あらすじ
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ある日、バスの中で起こった他愛もない出来事が99通りもの変奏によって変幻自在に書き分けられてゆく。
20世紀フランス文学の急進的言語革命を率いたクノーによる究極の言語遊戯。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
・原書の発想も凄いが、
翻訳のセンスが凄すぎる。
翻訳でこんなに味が出るとは…
フランス語ができる人であれば、
合わせて原書も読んでみたら、
より楽しめそう。
・本文はもちろん面白いが、
訳者のあとがきを最初に読んだのはよかった。
訳者が苦心したこと、
翻訳しながら考えたこと
またそれぞれの章の注釈が書かれているので、
より味わって読むことができる。
・書かれている文章の内容は同じ。
でも、書き方が違うとこんなに印象が変わるのかと驚かされる。
21区別
バスのなかで(風呂の話ではない)、わたしは、ひも(女に貢がせる男のことではない)を巻いた帽子(某氏ではない)をかぶった男を見かけた。
(ぶった男を見限ったのではない。)…
和訳センスが面白すぎる!
35語頭音消失
衝撃的。
たしは とで っぱいの スに った。
スの かには びが るで リンの うに がい
かものが た。…
これでも、なんとなく読めてしまうから不思議。
46音の反復
7行ほどの文章の中に
ぶん
と言う言葉が33回も出てくる。
洒落
になっている。
70語頭音付加
まある日の、ど小五ごろ、べ混雑した、さバスの、お後部デッキで、な私は、とある、お若者を、も見かけた。…
72だくでん
ひらがなに、濁点を打ちまくった文章。
普通の日本語では、濁点が付かない所にも
(例えば、うに濁点など)ついてるところが面白い。
役者あとがき
翻訳を通じて感じた事は
自分の無力さであり
日本語の無力さではなかった。
フランス語以上に、
日本語を探検する良い機会となった。
日本語は相当奥の深い柔軟な言葉である。
本文の中では一切説明しないこと
もしもクノーが現代の日本人だったら、
どんな文体にしただろうかと想像しながら言葉を選ぶことを方針とした。
Posted by ブクログ
すごい。
言語にはこんな可能性とバリエーションとがあるのかと、感激した。
こんなふうに、言語自体にスポットを当てて考える機会が初めてでとても面白かった。
真剣に大人が言葉で遊んでいるのをみさせてもらった感覚。
Posted by ブクログ
20世紀フランスの作家レーモン・クノー(1903-1976)による実験的な作品、旧版1947年、新版1973年。ある単純な出来事を99の文体で書き表したもの。
一時期はシュルレアリスムや実存主義のグループと近かったこともあった。その後もミッシェル・レリスやジョルジュ・バタイユらとは交友が続いたという。1960年に発足した文学グループ「ウリポ」にて、言語遊戯などを通した文学実験を展開した。
□
言葉が世界の像であり、世界が言葉の像であるならば、言葉遊びは世界をおもちゃにする遊び。言葉が世界と精神との境界接面であるならば、言葉遊びは精神をおもちゃにする遊び。世界も精神もいっぺんに笑って面白がってしまえる遊び。
もうひとつ、言葉のまえには読者がいる。読者も読書行為も、いっしょにパロディ化されて、そうしてみんな笑ってしまえる。そうした言葉の軽妙さ、つまり自由の軽妙さを味わえる。言葉をあいだにはさんで、世界も精神も、場所だとか属性だとかなくなって、描線もなくなって、中空に消失してしまいそう。ボルヘスみたいな高度の感覚。
読後、具体物のどんな影も残さないが、それでもこの本はなにがしかのものであって、それは言葉や読書がなにがしかのものであることと同じであると思う。そしてそれは、それ自体で、味わうに値するのだと思う。
「語られるべき内容がほとんどなくても、言葉は無限に増殖して一冊の本になることができるのだ」(p138,訳者)。
Posted by ブクログ
何の変哲もない日常の一コマを、99種類の文章で描き出すっていう実験的な(?)一冊。原著はフランス語。
なにこれ、面白ー。変なことを考える人がいたもんだ、と思って読みたい本リストに入れたまま、ずっと忘れていた。。。
やっぱり面白かった。一朝一夕で99種類かけるようにならないよね。すごい。
もう、翻訳する人の苦労が推して知るべしだよ…超楽しそうだけど、想像しただけで涙出ちゃう。
原文のフランス語のものは、フランス語学習にも用いられるくらい有名な作品なんだって。
10. 虹の七色: こういうのすてき。どうやら原文も絶妙らしい。
23. あらたまった手紙: 夢野久作の少女地獄を思い出した。
63. 古典的: 枕草子きた…!
82. 聞き違い: 絶妙すぎ。笑
88. 罵倒体: なぜかジョジョを読んでいる気になる。
フランス語さっぱり分からんのが残念だなぁ。英訳されて売ってるのなら、それはそれで読み比べてみたい。
この本が更によかった点は、99編が終わった後に訳者の解説があって、ひとつひとつの要点とかを説明してくれているのです!苦労した点とか、ぶっちゃけもう訳せないんで枕草子にしました、とかいう話があってすごい興味深かった。
この朝比奈さん訳版の他に、松島さん訳版というのもあるらしい。是非読み比べてみたい。
こういうの好きな人には絶対おすすめな1冊!
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前人未到のことば遊び。他愛もないひとつの出来事が、99通りもの変奏によって変幻自在に書き分けられてゆく。『地下鉄のザジ』の作者にして20世紀フランス文学の急進的な革命を率いたレーモン・クノーによる究極の言語遊戯がついに完全翻訳。
Posted by ブクログ
おもしろいです。
おんなじ文章が こんな風に変わってかけるんですね。
とても 参考になりました 自分でもやってみようと思います。
しかし…翻訳…大変だったでしょうね。
Posted by ブクログ
凄い、凄すぎるぞこの本は。何でもない日常の一コマを、99の異なる文体で表現するというとんでもないコンセプト。読めば読む程、当たり前の風景にこれ程の多様な視点が存在するのだと驚愕し、表現によってこんなにも言葉は自由に遊び回れるのだと感嘆させられてしまう。翻訳も直訳的表現を抑え、意味よりも技巧を意向した訳によって逆説的に日本語の芳醇さを示し出し、丁寧な装丁は本作の意匠にぴったりの衣装となる。ここでは言葉が踊り、言葉が楽しんでいるのだ。最高のスキルとセンスとユーモア。いやぁ、豊かさってのはこういう事でしょう。
Posted by ブクログ
まずは作者のこの試みと、訳者の仕事を心から讃えたい。
解説を読むと訳者の苦労や工夫が良く分かる。素晴らしい。
内容は非常に面白く、いろいろ参考になるスタイルあり。
個人的に好きなスタイルは…
『遡行』
『合成語』
『区別』
『聞き違い』
結構最初の方のに偏ってるな…。
それはさて置き、好きなスタイルのなかでも『合成語』は最高だった。
マイベスト。
“ぐい押しわざ突き”
“サン=ラザって”
訳者もニヤニヤしながら訳したに違いない。
惜しむらくは“伝達”という面で通じないスタイルがあることかな。
全スタイル普通に使っても通じる内容だったら文句なかった。
なのでその分★ひとつマイナス…と思ったけど、
コトバアソビの名に懸けて、やっぱりひとつプラスで★5つ(笑)。
Posted by ブクログ
「文体練習」という名の通り、あるなんの変哲もない例文をただひたすら「キザっぽく」「無機質な感じで」「箇条書きで」「教科書のように」「ギャル語で」「比喩表現を使いまくって」「通行人Aを主人公にして」「全て倒置法で」など、思いつく限りの様々な文体でこねくり回した本。文体とはなんなのか、比較できるのが面白く、自分の文体を見直す手がかりにもなる。ベースとなる例文自体は本当にシンプルで短いので、次から次へと想像を超える文体たちに驚いているうちにサクッと終わってしまう。暇つぶしにもぜひ。
Posted by ブクログ
同じ状況を極力同じ文章で、文体を変えて書くというもの。日本風にアレンジして訳されているところもあり素敵です。
そういえばずいぶん前のダ・ヴィンチで嵐の松本潤がこの本を持ってきていましたが、時のトップアイドルがこれを持っていたと思うと…おしゃれだな〜
Posted by ブクログ
面白かった。
ドラマチックでも何でもない1つの出来事を
99通りの書き方で表した本。
言葉遊びや実験的なものも含まれていて
中には解説を読まないと何がなんだか分からなかったり
読んでもよく分からないものもあるんだけれど(笑)
でも面白い。
文章って色んな書き方があるんだなぁと、改めて感じられる本でした。
内容も大事だけど、書き方って大事だなぁ。
個人的には「語尾の類似」「アレクサンドラン」「古典的」「英語かぶれ」「イギリス人のために」辺りが好きだった。
「英語かぶれ」は、完全なるルー大柴的文章なんだけれど(笑)
解説を読むと日本語って面白い!と思う。
「イギリス人のために」は音読したくなるし、
最後の最後の「意想外」の最後の一文も意想外で良いな…
全編通して、フランス語から日本語に訳した翻訳者さんの苦労が偲ばれました。
よくぞこれを!グッジョブ!!
Posted by ブクログ
読み始めたら、コレは、なんと言う本だ。
というより、本じゃない。
フランス語が原文なのに 日本語におしゃれに訳されている。
良くぞここまで訳したよ。
日本語の選び方がうまくて、おしゃれだ。
物語は
『ある日、バスのなかでソフト帽をかぶった26歳くらいの男が隣の乗客が押してくるので腹をたてるものの、その口調はたいした剣幕ではなくて、別の席があくとそそくさと座る。その2時間後、サン・ラザール駅前のローマ広場でその男をまた見かけた。連れの男がいて「君のコートにはもうひとつボタンがいるね」と言っているのが聞こえた。』
というだけなのであるが、
それが、様々な編集方法で繰り返される。
物語を 昆虫の目のように
たくさんの眼で みている。
小さな出来事が まるで宇宙のように膨張していく。
たえまない ひるまない しつこいほどに
くりかえしているが 繰り返していない。
遊んでいるけど 真顔でぶつかっている。
血のにじむような努力をして
いや 知のにじむような努力をして
書き連ねている。
ひとつの物語が 99の物語に 再現される。
あーぁ。
私は いままで 一つの物語しかかけなかったのだろう。
ひとつの物語が 99の物語に なる無限の可能性。
身体が ゾクゾクした。
読み終わったとき なかなかでなかった
大きなウンチが ドンとでたような快感さえ覚えた。
Posted by ブクログ
以前、某有名編集トレーニングを受けた際に勧められたが、まったく記憶から抜け落ちていた。たまたま好きなサイトで勧められたのを見て購入。
正直ちゃんとは読んでいない。
読むと言うよりも眺める感じ。さらに言うとぱらぱらするだけで、色や構成を楽しむだけのこともある。でも、とにかく面白くて刺激はされる。
よくマーケティングのアイディア出しで、ひとつのアイディアを逆に見たり展開したり、縮小したり対象を変えたり、というトレーニングに基づいた方法論を試す事があるが、これはまさにそのお手本。要するにマーケであろうが文学であろうが、なにか与えられた条件をさまざまに分析して展開すると、全く別のものが生まれるという、材料の調理のしかたなのだなぁなんて思ってみていた。
例えば料理もそうだろうし、美術や音楽にもこの展開、使えるんだろうなぁ。
レイモンドクノーに捧げる芸術、なんてタイトルで、それぞれをピックして素材は一緒で解釈だけの違う展示会なんてあったら楽しいだろうな〜。あたしもそれなら、見てみたいなぁ。
Posted by ブクログ
ただの言葉遊びの本ではない。
同じ出来事を複数の人が見たときの、羅生門的な食い違いを練習の形で再現している。この本を読んで、人生を多角的に見ることができるようになったと共に、発言の際に単なる言葉遣いだけでなく何に言及し何に言及しないかに気を配るようになった。
Posted by ブクログ
面白かった!
読書を楽しむというよりは、音楽を楽しんでいるような感覚に似てるかも。まるで、変奏曲を聴いているような感じだなーと思ったら、この作者はバッハのフーガの技法を聴いて着想を得たらしく、なるほど…
しかし、この本のアイデアもさることながら訳者の創意工夫がえげつない。すごい。日本語の奥深さがとめどない…
Posted by ブクログ
バスの中でいざこざを起こした男を、その後、別の場所で見かけた……という、単純な流れなのだが。99の文体で書くことによって、99通りの違った話になったように感じるという、面白い試みだった。普段親しんでいる文体だとわかりやすいが、読んだこともない文体だと、わかりにくいし、怖さもあるような気がして。面白かった!Xで見かけて読んだのだけど、本当に、Xの人たちは、どこでこんな面白い本を見つけてくるんだろうなぁ。
Posted by ブクログ
原書のこだわりの凄さに加えて、翻訳の大変さにも驚嘆する。特に言葉遊びの文体は、訳者あとがきと解説を読みながら読んだほうが面白いし良い。
「2.複式記述」でいきなりのくどさに笑った。
「78.らぞなぞね」とか、解説を読まないと仕組みが分からなかった。
Posted by ブクログ
1つのちょっとした話が、99通りの文体で繰り返し語られる。同じ物語でもこんなに多様な表現の仕方があるのかと感動するような章もあれば、アナグラムなど「文体」とは言えない(しかも出来上がった文は意味不明)ものもある。暗号のような文も、試みとしては面白いと思う。
訳者のあとがきもかなりしっかりした分量があり、翻訳の裏話が読めるのも嬉しい。
Posted by ブクログ
ひとつの話を色々な文体、角度から書く正に「文体練習」
文体のテーマに沿って面白い(なるほど的な)文章。私の今得たいと思っている多角的視点なのかなと思うし、人それぞれ異なると言うことになる。こんなにも人は違うのだなと思う。
本が好きな人と言うより、文が好きな人が面白いと感じる一冊。と、私も文章と言うものに魅力を感じているのだなぁと再認識する。
まあよくコロコロとこんなに文体を変えた表現が出来るものだ。
Posted by ブクログ
一つの出来事を99通りの書き方によって表現してみました、という内容。よくやるよ、まったく……。翻訳した方もお疲れ様です。日本文の可能性を感じたい方はぜひどうぞ。楽しみ方は人それぞれ、解釈の仕方も人それぞれ。本棚に置いてあると、ふとした時に手に取りたくなる一冊です。そんな引力がこの本には働いていると、勝手ながら私はそう思いました。(この本自体もオシャレな作りなんですよ、本当に)
Posted by ブクログ
まず発想がすごい。この作者さんは「バスで隣の乗客に文句を言っていた青年を、2時間後に再び見た」という何気ないストーリーを、98ものパターンで書き分けています。文字の並べ替え、口調、立場の違い、図版…。
訳者さんが日本語でも楽しめるような工夫をして、原文の解説をしてくださってるのもありがたかったです。デザインも素敵でした。
Posted by ブクログ
『藪の中』ではないが、こうやって多角的な視点をもって一つの現象を描写していくということには、なんだかものすごい可能性が詰まっているような気がしてとても好きだ。それぞれの間の隙間というか、齟齬がとてもリズミカル。そしてオチも結構良い。
Posted by ブクログ
途中で飽きが来たので、少し間があいたが、再読してみると、止まらなくて、一気に読んでしまった。翻訳された朝比奈弘治さんが、「翻訳作業はほとんどゲームの様相をおびてくる。」で、とあとがきに書かれているか、読むのもゲームだった。本文の終了後に解説があるので、クイズの答を見る様な感覚で照らし合わせながら読むと楽しいかもしれない。
Posted by ブクログ
何かで見かけておもしろそうやん!
って注文したら
3000円超で悶絶した本
1つの出来事を99通りで表現してて
99人の視点みたいでおもしろかったし
よくこれだけ思いつくもんだと
ちょっと震えた
ついでによく翻訳できたなぁとも思う
その言語でしかできない言葉遊びとか
そういう「ならでは」が翻訳だと
表現できなさそうなのに
すごいな…って単純に感じた
読み返すことが
またいつかあるかもだし
この本が本棚にあるの
ちょっとシャレとるやん
ってこっそり思っている
星は3つ
Posted by ブクログ
なんてことない出来事なのに、文体を変えるとまったく印象が変わる。
でも、単なる文体の変化というわけではなく、自由に文章で遊んでいるみたいだ。日本語に訳しているのを読んでるのだが、原文はどんな変化なのだろう。
Posted by ブクログ
バスに乗っている帽子をかぶった男が、別の乗客に文句を言う。席が空いたのを見て、慌てて座りに行く。二時間後、別の場所で同じ男を見かける。その時は、連れの男が、帽子の男のコートに対して、ボタンを追加した方がいいと語っていた。
この本に書かれているストーリーは、これだけ。
1ページに収まる出来事を、99通りの文体で書いていく、タイトル通りの「文体練習」の本。
クノーの好奇心の高さや挑戦的な姿勢はもちろんのこと、訳者の方の苦労と努力が、訳者あとがきから察せられる。
原書のフランス語と、日本語の特徴の違いを考慮した上で、日本語での文体練習に自然となっている。
元はフランス語での試みなのに、日本語の奥深さ、無限の可能性を感じられる不思議。
私は最初から読んでもちんぷんかんぷんだったので、訳者あとがきの解説がありがたかった。
本文とあとがきの説明を照らし合わせて読むのがおすすめです。
Posted by ブクログ
おもしろいとかおもしろくないとかはよく分からない。
よくこんなたくさん書いたなというのが正直な感想。
読んでみてよかったとは思うが、もう一度読むことはなさそう。
Posted by ブクログ
期待していたものとは違った。文体というのかね、これは。文体練習になってるところも結構あるんやけど、言葉遊びや言語操作といったほうが適切なものが多かった。翻訳でこれを作ったのはすごいけども、書き下ろしでこそ読んでみたいもんですわ。
意味がわからんものも多かったし、文字の色や大きさの違いが何を言いたいか全然分からんかった。
Posted by ブクログ
一つの話を99通りに書くという冒険.ただ,この本ですごいのは,翻訳者の方かもしれない.69番の「リポグラム」は何のことか解らなかったけど,あとがきの解説を読んでビックリした.
単なる言葉遊びも多いけど,いくつかは「ああ,誰々の小説って,こんな文体だよなあ」と思えるのもあって,感心してしまう.
Posted by ブクログ
これは、ものすごく面白い本だった。ある一つの、何の変哲もない文章を、99通りの文体で表現するという、バカバカしいことに大真面目に取り込んだ作品。
単に文体を変えただけのものもあれば、物語の話者を変えたもの(話者が「帽子」になることもある)、演劇風にしてしまったもの、数学的に記述したもの、など実に様々な実験をおこなっている。
一つの出来事を表現するのに、こんなにも多様な方法があるという自由さに、まず感動させられる。そして、同じ出来事の表現でも、視点や手法が違えばまったく異なる印象を読者に与えるのだということにも、驚かされた。
単純な一つのメモを素材としてすら、ここまで豊富なバリエーションが生み出せるのだから、世の中の出来事の記述ということでいえば、それこそ、言葉には無限の可能性があるのだということを教えてくれた作品だった。
原文で読むことが出来れば、さらにずっと面白いに違いないのだけれど、原書では理解出来ないのが残念だ。それでも、これだけ原文に忠実になるように工夫を凝らして日本語に意訳した、翻訳者の人はすごいと思う。
装丁にも凝っている分、値段が高いのが難点で、文庫化されて廉価版が出てさえいれば、たくさんの人におススメをしたいと思う本。
【特に好きだった文体】
5・遡行
11・以下の単語を順に用いて文章を作れ
12・ためらい
14・主観的な立場から
15・別の主観性
19・アニミズム
43・尋問
44・コメディー
52・偏った見方
59・電報
64・集合論
74・品詞ごとに分類せよ
80・さかさま
いったいそれがどこだったのか、よく覚えていないのですが・・教会だったか、ごみ箱だったか、納骨場だったか?ええと、多分、バスの中だったような?そこに何かがあって・・ええと、でも、何があったのでしょう?卵?絨毯?大根?それとも、骸骨?そう、たくさんの骸骨です。ただ・・骨のまわりには肉もあって、生きていたような・・多分そうだったんじゃないかと思います。つまり、バスの中にいる人々。そのなかに一人(それとも二人?)、何やら目立つ乗客がいて、でも、なぜ目立っていたのやら・・誇大妄想?脂肪太り?憂鬱症?そうですねえ・・もう少し正確に言えば・・何かこう、若さ、しかも、ひょろ長い・・長かったのは何だったかと言うと・・鼻?顎?親指?いや、首です。(12・ためらい)(p.14)
その男は相乗り乗客に「ぐい押しわざ突きしないで欲しい」と言ったあと、あわて飛んで席取り走った。あとときの別所で、わたしはその小癪者が知らず人といっしょに、サン=ラザっているのを見た。(17・合成語)(p.20)
いかれぽんちの集合をZとし、ZとC'の共通部分を考えれば、その元はただひとつであり、{z}という形であらわされる。このzの足のうえに、y(zとは異なるC'の任意の元)の足を全射することにより、元zが発したことばの集合Mを導くことができる。(64・集合論)(p.89)