レーモン・クノーのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
バスに乗っている帽子をかぶった男が、別の乗客に文句を言う。席が空いたのを見て、慌てて座りに行く。二時間後、別の場所で同じ男を見かける。その時は、連れの男が、帽子の男のコートに対して、ボタンを追加した方がいいと語っていた。
この本に書かれているストーリーは、これだけ。
1ページに収まる出来事を、99通りの文体で書いていく、タイトル通りの「文体練習」の本。
クノーの好奇心の高さや挑戦的な姿勢はもちろんのこと、訳者の方の苦労と努力が、訳者あとがきから察せられる。
原書のフランス語と、日本語の特徴の違いを考慮した上で、日本語での文体練習に自然となっている。
元はフランス語での試みなのに、日本語の奥深 -
Posted by ブクログ
これは、ものすごく面白い本だった。ある一つの、何の変哲もない文章を、99通りの文体で表現するという、バカバカしいことに大真面目に取り込んだ作品。
単に文体を変えただけのものもあれば、物語の話者を変えたもの(話者が「帽子」になることもある)、演劇風にしてしまったもの、数学的に記述したもの、など実に様々な実験をおこなっている。
一つの出来事を表現するのに、こんなにも多様な方法があるという自由さに、まず感動させられる。そして、同じ出来事の表現でも、視点や手法が違えばまったく異なる印象を読者に与えるのだということにも、驚かされた。
単純な一つのメモを素材としてすら、ここまで豊富なバリエーションが生み