あり。それでもまったく攻勢の手を緩めないアメリカ。 -
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ご存知の通り,太平洋戦争(日本人の立場からは大東亜戦争と言うべきかもしれませんが)初期の約半年間に限っては,日本は大きな勝利を重ねていました.前代未聞の「空母機動艦隊」というアイデアは,真珠湾の米国大戦艦群を火の海の叩き込み,栄光の大英帝国海軍を太平洋から駆逐.彼らはインド洋まで進出,敵国の根拠地を覆滅しながらの大航海をしました.しかしその機動艦隊の栄光も,ミッドウェイで深い深い海の底に葬り去られます…….本書はそんな「日本が勝っていた半年間,アメリカから見れば,「我々が負け犬だった」半年間の話です.
日本海軍のミッドウェイにおける失敗,またそれを敷衍して,日本海軍の米海軍における根本的な戦略の失敗に関する,日本人の手による書は多く読みましたが,米国の立場から,個別の人物の日常にまで迫って書かれた書は初めて読みました. -
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本作は所謂<太平洋戦争>、第二次大戦の日米両国海軍の戦いに光を当てた3部作の第1部である。米国のサンフランシスコ在住であるという史家による作品だ。
本作では、日本側の“中心的人物”として山本提督を、米国側の中心的人物としてニミッツ提督を選んでいるが…主に米国側に関しては、他にニミッツの上役だったキング提督や、その他の人物に関する描写も厚い。そして、当時の米国指導者のルーズベルト大統領や、英国のチャーチル首相に関する挿話も多く取り上げている…
本作は、公文書や先行研究、色々な人達の回顧録や証言、従軍記者が綴ったモノなど、相当に幅広い史料を意識しながら、「一連の流れ」として日米両海軍の戦いを雄弁に語る力作だ。「得るところ」が多い作品だ… -
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メモ
真珠湾攻撃時の各国体制
日本
東條英機首相
山本五十六連合艦隊司令長官
南雲中将 真珠湾攻撃指揮官
アメリカ
フランクリン・ローズヴェルト大統領
フランク・ノックス海軍長官
ハロルド・R・ベティ・スターク海軍大将
ヘンリー・スティムソン陸軍長官
コーデル・ハル国務長官
ジョージ・C・マーシャル陸軍参謀総長
ダグラス・マッカーサー極東軍司令官(フィリピン)
リチャード・サザーランド参謀長
キンメル太平洋艦隊司令長官(ハワイ)
→真珠湾攻撃後解任。
チェスター・ニミッツ提督着任
アーネスト・J・キング大西洋艦隊司令長官(ニューポート)
→真珠湾攻撃後、合衆国艦隊司令官
→翌年3月スターク大将を追いやり海軍作戦部長兼務
→アメリカ史上最大の権限を持つ提督へ
イギリス
ウィンストン・チャーチル首相
サー・エドワード・グレイ外相
トム・フィリップス提督
→Z部隊:戦艦プリンスオブウェールズ、巡洋戦艦レパルス -
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真珠湾攻撃前夜からミッドウェイ海戦までの「戦艦至上主義の思想背景」、「指導者層としての昭和天皇」、「血なまぐさい現場単位」など、日米両者の立場を偏りないバランスで、著述されている。
1つの海戦だけ描く戦記物と異なり、強国アメリカを窮地に追い込んでいたというノンフィクションの本作は、新鮮で素晴らしい。
欠点は、翻訳が非常に悪い。
印象あるのは、戦闘機の事実上の名称ではなく、日本メーカー名+型式というのは、本当に分かりづらい。
また、スラングのある会話も分かりづらい。理解不能であった。
名著と断定できるのは、原書が素晴らしいため、アメリカの危機(対策)管理から、逆転に転じる史実を述べ、説得材料が豊富である。
安っぽい「こうすれば日本は勝てた!」というエセシュミレーション小説への反論材料となろう。 -
Posted by ブクログ
今まで知らなかったアメリカ側についての知識が得られて、おもしろかった。マッカーサー、ハルゼーなどのことが詳しく知ることができた。
一方で、文書の組み立てが下手。語り口も冗長で読みずらい。
時折ムダな小話を入れてきて、今何について語られているのか混乱させられる箇所が多い。
大局的な構成なのに、枝葉末節なエピソードを大きく取り上げる癖もあって、バランスが悪い。
最後に翻訳の問題点。
いつも思うのだが、どうしてフィート・ポンドをそのまま使うのか。特にフィートをそのまま使われると全く距離感がつかめなくなる。
日本人名をちゃんと漢字に直しているんだから、フィートだってメートルに換算し直してくれてもいいはずだ。
それと、欧米人の著者らしく船の代名詞として「彼女」と使っているが、そこも翻訳するときは「それ」で良いと思う。
読者に対する思いやりのある翻訳を私はしてほしい。