武田晴人のレビュー一覧
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「頼まれてもいない原稿を書いた」(263頁)という武田先生の勘違いから生まれた本。ただし,2020年という時代に,岩崎小彌太の評伝が新書で刊行された意義は大きい。
小彌太はこれまで,岩崎彌太郎の甥(彌之助の嫡男),三菱財閥最後の社長という捉え方をされていたかもしれないが,彼にとってそれは必ずしも本意ではなかった。むしろ,第一次大戦期から第二次大戦期に及ぶ日本企業の一経営者としてのポリシーに注目すべきであるという。それは,青年期に留学したイギリスで身につけた生活規範から生まれたであろう「社会的に恵まれた地位にある者が果たすべき役割」(250頁)であり,「企業が,その本業において果たすべき社会的責任」,「事業の収益を広く社会に還元すること」(245頁)であった。そうした悠久の理想と信念は,死期が近づいても衰えることはなく,終戦直後に三菱本社の解体がほぼ決定的な流れとなった中でも,一般株主への配当実施に強く固執していた。
著者の武田先生は,「岩崎小彌太の経営理念が持つ現代的な意味を問うことを主題に」(264頁),本書をまとめたと述べているが,その意味は,まさにコロナウイルス騒動の非常時・有事において,企業経営ならず,政治行政のうえでも十分に発揮される。
評者自身の三菱研究は,まだ彌太郎・彌之助の時代を抜けきれず,ようやく久彌が登場してきたに留まる。本書では,分系会社の事業発展として,主に重工・商事・鉱業・銀行を捉えてきたが,小彌太の時代の地所史についても,早急に分析をしていきたいと思った次第である。著者による20世紀前半日本の経済的枠組を理解するには,武田晴人[2019]『日本経済史』有斐閣の第4~5章を参照されたい。
なお,本書に対するリクエストをあえて付すとすれば,小彌太の経営者としての実像「以外」の部分を,もっと垣間見たかった。そのエピソードがこれ以上無いのだとすれば,それもまた小彌太らしいエピソードなのかもしれない。 -
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現代の日本の仕事や勤務、職場についての概念について時間的に相対化して考えさせられる本でした。
実は日本的な働き方は日本人が初めから持っていたものではなかったことが分かりました。
どういう流れで今の労働観や働き方の常識ができていったのか、知ることで視野が広がりますね。
労働にかかわる時間は、人との出会いや協力、競い合うことなどを通して社会的存在としての自分を見出していくきわめて重要な絆にかかわっている、と、導入部分で書かれている。
人生のなかで最も活動的な年代に、相当の部分を費やしているのが労働、という現実を前に、労働の時間が、我慢するだけの、金のために自分を殺して働く時間であるというのは、どう考えても納得できない、と著者は言う。
時間厳守、退職制度、残業、、、、
時間を戻れば、今の労働観は自明のものではないことを発見し、
そして将来も変わり得るし、今も変化の中にある。
世界を見渡せば、日本の働き方が異常だったりする。
どのように変えていくのが私たちにとって望ましいのか、を考えることが大事だと最後に伝えられています。 -
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ネタバレ【『戦後政治史』→政治潮流を俯瞰的に見る】
『占領と改革』に引き続き、岩波新書の近現代史シリーズを読んだ。
この本は、なぜ日本は高度経済成長を遂げることができたかを追うものである。
論旨は主に以下の3点だ。
・経済成長が求められた理由は、国民の完全雇用を第一義に、同時に生産性の向上も求めていたからだ。
・質的な「経済発展」ではなく、量的な「経済成長」が追求されたので、成長中には様々な弊害が生じ、生活基盤の整備は遅れた。
・経済成長はあくまで手段に過ぎず、経済成長が目的となりえる現代社会の論調には疑問の余地がある。
そして、経済成長が達成された背景として、政治との強い連関が挙げられる。特に、占領下での政治的決定と55年体制の確立により、経済成長に政治が注力できた。具体的に、基本的人権と戦争放棄を主張した日本国憲法、戦前の寡占体制を防ぐ独占禁止法などが大きな影響力を持っていた。
現代中国が急激な経済成長を遂げている中、今後中国経済がどのような動向をたどるのか考察するには、日本の高度成長と比較検討することが重要だろう。上の論旨を照らし合わせると、中国の現状と実に似ていることが分かる。
ただ大きく違う点は、戦後政治体制の中で形作られた日本国憲法などの考え方が、中国には欠如しているということだ。特に、日本の戦後体制は民主主義のもとで国民の総意があったからこそ継続できたのに対し、中国は共産党の一党独裁で、現在の体制は人民の総意ではない。だからこそ、中国では日本以上の様々な歪みが生じていると言える。その点で、中国の成長には大きな不確実性があると考えられる。
さて次は、高度成長が頭打ちになる中で現れた、新自由主義(新保守主義)について考えていきたいと思う。 -
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ネタバレ[ 内容 ]
日本経済の「後進性」が問題にされ、近代化・合理化の必要性が熱心に叫ばれた時代から、「経済大国」としての地位を確立する時代まで。
「経済成長への神話」はどのように浸透し、また「ゆがみ」を生じさせていったのか。
人々の欲求と政治の思惑はいかに寄り添い、あるいはすれ違い続けたのか。
通説に大胆に切り込む意欲作。
[ 目次 ]
第1章 一九五五年と一九六〇年―政治の季節(転機としての一九五五年 独立後の政治不安 保守合同と五五年体制 国際社会への復帰 春闘と三池争議 日米安全保障条約改定問題 五五年体制と戦後民主主義)
第2章 投資競争と技術革新―経済の季節(経済自立から所得倍増へ 投資とその制約要因 「技術革新」と新産業育成 「見せびらかしの消費」の時代)
第3章 開放経済体制への移行―経済大国日本(ベトナム戦争下のアジア 開放体制への移行 証券恐慌と大型合併 大型合併と企業システム 「成長志向」への異議申し立て)
第4章 狂乱物価と金権政治―成長の終焉(二つのニクソン・ショック 沖縄返還 列島改造と狂乱物価 二つの石油危機 企業の社会的責任と金権政治)
[ POP ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
Posted by ブクログ
岩波新書『沖縄現代史』の著者が、その内容を薄めたのがこのリブレット。
サンフランシスコ平和条約第3条によって、日本政府の施政権下から切り離され、本土の日米安保条約・行政協定(1960年以降は地位協定)とともに、サンフランシスコ体制の軍事的負担を強いられた沖縄県の悲痛な叫びが聞こえてくるようである。
戦後の日本本土の人間ははともすれば忘れがちであるが、しかし、日本全体あるいは東アジア全体の軍事バランス・安全保障に多大な影響を及ぼしてきた以前の経緯、また依然として広大な軍用地が存在し、騒音等の公害や米兵による犯罪が根絶されない現状、そして、これからも基地縮小・軍用地返還が漸次進められるであろうことを勘案するとこの問題の重要さが薄れることはないだろう。
戦後沖縄史の入門としては、非常にわかりやすく内容も適切だと思う。