佐木隆三のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
現代社会のゆがみが引き起こした犯罪。罪を問われる被告人は、裁判では孤立無援の存在となる。そこで温情あふれる若き判事補が婚約者の応援を得て事件を解明していく。叡智と温情で裁く連作裁判小説集。
1995年の刊行。親本は1992年の刊行。
現実の事件にヒントを得たまったくのフィクションであるというが、確かに何処かで聞いたようなネタである。著者は、連載途中から全国の裁判を傍聴して回るようになったという。現在、傍聴マニアの存在が知られ、各種傍聴記録が作品として出版されていることをみると隔世の感もある。小説の中で、法廷でのメモを禁止される件があるが、現在は当たり前になっている事柄は、実が当たり前では無く、先人達が勝ち取って来て、今があると教えてくれる。
剣と天秤を持った「正義の女神」の像は有名ですが、目隠しをしているものもあります。私は目隠しは予断や偏見を排除するためだと思っていましたが、著者は作品の中で、裁判長に「正義と称するものは、必ずしも裁判で実現しない。正義は一つと限らず、二つあるかも知れない。ある事実を明快に認定することで、逆の結論になることもある。だからボカす為に、目隠しが必要な場合もある」と言わせている。
根拠がある説なのか、まったくの創作なのかは解らないが、犯罪者を厚生させるという視点からみると頷ける面もあり、なかなか深く面白い見方である。 -
Posted by ブクログ
「文庫本あきとがき」で著者自身も書いているが、手法としてはカポーティ
の名作『冷血』と一緒か。
実際にあった事件のノンフィクション・ノベルだが、犯人の名前は勿論
変えている。
九州での強盗殺人事件を皮切りに、静岡県で旅館経営者の親子を殺害。
殺害後、旅館に質屋を読んで物品を処分する。
その後、弁護士を装い、千葉県、北海道、栃木県、東京で詐欺を働き、
東京では老齢の弁護士を殺害し、洋服ダンスに死体を隠したアパート
で数日過ごす。なんだ?この神経は。
そして、舞い戻った九州で再度弁護士を装い教誨師に接近するも、
11歳の娘に正体を見破られあっけなく逮捕される。
昭和38年から昭和39年の初めにかけての、78日間の逃亡はこれにて
幕を閉じる。
取り調べの模様から裁判、そして死刑執行までを描いているが、描写は
あくまでも淡々としている。殺人は確かに起きているのだが、その凄惨な
場面は一切なし。まるで新聞記事を読んでいるようだ。
日本縦断で犯行を繰り返した犯人の動機は分からないが、カトリック一家
に生まれ育った犯人が最後には死刑判決を受け入れ、信仰に帰依する。
緒方拳主演の映画では犯人像ばかりに焦点が当てられていたが、原作は
逮捕から刑の執行までの心理の推移が読みどころか。
尚、モデルとなった西口彰事件の犯人は「史上最高の黒い金メダル
チャンピオン」「悪魔の申し子」と呼ばれ、1966年に死刑確定、4年後に
刑場の露と消えた。
呼んでいる間、緒方拳の顔がちらついて仕方なかった。同名映画もそうだが、
「鬼畜」も観たくなったなぁ。