菅野昭正のレビュー一覧
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まさに自由奔放
時間は真っ直ぐ進まなく、現実/虚構の区別も曖昧。
けれども、それぞれの「エピソード」が、複数の主題と結びついていき、壮大な人生の小説となる。
■「不滅」「顔」「イメージ」
2020年代現在、当時よりもより一層、(一般市民の)私たちにとって身近に潜むテーマなのではないか。
私たちは片手一つに収まる電脳世界の中で、ほぼ四六時中イメージの生成に勤しんでいるし、さらにそれを不滅の世界にいとも簡単に残せてしまう。
そして、あまりにも多い顔たち……。
■アニュスが意図もせず、死によって他者の中にあるイメージを強く刺戟したことを考えると、
きっと私たちは不滅にならざるを得ないのだと思う。 -
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ネタバレ最初のうちは面白く読んでいて、付箋なんかもつけたりしたのだけれど、半分も読み進まないうちに何を読まされているのかわからなくなる。
今は誰の話を、なんの話を、いつの話を読んでいるのか?
物語の大半は理解できないうちに零れ落ちてしまったけれど、なんとか少しでも掬い取れたらいいのだが。
ふと見かけた見知らぬ女性の、軽やかにひるがえる手の動きを見て心を惹かれた私は、その女性にアニェスと名付けて、彼女の家族とその関係性について思いを馳せる(妄想する)。
アニェスの母は、家族や友人たちに囲まれて生きることに喜びを感じる人だったが、アニェスの父や彼女は、人と離れて生きることに安心を覚えるタイプだった。
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ネタバレ作中で、作者はエピソード(エピゾード)のとるにたらなさを語っている。だけれど、本作で伝えられているのはそのエピソードの威力にほかならない。私たちの存在を支え、他者に印象を与え、思い出させるのはエピソードであって、私たち個人そのものではない。
キャラクターの魅力でいうと、ファザコン極めたアニェスの高潔さが好きだし、ヒステリックで自己愛が過ぎる(でも、自分に自信がない)ローラの身勝手さには苛々する。ポールの空しい若さ崇拝や半分意識的な無神経さにも。
でも、最後にアニェスの仕草でポールをつなぎ止めるローラや、その仕草を嬉しがるポールには、スカッとするような可哀相になるような、不思議な気持ちがした -
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人々がまるで戦場で死ぬように車で死んでいるけれど、しかし現代人の誇りである自動車を禁止するわけにもゆくまい。惨事のかなりのパーセンテージは、無謀な運転手の酩酊に責任を帰するべきだけど、しかしフランスの遠い昔からの栄光である葡萄酒を禁止するわけにはゆくまい。公共の場所での酩酊の一部はビールによるものだけれど、しかしビールも禁止するわけにはゆくまい、というのは市場の自由に関する国際条約の違反になるだろうから。
↑この皮肉めいた冷静な言い回しがとてもいい。
自我の単一性を開発するには二つの方法がある、足し算的方法と引き算的方法である。
嘘をつくな、真実を言え、はある人間が他の人間を対等とみな -
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東京の世田谷文学館で昨年の秋に開催された連続講座の記録。5人の論者が村上春樹について語っている。そのうち、藤井省三と加藤典洋の二人が村上春樹と中国の関係に言及している。村上春樹は9月26日、尖閣諸島をめぐる問題について朝日新聞にコメントを寄せたばかりということもあって、いろいろ考えさせられた。
藤井は、中国での村上春樹の受容のされ方について論じており、村上春樹は、中国絡みの作品に限って何度も書き換えを行っているという重要な指摘をしている。さらに、十数年前に台湾の新聞社のインタビューで「僕は神戸の人間で、中国人は僕にとってはたいへん自然なものでした。僕の父は戦争中に徴兵されて中国大陸に行きま -
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ネタバレ【概要・粗筋】
「私」がプールサイドで友人を待っているときに見かけた初老夫人の魅力的な仕草から生まれた主人公アニュス。彼女の愛と悲しみと戦いの人生を描く物語(粗筋を書けるほど理解できていない・・・)。
【感想】
非常に難解な小説。断片的に理解はできるものの、一読しただけでは大まかにも把握はできなかった。それでも、語りの巧妙さから600ページものの長さを感じないほどどんどん読み進めてしまうほど不思議な魅力を持っている。
この小説の主要人物はアニュスを中心とするその家族たちなのだが、そこにゲーテやヘミングウェイ、実在の人物なのか架空の人物なのかわからないアヴェナリウス教授、ルーベンス